ある魔法少女の物語 4「理系女子もまた」 |
真字駆市は今日も、平和な日々が続いている。
……というより、ここ二週間ほど、平和な日々しか続いていなかった。
理由は、魔法少女がこの町を「魔女」という存在から守っているからである。
魔女を倒せば、過去に起こった事件や災いは綺麗さっぱり、無かった事になる。
こうして、魔法少女は真字駆市を平和にしているのだ。
しかし、町を守っているのは、魔法少女だけではなかった。
若林恭一も、「勇者」として魔女と戦っていた。
もし奈穂子が魔法少女になれば、取り返しのつかない事態になる。
だから、恭一は奈穂子の代わりに戦っているのだ。
魔法少女とは? 魔女とは? 勇者とは?
終わりのない戦いだったが、恭一は折れなかった。
ある日の金曜日、授業が終わった日の事だった。
若林恭一の家に、幼馴染の柿原奈穂子が来ていた。
「恭一君、明後日は何の日だと思う?」
「え? 何って……」
「忘れたの? 沢村君の誕生日だよ」
「あ〜、そうだったな」
明後日は、クラスメートの沢村太志の誕生日で、誕生日会を開く予定らしい。
そのために、奈穂子は誕生日プレゼントを買いに行こうとしているという。
「沢村にはどんなプレゼントを買った方がいいかな」
「まずは、プレゼントよりも誕生日会で使うグッズを買った方がいいよ。さ、お財布を持って、買いに行こう」
「あ、ああ」
恭一と奈穂子は100円ショップに行って、クラッカーやグッズを買ってきた。
また、恭一は沢村が好きそうなプレゼントをいくつか買ってきた。
「これだけあれば、十分だろうな」
「そうだね、恭一君。沢村君、絶対に喜ぶよ。でも、大事なのはプレゼントじゃなくて、沢村君の誕生日を祝うって気持ちだよ」
奈穂子の言う通り、本当に大切なのは気持ちだ。
沢村を思う気持ちこそが、誕生日会で沢村に贈る一番のプレゼントなのだ。
「それじゃ明後日、沢村をみんなで祝おうぜ!」
「うん!!」
恭一と奈穂子が誕生日会の準備で賑わっている頃。
真字駆市のどこかで、眼鏡をかけた一人の少女が本を開きながら空を飛ぶ哺乳類、蝙蝠と戦っていた。
「蝙蝠の飛ぶ速度と攻撃が届くまでの距離を考えると……この攻撃が最も最適でしょう」
少女は呪文を唱えて、左手で空中に魔法陣を描く。
すると、魔法陣の中から光の矢が飛び出し、蝙蝠の翼を撃って墜落させ、さらに落ちた場所には罠があったため蝙蝠にさらにダメージを与えた。
「流石だね、((長根三加|ながねみか))。ボクが見込んだ魔法少女なだけあるよ」
少女――長根三加の緻密な計算に感心していたのはジュウげむだった。
どうやら、三加という少女も、魔法少女のようだ。
「……これが、魔法少女の使命なのですね?」
「そう。ボクが願いを叶えたのだから、キミがボクの願いを叶える。所謂、等価交換だよ」
魔法少女になった者は、願いが叶う代わりに災厄の象徴である魔女と戦う事になる。
その事実を、三加は冷静に受け入れていた。
三加は蝙蝠の動きに合わせて、呪文を唱えて魔法で攻撃する。
攻撃は正確に命中し、蝙蝠は次々と墜落した。
ジュウげむは静かに彼女を見守っていたが、同時に何かを考えているような態度だ。
(三加……キミは実に優秀な魔法少女だ。でも、魔法少女の数は、まだ足りない。もっと魔法少女を探さなければ……!)
「それから、誕生日会には、長根先輩も呼びたいって思ってるの」
「長根先輩?」
「学年一の優等生で、特に数学と理科が得意なの」
(どんな奴だろう……)
恭一があまり顔を合わせた事がない人物だ。
きっと、硬派な男なんだろうな、と思っていた。
「先輩はちょっと近寄りがたいけど、一緒になれば打ち解けられるはずだから」
「ああ、そうだな」
恭一は奈穂子に合わせるため、とりあえず頷いた。
「奈穂子、俺が言うのもアレだが、お前、男を見る目があるんだな」
恭一がそう言うと、奈穂子は首を横に振った。
「違うよ、恭一君。長根先輩は女だよ」
「……何だと……?」
つまり、長根先輩は所謂「リケジョ」だったのだ。
その事実を知った恭一が、脂汗を掻く。
「え、えーと、と、と、とりあえず……長根先輩、誕生日会に誘おうか」
「そうだね!」
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