ある魔法少女の物語 7「その名はカタリナ」 |
「ジュウげむ!」
「また会ったね」
ジュウげむと出会ったという事は、近くに魔法少女か魔女が存在するという事になる。
だが、魔法少女も魔女の姿も見当たらなかった。
「でも、一体、どこに魔法少女がいるんだよ」
「魔法少女は今、魔女と一人で戦っているところさ。どこにいるのかは……今、案内してあげるよ。ついてきてごらん」
「え、ええ……」
恭一達はジュウげむに導かれ、魔法少女がいるところに走っていった。
すると、胸当てを取り付けた茶髪の女性が翼の生えた魔女を弓矢で攻撃していた。
「もしかして、あの女の人が魔法少女なの?」
「そう、今回の魔法少女の中では最年長の19歳。そして彼女が戦っているのは、墜落の魔女。
翼ある者が地に落ちていくのは、なかなかどうして胸糞が悪いね」
墜落、というからには、これに関連する災いと関係がある魔女なのだろう。
「とにかく、俺達はその魔法少女に会おう」
「一人じゃ危ないから、私も行くよ」
「いや、お前は安全な場所で待ってろ。これ以上、お前を危険な目に遭わせたくない」
「はい」
いつも恭一についてきている奈穂子だが、今回ばかりは、素直に言う事を聞いた。
「よし! まり恵、行くぞ!」
「ええ!」
恭一は奈穂子を安全な場所に移動させ、光の剣を手元に呼び出す。
まり恵も、コンパクトの力で魔法少女に変身し、巨大なハンマーを手元に呼び出す。
恭一とまり恵は魔法少女がいる場所に向かい、もちろん、ジュウげむも彼らについていった。
その頃……。
「ルーナ、こっちよ!」
「☆△×□!」
弓を持った魔法少女は、魔女の体当たりをかわしながら矢を射った。
ルーナと呼ばれた生物は、魔法少女の掛け声に合わせてビームを放つ。
魔女は上空に高く飛び上がった後、魔法少女に向けて体当たりするが、ルーナが魔法少女を庇う。
「はぁっ……どうにかして、あの魔女を倒さなきゃ……」
「……」
ルーナは言葉を話さないが、魔法少女の心配はしていた。
次第に魔法少女に疲れが溜まっていき、弓を握る手も徐々に力が弱くなっていく。
「危ねぇっ!」
「えいっ!」
その時、まり恵のハンマーと恭一の長剣が、魔法少女に襲い掛かった魔女を吹き飛ばした。
「あ、貴方達は……」
「まさか、あなたが魔法少女なの!?」
「ええ。私はカタリナです、こっちはルーナ」
「……」
弓を持った魔法少女はカタリナと名乗った。
ルーナはカタリナ以外には懐く様子がなく、カタリナの足元にしがみついていた。
そして、ジュウげむもやってくる。
「もう大丈夫だよ、カタリナ。彼らがキミを助けてくれるからね」
「ありがとうございます。しかし、悠長に話している時間ではありません。皆さん、構えてください!」
「△□○×!」
恭一とまり恵は武器を構え直す。
すると突然、墜落の魔女が狂ったように踊り出す。
その身体から無数の雷が生まれ、地を跳ねながら四方八方に飛び散る。
「危ない! きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まり恵は恭一の前に立ち、代わりに攻撃を受ける。
雷がまり恵の身体を貫き、痺れさせる。
「大丈夫か、まり恵」
「ううぅ、身体が痺れる……」
まり恵は麻痺していてまともに身体を動かせない。
恭一は歯を食いしばりながら剣を握り締め、まり恵の前に立って魔女と戦う。
「それ!」
「☆○□△!」
カタリナの矢とルーナの光線が、墜落の魔女の翼を撃つ。
恭一は麻痺しているまり恵に攻撃が行かないように剣を振り、墜落の魔女にダメージを与える。
「天空斬!」
恭一の剣が、墜落の魔女の身体を捉える。
墜落の魔女の身体が真っ二つになった。
「よし、このまま一気に突き進む!」
「私も援護します!」
「△☆○×!」
カタリナとルーナの射撃攻撃が墜落の魔女を撃つ。
空を飛んでいる墜落の魔女には、効果が抜群だ。
そして、二人の援護を受けた恭一の剣が、墜落の魔女を切り刻んだ。
「よし、やったぜ!」
恭一がガッツポーズをして喜ぶと同時に、墜落の魔女が翼を羽ばたかせて周囲に電撃を放つ。
油断していたのか、攻撃は避けられそうにない。
「危ないっ!」
「うおあっ!」
その時、ちょうどまり恵の身体の痺れが取れ、まり恵が恭一の前に立って攻撃を庇う。
だが、攻撃を完全に防ぐ事はできず、恭一とまり恵は同時にダメージを受けた。
「な、なんて威力……!」
「これが墜落の魔女が起こす災いさ。でも、キミ達ならば必ず勝てる。……さあ、戦うんだ!」
「ああ! やってやるぜ!」
恭一が叫ぶと、墜落の魔女が空へ舞い上がる。
そこは翼を持つ者の独壇場であり、空を穿つ武器を持たねば、その影をすら追う事はできない。
「くそっ、俺の剣が届かねぇ……」
「それ!」
カタリナが矢を放つが、墜落の魔女は空高く舞い上がってかわす。
そして雷となって地上に落下し、爆発する。
「守りの力よ!」
まり恵は周囲にドーム状のバリアを張る。
雷がバリアに命中し、バリアは砕け散るが、恭一達はダメージを受けなかった。
「×△○☆!」
ルーナのビームが墜落の魔女に命中すると、墜落の魔女はゆっくりと落ちていく。
恭一とまり恵は、攻撃のチャンスを伺った。
そして……。
「たあーっ!!」
「せやーっ!!」
恭一とまり恵が、同時に武器を振り下ろすと、墜落の魔女が地面に叩きつけられる。
魔女は苦しそうにのたうち回りながら、バタバタともがいている。
やがて動かなくなった墜落の魔女は、白い光になって消滅した。
「終わったのね……」
「ああ……」
墜落の魔女が消滅するのと同時に、周囲に張られた結界が消える。
恭一の剣が光の中に消え、まり恵の変身も解けた。
「無事だったんだね、恭一君!」
「おめでとう。魔女は倒れ、災いは消滅した」
そして、ジュウげむと奈穂子が恭一達のところにやってくる。
「魔女、倒してくれたんだね」
「ああ、お前が無事で本当によかったよ」
幼馴染の無事な姿を見て、満面の笑みを浮かべる恭一。
ジュウげむは、涼しい顔をしていた。
「で、あの魔女は一体どんな災いの象徴なんだ?」
「キミ達が消した災い、それは――日航機墜落事故」
「日航機墜落事故? なんだそりゃ」
そんな災いなんて、聞いた事がない。
恭一、奈穂子、まり恵、カタリナは首を傾げた。
「ああ、キミ達が生まれる前に起きた災いだから知るわけないか。500人以上が犠牲になった、最悪の航空機事故だよ。とある歌手の命も失われたのさ」
「……」
「でも、魔法少女のおかげでこの事故は消滅した。死んだ人も生き返るだろう」
確かに、魔法少女が魔女を倒せば災いは無かった事になる。
だが、それは普通の少女を魔法少女にして、危険に巻き込むと言う事になるのだ。
「お前は、世界を平和にするためなら罪のない人間も犠牲にできるのか?」
「キミは魔法少女を否定するのかい?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……もっと、別の方法があるだろう? 災いの教訓を生かすとか……」
「そんな陳腐でつまらない手段で、世界が平和になるわけがないだろう」
そう言って、ジュウげむはいつもと違う鋭い光を湛えた目で、恭一を睨みつけた。
恭一は何もできず、黙ってしまった。
「じゃあね。この世界は魔法少女がいるから平和になっている事を忘れないでよ」
ジュウげむは微笑みながら、テレポートで姿を消した。
「恭一君……」
「あの時のジュウげむの目は、この世のものとは思えなかったな」
ジュウげむは、災いに苦しむ世界を平和にしたいという思いに満ちている。
そのためならば、邪魔する者は容赦しない。
あまりにも強い思いは、世界すらも変えてしまうらしいが……。
「そんなわけでカタリナ、お前もジュウげむを止めるために協力してくれないか?」
「ジュウげむを止める?」
「……?」
カタリナとルーナは頭に?マークを浮かべる。
とはいっても、ルーナの目はカタリナにしか向けていないが。
「何を言っているのですか。ジュウげむは魔法少女の味方ですよ」
「でもよ、あいつ胡散臭くないか? ……どうも俺は信用できないんだよなぁ」
「最初からジュウげむを疑うのは良くありませんよ。まずは、素直にジュウげむに従いましょう」
「……」
恭一はジュウげむを訝しみながらも、とりあえず、奈穂子を守るために戦う事にするのだった。
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新たな魔法少女の登場回。 19歳でも「少女」と呼ぶのが魔法少女です。 |
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