凍京NECRO〜超好みドストライクのあいつは……〜
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しんしんと雪の降る、薄暗く冷たい世界。

こんな場所を歩いていると口から出る白い吐息が、まるで自分の魂が体から抜け出ているように錯覚してしまう。

陰気な想像に気分が沈む。

ただでさえ疲労と寒さで、体が気怠くて仕方のないというのに。

いつもより重く感じる足をなんとか動かし、薄っすらと積もった雪で白くなった道をゆっくりと進んでいく。

普段から身に着けている武器も、着慣れた装束すらも今はどうしようもなく煩わしい。

 

今の俺は上に黒い着物とインナー、下に灰色の袴と革のブーツ、腰に二本の刀を帯び、肩にはジャラジャラと中身の詰まった革袋を担いでいる。

聞いた話では俺が着ているこの装束や武器は、昔存在していたと言われる侍を参考にしたものらしい。

その侍が存在していたのも、もう何百年も昔の事らしいが。

科学が高度に発展しサイバー化の進んだ現代において、この姿は周囲から古臭い前時代の遺物のように見えるだろうか。

仮にそう見えていたとしても着物は実家で小さい頃から着せられているし、今着ているのはうちに代々伝わる戦装束ということで、すでに着慣れてしまっているから別のに変える気はそうそう起きないが。

それに見た目は古臭くとも、使っている素材は現代の技術の粋が詰め込まれている。

そこらで売ってる防刃、防弾着よりはよっぽど丈夫だし、一見軽装だがこの寒空の下でも凍えずに動けるための機能が組み込まれている。

……それでも完全に寒さを遮断出来るほどではなく、寒いことに変わりはないのだが。

 

「……ようやく浅草か、今回も無事生還だな。できればもう少しくらい、楽な仕事ならよかったんだけどな」

 

重い足取りでしばらく進むと、ようやく俺の住む地区に戻って来れた。

そのことに安堵の息が漏れる。

そこそこの実力はあるおかげで依頼が舞い込み仕事にありつけたのだが、今回は少し遠出のものばかりが3つほど重なってしまった。

どれもが少し距離のあるところの依頼で移動だけでも相当時間がかかり、しかも最後の1件では重装備型のリビングデッドが3体も飛び出してくるしまつ。

正直、ちょっと死ぬかと思った。

ただでさえ近接戦闘が主体の俺だ、重火器装備の相手は少し苦手なのだ。

【最近悪さを働く無名のネクロマンサーの討伐or捕縛】という、比較的難易度の低い依頼のはずだったのに、とんでもない切り札を持っていたものだ。

そいつのせいで思ったよりも時間がかかってしまい、結局昨日の朝に出掛けて1日かけてようやく戻ってくることが出来た。

徹夜でこなしたから、朝日が目に染みる……いや、太陽が昇ってる時間ではあるのだろうが、あの暗い雲に覆われてまったく見えないのだけど。

冷たい風に雪がちらつき、それが目に入って染みるのはある。

 

依頼は定期的に入るとはいっても選り好み出来るほどではないし、依頼料もそこまで多くはない。

しかもうちは少数も少数、なんと所属メンバーは俺一人という少数っぷり。

俺が依頼を受けなければ、1ペレットたりとも手に入らない。

だから多少難易度が高くても、多少距離があろうとも、依頼があれば可能な限り受けないわけにはいかないのだ。

 

「……は、は……ハックシュン! ……うぅ、さっぶ。とっとと用事済ませて、事務所に帰ろう」

 

目指すのは俺が住む浅草と同ところにある、とある質屋。

俺がリビングデッドを再殺して手にした遺品は、そこに持って行って金に換えるのだ。

依頼料と遺品の売却金、これが俺の主な収入源である。

他にも通り道に遺品を売れる場所はあったが、生死者追跡者(リビングデッドストーカー)となってから今までの付き合いもある。

こういった命がけの業界では、ちょっとした付き合いでも中々馬鹿にできないものだ。

長い付き合いともなると、いざ何か困ったことがあった時に少しでも手助けしてもらえることもある。

そういう理由からも、出来る限り同じ店で取引した方がいい。

 

「時間帯的に、もう店は開いてる時間だと思うが……お、やってるな」

 

目的の質屋に暖簾が出ているのが見えた。

店先に着くと、服に若干積もった雪を払ってから店に入る。

外とは打って変わって温かい店内に、冷えてかじかんだ体がゆっくりと温められていく。

中には今まで買い取ったもの、質流れしたものが棚に並んでいる。

稀に興味を引かれる品や仕事に役立つ品が安く売られていることもあり、定期的に棚を眺めるようにしているのだが、今はこの重い荷物を軽くすることが先決だ。

俺は棚を横目に見ながらも、真っ直ぐカウンターに向かう。

カウンターの向かいには一人の店員が椅子に座っていて、近づく俺に柔らかい微笑みを浮かべてくる。

 

「おはようございます、昨日は依頼だったみたいですね。お疲れさまでした」

 

「あぁ、おはようさん。徹夜だったから、もう眠くて仕方ねぇや。早速だが、遺品の買い取り頼む。金は後で取りに来るから、それまでに確認しといてくれ」

 

「はい、承りました。いつもありがとうございます」

 

そう言って肩に背負っていた革袋を手渡した。

そいつは受け取った革袋を両手で大事そうに抱え、早足で奥に持っていくと10秒とかからず戻ってきた。

 

「大事に預からせてもらいますね。それでは、またのご利用をお待ちしております。

……さて、お仕事モードも終わりにして、どうです? 一緒にお茶しません? 今の時間帯だと、あまりお客さんも来ませんし。丁度天然物の茶葉が入ったので、ご馳走しますよ」

 

「いや、眠いって言ってるだろ? やめとくよ。今日はもう疲れたし、とっとと事務所に戻って休みたいんだ」

 

「それなら、ここで休んでもいいじゃないですか。温かいですし。何なら、膝枕でもどうです? きっと安らかに眠れると思いますよ」

 

「結構だ。我が家が一番、そういうもんだろ?」

 

「どうせ事務所に戻っても、他に誰もいないのに? 寒い部屋に帰って、一人で過ごすなんて寂しいじゃないですか。今日は私と一緒に過ごしましょうよ。目が覚めたら、暖かいご飯もついてきますよ」

 

その提案には心惹かれるものの、俺は簡単に首を縦に振ることは出来なかった。

これはちょっとした意地のようなものだ。

 

「……余計なお世話だ」

 

「もう、あなたはいつもそう。私の気持ちにだって気付いてるくせに、全然応えてくれない。意地悪です」

 

ぷくーっと拗ねたように、しかし可愛らしく頬を膨らましてみせる。

こいつの名は、美奈川柾木(みながわまさき)。

小さい頃から同じ浅草に住む幼馴染で、同じ時期に生死者追跡者となった同業者でもあり、この質屋の看板娘でもある。

周りからは自分で再殺して手にした遺品を質入れ&質流れさせる、凍京一アグレッシブな看板娘と呼ばれ親しまれている。

幼馴染ということもあるのか、昔から好意的な態度で俺に接してくる。

それ自体に悪い気はしないのだが、最近になってスキンシップが妙に多くなり、やたら体を密着させてくるのが困り所だった。

 

……正直なところ、柾木が言ったようにだいぶ前から気付いてはいたのだ。

柾木が俺に対して、そういう感情を抱いて接しているということは。

一緒に歩いている時なんてさりげなく腕を組んできたり、そのまま指と指を絡める恋人繋ぎに移行してくる時もある。

事務所を手に入れて実家を出て一人暮らしを始めてからだって、頻繁にうちに来ては食事を作ってくれたりもしている。

幼馴染とはいえ流石に悪いから断ろうと思うも、俺好みの味付けはすでに把握しているらしく、作る料理のどれもが美味いのなんの。

俺も作れないわけではないのだが、柾木と比べると雲泥の差だ。

悪いとは思うものの、この美味い飯が食べられなくなると思うと中々断ることが出来ず、今までずるずると来てしまっていた。

 

柾木は俺の影響か、女性が好みそうな綺麗な羽織を纏っている。

その下の服もどことなく昔風の服だが、それがまた柾木の容姿と驚くほど合っていて古臭いという印象は浮かんでこない。

その外見に加えて普段の俺への言動、どれをとっても俺の男心をくすぐるものばかり。

正直言って、超好みドストライクだ。

今まで何度告白しようと思ったか知れない。

しかしそれは、今の今まで出来ないでいる。

そしてこれから先も、告白することはないだろう。

理由は簡単だ。

たった一つ、そうたった一つだけど、柾木には問題があった。

人によってそれは些細な問題と言うかもしれないが、俺にとってそれはとてつもなく大きな問題だった。

自分の中にある想いを押し殺し、相手からの好意を突っぱねてしまうほどに。

その問題とは……。

 

「何度も言ってるが……お前は男だろうが!」

 

それに尽きる。

どんなに可愛くても、柾木はれっきとした男なのだ。

 

「……男か女か、それってそんなに大事なこと?」

 

「大事だろ。これも何度も言ってるが、俺は普通に女の子が好きなんだ」

 

「殿方の気持ちを本当に理解できる私は、殿方にとって最高の女性になれると思いません?」

 

そう言いながら柾木はカウンターを抜けて近づいてきて、俺の腕に体を密着させて見上げてくる。

俺より頭一つほど低い柾木の上目遣い、加えて香水でも使っているのか薄っすらと甘い香りが漂ってきて、思春期男子のごとく胸が高鳴ってしまう。

思わずその華奢な体を抱きしめてしまいそうになるのを、生死者追跡者として培った鋼の精神によりぐっとこらえる。

そして愛おしそうに頬をすり寄せてくる柾木を、断腸の思いで押しのける。

 

「や、やめろっての……いい加減諦めてくれ、お前にそういう気持ちは持てないんだ」

 

「……残念。でもそう言っていられるのも、今のうちですから」

 

押しのけられてショックを受けた様子もなく、柾木は薄っすらと笑みを浮かべながら小さく舌なめずりした。

それがまた何とも艶めかしく、俺の自制心を崩しにかかってくる。

まるで俺の中での葛藤を見通しているようだ。

このままでは柾木の攻勢に負けてしまいかねないと思い、俺はさっさと退散することにした。

 

「くっ、帰る!」

 

「ふふふ。はい、ゆっくり休んでくださいね」

 

そんなどこか楽し気な柾木の声を背に、俺は店を後にした。

 

 

 

 

 

これは女の子よりも女の子らしい男の娘である美奈川柾木と、その幼馴染である俺による、凍京の雪すらも溶かす熱い恋の攻防劇。

……となるかは、まだ誰にもわからない。

 

 

 

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(あとがき)

しばらく前からDMMで凍京NECROをプレイしてます。

最初、がっこうぐらし!のコラボやってるの見てちょっとやってみようかなぁ、と思って始めたら、なんだかんだで今まで続けてしまっている次第です。

……がっこうぐらし! コラボ復刻、来てくれないかなぁ。来たら今度こそ、胡桃ちゃん完凸したいです。

 

それにしても本作に登場した美奈川柾木を含め、渡良瀬準、漆原るか、アストルフォ、木下秀吉等々、男の娘キャラってみんな可愛い子たちばかりですね。

正直、普通に登場する女の子キャラより好きかもです。

あ、でも私、男の娘キャラは好きですけど、別にホモな人ではありませんので、いや本当に。

可愛いものが大好きなだけ、それだけです。

それは皆さんも同じでしょう?

……たまに男の娘キャラを見て、「○○なら男でも……」とか思ったりするけど、あくまで二次元のキャラだけですし、リアルでは絶対ありえませんし。

だから、私はホモな人ではない!

 

 

説明
あけましておめでとうございます(遅い)
今年初の短編です
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凍京NECRO オリ主 美奈川柾木 短編 

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