ある魔法少女の物語 16「真字駆夏祭り」
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 魔法少女を人間に戻す手段は無く、一度魔法少女になれば、死ぬまで魔女と戦う羽目になる。

 それを知った恭一は、絶望した。

 同時に、奈穂子を魔法少女にしたくないという気持ちがより一層強くなった。

 

「奈穂子、絶対に魔法少女になるんじゃないぞ。取り返しのつかない代償を払うからな」

 

 今日は日曜日なので、学校が休みである。

 そして、真字駆夏祭りの開催日でもある。

 恭一と奈穂子は浴衣に着替えて、夏祭りの会場に向かった。

「今年も無事に開催されてよかったね、恭一君」

「俺はたこ焼きと焼きそばが食えればいいがな」

「も〜、恭一君は花より団子だね」

「てへへへ……」

 

 夏祭りの会場は、たくさんの住民で賑わっていた。

 様々なキャラクターのお面を売る屋台には子供達、焼き魚を売る屋台には大人達がいた。

 この光景を見ただけで、恭一と奈穂子は微笑む。

 

「じゃ、まずはたこ焼きから食おうぜ」

「待ってよ、恭一君。お腹を空かせてからにしよう」

「そ、そうだな」

 

 恭一と奈穂子が向かった場所は射的の屋台だった。

 そこでは、カタリナが挑戦していた。

「……駄目だわ。全然当たらない。弓だったら当たるのに……」

 どうやら、カタリナは射的に苦戦しているようだ。

 銃の形をしていたので、カタリナには合わなかったらしい。

「あぁっ、当たらないっ!」

 最後の一発も標的には当たらず、結局、カタリナは参加賞の10円ガムを貰った。

「やあ、お疲れ様、カタリナ」

「そ、そこにいたんですね、恭一さん、奈穂子さん」

 カタリナは恭一に後ろから声を掛けられる。

「真字駆夏祭りは楽しいか?」

「楽しいですよ。はぁ……」

 カタリナは射的の事をまだ根に持っているようだ。

 そんな彼女を元気づけるために恭一が声をかける。

「うーん、じゃあ、別の場所に行こうか? 俺も、腹を減らしたいしな」

「……そうね」

「……」

 カタリナは不機嫌ながらも、恭一と奈穂子と共に別の屋台に向かうのだった。

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 屋台を一通り回った後、恭一の腹の虫がぐきゅるるる……と鳴る。

「あ、そろそろたこ焼き、食いに行きたいな〜」

「私も、ちょっと小腹が空いたしね。賛成」

「ええ、お願いします」

 

 恭一、奈穂子、カタリナの三人は食べ物を売っている屋台にやってきた。

「これください」

「はいよ」

 恭一はたこ焼き、奈穂子は鯛焼き、カタリナは林檎飴を購入した。

 人ごみの中で食べると落としてしまうので、周りに人がいないところで三人は買ったものを食べていく。

「美味い!」

「う〜ん、いい香りだね。これだけで美味しく感じちゃうよ」

「林檎飴が大きいですね」

 カタリナは大きな林檎飴を頑張って舐めている。

 奈穂子は夏祭りに参加している人達を見ていた。

「ここの人達、みんな、幸せそうだね。まるで、何事もなかったかのように。思い出は幸せなものだけでいいの?」

 一般人は魔法少女が魔女を倒した事で、起きた事が取り消された事に気づかない。

 まるで、元からそうであったように、記憶までも改変されてしまうのだ。

 彼女は、それが気になっているのだ。

「奈穂子、ぼーっとしてると鯛焼きが冷めるぜ」

「あ、そうだね!」

 恭一に言われた奈穂子は、すぐに鯛焼きを食べた。

「あ、こら! 慌てて食べるなよ!」

「分かってるよ!」

 

「ふー、食った食った」

「美味しかったね」

 食事を終えた三人は、次に何をしようか、屋台を歩き回っていた。

 相変わらず、楽しそうな声が聞こえてくる。

(この平和も、仮初のものなのかな……。誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて……)

「奈穂子、何考え事してるんだ? 夏祭りを楽しもうぜ!」

「あ、う、うん!」

(……なんだか様子がおかしいぞ、奈穂子)

 恭一は奈穂子がぼーっとしているのに気づいたが、あえて彼女にはそれを伝えなかった。

 三人が歩いていると、音楽が聞こえてくる。

 音が少し劣化しているので、ラジカセから聞こえているのだろう。

「お、盆踊りが始まってるみたいだぞ」

「真字駆夏祭りの一番の楽しみだからね」

 恭一達は早速みんなの輪の中に入り、音楽に合わせて盆踊りを踊る。

 その中には、三加とカタリナも入っていた。

 恭一は踊りが苦手なので、適当な身振りをして、周囲にいる人達に何とか合わせた。

 太鼓の大きな音色が、真字駆市内に響き渡る。

 音楽にも見入りながら、恭一達は楽しく盆踊りを踊っていた。

 

 その時……。

 

「きゃぁーっ!」

 突然、盆踊り会場で悲鳴が聞こえてきた。

「な、なんだ!?」

 恭一達が悲鳴の聞こえた方に駆け付けると、なんと、上半身がずぶ濡れの女性、下半身が蛸の触手の異形が、盆踊りを踊っていた人達を襲っていた。

「な、何故こんな化け物が来たんだ!?」

「盆踊りは中止よ! みんな、逃げて! きゃあああああああああああ!!」

 女性がみんなを避難させようとするが、触手が伸びて女性を捕らえる。

 そして、異形は女性を食べようとした。

 間違いなく、夏祭り会場を襲撃したのは魔女だ。

「みんな、魔女を倒すぞ! 奈穂子はみんなを避難させろ!」

「……うん!」

 恭一は光の剣を呼び出して手に取り、まり恵、三加、カタリナは魔法少女に変身した。

 そして、四人は魔女との戦いに挑んだ。

 だが、何故かそこにジュウげむの姿はなかった。

説明
平和な夏祭り、そのはずが……。
過去改変は本当に良い事なのでしょうか?
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