連載小説71?75 |
「フロイラインスポーツ」なる怪しいスポーツ用品店に入った私達。
楓は何度か来てるみたいだからのこのこ付いて来たけど、大丈夫かな。
お店に入った私達を出迎えてくれたのは、恰幅のいいおばさん。
「こんにちは〜」
「おや楓ちゃん。久しぶり」
お?
「楓、知り合いなの?」
「そりゃ、何度も通ってればね」
「楓ちゃん、友達かい?」
おばさんと楓も、結構仲良さそうだ。頻繁に言ってるみたいだしなあ。
「そ、中学からの友達なんだ」
「そうかい。あたしゃここの店主をしてるんだよ。いいのがあったら買っておくれ」
「あ、はい」
そこで、初めて店のラインナップを見る。
「うわぁ!」
それは、楓が言った通り、女の子向けのスポーツ用品であふれてた。
「かわいい!」
「お嬢ちゃん、スポーツは?」
うお! おばさんの屈託ない笑顔が突き刺さる!
「えぇと…体育の授業でやる…くらい…?」
「あらら、それは残念ね。楓ちゃんの友達なんだから、少しはスポーツしなきゃ!」
楓の友達だから、か。それは確かにそうだけど、運動は苦手だし…
「えりか、私が何か教えようか?」
「えーと、今急に言われても悩むよ。それより、楓は自分の買い物、いいの?」
と、とりあえず話を振ったぞ。
「あ、そうだった! おばちゃん、スパイク頂戴!」
「スパイク? 屋内と屋外、どっち?」
楓とおばさんは、慣れた様子で話を進めてる。
「ん〜、体育館だから、屋内!」
「学校指定とか、気にしなくていいんだね?」
そのやりとりを、私はポカーンと見ている事しか出来なかった。
〜つづく〜
「フロイラインスポーツ」にて、
お店のおばさんとスパイクの相談を始めた楓。
私は特に買う物がなくて、店内をふらふらしていた。
ま、需要がないとは言っても、女の子向けの商品が多いってのは、
いいもんだ。楓が行きつけるのも、分かるかも。
「えりか〜、ホントに何も買わなくていいの〜?」
「んー、今の所ねー」
普段運動なんてしないし、学校で使うものは学校指定だし…
「でも、いずれお世話になるかも。このお店、すっごいかわいいの多いし」
「そうかいそうかい。それはありがたいねえ。今日買ってくれないのは
残念だけど、次は頼むよ?」
気にしてるとも気にしてないとも言えないおばさんの言葉は、
微妙にほっとさせてくれる。
「は、はい…」
確かに、次は何かを買う目的で行く事になるだろうな。
「で、楓は買い物済んだの?」
「おうよ。おばちゃん、ありがとねー」
「こっちこそ、いつもひいきにしてくれてありがとうね」
慣れたやり取りだなあ。
「んじゃ、いこっか」
「うん」
楓はおばちゃんに手を振りながら店を出た。やっぱ、親しげでいいなぁ。
「さて、私は一番の目的は果たしたし、次はどこに行く?」
「んー。私は夏物の服が見たい。おっけ?」
片手でゴーサインを作る楓。よし、了承は取り付けた。
「じゃ、行こう!」
私は意気揚々歩き出した。
「あ、あれ? どうやって行けばいいんだっけ…」
〜つづく〜
「フロイラインスポーツ」を出て、さあ服を見るぞと意気込んだ私。
でもその時、私は気付いた。
この場所からいつも行くお店までは、どうやって行ったらいいの?
「楓、駅まで戻りたいから、案内頼む」
「駅からは分かるの?」
私は無言で頷く。ここからはさっぱりでも、駅からの道順なら、余裕だ。
「じゃ、それでいいか」
「ん? そのいいから、歯に物が挟まったみたいだね」
私は、一瞬の言葉尻を見逃さなかった。
「あー、いや、遠回りになるんじゃないかと思って…」
「でも、楓も道順分からないんでしょ?」
楓だって、頷く。じゃあ意味ないじゃん。
「急がば回れ、て言葉があるんだし、まだまだ時間あるんだし」
「ま、そうなんだけどねー。なんか、損した気になっちゃって」
損した気、か。
「なんとなーく、分かるんだけど、分からない」
「どっちなのさ」
損した気になっていいのは、ちゃんとたどり着ける人間だけだ。
「だったら楓、行ってみる?」
「お、えりかさん、それいいねえ」
い、いいのか?
「ただし、迷うかもよ? 何しろ渡しはこの変に詳しくない」
「私もこの辺しか詳しくない」
なんという事でしょうね。て事はだ。
「最初に楓が道案内して、分かる所に来たら私が案内すればいいんじゃない?」
「おお、えりか名案。やってみる?」
この申し出、すっごい博打なんだけど、妙な魅力があった。
「よし、じゃあやってみよう。では楓君、駅の西側に案内したまえ」
「了解、えりか隊員」
私達は地理不案内を棚に上げて、歩き出した。
〜つづく〜
行きたいお店への道が分からない私。
駅まで行くのは遠回りになるという判断の元、
お互いが道の分かるエリアに行くまで、楓の先導で進む事にした。
「ねえ、この道で合ってるの?」
「そのはず。私の記憶が確かならば」
そんな冗談が聞きたいわけじゃない。というか、雑居ビルの間を進んで行くのは、
正直不安だ。ビルから危険な人が出できやしないよね?
「ねえ、なんか、暗くない?」
「まぁ、日も射さないしねー」
なんで楓はこんな悠長なの? 私は不安で一杯だよ…
「ほら、上を見て」
「上?」
全く、何をさせたいんだ? 指差すそこには、ビルと空しか見えない。
「想像通りの、ありふれた景色しか見えないけど?」
「空、見えるでしょ?」
空?
「見えるけど…」
「空は明るい。不安に思う事なんてないよ」
なっ!
「楓め…ニクイ事を言いおる」
「はっはっは、私は何年えりかの友達やってると思うの? 分かってるのさ」
言われてみればそうなんだよな〜。空は明るいんだから、暗いのも、
不安に思うのも、一時なんだよなー。
「というわけで、シャキシャキ歩きなさい」
「命令口調禁止」
全く…
私は、楓に不安を取り除いてもらいつつ、歩き続けて行った。
〜つづく〜
楓とともに進んで行く私。
雑居ビルに囲われて、薄暗い中を進んで行く。
「それにしても、なかなか開けた所に出ないねえ」
「あー、ここ、結構長かった気がする」
なんと!
「ねえ、いくら何でもこんな道、早く抜けたいんだけど〜」
「まぁまぁ、そう焦っちゃだめだよ。我慢我慢」
はぁ、我慢か。せめて何かアクシデントでもあればいいんだけど…
「そうつまらなそうな顔をしないの」
「だって…」
なんだかなぁ…
『おい!』
げ! 怒号! いくらなんでも、これはないと思う。背後からの声…
振り返るべきかどうするか。
「ね、ねえ、私達を呼んでるんじゃないよね…?」
「しー。スルースルー。本当に私達に用があったら、こっちに来るから」
な、なんでそんな冷静なんだ?
「楓、もしかしてこの手の経験あるの?」
「私はアスリートだからね」
それ、理由になるの?
「アスリートだかなんだか知らないけど、大丈夫なんだね?」
「多分ね」
た、多分って。
『おい! おいったら!』
ちょっと、声、近くない?
「楓、ホントに大丈夫なわけ?」
「信じる者は救われる!」
まじで〜? うさんくさいなぁ。
『おい! お前ら!』
「ほら、私達じゃん!」
「ちっ、しゃーない、面倒だけど、相手のツラを拝んでやるか」
な、なんて言い草。とはいえ、不安のない楓の言葉は、私を安心させる。
「じゃ、行くよ」
「うん」
ごくり。
私達は、声をかけて来た相手の方に向き直った。
〜つづく〜
説明 | ||
第71回から第75回 | ||
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コメント | ||
コメントありがとうございます。振り返った後の展開、少しでも面白くできるよう、努力致しますね。(水希) 振り返った先にある顔は、知り合いでしょうか?それともピンチ?続きが楽しみです。(華詩) |
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