英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜
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郷の徘徊を再開したリィンは実家にある厨房で意外な光景を目にすると立ち止まった。

 

〜シュバルツァー家・厨房〜

 

「……できましたわ。”渾身カントリーシチュー”ですわ。どうぞご賞味あれ。」

「ふふ、それでは遠慮なく…………まあ……こんな味は初めてですね……勿論美味しいですよ。」

「……ええ、しかも私が普段リフィアに出す料理―――皇族クラスに出してもおかしくないレベルです。本来ブイヤベースに使う食材でシチューを作るなんて、思いもしませんでした。」

デュバリィが作った料理を味見したルシア夫人は驚いた後微笑み、同じように味見をしたエリゼは驚きの表情でデュバリィを見つめ

「まさか”神速”にこんな意外すぎる”女子力”があったなんて、正直驚きました。」

「うふふ、いずれシュバルツァー家の方々をお世話する”使用人”としてデュバリィさんの料理の腕前を見習わなければなりませんわね♪」

「私も一人の女性として、デュバリィさんをもっと見習わないと……!」

「あ、味見くらいで大げさですわね。――――――というか、”黒兎(ブラックラビット)”!貴女のその口ぶりから察するに、さては私の事を剣一辺倒の女として見ていましたわね!?」

ルシア夫人やエリゼに続くようにそれぞれ味見をして高評価するアルティナ、アルフィン、エリスの感想を聞いて恥ずかしがっていたデュバリィだったがある事に気づくとアルティナを睨んだ。

 

「ハハ……どうやらその様子だと、みんなで今日の夕食の準備をしているようだけど……どうしてデュバリィさんまで、手伝ってくれているんだ?」

「男爵夫妻がわざわざ私達の為に”鳳翼館”を貸し切りにした上、夕食の為に男爵夫妻自らがそれぞれ準備をしているとの事ですから、一宿一飯の恩義を返す為に手伝っているのですわ。……それに、内戦時のカイエン公達による二度目のユミル襲撃で男爵夫妻もそうですがユミルの方々にも迷惑をかけたのですから、せめてもの”詫び”でもありますわ。」

「デュバリィさん……」

「…………………」

苦笑しながら近づいてきたリィンの質問に答えたデュバリィはかつての出来事を思い返して僅かに複雑そうな表情を浮かべて答え、その様子をエリスは心配そうな表情で、アルティナは辛そうな表情で見守っていた。

「……その件については主人がアルティナさんにも言ったように、命令に従っただけの貴女達を責めるつもりはありませんし、むしろ私達は”現代の鉄騎隊”の一人である貴女が今回の戦争では息子達に力を貸し、更にはエリスの”師”を務めてくれていることに心から感謝していますので、どうかあまりご自分を責めないでください。」

「寛大なお心遣い、ありがとうございます。」

ルシア夫人の気遣いに対してデュバリィは会釈をして答えた。

 

「えっと……話は変わりますけど、デュバリィさんは一体どちらで料理を習得したのでしょうか?もしかして”結社”時代に”結社”の方達から習ったのでしょうか?」

「ひ、姫様……」

「幾ら何でもさすがにそれはないかと。」

アルフィンのデュバリィへの質問を聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリスは脱力し、アルティナはジト目で指摘し

「コホン。以前にも貴女達にも話しましたが、私はマスターに拾われる前はとある国の辺境を収める小貴族の娘でした。辺境であるユミルの領主一家であるシュバルツァーやエリス達ならわかるでしょうが、辺境の小貴族は都の貴族と違って平民達との関係も近く、また普段の生活も使用人に頼るようなことはせず、自分達の力で生活しています。ですから、私も当然エリスやエリゼ・シュバルツァーのように母から様々な家事を手解きを受け、その手解きの一環として料理も習っていただけですわ。」

「という事は、今のこの料理もデュバリィさんの母親直伝の料理なのか……」

デュバリィの説明を聞いたリィンは静かな表情でデュバリィが作った料理を見つめた。

 

「ええ。……まあ、マスターに拾われてからは雑用もそうですが、家事も担当してマスターのお世話をさせて頂きましたから、特に料理に関しては他人(ひと)に出しても恥ずかしくないレベルのものは作れますわ。何せ、私が普段食事を作っていた相手は至高の存在にして伝説の存在たるマスター――――――リアンヌ様なのですから!」

「確かに普段からサンドロット卿程の傑物に出す食事を担当していたら、自然と自信もつきますね……」

「ああ……あれ?という事は他の二人ももしかして、デュバリィさんのように料理が上手かったりするのか?」

胸を張って自信満々な様子で答えるデュバリィの様子を見たその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中苦笑しているエリゼの意見に同意したリィンはある事が気になり、不思議そうな表情で訊ねた。

「エンネアもアイネスも、”最低限”はできますわ。とは言ってもその二人は出身が元教団員に元準遊撃士と、料理を含めた家事とは縁遠い存在だった為、”筆頭”である私が二人に料理を含めた家事を教える羽目になりましたが。」

「ということは、デュバリィさんはお二人の家事の”師匠”でもあるのですわね♪」

「人にものを教えられる程”家事”に長けている”神速”は料理に限らず様々な”女子力”が意外と高いと見受けました。」

「ですから”意外”とって何ですか、黒兎!」

話を聞いて興味ありげな表情を浮かべているアルフィンと共に驚きの表情で自身を見つめて呟いたアルティナの言葉を聞いたデュバリィは顔に青筋を立ててアルティナを睨んで指摘した。

 

「……―――うん、今の話を聞いて決めました。」

「?決めたって、何を決めたんだ、エリス。」

一方納得した様子で呟いたエリスの言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情でエリスを見つめた。

「それは勿論、私にとっての”人生の師”がデュバリィさ―――いえ、”デュバリィ先生”に決めた事です。」

「へ………」

「”人生の師”……?」

「それって一体どういう意味なのかしら、エリス?」

エリスの答えを聞いたデュバリィが呆けている中、アルティナは首を傾げ、アルフィンは不思議そうな表情で訊ねた。

 

「姫様達もご存じのように兄様と姉様、それぞれの人生でお世話になった”師”がいて、その方達から様々な事を学び、今に到っています。兄様はセシリア将軍とサラ教官、姉様はエクリア様が”人生の師”です。ですから剣術に限らず、家事も私より遥かに上でかつての立場は私と同じデュバリィ先生からは兄様達のように様々な事を学んで兄様達と肩を並べて歩ける存在に成長したいと思っているんです。」

「エリス……」

「い、幾ら何でも大げさすぎますわよ。剣術はともかく、他の事に関しては貴女より少しだけ多くの経験を積んでいるだけで、貴女も経験を積めばすぐに私に追いつきますわよ。」

エリスの説明を聞いたエリゼが驚いている中、デュバリィは戸惑いの表情で指摘した。

「経験の有無は私にとっては関係ありません。兄様達―――”身内”以外で、私個人に対してここまで気にかけて頂き、剣術を含めた”実戦”に関する事を付きっきりで教えてくださったのはデュバリィ先生だけです。そんなデュバリィ先生は私が兄様達と肩を並べて歩いて行く為の”師”として”目標”にさせて頂きたいんです。」

「そうだな……セシリア教官やエクリア様はともかく、サラ教官は様々な”欠点”もあるが、それでも俺――いや”Z組”のみんなにとってはサラ教官を超える事を目標としていた。要は本人が”目標”にすると決めたんだったら、いいんだと俺は思う。」

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!ああもうっ、わかりましたわ!!そこまで言うのでしたら、”本当の意味での師”になってあげますわ!で・す・が!結社最強にして至高の存在たるリアンヌ様直轄の部隊である”鉄機隊”の”筆頭”たるこの私を”師”にするのですから、”師”である私がマスターに誇れるような”弟子”に成長してもらう為にも、修業は今まで以上に厳しくなると覚悟しやがりなさい!」

エリスとリィンの話を聞いて頬を赤らめて恥ずかしがっていたデュバリィはやけ気味になってエリスを見つめて答え

「はい!改めてよろしくお願いします、デュバリィ先生……!」

「ふふっ、よかったわね、エリス。――――――デュバリィさん、改めてエリスの事、お願いします。」

デュバリィの宣言にエリスが嬉しそうな表情で頷いている中、その様子を微笑ましそうに見守っていたルシア夫人はデュバリィに会釈をした。

 

(ふふっ、”現代の鉄騎隊の筆頭隊士”が”師”になるのですから、エリスもいずれはエリゼさんのような凄まじい使い手になるでしょうから、リィンさんもうかうかしていられませんわね♪)

(ハハ……そうだな。その為にもまずは、”八葉一刀流”の”皆伝者”になれるようにもっと精進する必要があるな……)

ルシア夫人同様エリスとデュバリィの様子を微笑ましそうに見守っていたアルフィンに小声で指摘されたリィンは苦笑しながら答え

(エリス様自身が納得されているのでしたら、構わないのですが、”神速”の迂闊な部分まで影響されないとよいのですが。)

(そういう事はせめて本人のいない所で言うようにしてください、アルティナさん……)

ジト目で呟いたアルティナの小声の言葉に対してエリゼは冷や汗をかいた後疲れた表情で指摘した。

 

その後郷の見回りを終え、”鳳翼館”でルシア夫人達が用意してくれた豪華な夕食を仲間達とご馳走になったリィンは夕食後、仲間達と共に久しぶりの鳳翼館の露天風呂を堪能した。

 

〜鳳翼館・露天風呂〜

 

「うわ〜……!」

「広いな……」

「これがユミル名物の”露天風呂”ですか……」

「いや〜、さすが観光名所になっている風呂だけあって、大浴場とは大違いだね〜。」

「戦時中でありながら、これ程の眺めのいい露天風呂を貸し切りにする等、贅沢な話だな。」

「フッ、リィンのご両親には改めて感謝しないとな。」

「ああ。話には聞いてはいたが、話以上に雅かつ風情があるじゃないか。」

「ハハ、これがユミル自慢の露天風呂です。滋養にも利きますから、ユミルの温泉を求める客が絶えないんです。」

フランツとドゥドゥー、クルトとフォルデは初めて見るユミルの露天風呂を興味ありげな表情を浮かべて見回し、レーヴェとフェルディナント、ローレンツはそれぞれ静かな笑みを浮かべ、仲間達の様子を見たリィンは苦笑しながら答えた。

 

「フム、確かにこの湯には微弱な治癒系の魔力が纏っているから、滋養に利くという話も強ち嘘ではあるまい。」

「へ――――」

するとその時温泉から男性の声が聞こえ

「あんたは確か……」

「トリスタの件でデュバリィ殿の使い魔になった天使――――――バルディエル殿、だったな?」

「彼が話に聞いていた……何故ここに?」

男性―――人間の姿になっているバルディエルを見つけたクロードとディミトリは目を丸くし、二人の話を聞いたカイルは戸惑いの表情で訊ねた。

 

「” 神速”が『わたくしの身体に宿っているからと言って、女風呂をのぞく等言語道断、わたくしが出てくるまで男風呂に入っていなさい!』と命令されて、仕方なくここにいるのだ。我は別に異性の裸体等興味はないのだがな。」

「ハハ……」

「まあ、正論だな。」

バルディエルの説明を聞いたリィンは苦笑し、ディミトリは納得した様子で頷いた。

「ん?アンタ、そういえば翼はどうしたんだ?」

「ああ。さすがに翼を出したまま湯につかれば、羽が湯に浮いて他の者達が入る気を失くすと思い、人間の姿になっているのだ。」

「ほ〜……って事は天使はその気になれば人間の姿になれるのか。初めて知ったな。」

フォルデの疑問に答えたバルディエルの答えを聞いたクロードは興味ありげな表情を浮かべていた。

 

「使い魔で思い出したが、メサイア皇女殿下達はどうしているんだ、リィン?」

「ありえないとは思うが、君の中に戻っていて、私達を見ている訳はないだろうな?」

ある事を思い出したドゥドゥーとフェルディナントはリィンに確認し

「ハハ、ちゃんとベルフェゴール達には温泉を楽しむように言って俺の身体から一旦出てもらっていますから、大丈夫です。」

二人の質問にリィンは苦笑しながら答えた。そしてリィン達はそれぞれ露天風呂に浸かり始めた。

 

「フウ……まさか、戦争で”軍”に参加している状況で露天風呂にゆっくり浸かれるなんていう贅沢を体験できるとは思わなかったです……僕達だけこんな贅沢ができるなんて、他のリィン隊の人達もそうですが、灰獅子隊のそれぞれの部隊に所属している人達にはちょっと悪いですね……」

「それなら大丈夫だぜ。リィンの提案でリィン隊の連中もそうだが、他の部隊の連中も昼の間に交代で露天風呂を堪能していたから、俺達が最後だ。」

ふと呟いたクルトの懸念を聞いたクロードがクルトに指摘し

「え……そうなんですか?」

「ああ。さすがに人数が多いから、俺達程長くは入る事はできなかったが、みんな、戦い続きによる疲労は取れた様子だったよ。」

クロードの話を聞いて驚きの表情を浮かべたクルトに訊ねられたリィンは頷いて答えた。

 

「まあリィンが提案しなくても自分達だけ楽しんで部下達には楽しまさせないといった、”上に立つ者”として失格な事をするつもりはなかったから、元々僕かフェルディナント君が提案するつもりだったろうけどね。」

「その通り、何せ私達は下の者達を導く上官にして、民達を導く”貴族”なのだからね!下の者達を気遣う事もまた貴族の義務(ノブレスオブリージュ)さ!」

「フッ、欲に満ちたエレボニアの貴族共とは無縁の”義務”だろうな。」

髪をかきあげたローレンツと高々と宣言したフェルディナントの言葉にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて脱力している中レーヴェは静かな笑みを浮かべて呟いた。

「それにしても……メンフィル帝国がエレボニアを遥かに超える精強かつ豊かな国である事は兄やオリヴァルト殿下の話で知ってはいましたが……こうしてメンフィル帝国軍に身を置いてみると、改めてメンフィル帝国の豊かさがわかりますね。」

「ほう……例えば、どういった部分が”豊か”だと感じているんだ、クルトは。」

クルトが呟いた感想が気になったディミトリは興味ありげな表情を浮かべてクルトに訊ねた。

 

「それはやはり、”食事”を含めた食糧が豊富にある事ですね。今回の戦争では連合を組んでいるクロスベルやヴァイスラントにも供給している上”焦土作戦”の被害を受けたクロイツェン州全土の民達にまで支援できる余裕がある事もそうですが、軍での食事はレパートリーは少ないとはいえ、毎日日替わりで3種類もメニューを選べる上味も一般家庭ではなく大衆食堂レベルですし。」

「フム……俺達にとってはあれが”普通”なのだが、エレボニア帝国軍はそこまで違うのだろうか?」

クルトの話が気になったドゥドゥーは不思議そうな表情を浮かべて疑問を口にした。

「……俺がトールズにいた頃、エレボニアの正規軍の基地の一つである”ガレリア要塞”でも”特別実習”をしたんだが……その時に出された食事の内容は塩辛いコンビーフに味気ない豆のスープ、固すぎる黒パンにチーズ、リンゴで飲み物はただの水だったな。」

「え、ええー……それって、”料理”じゃなくて”非常食”の類だよね?」

「しかも、戦時中は自軍の陣地に派遣されている娼婦とかもいないんだろう?そんなクソッタレな環境で文句も言わずにお国の為に戦っている正規軍の連中にはある意味感心するぜ……」

「……そうだな。そういった質実剛健な部分は貴様も見習うべきだな。」

リィンの答えを聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中フランツは引いた様子で呟き、呆れた表情で呟いたフォルデにカイルは静かな表情で指摘した。

 

「やはり、リィン少将もあの食事を体験されていたんですね……」

「ああ……その口ぶりだとクルトも体験していたようだな?」

クルトは苦笑しながらリィンに確認し、確認されたリィンも苦笑で返してクルトに問い返した。

「ええ、リィン少将もご存じのように叔父上が軍に務めている関係で、一度叔父上に連れられた時に。―――話を戻しますが食事もそうですが、戦時中でありながらも軍に所属している人達が風呂にまで入れる状況には本当に驚きました。レヴォリューションにも二人部屋には全てシャワーが完備されている上、規模は戦艦のよりは小さいとはいえ、艦内に大浴場までありますし……」

「まあ、風呂は導力技術を取り入れた関係で軍に配備されるようになったのも最近だという話だが……そうですよね、フェルディナント先輩?」

「ああ。導力技術が無かったディル=リフィーナの平民達にとって”風呂”は一種の娯楽のようなもので、その”風呂”にしても”蒸し風呂”が一般的で、湯を貯めた風呂は平民や下級貴族にとっては到底手が出せない高価な娯楽だったのさ。」

「しかし、導力技術を取り入れたことで水を貯めて湯にわかせることが安くかつ簡単になった事で、メンフィル帝国全土の民達にとって湯を貯めた風呂は”一般家庭にあって当然の存在”へと発展し、それらの事実によって軍の施設にも湯を貯めた風呂が完備されるようになったのさ。」

クルトの指摘に答えたリィンに確認されたフェルディナントは頷いて答え、フェルディナントの説明をローレンツが補足して答えた。

 

「技術や文化が違うとそこまで違ってくるのですか………」

「そうだな……導力技術の導入は風呂に限らず、メンフィルが様々な恩恵を得る事になったとは言っても過言ではないな。」

「ああ……特に”軍”が一番恩恵を受けているだろうな。適正の違いがあるとはいえ、魔術の適性がなくても誰でも魔術の代わりになる魔法(アーツ)が撃てるようになる戦術オーブメント……そして”銃”や”戦車”を始めとした導力技術を使った武器や兵器の導入はメンフィル軍の戦力をさらに強化させただろうな。」

「―――そこに加えてメンフィルがかつては”大陸最強”と呼ばれていたエレボニアを遥かに上回り続けている理由の一つは近代兵器を取り入れたにも関わらず、一般兵達の白兵戦の戦闘能力の高さも保っている事だろう。ゼムリア大陸の各国は導力技術による近代兵器の運用によって、一般兵の戦闘能力は導力銃頼りになっている傾向があるからな。――――――実際、3年前の”リベールの異変”がいい例だ。」

フェルディナントとローレンツの話を聞いて驚いているクルトにディミトリとクロードはそれぞれ説明を続け、二人の説明の後にレーヴェは静かな表情で呟いてかつての出来事を思い返した。

「3年前の”リベールの異変”で思い出しましたが、兄上やオリヴァルト殿下からレオンハルト大佐は当時結社の”執行者”として何度かオリヴァルト殿下達と刃を交えた事も聞いていますが……オリヴァルト殿下のあの話はどこまでが”真実”なのでしょうか?」

「……その口ぶりだと、あの放蕩皇子は俺の事をさぞ面白おかしくお前に伝えていたようだな……俺に関して一体どのような戯言をお前に吹き込んだんだ、あの放蕩皇子は。」

ある事を思い出したクルトに問いかけられたレーヴェは呆れた表情で溜息を吐いた後クルトに問い返した。

 

「その……レオンハルト大佐が改心し、最後はオリヴァルト殿下やリベールの方々と共に黒幕を倒す事に協力した一番の理由は”運命の再会”を果たしたプリネ皇女殿下と”剣聖”カシウス・ブライト卿のご子息に対する性別を超えた”愛”だと……」

「…………………どうやら次に放蕩皇子達を阻む時は、その口の軽さと愚かさを思い知らせる方がよさそうだな。」

クルトの答えを聞いたリィン達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中少しの間黙り込んでいたレーヴェは目を細めて静かなる闘気を纏って呟き、レーヴェの様子を見たリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「フッ……あの”神速”の戦友だけあって、騒がしい者達ばかりだ。」

リィン達の様子を見守っていたバルディエルは静かな笑みを浮かべていた。

 

そしてリィン達男性陣がそれぞれ露天風呂を堪能し終えると、女性陣の番になり、女性達はそれぞれ温泉に浸かっていた。

 

〜2時間後〜

 

「フウ……鳳翼館の露天風呂は久しぶりだけど……いつ入っても、相変わらず気持ちいいわね……」

「はい……それにまた姫様達と一緒に入る事ができて本当によかったです……」

「ふふっ、しかも以前と違って、今回はミルディーヌやアルティナさんも一緒だものね。」

「うふふ、エリス先輩からユミル名物の露天風呂は何度か伺っていましたが……こうして、姫様や先輩達と共に浸かる事ができて光栄ですわ♪惜しむらくはこの場にリィン少将がいない点ですが♪」

「幾ら不埒なリィンさんでもさすがに一人で女性ばかりが浸かっているこの場に現れる度胸はないかと。」

(ア、アハハ……度胸ではないですけど、実は一度だけ女性ばかりが露天風呂に入っている状況にお兄様が突撃してきたなんて事実、言えませんわね……)

気持ちよさそうに露天風呂に入っているエリゼの感想に頷いたエリスはアルフィン達を見回し、アルフィンはミュゼやアルティナに微笑み、アルフィンと微笑み合った後意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの発言にエリゼ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アルティナはジト目で指摘し、かつての出来事を思い返したセレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。

 

「ふう……身に染みますね……」

「ええ……戦場続きによる疲労が取れていくようにも感じますね……」

「こうして実際に体験してみると、山郷にありながらも、ユミルがエレボニア帝国の観光名所として有名だったのもわかるわね……」

「はい……例え交通の便が悪くても何度でも入りたくなりますよね、ユミルのこの露天風呂は……」

「しかもエリゼちゃんの話によると美容にもいいそうだから、気持ちよくなれる上綺麗にもなるから、リィン君達のお母さんがリィン君達程の大きな子供がいながらもなお、あんなに綺麗なのも頷ける話よね♪」

「アハハ……年齢に比べて見た目が若すぎる女性は他にもたくさんいますけどね……」

エリゼ達のように露天風呂に浸かっているイングリットとステラ、エーデルガルトとリシテアはそれぞれ気持ちよさそうに浸かっており、ドロテアの話を聞いたアメリアは苦笑しながらベルフェゴール達に視線を向けた。

 

「ん〜!極楽極楽♪」

「フム……”魔神”である君が”極楽”という言葉を口にするのは色々と間違っていると思うのだが?」

「フフ、確かに一理あるわね。」

「機会があれば、いつかお母様達と共にこの露天風呂に入りたいものですわね……」

温泉につかって気持ちよさそうな表情をしているベルフェゴールの言葉に不思議そうな表情を浮かべて指摘する人間の姿になっているベアトリースの指摘にアイドスは苦笑し、メサイアはマルギレッタ達を思い浮かべ

「フウ……今までの身を清める方法は清らかな水を浴びる事でしたが……これはこれでいいものですね。」

「全くだね。先程の足湯といい、主の故郷は英気を養う場所として最も適切な場所だな……」

「はい……このような素晴らしい露天風呂を貸し切りにしてくださるなんて、さすがは懐が海のように広い我が主のご両親ですね……」

ベアトリース同様それぞれ人間の姿になっているルシエルが口にした露天風呂に感想にレジーニアとユリーシャはそれぞれ同意した。

 

「フフ、それにしてもこうして改めてみるととても15歳の子持ちとは思えない若作りな女性よね、オリエ殿は。」

「しかも達人(マスター)クラスの剣士でありながら、無駄な筋肉もついていない理想的な体型だな。」

「ええ……私達もマスターを見習って、女性の騎士としての理想的な体型を目指していますが……オリエ殿と比べればまだまだですわ。」

「ふふっ、ありがとうございます。ですが皆さんも、既に女性として……そして騎士として十分過ぎる程の体型ですよ。」

エンネアとアイネス、デュバリィからそれぞれ見た目を誉められたオリエは謙遜した様子で答えた。

 

「フウ……温泉が気持ちいいのはどこも同じですね……」

「ええ……それもエルモの時と違って、随分と賑やかよね。」

「そりゃ、リフィアやエステル達と一緒に入った時と比べれば人数も全然違うからね。……ねぇねぇ、レン。今回の戦争が終わったら、リウイお兄ちゃん達とも一緒にエルモでもユミルでもいいから、みんなで露天風呂に入らない?」

露天風呂に対するツーヤの感想に頷いたプリネは微笑ましそうにエリゼ達を見回し、プリネの指摘に対して答えたエヴリーヌはある事を思いついてレンに提案し

「うふふ、それはいいアイディアね、エヴリーヌお姉様。すぐには実現できないだろうけど、いつか必ず実現してみましょうか♪」

(というか、リウイ陛下達まで一緒に露天風呂に入ったら、何気にメンフィルの最高クラスのVIPばかりが集まるというとんでもない状況になる気がするのですが……)

エヴリーヌの提案にレンが同意している中、思わずその光景を思い浮かべたツーヤは冷や汗をかいて苦笑していた。

 

「それにしても……こうして改めて見ると、わたくし達―――いえ、リィンさんの周りの女性はスタイルが素晴らしい人達ばかりよね。」

「……言われてみればそうですね。しかもZ組も一部を除けば、年齢にしては胸が大き過ぎる部類の女性の比率が高かったですね。」

「え、えっと……ドロテア先輩と比べれば、私達の胸なんて小さいですよ?」

「イングリット……比べる相手自体を間違っているわよ。」

「それにその言葉、アンタ達以下のスタイルのあたしにも喧嘩を売っていますよ?」

「お、落ち着いて、リシテア。リシテアはあたし達より年下なんだから、まだまだ成長する可能性は残っているじゃない。」

「フフ、リシテアさんもそうですが、アルフィン殿下達の成長はこれからなのですから、焦る必要はないと思いますよ。」

周囲の女性達を見回したアルフィンの感想に同意したアルティナはジト目になり、アルフィンの感想を聞いて困惑の表情で答えたイングリットの答えを聞いたエーデルガルトは呆れ、顔に青筋を立ててイングリットを睨むリシテアをアメリアは諫めようとし、ステラは苦笑しながら指摘した。

 

「……私達の成長の可能性はともかく、セレーネは明らかに反則的なスタイルよね。」

「はい……兄様から成長した姿のセレーネの写真を送られた時は、最初裏切られた気分でした……」

「え、えっと……」

それぞれジト目で見つめてきたエリゼとエリスに対してどう返せばいいかわからなかったセレーネは言葉を濁し

「セレーネで思い出したけど、ツーヤとミントも胸が大きいよね。もしかしてツーヤ達みたいなタイプの竜は、成長したらみんな胸が大きくなるのかな?」

「エ、エヴリーヌお姉様……」

「そ、そう言われてもあたし達がいた世界の女性の竜の成長した姿の統計とかありませんから、そんなのわかりませんよ……」

エヴリーヌの疑問を聞いたプリネが冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ツーヤは疲れた表情で答えた。

 

「うふふ、セレーネに限らず、リィンお兄さんのハーレムメンバーは胸が大きいレディーの比率が高いわよね♪」

「言われてみればそうですね…………それを考えると、リィン君も”男の子”ですよね♪」

「ふふっ、参考までに是非ともベルフェゴールさん達には美容やスタイルがよくなる秘訣を聞きたいものですわね♪」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にドロテアはからかいの表情で同意し、ミュゼは笑顔を浮かべてベルフェゴール達に問いかけ

「そ、そう言われても私は今の姿に成長するまで、特別な事は何もしていませんから、私の場合は普通に”遺伝”かと……実際、お母様も私と似たようなスタイルですし……」

「私も特に何もしていないし、そもそも私は睡魔達のように異性を惹きつけて交わる必要もなかったから、自分の身体つき等気にした事もない。」

「うーん……私の場合は”並行世界のキーア”のお陰と言うべきかしら?実際、この肉体を作って私を宿らせたのは並行世界のキーアによるものだし……」

ミュゼに話を振られたメサイアは苦笑しながら、ベアトリースは堂々とした様子で、アイドスは困った表情でそれぞれ答え

 

「うふふ、”大罪”から発生した”魔神”である私も”生まれた時からこの身体”ではあるけど、レジーニアに関してはご主人様に大きくしてもらっているわよね♪」

「まあ、ベルフェゴールの言っている事は間違ってはいないな。」

「リ、”リィン・シュバルツァーに大きくしてもらった事を肯定した”という事は、ま、まままままままさか……っ!?」

「クスクス、その”まさか”でしょうね♪」

「フフ、まさに”英雄色を好む”、ですね。」

「フム……確か彼女は黒の工房の残りの拠点を襲撃する作戦を終えた直後に加入した新顔との事だが、それを考えると天使独特の成長というものだろうか?」

「そこでわたくしを見ないで欲しいのですが……(というかユリーシャ、実際の所どうなのですか?些事の為あまり気にしないようにしていましたが、確かに以前のレジーニアの乳房はわたくしよりも小さかったと記憶しているのですが……)」

(……それが……あくまでベルフェゴールの仮説になるのですが……レジーニアが我が主と”守護天使契約”をした際に、『守護天使契約も本質的には性魔術と同じ為、我が主は胸が大きな女性が好みの為、レジーニアも我が主の望みを叶える為にレジーニアの魔力が我が主の魔力と同調した際に我が主の心の奥底で思っている希望を知った彼女の身体が既にベルフェゴール達の魔力も纏っている我が主の魔力を利用して彼女の胸を大きくしたのではないか』”と……)

からかいの表情を浮かべたベルフェゴールに視線を向けられたレジーニアは冷静な様子で肯定し、レジーニアの答えを聞いたその場にいる多くの者達が血相を変えている中デュバリィは顔を真っ赤にして混乱し、エンネアはからかいの表情を浮かべ、オリエは苦笑し、興味ありげな表情を浮かべたアイネスに視線を向けられたルシエルは冷や汗をかいてジト目で反論した後ユリーシャに小声で訊ね、訊ねられたユリーシャは困った表情で答え

(あ、あまりにも無茶苦茶な理論です……確かに守護天使契約を交わした者達がより交われば、互いの力は高まりますが、だからといって一部の肉体まで成長するなんてありえません……)

ユリーシャの答えを聞いたルシエルは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

「今は……さいですが……皆さんも仰っているように私達はまだ成長期ですから皆さんくらいの年齢になれば……絶対……なっているに決まって……今後兄様に愛してもらう時は……もっと胸を……必要がありますね……」

「ええ、そうね……それに母様のスタイルを考えても、私達は遺伝子的にもまだまだ大きくなれるはずよ……それに……例えそんなに大きくなれなかった時は……セティさん達に胸を……する薬を開発してもらえばいいのよ……うふふふふふ……」

「エ、エリスお姉様……エリゼお姉様まで……」

「あらあら、さすが双子の姉妹だけあって、”そういう部分”もまさに”瓜二つ”ですわよね♪」

「まったくもう、ミルディーヌったら……ですが一番の原因は、リィンさんの罪作りな所ですわよね。」

「全くもってその通りですね。リィンさんの不埒さを”要注意”から”危険”のレベルまで上方修正する必要がありますね。」

それぞれ顔を湯に俯かせて小声でブツブツ呟き出したエリスとエリゼに気づいたセレーネは冷や汗をかき、からかいの表情を浮かべて二人を見つめて呟いたミュゼの言葉に困った表情で指摘したアルフィンは苦笑し、アルフィンの意見にアルティナはジト目で同意した。

 

その後露天風呂で今までの疲れを癒したリィン達は風呂あがりにはビリヤードや枕投げなどに興じつつ、普段しないようなよもやま話をあちこちで花を咲かせた後、明日の戦いに備えてそれぞれ休み始めた。

 

なお……実家の自室で休もうとしていたリィンだったが、寝る前に部屋を訪ねてきたエリゼとエリスにより、”性的な意味でたっぷり搾られる”羽目になった――――――

 

 

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シルフェニアの18禁版も更新しましたので、興味がある方はそちらも読んでみてください。ちなみに第三部での18禁展開は恐らく今回の話が最後か、あっても多分後1回だと思います(汗)

 

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第109話
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