ある魔法少女の物語 20「ジュウげむを追って」 |
恭一達はさらわれた奈穂子を助けるため、ジュウげむを追いかけた。
「ここの中だな」
「ジュウげむは地底に行ったらしいから……」
恭一、まり恵、三加、カタリナは、町の中央にある大きなマンホールを見る。
ジュウげむはここに逃げ込んだと言った。
恐らく、ジュウげむは誰かの願いを叶えて地球空洞説を現実にしたのだろう。
「奈穂子、待ってろよ。お前は絶対に、俺達が助けてやるからな!」
「無事でいてくださいね!」
四人は、ジュウげむが奈穂子と共に逃げ込んだマンホールの中に入った。
「ここは……?」
マンホールの中に入ると、周りは岩だらけだ。
どこかの洞窟の中だろうか。
暗くジメジメしていて、光がないと辺りがまともに見えない。
「懐中電灯、持ってきたか?」
「はい、持ってきましたよ」
三加が鞄から懐中電灯を取り出し、それを使って洞窟を照らした。
「きゃっ!?」
その時、まり恵が何かを見て、転びそうになった。
「こいつは……使い魔か? でも……」
恭一が確認してみると、それは二体の人間型の使い魔だった。
周りに魔女がいないのに、何故使い魔がいるのか、恭一は疑問に思った。
しかし、使い魔は考える暇を与えず、恭一達に襲い掛かってきた。
「くそっ、問答無用か!」
「変身するわよ!」
まり恵、三加、カタリナは魔法少女に変身し、恭一は虚空から光の剣を取り出して構えた。
「スイーピング・ブロウ!」
「アクセルウィンド!」
だが、所詮は使い魔なので、まり恵のハンマーとカタリナの弓の前には一撃で倒された。
さらに四人が歩いていくと、長い一方通行に出た。
「随分と長い通路ですね……」
「しかも、一方通行ですし……」
四人が通路を歩いていくと、突然、まり恵の身体がぐらりと揺れた。
「う……」
「もしかして、また、魔法少女の後遺症が?」
「だとしたら……」
三加とカタリナが呆然としていると、まり恵はその場に倒れた。
「まり恵! 目を覚ますんだ、まり恵!!」
恭一はまり恵に声をかけるが、案の定、まり恵は全く反応しなかった。
「……ここは……?」
気が付くと、まり恵は一面が白い空間の中にいた。
「あたしは……何を見ているの……?」
まり恵が辺りを見渡していると、白一面の世界に、少しずつ色がついていく。
そこは病院であり、見ると、まり恵が床に臥せている母親を見ていた。
「あれは、あたし!?」
まり恵は病院にいるまり恵に触ろうとするが、彼女の手はすり抜けて触れなかった。
『お母さん!!』
『まり恵……私はもう、長くは生きられないかもしれないわ……』
『ねえ、お母さんは助かるの!?』
病は予想以上に母親を蝕むスピードが速かった。
まり恵は助からないのか、と医者に聞いたが、医者は暗い表情で首を横に振った。
『残念ながら……』
『そんな……!』
心電図も、徐々に音が弱まっていく。
母親を失いたくない、だがまり恵にはどうする事もできない。
その時――
『どうしても、というのであれば』
まり恵の目の前に、白い身体と赤と青のオッドアイを持つ謎の生命体が現れた。
彼女以外に姿は見えず、傍から見ると、ベッドが少し膨らんでいるとしか見えない。
まり恵は藁にも縋る思いで、謎の生命体にこう言った。
『医者が手を尽くしても、あたしのお母さんの病気は治らないって。どうしても、お母さんを治したいの。お父さんはいないし、一人ぼっちはもう嫌。
ねえ、お願い、お母さんを治して!!』
謎の生命体は頷いて、笑みを浮かべた。
『キミの願いを叶えよう。その代わり、キミはボクと契約して、魔法少女になってもらう。契約しなかったら、キミは一人ぼっちになるよ』
『うん……あたし、魔法少女になる……!』
まり恵は謎の生命体と契約すると宣言した。
病に倒れた母親を助けるために、彼女は魔法少女になる決意をしたのだ。
『契約は成立した。キミは今日から、魔法少女だ!』
「待って……!」
まり恵が手を伸ばした瞬間、再び周りが白い光に包まれた。
気が付くと、まり恵は洞窟に戻っていた。
「あれは何だったの? あたしに何を見せたの?」
恐らく、あれはまり恵の過去の映像だ。
まり恵が触る事ができなかったのも、この映像が幻影だからだろう。
「あれは……お前の過去なんだ。お前が魔法少女になった理由なんだ」
「恭一……そういう事だったのね。あたしは、弱かったから契約してしまった。
お母さんの病気は治ったけれど、代わりにあたしが魔女と戦わざるを得なくなった。感覚をなくすし、死ぬ可能性もあるのに」
『ほらね。言った通りだろう? 人は弱いんだ。誰かに頼らないと生きていけないほどにね』
恭一達の頭の中に、ジュウげむの声が聞こえる。
だが、恭一は首を横に振った。
「人の弱さは認めるがそれに漬け込む奴は認めねぇ。弱さを受け入れ、前に進むのが人だからな」
『なるほど、それがキミの考えなのか。でも、それだけで奈穂子は返さないよ』
「分かっております」
そう簡単に、奈穂子を返すつもりはないようだ。
「おっと、使い魔だな! 俺から離れるなよ!」
「ええ!」
魔女の使い魔を退け、先に進むと、突然、三加が頭を押さえて蹲った。
「頭が……痛い……!」
「三加!?」
「また、あたしと同じ目に遭うの? 抵抗して!」
「はい……! うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
まり恵に言われた三加は、倒れないように必死で抵抗した。
しかし、頭痛はますます激しくなっていった。
三加はこれに耐える事ができず、倒れてしまう。
「やっぱり駄目だったか……」
「魔法少女である限り、逃れられないのね……」
「……」
気が付くと、三加は一面が白い空間の中にいた。
周りには、誰もいない。
「皆さんの姿は、どこに……?」
三加が辺りを見渡すと、白い空間に色がつく。
それは、母親が役所に離婚届を出す光景だった。
母親の背中を追っているのは、三加。
『お願いです、母上。どうか離婚はおやめください』
『あなたの気持ちは分かるけど、あの方とはどうしても別れたかった。ごめんなさい、三加。どうか許してね』
『嫌だ……おやめください! 私は、私は……!』
三加の制止も空しく、離婚届は認められ、彼女の両親は正式に離婚した。
そして、三加の母親はシングルマザーになり、以後、女手一つで三加を育てる事になった。
『うっ……ううっ……』
役所の外で、三加は泣いていた。
いつも落ち着いている三加だったが、溢れ出る感情は抑えられなかった。
もし、両親の馬が合っていれば、離婚する事はなかったはずなのに……。
『……どうしたんだい?』
その時、三加の目の前に、白い謎の生物が現れた。
『あなたは……誰?』
『ボクの名はジュウげむ。願いを叶える者。キミは両親が離婚するのを望んでいなかった?』
『もちろんです。父上と母上の離婚は、私にとってあってはならないもの。だから、それを取り消してほしいのです』
三加は、両親が離婚したという事実を受け入れられなかった。
その事をジュウげむについて話すと、ジュウげむは頷いた。
『分かった、キミの願いを叶えよう。ボクと契約するのならね』
『……ええ。私の願いは、父上と母上が離婚するのを取り消す事……!』
『契約は成立した。キミは今日から、魔法少女だ!』
ジュウげむがそう言った瞬間、再び周りが白い光に包まれた。
気が付くと、三加は洞窟に戻っていた。
「これは……私の過去の記憶!? よくも……!」
三加は、過去を覗かれた事に対し、静かに怒った。
だが、当然周りは誰も答えない。
『決めた通りの道筋を進んでいれば、こんな事にはならなかったのに』
再び恭一達の頭の中にジュウげむの声が聞こえる。
今の三加の気持ちを、全く無視していた。
「私の歩んできた道を否定するというのですか?」
『ああ、そうさ。キミ達、人は未熟だからね』
「確かに、人は正しい道を選ぶとは限らない。でも、どんな過ちも後悔も、生きた証なんだ。
誰かに道を決められる事、それこそが未熟な証じゃないか?」
誰かに決められた道は、自分で選んだ道ではない。
恭一は、至極当然の事をジュウげむに言った。
『本当にキミはどこまでも人を信じるんだね。愚かなまでに、キミは真っ直ぐだよ』
すると、ジュウげむの声が聞こえなくなった。
「どこまでも俺達を子供扱いするみたいだが、俺達はもう子供じゃねーんだよ」
「誰かに言われなくても、自分で道は切り開く。それこそが人の強さだから!」
「奇麗事かもしれねーが、そうでもしないとこの世界を元に戻せねーからな」
四人は洞窟を慎重に歩いていく。
使い魔の姿もジュウげむの姿もなく、ここにいるのは恭一達だけだった。
周りを見渡しながら歩いていくと、洞窟の中からジュウげむの声が聞こえてきた。
『キミ達は、どうしてもこの世界に災いをもたらしたいんだね?』
「お前にとってはそうだろうな」
『でも、キミ達が魔女を倒して、過去を変えてくれなかったら、東京オリンピックを含めた多くのイベントは2020年に開催されなかった。
みんなが楽しむイベントがつつがなく開催されたのも、魔法少女が災いを消し去ったおかげなんだ。
だから、世界は魔法少女と、それを生み出すボクを必要としているんだよ』
ジュウげむは四人の歩みを止めようとするが、恭一は真剣な表情で、首を横に振った。
「幸せを犠牲にして時間を戻しても意味なんてない。お前は、根本的に間違ってるぜ」
『ふうん……そうなんだ。過去を変えちゃえばみんな幸せになるのにね』
ジュウげむは哀れむように、蔑むように言った。
だが、ここで歩みを止めるわけにはいかない。
四人はジュウげむの誘惑を振り切りながら、さらに洞窟の奥へ進んでいく。
「ジュウげむと、奈穂子さんはどこに……」
「……」
カタリナは緊張のあまり、手が震えていた。
奈穂子を助けると決めたが、恐怖を感じている。
さらに、カタリナに追い打ちをかけるように、彼女を強烈な頭痛が襲う。
「うっ……!」
「……!」
「魔法少女である限り、逃れられない……。ごめんなさい、ルーナ……」
ルーナがカタリナを心配して駆け寄る。
そしてそのまま、カタリナは倒れた。
「……」
気が付くと、カタリナは廃墟の中にいた。
東日本大震災が起きた、あの町の光景そのものだ。
「また、私を惑わすつもりなの!? これが夢なら、覚めてよ!!」
カタリナは叫ぶが、光景は何も変わらない。
すると、カタリナの周りに、棒を持った人が群がってきた。
人々の表情は、怒りに満ちていた。
『地震の元凶はお前だな』
『お前が津波を起こしたんだな』
『覚悟しろ!!』
「きゃぁぁぁっ!!」
これは幻影の世界であるため、人々は実体を持たず、棒もすり抜ける。
だが、カタリナは恐怖のあまり、ただ逃げる事しかできなかった。
その時、謎の生命体がカタリナの前に姿を現した。
『ボクと契約して、魔法少女になるんだ。東日本大震災を無かった事にするんだ』
謎の生命体は苦しみを取り除くために、カタリナと契約しようとした。
しかし、カタリナは首を横に振った。
「嫌よ! 私は、災害を取り消したくない! 災害があったから、人は教訓を得たんだから! その教訓は、取り消したくない!!」
カタリナは魔女になったのをきっかけに、二度と災害から目を背けたくないと誓った。
彼女はもう、魔女になるほど心は弱くないのだ。
そして、辺りが白い光に包まれる。
気が付くと、カタリナは洞窟に戻っていた。
『……よく自力であそこから出られたね』
カタリナが自力で幻影を打ち破った事に、ジュウげむは驚いた。
「人は諦めない限り、災いは必ず乗り越えられるし、これからも諦めずに災いに立ち向かっていく。魔法少女に頼るのは、諦める事を選んだ証だ」
『キミ達はそうだけど、他の人達はそう望んだよ』
「いいえ、忘れているだけよ。こんな嘘の幸せが間違ってるという事を、そしてあるべき歴史こそが本当の幸せだという事を」
「だから、俺達はお前を、必ず止める! そして、本当の幸せを取り戻す!!」
そして、恭一達は地底の奥へと走り出す。
さらわれた奈穂子を助け、ジュウげむの野望を阻止するために。
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ラストダンジョン回です。 ジュウげむの野望を阻止するために、恭一達は地底に向かいます。 |
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