空飛ぶ戦車ドクトリン 第六話 初めての同胞(トモダチ)中編 |
生き物は火を恐れる。
自然に発生する火というものは言わば災厄そのものだからだ。
だが生き物の中でも人間は火を好む。
それが文明に繋がるからだと言う者もいるが、それ以上に自分好みの厄災を放つ事が出来るからだと私は思っている。
火は人の業そのものなのだ。
あの星から降ってきた『彼ら』はきっと人類以上に火に憑りつかれている。
彼らは何せ、放った厄災を制御しようとも考えずただただ燃やすだけなのだから…誰であろうと自分であろうとお構いなしに嬉々として燃やすのだ。
星人(ほしびと)と呼んでいる今存在する魔術師の始祖ともいえる狂人どもは生きたまま燃やさなければならない。
そうやって燃やしてやらねば、この世界を燃やすのだから…。
『彼ら』はそういう悪しき存在なのだ。
ラバンでの邂逅から三日後、俺トロイ・リューグナーはブリニストの郊外にあるギュンター邸に足を運んでいた。
その場所は今起きてる戦場に一番近くに存在している。
「酔狂だねぇ…」
ここに来るまで二度ほど空に高速で動くものが見えた。
鳥ではないそれは"飛行機"、羽をはやした舟のような形をしていた。
「敵の最新鋭兵器が肉眼で見えるなんて怖いもんだよな、全く」
異世界と呼ぶべき世界の住人としてすっかりなじんだ俺は凡人の様な事を口にしていた。
目の前には大きな門とその向こうに見える庭…いや庭園と言うべきか、そして白く趣のある屋敷。
「まるで、別世界だなこれは…」
ここに来るまでもギュンターの自家用車なるもので来ており、そのお迎えの車にも驚き…ここ数日分は驚いたという感じだ。
そのまま車で豪邸の玄関まで行く。
「心の準備がまるでできていない…恐らくはこの大きな扉の向こうは大きいエントランスがあって、使用人がいっぱい並んでるんだろうなぁ…」
俺のそんな言葉に運転席の男が少し笑ったように思えた。
その笑いはその通りと思って笑ったのか?それともそんなの全然違うんだなぁって思って笑ったのか?俺には判別つかなかった。
ま、入ってみれば全て解ることだ。
俺はそう腹の中で決めると、車から降りて大きな扉開けることにした。
見た目と違いすんなり開いたな、と思いきや中から開けてくれたのだ。
金持ち特有の有人自動ドアだ。
ドアの向こうには別世界、使用人が列をなして俺を出迎えていた。
「ようこそお越しくださいました、トロイ・リューグナー様」
その言葉に俺は少し肝を抜いたが、列の奥に見知った顔を見て平静を取り戻す。
「よく来たな、さっそくで悪いがこっちだ」
俺の目の前まで来たギュンターは俺を引っ張り連れていく。
俺はてっきり仰々しい金持ち貴族特有の面倒くさい事に付き合わされるかと思ったがそんなことはなかった。
ギュンターは俺の手をつかむなり勢いよく引っ張っていく。
「お、おい!なんか知らんがいいのかお手伝いさんびっくりしていたぞ!」
「構うもんか、時間が惜しいのだわかるか!?」
その様な寸劇ともいえるやり取りをしてある一室まで連れていかれる。
「なんか、落ち着いてお茶でも飲めると思ってたんだがなぁ」
「お茶ぐらい後で出してやる!急げ!トロイ!!」
バン!と勢いよく扉を開き、鼻息荒く俺を案内した部屋には既に三名の人間が室内の円卓に座していた。
見慣れない人ばかりと思いかけえたがその中の一名だけ顔を知っている者がいた。
「ファウスト…少将閣下」
俺は思わず声が漏れてしまった。
知っている者の名は"ヨハン・ファウスト"フェルキア陸軍少将、軍人で言えば天上人で今の俺の階級から言ったら先ず口もきけないそんな上の人間だ。
「…閣下はよせ今は私服を着ている、軍の上下関係は関係ない。」
目を合わせることもなく物凄い塩対応をされた、が正直いって会話が出来ただけでも大したものだ。
そのほかの二人からも自己紹介を受けた。
一人は貴族で博士をとっている、名は"アリエン・ルドヴィング"この場にはいないが軍人に兄がいて名をアルヤンというらしい。
アルヤンにアリエンか漫才のような名前だな。
もう一人はこの中で唯一の女性でファウストとギュンターの幼馴染で名をエレーナ・プラシューマ快活な娘だ。
「こりゃどうも…」
貴族に対しての挨拶はよくわからないので、軽く会釈…それしかできなかった。
ギュンターに促され着席する。
「アル!いい加減この会の今回の議題を話せ、私は忙しいんだぞ」
二人が自己紹介を済ませた瞬間間髪入れずにヨハンがギュンターに問いかけた。
そういやアルフレッドがギュンターの名前だったな。
「せかすんじゃあない!!」
ヨハンの語気が強い問いに完全に怒鳴って返す、こいつらいつもこの調子か?
「トロイがお茶を飲みたがっているんだ!!お茶飲むぐらい待てないのか!」
「軍曹!貴様!!人様の家に来て貴族に給仕させる気か!」
まってなんで矛先が俺に向くの?
「あ…いえそういうわけでは…」
突然の事に少尉なのに軍曹と言われたことに対する訂正も何もできずにいると…。
「見損なったぞ!ヨハン!貴様さっきここでは軍の上下は関係ないといっただろ!」
やめてください、ギュンターさん…代弁という名の間接的殺人は…この人本当に偉い人なんですから…。
「きっとあれだろ、ギュンターが連れてきたという事はアレだ、例のアレだよ」
例のアレ?何のことだ?
「例の星人(ホシビト)ね」
ホシビト?何のことだだが…。
「…」
さっき迄キャンキャン吠えてたヨハンが黙り込んだ。
「…ここに一冊の手記がある、これは私が謁見がかなった人から託されたものだ」
そう前置き、ヨハンは一冊の手記を出した、そしてこう説明する。
この世にはこの世の摂理とは切り離されたものが存在するという事を。
その者はこことは違う世界を見てここに来たのだと。
更に語る、かつてこの世には多くの文明と多くの言語そして人種が存在したがそれも14世紀頃の事変によって多くが殺され、人類は一言語で統一できるほどまでその数を減らしたのだという。
その頃にも存在したのが先に述べたこの世の摂理から切り離された者、ホシビトだ。
彼らは当時の認識では考えられない方法や理論を用い問題に対処し解決したという。
それらは魔術とし秘匿された歴史を持っている。
そして今の世に生きる貴族は成金貴族の末裔か、そのホシビトの末裔のど知らかという事だそうだ。
「我々は魔術師であると同時に異世界人の末裔という事だよ、トロイ」
今までの浮ついたギュンターの顔が消え、目は少しも笑っていない。
確かにそうだが、俺自身そんな特殊能力を持ってるとは到底思えない。
迂闊な答えは控えたほうがよさそうだな…。
「そして数年前、ヴィージマと戦争になる前にこの手記の持ち主に拝謁できてねそして今の話をしたら託されたんだ…」
ギュンターはそう言うと手記を手に持ち俺に見せつけてくる。
「まぁ、私の感ではあるんだが、いやもし君がそうならこの手記の中身が読めるんじゃないかと思ってね?」
どうも、その異世界人の言葉は読めないようだ。
「弱ったな、この空気読めなきゃ殺されるといった感じかな?こりゃ」
「そうだよ」
あれ?冗談を飛ばしたらマジレスが返って来たぞ。
「一応漏れると困るからな、うちは…まぁ私の見立て通り読めたらいい訳だ」
…たまげたなぁ、そう思い俺はシンとした部屋の中でその手記を手に取った。
「これを書いたのは、貴族以上の人間という事かな?」
思った言葉がつい口に出た、失言ととらえても鎌をかけたととらえてもどちらでもいいがリアクションとしては…。
「…」
皆沈黙を守っていた。
そのリアクションに俺は胸が高鳴った。
静かすぎて周りに聞こえそうなほどに、そりゃそうだもしこの手記が本物なら、"アイツ"の近況がわかるんだ嬉しいことはない。
手記をめくる、最初に書かれていた言葉は…
"これをお前に読まれている事を願って"
説明 | ||
えーと、以前書いてた話では国境戦争が終わった後によその国で手に入る相方の情報である手記なるものがあるんですが、それを手っ取り早く出すことになりました。 前に書いてた時はよその国が燃えてしまうまでの一週間という時間軸を舞台に殺人事件と共産主義者同盟が絡んだ陰謀話になってこんがらがって止まったという経緯があったので、そこをかっ飛ばして貴族が異世界転生した人の子孫という設定にし、異世界転生者をホシビトと呼称してなんかこうわかりやすくする努力を頑張ってみましたが、前後編で済ます予定が全中後編になってしまいました。 全く持ってよくない。 |
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