ある魔法少女の物語 1「始まり」 |
声がしたのは、真字駆公園のマギマギ池だった。
そこに行った恭一と奈穂子は、きょろきょろと辺りを見渡す。
「どこにいるの? あなたは誰?」
―助けて……。
恭一と奈穂子の頭の中に、声が聞こえてくる。
「あなたなの……?」
そこでは、オッドアイの謎の生き物が苦しそうな表情をしていた。
―恭一、奈穂子、今、世界が疫病の脅威にさらされているだろ? でも、今はもう一つの問題がある。だから、ボクを助けてほしいんだ。
「ど、どうしてそれを知っている!」
謎の生き物は恭一と奈穂子にテレパシーで事情を伝えた。
恭一は、全ての事情を謎の生き物が知っている事に驚いた。
―そんな事はどうでもいい、早くボクを……!
次の瞬間、公園内の風景が変わった。
風景の中央には、苦痛に歪んだ表情の少女が浮かんでいる。
さらには、緑の皮膚と小柄な体格の亜人が、恭一と奈穂子を取り囲んだ。
「こ、こいつらは……!」
―こいつは魔女が生み出す使い魔だ。
「魔女……!?」
謎の生き物が言う「魔女」が何なのか、二人には分からなかった。
―魔女は災いを生み出す邪悪な存在だ。奈穂子。キミは優しいんだよね。さあ、ボクと契約して、魔法少女になってくれ。
「嫌!」
奈穂子は謎の生き物の勧誘を拒否した。
彼女の返答に一瞬驚く謎の生き物だが、当然だろうな、という態度に戻る。
―でも、魔女と使い魔は魔法少女にしか倒せない。だから、ボクと契約を……。
「ふざけんな! こいつらは俺が倒す! 奈穂子、お前は安全な場所に逃げろ!」
「うん!」
そう言って、恭一は使い魔に生身で突っ込んだ。
奈穂子はそんな恭一を心配そうに見守りながら、使い魔の攻撃を受けない位置に逃げた。
「ケーッケケケケケケケ!」
使い魔は恭一を袋叩きにしていく。
恭一は使い魔に立ち向かうが、使い魔の力は強く、こちら側も思った以上に力が出なかった。
「くそ、力が出ねぇ……!」
使い魔に丸腰で立ち向かうのは、無謀だった。
それでも恭一は必死で使い魔と戦うが、次第に劣勢になっていった。
そして、ついに膝をついてしまう。
「くそっ……俺は、奈穂子を守れないのか……!?」
幼馴染を守れず、死んでしまうのか。
恭一が目を閉じた、その時。
―諦めてはいけません。
今度は、謎の女性の声が聞こえてきた。
しかも、その声は恭一にしか聞こえていない。
「誰だ……?」
―この剣を、取ってください。
その声が聞こえると同時に、恭一の目の前に柄が青い剣が現れた。
剣は光っていて、恭一を待っているかのようだ。
「……これを、使ってほしいのか?」
剣は頷くように光る。
恭一がその剣を取ると、彼の中に強い力が入り込んできた。
同時に、恭一が負っていた傷が癒される。
「力がみなぎっていく……! よし、これならこいつらと戦える!」
「頑張って、恭一君!」
恭一は剣で使い魔を斬りつけた。
使い魔はなおも恭一に襲い掛かってくるが、恭一は攻撃をかわし、反撃する。
今までとは違う、身体が軽くなったような感覚に、喜んでいる恭一と奈穂子。
そのまま恭一はジャンプして使い魔を斬り、残りの使い魔もそのまままとめて切り裂いた。
「ふう……これで最後か?」
使い魔が全て消え、恭一は汗を拭う。
だが、風景はまだ、元に戻っていない。
「まだ残ってるの?」
―そうだよ。使い魔と共にいるのは、もちろん。
謎の生き物がそう言った途端、地響きが起こった。
「な、何!?」
「何だ、何だ?」
恭一と奈穂子が困惑すると、地面から謎の生物が姿を現した。
生物は右手にナイフを握っており、男と少女の顔が身体に浮かび上がっている。
「こ、こいつは……!」
化け物の姿を見た恭一と奈穂子が恐怖で震える。
さらに、謎の生き物がテレパシーで話しかける。
―これが魔女さ。魔女を倒せば、災いはなくなる。さあ、奈穂子。ボクと契約して魔法少女に……。
「待て、こいつは俺が倒す。使い魔を倒したんだから、魔女も倒せるはずだ」
恭一は謎の生き物の勧誘を阻止し、剣を構え直して魔女の前に立つ。
魔女は唸り声を上げると、恭一に襲い掛かった。
「わっと!」
恭一は攻撃をかわし、反撃するが、魔女は左手を伸ばして剣を弾き返す。
さらに、魔女は右手のナイフで恭一を斬りつける。
「あのナイフ……どうにかして落とせないか?」
―ヒントを言おう。ナイフは魔女が魔女である証。
「……?」
謎の生き物曰く、あのナイフが魔女の力の源となっているらしい。
恭一の予想通りだったが、どう対処すればいいのか分からなかった。
魔女はなおも、ナイフで恭一を攻撃しようとする。
恭一は避ける事で精いっぱいだった。
「……待って、恭一君! あの腕を見て!」
すると、奈穂子が魔女の腕の違和感を発見し、それを恭一に伝える。
恭一が魔女の腕を見ると、一部分だけが細くなっていた。
「そこかっ!」
恭一がそこに向けて、剣を突き刺す。
すると、魔女の腕が衝撃でちぎれ、ぽとりとナイフが落ち、黒い煙になる。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
魔女は叫び声を上げながら、大暴れする。
恭一は魔女の攻撃をかわしつつ、的確に魔女の身体に斬撃を刻む。
「そこだっ!」
恭一は剣で魔女の身体を貫く。
魔女は腕を伸ばして恭一を持ち上げ、思いっきり地面に叩きつける。
「ぐあぁっ!」
恭一は何とか受け身を取り、骨折を防ぐ。
しかし、恭一の疲労が溜まっていく。
恭一はケリをつけるべく、剣に力を溜めた。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
溜めた力が光となり、魔女に向かって一閃された。
魔女の身体が四散し、黒い煙になって消えていく。
そして、風景は元の真字駆公園に戻った。
「……ふう、終わったか」
「凄かったよ! 恭一君!」
恭一は汗を拭い、奈穂子は彼の勝利を称える。
すると、謎の生き物が二人の前にやってきた。
―魔女を倒せば、起きた事の全てはリセットされるんだ。つまり、この事を覚えているのは、君達だけという事だね。
「……は? どういう事だ?」
―さあね。
「そんな事より、お前の名前は何だよ」
―ボクの名前はジュウげむ。魔女を狩る魔法少女を生み出す者だよ。
ジュウげむと名乗った謎の生き物は、姿を消した。
「リセットされるって、どういう事?」
「さあ……分からないよ。そろそろ帰ろう、恭一君」
「ああ」
恭一と奈穂子は、互いに別れを告げて帰った。
「おにぃ、テレビみて」
「ん……?」
恭一が自宅に帰ると、妹の由美がテレビを指差す。
テレビには、こんな映像が映っていた。
「次のニュースです。溝渕容疑者に殺害されたと思われた大澤ひかりさんには、何の外傷もありませんでした。
溝渕容疑者は何をしていたのか分からない様子です」
「……え? 何?」
「殺人事件が無かった事になったみたいよ」
恭一はもう一度テレビを見る。
そこには、殺人事件が無かった事になったという「事実」しか映っていなかった。
本来ならば喜ぶべき事だろうが、本来ならばあり得ない事だったため、恭一と彼の母、そして妹は頭を捻っていた。
これも、魔女を倒したからだろうか。
とすると、風景に浮かんだ少女は、殺人事件の被害者だった大澤ひかりで、魔女のナイフは溝渕容疑者が使っていた凶器なのだろうか。
恭一には分からなかった。
だが、魔女を倒せば事実は無かった事になる――ただ、それだけが「事実」だった。
「……ジュウげむ。あいつは一体何者なんだ。でも、絶対に、奈穂子を魔法少女にはさせない」
ジュウげむと出会った恭一と奈穂子。
彼らの歯車は、少しずつ狂い始めていった。
説明 | ||
主人公とヒロインが今回のキーキャラクターと出会います。 そして、初めての戦闘シーンでもあります。 |
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