涼州戦記 ”天翔る龍騎兵”3章8話 |
第3章.過去と未来編 8話 孫策暗殺(前編)
再び一刀が意識を取り戻すとそこは寝台の上だった。
「あ、あれ?ここは…?」
上体を起こし周りを見回していると馬超と周瑜が部屋に入ってきた。
「あ、翠。俺どうしてこんなところで寝てたんだ?」
「か、一刀!気が付いたのか。……うわあああぁぁぁん、この馬鹿野朗あたしを何回心配させれば気が済むんだ。」
寝台で上体を起こし自分の方を見ている一刀を見て感極まった馬超は泣きながら一刀に抱きついていた。
「やれやれ、あの無骨だった翠がここまで可愛いくなるとはな。」
「冥琳、俺どうしたんだ?」
「何かを話そうとしたらいきなり気を失って倒れたんだよ。その後が大変だったぞ。」
一刀が倒れた後、流石周公瑾といったところで冷静に兵に医者を呼びに行かせたのだが、馬超が大変だった。
狼狽しまくりで大声で何度も一刀を揺さぶりながら呼んだが返事がないため、「一刀が死んじゃった〜〜」とより一層の大声で泣き出したのである。
当然のことながらそんな大声で泣いていれば人が集まってくる訳で、なんだなんだと大騒ぎになるとこだったがそこに兵に連れられて医者がやってきたので診てもらうと唯気を失っただけで命に別状はないとのことだった。
それで馬超が泣き止み、騒ぎは収まったのだが、命に別状はないものの衰弱が激しい為、周瑜の執務室の隣の部屋に寝かせておくことになったのである。
馬超は未だ泣きながら一刀に抱きついていたのだが、一刀に「ごめんな。」と言われながら頭を撫でられるといくらか収まってきたようである。
「冥琳、迷惑かけたな。すまん。そうだったな、孫策のこ・と・を……!!冥琳!俺はどのくらい寝てたんだ?孫策は、孫策は無事か?」
馬超の頭を撫でていた一刀は周瑜に顔を向け謝罪しようとしたが重要なことを思い出した。
「んっ、お前が倒れてから今日で3日目だな。伯符なら執務室で政務をやってるはずだが?無事か?とはどういうことだ。」
「間に合ったか。実は許貢の残党が孫策を暗殺しようとしているという情報があるんだ。」
嘘である。
一刀は孫策が許貢の残党に襲われて重傷を負い、その傷が元でやがて死ぬことを知識として知っている。
しかしそれをそのまま周瑜に言っても信じてもらえるかわからず、へたすれば周瑜に余計な猜疑心を持たせかねない。
そこで嘘をついたのである。
「何だと!それは本当か!!」
「ああ、確かだ。」
一刀が真顔で頷くのを見て周瑜は顎に手を当て考え込む。
「誰か、誰かある。」
扉を開けて兵が入ってくる。
「はっ」
「黄蓋殿を呼んできてくれ。」
「はっ」
兵は早足で部屋を出て行く。
「後は、…明命!」
すっと横に周泰が現れる。
「はい、冥琳様」
「明命、お前は雪蓮の身辺を警護せよ。」
「はい、冥琳様」
すっと周泰は姿を消し去っていく。
「ふ〜、後は黄蓋殿に護衛隊を組織してもらって伯符に貼り付ければ。しかし我らに掴めなかった情報を掴むとはさすが菖蒲様の下で軍師をやってるだけあるな。」
「ははは、でも間に合ってよかったよ。」
ほっとした一刀であるがそうは問屋がおろさなかった。
再び周泰がすっと現れる。
「冥琳様!雪蓮様がいません!!」
「な、なに!!…あの子はまた抜け出して…誰か、誰かある!!」
入ってきた兵に陸遜、呂蒙に兵を指揮して孫策を至急探すよう伝令させると周瑜は周泰を伴い孫策を探すべく部屋を出て行った。
「翠、俺達も探そう。」
というと一刀は寝台から起きようとするが
「だ・め・だ。一刀はそのまま寝てろ。衰弱が激しいって言われてるんだぞ。」
「でも1人でも多い方がいいだろう?」
「だめだと言ったらだめだ。どうしてもと言うのなら骨の2,3本へし折って動けなくしてやる。」
俺を殺す気かと思ったが馬超の顔を見て、やれやれとばかりに
「わかったよ。ここで寝てるから、翠、頼むぞ。」
「いいな!ちゃんと寝てるんだぞ!!」
馬超は部屋を出ると部下を引き連れ孫策を探しにいった。
その頃、孫策は町に居た。
「まったく、冥琳ったら。やっと母様の仇が討てるってのに政務なんかやってられる訳ないでしょう。」
プンプンという感じで通りを歩いている孫策だが、横から
「おや?雪蓮ちゃんじゃないか。そんなに怒って…腹が空いとるのか、これでも食べんね。」
と声がかかり横を見ると知り合いのおじいさんが居た。
すると、ころっと表情を変えてにこやかに声をかける。
「あら?おじいちゃん。う〜んお腹が空いてる訳じゃないんだけど…まあいいか、それじゃいただきま〜す。」
老人の差し出す肉まんをパクつきながら雑談を始めていた。
「冥琳様、やっぱり城内にはいません。」
兵を指揮して城内を探していた呂蒙が周瑜に報告する。
「となるとどこへ行ったか。う〜ん」
「冥姉、一刻を争うんだ。手分けして探そう。その方が早い。」
呂蒙の報告を聞いた周瑜は顎に手を当て考え込むが馬超の提案に頷く。
「そうだな。よし、祭殿は街を、穏は港を、明命は練兵場を、亜莎は川の方を頼む。翠達は私といっしょに来てくれ。」
「「「「応」」」」
各員、兵を引き連れ割り当てられた場所へと急ぐ。
町の某所にて
「おい、あれは孫策じゃないのか?」
今で言うオープンカフェみたいな所で茶を飲んでいた3人組の1人が視線を通りへと向けて言う。
「確かに。どうやら護衛はいないようだな。」
「護衛も付けずに町中を歩くとは、だが我らにとって好都合だな。後をつけるぞ!」
茶の代金を机に置くと3人組は店を出、孫策の後をつけて行った。
3人の内、2人は腰に剣を佩き、1人は背中に弓を背負っていた。
一刀は馬超の言付を守って寝台で横になっていたが、心に得体の知れない不安を抱え眠れずにいた。
「…………(ドキドキ)……」
なかなか落ち着かず寝返りを打つ。
「(ごろり)………」
周瑜達が将と兵を総動員して探しているのだ、すぐに見つかる。
理性はそう言うのだが、なぜかはわからないが不安が消えない。
これが虫の知らせという奴なのだろうか?
考えないようにしているのだが不吉な情景がどうしても思い浮かぶ。
「だーーー、だめだ。翠には悪いが俺も探しに行こう。」
寝台から起き上がると服を着替えたが、頭がクラっと来て倒れそうになる。
「とっとと、ええいしゃきっとしろ!(パン)」
両手で頬を叩くと一刀は扉を開け部屋を出て行った。
町を出た孫策は川へと向かい、それから今は森へ向かって歩いていた。
刺客と思われる3人組に後をつけられながら。
途中途中で捜索隊と思われる一団と遭遇しそうになるのだが、偶然横を通り過ぎた馬車にその身を隠されたり、そのまま進めば捜索隊と鉢合わせするはずが気になるものが目に入って立ち止まった為すれ違ったりという具合にほんの僅かな差で見つからずにここまで来ていた。
偶然と言ったがはたして本当に偶然なのだろうか?
まるで予め決められていたように全てが重なっていた。
そう、一刀が倒れたこともその1つで騒ぎが起こったことにより注意が逸れた隙をついて孫策は執務室を抜け出したのだから。
後でこの全てを知ったらまるで運命に導かれるようにとしか表現できないだろう。
今、孫策は最悪の運命に導かれ、刺客という名の案内人に連れられて黄泉路へと旅立とうとしていた。
周瑜は今、森に来ていた。
森の中を流れる小川の淵に石碑のようなものがあり、周瑜は辺りを見回していた。
「ここかと思ったが…来てない様だな。」
「冥姉、ここはなんなんだ?」
石碑の周りを見回している周瑜に馬超が問いかける。
「文台様の墓だ。」
「えっ!これが堅小母様の墓?」
馬超が驚くのも無理はない、江東の虎と呼ばれた英雄の墓にしては随分質素で岩に何か文字が彫られているだけのものだった。
「ああ、死んでまで英雄として飾られたくないと常々仰っておられたからな。」
「そうか…」
しばらく周りを捜索していたが、見つからなかった為周瑜達はそこを後にした。
部屋を抜け出した一刀は愛馬に跨り森へと向かっていた。
一刀が森へと向かっているのは、深い意味はない。
唯、馬超が怖かっただけである。
町や港及びその周辺は真っ先に思い浮かぶところであり馬超達が何時来るかわからず行けたものではない。
そこで来る時に見かけた郊外の森へ行ってみることにしたのである。
「まあ、こちらにはいないだろうな。柴桑へ増援を送ることに決まったらしいから案外練兵場とかじゃないか?…んっ?」
一刀は馬に乗っていた為目線が高くけっこう遠くまで見えていた。
なにやら人らしきものが森へと向かっているようだ。
腰に下げていた袋から何かを取り出すと目に当てた。
「ん〜と…何!孫策じゃないか。なんで森に向かってるんだ?」
実は望遠鏡である。
この世界に来て賈駆と会った時に眼鏡をかけているのを見て、レンズがあるのなら望遠鏡もできるのではと試しに作ってもらったものでけっこう重宝しており、今度偵察隊に支給してみようかと思っていた。
ピントを合わせながら孫策の周りを見ていた一刀は孫策の後方にある岩陰に3人組の男達を見つけ恐怖した。
「ちっ、刺客らしき奴らにつけられてる。今はまだいいが森に入ったら…やばい!」
そう、今は周りの見晴らしがいい為、刺客は近寄れずにいるが森に入れば遮蔽物に事欠かず接近される恐れが大きい。
「ともかく森へ急ごう。」
と言うと馬を走らせ森へと急いだ。
森へと入った孫策は中を流れる小川の淵へと来ていた。
「あれ?誰か来てたみたい。…冥琳?やばかった〜」
ほっと一息吐くと墓の周りの雑草を抜き、小川の水を浸した布で墓を拭き始める。
ごしごし、ごしごしごしごし、ごしごし
「ふう〜、こんなもんかな?」
墓石を磨き終えた孫策は汗を拭い途中で摘んできた花を飾る。
辺りは小鳥の囀りが聞こえてくるだけで穏やかな日差しが差し込む長閑さを感じさせる光景だった。
墓石の前に孫策は跪き、俯いて目を瞑った。
「母様、父様。あなた達が愛した…私達の故郷。その故郷は今、孫家と、呉の民達の下に戻ってきた。そして母様の仇、黄祖を討つ機会がやってこようとしている。ふふ、母様はなんていうかしら?仇なぞに拘らず民の平穏と朝廷の安定のみを心がけよというかしら。
でも、…ごめんなさい。だめなの、仇を取らないと私は先へ進めない。…」
孫策の独白は続く…しかし彼女は自身に近づく死の影に気づくことはない。
墓石に跪く孫策から後方約1町(約100mと思ってください)のところにある茂みの後ろに刺客達はいた。
「ここが目的地のようだな。他に誰もいない、よし!やるぞ。」
「もう少し接近してから俺が弓で撃つからお前達はその後止めを頼む。」
「よし、許貢様の仇必ず討つぞ。」
刺客達はそろそろと近づいていく。
鳥達も雰囲気を察したのか囀りをやめ、辺りは静まり返っていた。
周瑜と馬超達は森から町へと移動中で、先ほど一刀が望遠鏡で孫策と刺客を発見した地点に到達しようとしていた。
「まったく、雪蓮はどこにいるのか?蔡殿達が見つけてくれているといいのだが…」
「あれだけ大勢で探してるんだ、大丈夫だよ冥姉。…んっ?」
心配そうに呟く周瑜の横で馬を歩ませていた馬超が何かに気づき馬を止め降りる。
「これは…一刀が持ってた望遠鏡とかいうやつだ。なんでこんなところに…」
先ほど孫策と刺客を発見した一刀が急いで森へ向かおうとした時望遠鏡を袋に戻した際にきちんと入っていなかった為、馬を走らせようと動いた際に袋から落ちたという訳である。
周りを見回すと自分達の馬の足跡以外に森へと向かう馬の足跡があった。
「一刀の奴――!あれほど寝てろって言ったのに。冥姉、あたしちょっと森へ戻ってくる。」
「翠も苦労が絶えないな…そうだな私もいっしょに行こう。」
周瑜は後で考えるとなぜいっしょに戻ろうと思ったのかわからなかった。
虫の知らせというやつなのか、この場合知らせたのは一刀かもしれないが。
周瑜と馬超達は向きを変えると森へと戻っていった。
<あとがき>
どうも、hiroyukiです。
前回のあとがきで今回一刀が2回目の歴史改変を行うと書きましたが、書いてる内に量が多くなってしまい1話で収まらなくなってしまいました。
その為、前編、後編に分けることにしました。
どうかご勘弁のほど宜しくお願いします。
さて、今回の話しの中で望遠鏡を出しました。
原作ではけっこう眼鏡かけてる人がいますよね?賈駆だとか周瑜だとか。
で、眼鏡があるなら望遠鏡があってもいいよなと思い出してみたのですが、偵察部隊とかに持たせたらけっこう使えるアイテムになるのではないかと。
調べてみたんですけどレンズの原型は紀元前3世紀ころに遡るそうですが唯、この頃は火を熾す為に使われていたそうで眼鏡として使われるのは13世紀ぐらいになってからだそうです。
つまり三国志の頃にはまだ眼鏡はないということになるんですよ。
う〜ん、どうしよう?と思ったのですが原作で使われているのですから使って良しということにしました。
いいかげんな作者ですみません。
次回、今度こそ一刀は2回目の歴史改変を行います。
孫策を暗殺から救う(後編)です。
では、あとがきはこのくらいにしてまた来週?お会いできたらいいな〜。
説明 | ||
3章8話です。 1話で終わらすつもりだったんですが、無理でした。 という訳で「孫策暗殺(前編)」です。 |
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コメント | ||
BookWarm様:祭です。おかしいな〜、直しときました。(hiroyuki) ブックマン様:倍率は特に考えてなかったんですけど大体10倍くらいかな?(hiroyuki) 望遠鏡はたしかに便利でしょうね。倍率どのくらいかな。(ブックマン) jackry様:もう少し、もう少しお待ちください。(hiroyuki) クォーツ様:一刀の働きに期待してください。(hiroyuki) yosi様:こういうアイテムはさじ加減が難しいですね。(hiroyuki) nanashiの人様、st205gt4様、とらいえっじ様:鋭意製作中です。申し訳ありませんがもう少しお待ちください。(hiroyuki) 次回はまだかい(´・ω・`)超絶気になるんだが・・・(とらいえっじ) 「どっちだ!気になる次回が気になるー」と言うことで次回も期待(st205gt4) このままでは魏の時の二の舞に・・・ これからに期待(クォーツ) 翠かわええのう。 メガネとか望遠鏡は、外史だからである程度解決できますな(yosi) ドキドキの前振り・・・・・・のみとは何事かぁwww 後編カマーンww いや来週まで大人しく裸正座で待ってるぜw(nanashiの人) |
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