近未来文明が残る惑星 第15話
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この物語はフィクションです。実際の歴史や地名とは関係ありません。

 

 

前回のあらすじ

上田で真田幸村に会ったリックは小田原での恩人、鷹羽の命と引き換えに自らの知識を真田に捧げるよう脅迫されていた――――。

 

 

「た、鷹羽さん!……卑怯な……」

 

自分を色々面倒見てくれた人が、まさか真田の捕虜になっているとは予想だにしない出来事に、リックは混乱し歯を噛みしめる。

(とにかく、真田幸村について聞きたいことが山ほどある。ここで自分も鷹羽さんも死ぬわけにはいかない)

 

「……幸村様、貴方に忠誠を誓います。近未来文明の遺産の調査も喜んで引き受けます。

その代り、俺のせいで大切な人に危害を加えないで下さい。それが俺からの契約です」

 

真田はリックの発言を聞きまた笑った。

 

「ふふっ……いいだろう。『契約』ね、中々響きの良い言葉だ。君のその契約とやらに付き合ってあげるよ。おい、その捕虜はもう用済みだ。さっさとどこかに捨ててしまえ」

 

「待って下さい!捨てるって……もう危害は……」

 

慌てて立ち上がった。

(やはり鷹羽さんは自分のせいで殺されてしまうのか……!)

 

「……俺以外に、瑠璃とカムイが居る……」

 

鷹羽は呟くようにその言葉をリックに託した。

 

「っ瑠璃とカムイが……!?待って、まだ話が!」

「ええい、邪魔だ」

 

鷹羽の枯れた声を聞き、彼の元に駆け寄ろうとしたが真田の家臣に阻止され、彼はこの部屋から出ていってしまった。

 

「……瑠璃とカムイがここにいる。まだ生きているって事なのか?あの、捕虜に俺の知っている人がいるんです!大切な人なんです!どうか、会わせて下さい!」

 

「君には大切な人が沢山いるんだね。それは素晴らしい事でもあるし、逆に最大の弱点にもなる」

 

まるでこの様な展開になる事を予想していたかのように、慌てふためくリックを見て楽しそうに微笑む真田。

そんなふざけた態度の真田を見て、リックは怒りを爆発した。

 

「っふ、ふざけるな!何が面白い!?こっちは必死なんだぞ……!それなのに…」

「――――それが勝者と敗北者の違いだよ」

 

勝者と敗北者という言葉にリックは、絶望した。

完全に忘れていた。これが戦いというものだった。士官学校の時に何度も教えられて体に叩き込んだ言葉なのに。

 

(今思えば、士官学校で戦闘術や防衛の仕方、応急処置など散々学んだはず、なのにそれを今まで全く活かしてなかった。大量出血した時も銃を突きつけられても恐怖心で冷静な判断が出来ていなかった。自分ながらあまりにも酷い。

まるで、士官学校に通っていた記憶がまるまる夢だったかのようだ)

 

「……やっと立場が分かったかい?今の私が機嫌が良くて命拾いしたね。

さて、話を進めようか」

 

真田は再び座り、リックもその場で正座した。

 

「今のは許したけど、次同じ事をしたら容赦なく撃つからそのつもりで」

「……はい。申し訳ありませんでした」

 

リックは自分自身について初めてこの場で違和感を感じた。

士官学校の訓練も授業も、故郷の記憶も全て感情が詰まった『記憶』ではなく、もっと別の情報としての『記憶』に感じられた。

 

(しかし、今はそんな場合じゃない。生きる為に彼の話を聞かないと―――)

 

「えーと、どこまで話をしたかな?とりあえずさっきの捕虜は、しばらく上田周辺に居るから心配しないでいいよ。まあ敗者だから酷い扱いにはなるだろうけどね」

 

「そんな……」

「命だけでも助けてあげてるんだ。普通なら感謝するところだろう?まあいいや。

君が言ったようにそこにある三本足の白い筒は、天体望遠鏡だよ。ご名答」

 

真田はリックの横に再び置かれた天体望遠鏡を見て語っている。

しかし、リックはすっかり自分の無力さに絶望しきってしまい、浮かない表情をしていた。

 

「そしてこれは銃。私のお気に入りの武器なんだ。

……なんでこの2つがこの時代にあるか不思議なのだろう?」

「はい。それは……もっと遠い未来に発明されたものです。天体望遠鏡自体は西洋のこの時代にも存在しますが、もっと巨大で大掛かりな物のはずです。どこでそれを……」

 

真田はそうだなぁーと考えると、閃いた様に顔を上げる。

 

「そうだ、じゃあ実際に手に入れた場所に行ってみるかい?」

「……え!?」

「うん、長々と説明するよりもその方がいい。さて、そうと決まれば早速出発だ!」

 

真田は家臣に馬の用意をするよう頼み、さっさと出かける支度を始めてしまう。

 

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するとリックはさっきの真田の発言を思い返した。

『……なんでこの2つがこの時代にあるか不思議なのだろう?』

 

(まるで、未来の事を知っているような言葉だった。俺が未来からの来訪者だと思っているのか?)

 

「幸村様、何処へお出かけですか?もうすぐ信之様が戻ってまいりますが……」

「少し急用を思いついてね、それでは行ってくるよ。ああ、あの忍び兄妹にも金の君が逃げ出さないよう見張るように頼んでおいて」

「承知いたしました。行ってらっしゃいませ」

 

すれ違った家臣と女中に訳を話し、護身用に刀を持つ。

 

「本当は刀よりは槍の方が得意なんだけど、この近辺はそう危険もないだろうから大丈夫だろう」

「はい、そうですか……この近辺にあの近未来の遺産を手に入れる場所があったなんて…」

 

上田城の城門の先には真田の家臣が、馬を2匹連れて待機していた。

 

「ご苦労様。すぐに戻ってくるよ、心配は無用だ」

 

流石、戦国武将らしく華麗に馬に跨る様は、絵になるほどだった。

それに比べて……

 

「う、うおお!駄目だ。どうやって乗るんだ?」

 

馬に乗るのはこれが生まれて初めて。

乗馬の経験もない為に、乗る時点で苦戦しているリックを見て、真田とその家臣は苦笑いをする。

 

「……馬乗れないのかい?未来の世界ではどうしているんだ?」

「うう、未来では馬の代わりに……機械に乗って移動するんです」

「機械……?ああ、からくりの事か。あれで移動するなんて想像つかないな。その機械とやらに興味が出てきた」

 

自動車や鉄道、飛行機の名前を出したかったが流石に、歴史を変えてしまうのを恐れうやむやにしてしまった。

意外にも俺の話を真剣に聞いている。……本当に俺が遙か先の未来の星から来たことを信じているみたいだ。

(―――でも違う、タイムスリップはしていない。それともこの惑星に不時着する寸前にタイムラグなど起きたのか?

 

そういえば、小田原では誰も俺の話を信じてくれなかった。それは悪い事じゃない、あまりにも跳躍した事は受け入れられない、理解してもらえないのは分かっていたが、少し寂しさも感じていた。

しかし、この真田幸村は違うらしい。俺の話をまるで同時代の異国の話のように真剣に聞いて信じてくれている。彼に完全に忠義を捧げるつもりじゃないが、こうして理解者を得たのは凄く心強い。―――――――彼は本当に何者なんだろう?)

 

 

 

次回に続く

説明
閲覧有難うございます。今回も少し遅れましたが、無事に15話書くことが出来ました。今回は今後の大きな展開に向けての話になります。宜しければ、感想やアドバイスをお願いします。
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創作 SFファンタジー 小説 

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