真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 80
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 日も落ちてきて夕方。俺は玉座の間で馬騰を待っていた。隣には馬超と馬岱が槍を持ったまま立っている。

 

「ところで、お前さんたちは白装束についてどこまで覚えているんだ」

 

 ただ待っているのも暇なので声をかけがてら質問をしてみる。

 

「それは馬騰に聞いてくれ。私は答えられないよ」

「そうかい」

 

 やはりまだ警戒しているか。仕方ないといえば仕方ないが。と、思っていたところへ声が玉座の間に響き渡る。

 

「馬騰様、おなーりー」

 

 その一声で馬超は槍を床に置いて傅く。俺もそれに習い、同じような姿勢になる。

 

「頭をあげな」

 

 言われて俺は顔をあげて馬騰の顔を見る。

 

「……やっぱりあの時の坊主だね。久しぶりじゃないか」

「馬騰殿もお代わりない様で」

 

 とは言ったものの、馬騰と会ったのはほんの少しで、連合軍の天幕で軽くあいさつした程度だ。まぁ、短髪の快活そうな人だなぁと思ったぐらいで。

 

「で、報告を聞いたんだが下っ手な嘘ついたんだって?」

「……申し訳ない。人にあまり話せる目的ではなかったので」

 

 そう言うと馬騰は豪快な声で笑った。

 

「あっはっはっはっ! 今のアンタがバレないように動くにはちぃとばかり無理があるだろうさ! ええ? 黒の御使い殿」

「通り名と言うのを甘く見ておりました」

「だろうねぇ。次があるなら気をつけな」

 

 その言葉に空気がぴりついたのを感じた。どうやら本題はここかららしい。

 

「さぁて、本題へ行こうか。先に言っておくが返答次第じゃああんたを戦の道具にさせてもらうよ」

 

(まぁ、そりゃあそうなるか)

 

 何せ“天からの御使い”の一人なのだ(実際には護衛なのだが)。煮ても焼いてもうまかろう。だが、俺自身はあまり心配していなかった。

 

(……まぁ、逃げるだけならどうにかなる)

 

 武器はすべて取り上げられたものの、素手でも城から逃げおおせることはさして難しくない。まぁ、少なくとも馬超と馬騰の二人をどうにかできれば、だが。

 

(まぁ、それはあくまで最終手段だな。協力を得られる可能性もある)

 

 兎にも角にもまずは質問に答えることだ。俺は質問に答えるための心構えをする。

 

「さて、じゃあまず最初の質問だ。あんた、白尽くめの服を着た奴らの事を覚えてるってのは本当かい?」

「ええ」

「そいつは何でだい?」

「よくは分かっておりません。推測はしましたが結局は推測のままです」

「なるほどね。なんだってあんたがそいつらを追っている?」

 

 その問いに一瞬答えるか迷うが、それを振り払って俺は返答する。

 

「昔、奴らに全てを奪われたのです」

「……全てかい?」

「ええ。一つ残らず」

「……そうかい。ちょいと悪いことを聞いちまったかね?」

「いえ。そうでも」

 

 そう答えた俺の目を見た馬騰は軽く頷いた。

 

「どうやら、乗り越えてはいるみたいだね」

「仲間に恵まれたもので」

「……そうかい」

 

 と、そこでさっきまでのぴりついた空気が和らいだ。

 

「さて、それじゃあこいつが最後の質問だ。お前はあいつらのなんだ?」

「敵です」

 

 俺の短く明確な返事を聞いて、彼女は大きく頷いた。

 

「あい、分かった。お前さんは少なくともあたしらの敵じゃないってことだな」

「ご理解のほど、感謝いたします」

 

 俺はその場で一礼した。

 

「礼を言うこっちゃないさ。で、あんたもあたしに聞きたいことがあるんじゃないかい?」

 

 馬騰からの言葉に今度は俺が頷いて質問を投げかける。

 

「馬騰殿は“炎の鶯”という言葉に聞き覚えがございませぬか?」

「炎の鶯? まぁ、あたしの真名はそう書くがね」

「……は?」

 

 思わぬことに俺は唖然とする。

 

「今、なんと?」

「だから、あたしの真名がそう書くのさ。炎の鶯ってな」

 

 まさか、奴らの狙いは……

 

「……馬騰殿、申し上げたいことがございます」

「何だい改まって?」

「……奴らがこの涼州に現れた目的について自分の考えを申し上げたいのです」

「……聞こうか」

 

 そこで俺は小町から聞いた話と今の事実から導き出された俺の“答え”を口にした。

 

「奴らの目的は、馬騰殿。貴殿の魂です」

「なっ!?」

「うそっ!」

 

 両隣にいた二人は驚きの言葉を漏らすのに対し、当の本人は黙ったままだ。

 

「………………」

「馬騰殿?」

「………………そんな気はしてたんだがね。改めて言われるとちょいと腹立たしいものがあるね」

 

 その言葉には明らかな怒りの色が見えた。

 

「正々堂々と命を狙えない臆病者にこの国を惑わされるなんざたまったもんじゃない」

 

 そう言うと彼女はその場にいた二人に命令を飛ばす。

 

「馬超っ! 馬岱っ! 今までは様子を見ていたが目的が分かった以上、加減する必要はないっ! 見つけ次第血祭りに上げよっ!」

「“御意っ!”」

「このことを兵全員に伝えよっ! 忘れる前に頭の中に叩き込みなっ!」

「“はっ!”」

 

 指示を受けた二人は立ち上がり、その場を駆け足で後にした。

 

「さて、あんたのおかげであたしたちは一歩進んだわけだが、その礼をさせてくれないか?」

「……であれば、お願いしたいことがございます」

「何だい?」

「一時、ここで共に戦わせていただくことはできませぬか?」

 

 俺の願いに彼女は目を丸くして驚く。

 

「そりゃあ、こっちとしては願ったり叶ったりだが……」

「では、聞いていただけるのですね?」

「……それだと礼にならんだろうに」

「では、こうしましょう。互いに白装束の情報を隠さずに交換するという事で」

「……それも微妙だね。私たちにしか益がないだろうに」

 

 むぅ、正直それでもかまわないんだが。

 

「いえ、情報が集められるのは私にとって大きな利益ですよ」

「しかし、あたしの気がすまん。ふむ」

 

 そう言って彼女は少し悩んだ末に答えを出した。

 

「よし、じゃああたしの真名を預けよう」

「いえ、礼などぉおおおおおおおおおお?!」

 

 今なんておっしゃいました!?

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「何だい。こんなおばさんの真名はいらんってか?」

「いえ、そういう訳でなくっ! 真名に値するような情報では」

「おいおい、その価値はあんたが決めることじゃないね。その情報が金に値するか、それとも路傍の小石にも劣るかは聞いた者が決められるもんさ」

 

 それは確かにそうだが……

 

「ましてやアンタはあたしたちと共に戦ってくれるんだろう? それならこのくらいの価値はあるさね」

 

 俺は、それでも何か言葉を返そうと思うが、その言葉を飲み込んだ。真名を預けるという覚悟を決めた人に対してこれ以上は失礼になると考えたからだ。

 

「……では、馬騰殿の真名、しかとお預かりいたします」

「おうっ! 姓は馬、名は騰、字は寿成。 真名は炎鶯(えんおう)だ」

「炎鶯殿、確かにお預かりいたしました。では、改めまして私の名は御剣玄輝。玄輝とお呼びくだされ」

「そうかい。なら、これからよろしく頼むぜ、玄輝っ!」

 

 そう言ってまた豪快に笑う馬騰、改め炎鶯。俺はその笑い声を聞いてなぜか懐かしい気持になる。

 

「ん? どうしたい? あたしの顔に何かついてるか?」

「いえ、失礼しました」

 

 思わず見てしまったのだろう。俺は失礼を素直に詫びて頭を下げる。

 

「そうかい。じゃあとりあえず部屋を用意させる。誰かある!」

 

 炎鶯はそう言って兵を呼びつけて部屋を準備させるように指示をする。

 

「じゃあ部屋の準備が終わり次第、呼ぶからそこら辺をうろついて待っててくれ」

「よろしいのですか?」

 

 城の中をうろつかせるのは色々と危険なのでは、と思って思わず言ってしまったがそれを彼女は笑い飛ばす。

 

「アッハッハッハ! これから一緒に戦う仲間さね! そもそもお前さんはそんな狡いことはせんだろう?」

「……いやはや、炎鶯殿の慧眼にはかないませんね」

「褒めても部屋はよくならんよ?」

「そうなるのでしたら今の五倍はお褒め致しますよ」

「アッハッハッハ! 言うねぇ!」

 

 と、そんなところへ馬超が戻ってきた。

 

「おうっ! 伝令はできたか?」

「ああ、滞りなく」

「そうかい。と、一応言っておこうか。俺の真名をこいつに預けてあるからな。間違えて刺すなよ」

「……………えぇええええええええええ!!!」

 

 その発言に思った以上の反応を示す馬超。

 

「しょ、正気かよ母上!? 今日会ったばかりなんだぜ!?」

「つってもなぁ。一緒に戦ってくれるし、白尽くめの奴の情報も交換してくれるってんだからそのぐらいでもしなきゃ割に合わんだろうさ」

「だとしてもって、今、何て言った? 一緒に戦う?」

「ああ。しばらくあたしたちと戦ってくれるそうだ」

「はぁあああああああああああ!?!?!」

 

 ……さすがにそこまで驚かれると心外なんだが。

 

「いくら何でも信用しすぎだろう!? もしかしてアイツらの仲間かもしれないんだぜ!?」

「それはない」

「断言かよっ!」

「翠、あんたあたしの目が曇ったって言いたいのかい?」

「ああ! 今回ばかりはそう言いたいね!」

「ほぉ、いい度胸じゃないか! なら庭に行きなっ! 久々に遊んでやるっ!」

「よぉし、ならその目を覚ましてやる!」

 

 そう言って炎鶯は玉座の裏から槍を取り出し馬超を連れて部屋を出ていった。

 

「……付いて行ってもよいものか」

 

 なんか、家族の問題っぽいし下手に見物に行くのもな、と思い呟いたのだが、

 

「別にいいんじゃない? おば様とお姉様のいつものやり取りだし」

「うぉ!?」

 

 いつ戻ってきたのか、馬岱が俺の近くに立っていた。

 

「……いつの間に」

「えーと、お姉様が真名を預けたことに驚いた辺りから?」

「……ほとんど最初からいたんじゃないか」

「まぁね」

 

 そう言ってから彼女は俺の周りをうろうろと品定めするように歩き回る。

 

「……何か?」

「ん〜、おば様がなんで信用する気になったのかなぁって」

「それに関しては俺も分からん」

「……ふ〜ん」

 

 と、彼女が呟いたところで轟音が響き渡った。音の感じからして炎鶯と馬超が戦いを始めたのだろう。

 

「ねぇねぇ、一緒に見に行こうよ!」

「まぁ、お前さんがよければ」

「もちろんっ!」

 

 そして俺は馬岱に手を引かれ戦いの場である庭まで連れて行ってもらった。その間も轟音は響き続けるが、その場に来るとその音は祭りの花火と間違うほどの音になる。

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「おぉりゃああああああああああああああ!!!」

「はぁああああああああああああああああ!!!」

 

 互いに声を出しながらの一撃。辺りの空気を震わせながらぶつかる槍と槍。だが、絶妙な力加減で凄まじい音を出しているにもかかわらず、互いに折れることは無かった。

 

「おりゃああ!!!」

「はんっ! あまいわぁあ!」

「ぐっ、がぁ!」

 

 しかし、決着はそこで付いてしまった。馬超が突き出した槍に添わせるように炎鶯が自身の槍を突き出し、タイミングよく槍を回転させることで矛先を使い馬超の槍を弾き飛ばし、一気に詰め寄ってその頭を掴んで地面に叩きつけたのだ。

 

「ふん。前から言ってるだろう。お前の槍は素直すぎる。もうちょいと工夫せい! 工夫っ!」

「……くっそっ!」

 

 馬超は寝転がったまま地面を拳で叩く。

 

「さて、馬岱!」

「なぁにおば様?」

「お前は異論はあるか?」

 

 その問いに馬岱は笑顔で答える。

 

「ないない♪ 私は最初から大丈夫そうな気がしたし」

「ふっ、お前のその嗅覚は見事だね」

「えへへ〜」

 

 褒められた馬岱は照れ臭そうに笑ってる。

 

「さて、見苦しいものを見せたね」

「いえ、短いものでしたが大変参考になりました」

「ほぉ。じゃあいっちょ手合わせしてみるかい?」

「それは」

 

 願ったり叶ったりだ。今の短い戦いでも炎鶯の腕がかなり立つのは見て取れた。もしかしたら恋に迫る腕を持ってるかもしれない。

 

「では、お手合わせ」

「待てっ!」

 

 と、待ったをかけたのはふらつきながら立ち上がった馬超だ。

 

「その前に私とだっ!」

「いや、そんなふらついていて」

 

 と、止めようとしたがその眼の色を見て考えを変えた。何せ、闘志が漲っているのが一目でわかったからだ。

 

「炎鶯殿、せっかくのお誘いですが……」

「いいさ。うちのバカ娘を相手にしてやってくれ」

 

 そう言って炎鶯はその場を俺に譲ってくれた。俺はさっきまで彼女が立っていた場所に立つ。

 

「ちょいと待ってな。今、馬岱にあんたの得物を取りに行かせる」

「え〜、他の人じゃダメ?」

「馬鹿言ってないでさっさと行く」

「はぁい。あの剣一本でいい?」

「ああ。それで構わない」

 

 俺の返答を聞いた馬岱は軽やかに走り出していった。その間に馬超と向き合う。

 

「……なんだよ」

「いや、ずいぶんと信用されていないなと思ってな」

「逆にお前が私だったら信用できるのかよ?」

「……それもそうだがな」

 

 そこでふと思う。北郷ならばうまくできたのだろうか、と。

 

(まぁ、そんなことを思ったところで何かが変わるわけじゃないが)

 

 いくら考えたって俺は北郷にはなれない。そう思うとなぜか笑みがこぼれる。

 

「……余裕の笑いってやつかよ?」

「いや、ただの自嘲だよ。気にしないでくれ」

 

 といったところで馬岱が心斬を持ってきてくれた。

 

「はい」

「すまんな」

 

 俺は刀を腰に差して抜刀の構えを取る。

 

「こちらはいつでも行けるぞ」

 

 そう言うと馬超も槍を構える。

 

「こっちもだ」

 

 互いが構えたのを確認してから、馬岱が真ん中に立つ。

 

「じゃあ、合図は私が出すね」

 

 馬岱はそう言うと右手を叩く上げ、

 

「はじめっ!」

 

 手を振り下ろした。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

いやはや、春らしくなってきましたが皆様いかがお過ごしでしょうか?

 

作者はついこの間まで大量の鼻水に襲われてました。

 

他の人からも「大丈夫?」と言われたり「花粉症?」と言われたりするレベルの鼻水で、とりあえず病院に行って薬をもらったら落ち着きました。

 

でも、正直「花粉症なのかな?」と思うことがありまして。

 

実は、野外より室内の方が症状がひどかったんですよ。普通逆じゃないの? と思ったのが一点。そして、もう一つは自分が座っているところがエアコンの風がもろに当たるところなのですが、その風を別の方向に向くようにしたら少し落ち着いたのですよ。

 

まぁ、兎にも角にも血液検査の結果次第ですな。ハロー花粉症! となるかはまた次の更新の時に。

 

では、今回はこの辺で。何か誤字脱字があればメッセージの方にお願いいたします。

 

それでは!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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