ある魔法少女の物語 9「吹雪の魔女」 |
カタリナが魔法少女になった理由は、父親との不仲を解消するためだった。
親孝行な彼女を見た恭一は、自分も奈穂子を守ろうと誓った。
そして、今日は日曜日なので、学校の予定は無い。
「それじゃ、ゲームでもしようかね」
このまま、普段通りの生活になるだろう。
そう思った恭一だが、それを阻む出来事が一つ。
「……そうはいかないよ」
そう、ジュウげむの出現である。
彼(?)は決まって魔法少女や魔女が現れると、このように恭一達に知らせるのだ。
「まさか、また魔女が現れたのか?」
「うん。今回は奈穂子ちゃんが巻き込まれてるよ。あの子、魔法少女になりたくないのに、困っている人は放っておけないようで」
「何!?」
奈穂子が巻き込まれているようでは、恭一は黙っていられない。
きっと、他の魔法少女だっているはずだ。
このままでは奈穂子が大変な事に……!
恭一はいてもたってもいられず、ジュウげむに魔女がどこにいるか話した。
「ジュウげむ、魔女はどこだ!?」
「ボクについてきて!」
恭一は大急ぎで、ジュウげむの後を追っていった。
「ここか!」
恭一の目に映ったのは、吹雪を纏った巨大な女性が周囲を凍えさせる光景だった。
また、銃を構えた兵士が、一般人を攻撃していた。
「な、なんだこれは……!」
「ここは“吹雪の魔女”の結界。そしてあの兵士は、魔女が生み出した使い魔さ」
「奈穂子! 奈穂子はどこだ!?」
恭一はかなり慌てていた。
もし、奈穂子が傷ついていたら……そんな思いが、恭一の中で渦巻いていた。
幼馴染の事で焦っている恭一の頭の中に、女性の声が聞こえた。
―慌てないで。奈穂子は必ず助かります。
「……でも、魔女を倒さなきゃ……!」
―落ち着いて。町を守るのも必要ですよ。
女性の声と同時に、恭一の前に光が現れる。
その光が大きな剣になると、恭一は剣を取った。
「そいつから離れろ!」
奈穂子を守りたいという気持ちはあるが、女性の言う通り、町を守るのも必要だ。
恭一はまず、使い魔の銃撃をかわし、剣で斬る。
こうして一般人は助かるが、恐怖のあまりへたり込んでいた。
恭一は手を引いて、安全な場所に避難させた。
「使い魔を倒したら、後は奈穂子を探さなきゃ……」
恭一は使い魔を粗方倒し、一般人を避難させた後、幼馴染の奈穂子を探していった。
結界の中は広く、まだ避難していない一般人も多くいて、探すのは難しかったが、数分後に恭一は奈穂子の姿を発見した。
「奈穂子、無事だったか!?」
「あ、恭一君……私……怖いよ」
幸い、奈穂子は傷ついていなかったが、魔女の結界に入ってかなり怯えていた。
恭一は彼女の前に立ち、優しく頭を撫でる。
「大丈夫だ、奈穂子。お前は俺が守る。下がってろ」
「……うん」
恭一は奈穂子を安全な場所に避難させ、魔女を倒すために走り出した。
結界の中で一番騒がしい場所に行くと、案の定、まり恵、三加、カタリナの姿があった。
三人は魔女と戦っているが、苦戦していた。
そんな三人を放っておけない恭一は、すぐに彼女達を手助けしようとした。
「まり恵、長根先輩、カタリナ!」
恭一は戦場に辿り着く。
三人の魔法少女は、吹雪の魔女と激闘していた。
「せいっ!」
カタリナは吹雪の魔女に閃光弾を投げ、怯ませる。
その隙にカタリナは弓を引き、吹雪の魔女の急所を狙い撃ちした。
だがそれでも、吹雪の魔女には掠る程度だった。
「何なの、この固さは!」
「吹雪の魔女は炎に弱い。よって、この魔法で温度を上昇させます。炎よ巻き起こり、魔女を焼き払え!」
「ギャアアアアアアアア!!」
三加は計算と魔法を組み合わせて炎を呼び起こし、吹雪の魔女に放って攻撃する。
彼女の読み通り、吹雪の魔女は炎に弱く、吹雪の魔女は悶え苦しんだ。
「どぉりゃぁっ!」
吹雪の魔女を包む炎が消えると、まり恵はハンマーを構えて突っ込んでいき、ハンマーを思いっきり叩きつけた。
まさしく、「魔女に与える鉄鎚」である。
それを見ていた恭一は、
「そっか……あの魔女は炎に弱いんだな。いくぞ!」
恭一は剣に炎を纏わせ、それを振って炎の衝撃波として攻撃。
衝撃波が命中すると炎の刃が魔女を切り刻んだ。
「恭一! どうしてこんなところに!?」
剣を構えている恭一の方を振り向くまり恵。
まり恵はいきなり恭一が出てきたため、驚くが、恭一は首を横に振ってこう言った。
「話は後だ、魔女を倒せ!」
「ええ!」
恭一とまり恵が武器を構え直すと、吹雪の魔女が巨大な腕を振るった。
「危ない、まり恵! うぐぁっ!」
恭一はまり恵を庇い、左腕を思いっきり殴られる。
かなりのダメージだったようで、恭一は左腕を押さえながら苦しむ。
「動かないでください」
三加は恭一に近付き、彼の左腕を丁寧に治療した。
「サンキュ。どりゃっ!」
「いきますよ」
恭一は炎を纏った剣で魔女を斬り、カタリナは狙いを定めて射撃する。
まり恵は二人が攻撃して魔女が怯んだ隙に、ハンマーを振り下ろして大ダメージを与えた。
「ぐあぁっ!」
「きゃあぁ!」
魔女は両腕を大きく振り下ろし、衝撃波を放つ。
攻撃を食らった恭一とまり恵は大きく吹っ飛んだ。
「あぁ、くそ。寒い」
吹雪の魔女の結界によって、徐々に気温が下がる。
早めに倒さなければ、恭一達は凍り付いてしまう。
「凍ってたまるか! クリムゾン・ナパーム!」
恭一は剣に炎を纏わせ、魔女に向かって振ると無数の火球となり、大爆発を起こした。
炎に弱い吹雪の魔女には、かなりの痛手だ。
続けて恭一は炎の剣で吹雪の魔女を貫き、三加も計算によって生まれた炎をぶつけた。
「ロングレンジ・ブラスター!」
そして、カタリナが超遠距離からレーザーを放ち、それが魔女に対する致命的な一撃となった。
すると、吹雪の魔女の周囲でみるみる気温が低下し、凍土の世界が出現した。
「これは……何!? 寒い……!」
まり恵はその寒さによって、力が出なくなる。
すると、ジュウげむがまり恵の前に現れた。
「どうやら、あの魔女が結界を強めたようだね。キミ達が負けたら、完全に凍っちゃうよ!」
「……そうだなっ!」
「アアアアァァァァァァァァ!!」
吹雪の魔女が泣き叫ぶと、結界全土に鋭利な氷柱の海が生まれ、まり恵とカタリナに襲い掛かる。
冷気をまともに食らった二人は見る見るうちに凍り付いていく。
「まり恵! カタリナ!」
「うぅぅぅぅぅ……」
まり恵とカタリナの身体が氷に覆われる。
恭一は剣で氷を叩こうとしたが、氷ごと二人を巻き込んでしまう可能性もある。
どうすればいいか、と考えていた時だった。
突然、まり恵とカタリナの氷が解けた。
誰が解かしたのかと恭一が振り向くと、三加が本を開いていた。
「氷を解かす方法を考えていました。私の計算通り」
「……ありがとう、長根先輩! よし、いくぞ!」
「ええ!」
まり恵は震えながらもハンマーを握り締め、吹雪の魔女の頭目掛けて振り下ろす。
カタリナは吹雪の魔女の急所を矢で怯ませる。
「とどめだ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、恭一が高く飛び上がり、吹雪の魔女を炎を纏った剣で真っ二つにした。
魔女は炎に包まれながら悶え苦しみ、身体も分かれたため苦しみはさらに増した。
炎が完全に消えると、吹雪の魔女は白い光になって消滅し、同時に結界も消えた。
「ふぅ……終わった、な」
「そうね」
戦いが終わり、恭一の剣が光になり、魔法少女達の変身も解ける。
奈穂子も、恭一の下に駆け寄り、彼に「ありがとう」とお礼を言った。
「元気だったか、奈穂子」
「恭一君、大変だったね」
「ああ……」
恭一はふぅ、と汗を拭う。
まり恵、三加、カタリナもかなり疲れていた。
魔女との戦いの激しさを物語っている。
しばらくすると、ジュウげむがやってきた。
「おめでとう、また一つ世界から災いが消えた」
「……」
「今回、キミ達が戦った災いは、スペイン風邪だよ。第一次世界大戦中に流行った疫病さ」
新型コロナウイルスに続き、また一つ、パンデミックが無かった事になった。
それは嬉しい事かもしれないが、恭一はその事を疑問に思い、ジュウげむに質問した。
「なぁ、新型コロナウイルスの時もそうだったが、どうして疫病まで無かった事にしなきゃいけないんだ?」
「疫病は人間を忖度しない。だから、魔法少女という存在が必要なんだ。ただ、そこにあるだけの、人間を苦しめる災いを払うためにね」
「人間人間って……お前は本当に人間の味方なのか? どう見てもそうは思えないんだが……」
「そんな事を言って、キミ達は魔女に勝ったじゃないか。結果オーライだよ。これ以上は何も言わないでよ」
「何も言うな、ってどういう……」
恭一がジュウげむに手を伸ばそうとした瞬間、ジュウげむは煙のようにその場から消えた。
「くそっ、また逃げやがって。ジュウげむの奴、どこまで俺達を馬鹿にするんだ」
「恭一君、ピリピリするのは分かるけど、今は日常が戻った事を喜ぼう」
「そ……そう、だな」
説明 | ||
厄災との戦いは、人間を守る戦いでもある。 だが、その裏には……。 |
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