ある魔法少女の物語 エピローグ
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 こうして、フォルテュナは魔法少女になった奈穂子によって倒された。

 世界は、フォルテュナの支配から解放された。

 

「ありがとう……恭一君」

 魔法少女になった奈穂子の身体が徐々に透ける。

 同時に、恭一達の身体も同じように透けていた。

「こ、これは……!?」

「時空間の歪みが激しくなっています。どうやら、歴史が修復されるようですね」

「……どういう事!?」

「フォルテュナが消滅した事で、時の流れに関するあらゆる干渉が排除されつつあります。

 新型コロナウイルスの存在の消去も、魔法少女と魔女の誕生も。……そして、私達が今までしてきた事も、全てが、無かった事になります」

 戦いが終わり、歪んだ歴史は元に戻り、魔法少女や魔女は、存在しなかった事になる。

 つまり、恭一達の戦いも、幼馴染の存在も……最初から無かった事になる。

 もちろん、それに連動して恭一達の記憶は消え、今回の事も、お互いの事も忘れる。

「あたし達の出会いも、最初から無かった事になる。全てはあるがままの姿に戻るのよ」

 これまでの戦いも、出会いも、全て取り消される。

 最初から出会わなかった事になるのだからそれは当然だが、恭一はある確信があった。

「それでも、絆は消えない。俺達の絆が消える事は、絶対にない。俺は、そう信じる!」

 共に旅をしてきた事、共に世界の脅威と戦った事、そして共に世界を解放した事……。

 彼らの功績は決して無駄にはならない、恭一はそう信じているのだ。

「……非科学的ですね。ですが、そういうのも悪くはありません。人の思いを形にするのが科学ですからね」

 三加が笑みを浮かべると、彼女の身体が今にも消えようとしていた。

「どうやら、私が最初のようですね」

「長根先輩……!」

「貴重な体験をありがとうございました。恭一さん、あなたの真っ直ぐさに感動しました」

「長根先輩、今、俺の名前を……!」

「それでは、さようなら……!」

 最後に三加は恭一の名前を言い、恭一は驚く。

 そして、長根三加はこの洞窟から消滅した。

 

 三加が消えてしばらくすると、カタリナとルーナの身体が透けていく。

「次は、私達のようですね」

「カタリナ……ルーナ……!」

「あなたは魔法少女でなくても私達と対等に戦った。恭一さんほど、勇者に相応しい人間はいない」

「……」

「そして、またいつか、会えると信じます。だから、さよならは言いません。……約束です。また、会いましょう……!」

 カタリナとルーナは、この洞窟から消滅した。

 ルーナは言葉には出さなかったが、その様子は、どこか嬉しそうだった。

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 長根三加とカタリナの消滅後、次に身体が透けたのは、まり恵だった。

「あたしも消えるのね……。せっかくお母さんの病気を治したのに、こんな事は、救いになんて……」

「何後ろ向きな事言ってるんだよ、まり恵!

 お前は、幸せを手に入れたんだろ! 俺達と一緒になれるっていう幸せを! それなら、悔いはないだろ!」

 暗い表情のまり恵を、恭一が激励する。

 まり恵は、彼の澄んだ瞳をじっと見つめていた。

「そうね、あなたの言う通り、あたしは大きな幸せを手に入れた。

 だから、また新しい歴史が始まったとしても、この幸せは、決して忘れはしない。ありがとう、恭一、奈穂子」

「まり恵……」

「まり恵ちゃん……」

「あなた達とは、これでさよならよ。でも、あたしは絶対に、あなた達を忘れない!」

 安養寺まり恵の姿は、洞窟の中から消滅した。

 

「奈穂子……」

 そして、奈穂子の身体が強く透けていく。

「本当に、これでよかったのか? こんな終わり方でいいのか? 冗談じゃねぇよ! 俺は……俺は……!!」

 歴史を元通りにするという事は、つまり奈穂子の存在を消し去る事だった。

 恭一は、それが悲しくて悔しくてたまらなかった。

 だが奈穂子は、消えそうになりながらも、恭一を真っ直ぐに見つめてこう言った。

「大丈夫だよ、恭一君。言ったでしょ? 絆は決して消える事はない、って。

 だから、また私と恭一君は出会えるよ。幼い頃から仲が良い友達として、ね!」

「奈穂子……!」

 恭一は彼女の姿を見て、嬉し涙を零す。

 そして、涙が奈穂子の身体にかかると、彼女の姿は洞窟から完全に消えた。

 

 一人残された恭一の身体は、ますます透けていく。

 まり恵、三加、カタリナ、ルーナ、そして奈穂子は、もうこの時間軸には存在しない。

 恭一は胸に手を当てて、五人の思いを感じ取る。

「……まり恵、三加、カタリナ、ルーナ……。ありがとう、みんな……。未来は、ここから始まる。俺達【人】が、自分の力で未来を築き上げる。

 それが、どんなものかは分からないし、ご都合主義とはおさらばだけど……。お前との絆は、決して消えない。そうだろ? 柿原奈穂子――」

 

 そして、恭一の姿は、洞窟から完全に消滅した――

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 歴史改変が無くなった2020年がもう一度始まる。

 熊本地震の発生、新型コロナウイルスの蔓延など、無かった事になった災いが再び事実となった。

 真字駆高校はしばらくの間は休校になり、再開後も生徒同士の距離を開ける形になった。

 ただ、真字駆夏祭りは恭一達の懇願により、感染対策をして予定通りに開催された。

 魔女の襲撃も無く、恭一達は夏祭りを楽しんだ。

 

 魔法少女と魔女は世界から完全に消えた。

 だから、もう誰かが時空を捻じ曲げて、勝手に過去を変える事はできない。

 時間は常に、前に進むようになったのだ。

 

「これが新しい時代か」

「そうみたいだなー」

 若林恭一と沢村太志は、高校に通おうとしている。

 大きな災いが起こり、世界は変わってしまった。

 だが、恭一達は人間であり、世界を変えるほどの強大な力は無い。

 だから、今を一歩一歩生きていくのだ。

「……まり恵」

「もう母さんはいなくても、あたしは頑張れるわ。母さんが生きた証が、あたしを作ってるから」

 この時間軸では、まり恵の母親は病死している。

 だが、まり恵の表情は明るく、前向きだった。

 これも、世界の歪みが正された証だろう。

「世界は変わっちまったよなー。誰かさんが隠さなかったら、こんな事にはならなかったのに」

「でも、今更人を責めても何も変わらないわよ? あたし達で、できる事をやりましょう?」

「人の振り見て我が振り直せ、と言いますからね。危機は、憎しみでは解決できませんよ。……といっても、憎しみの原因をなくせばいいんですけどね」

 皆の考えが、少しずつ前向きになっていく。

 これも、恭一達が世界を変えたからだろう。

 

 カタリナこと片桐理奈は、歴史修復後の世界ではルーナを助けた後、大学生をやっていた。

 衛生環境が整っていたため、この真字駆大学のみ、世界で唯一新型コロナウイルスの影響を全く受けていない地となった。

 世界から魔法が消えたが、この地にのみ、魔法が残っているという証明である。

 

 とはいえ、感染者を招いては元も子もない。

 スタッフ達は徹底的に感染チェックをして、ここを希望の光とするべく守っていった。

「みんな元気かな。早く、特効薬ができるといいね。世界の自粛は、もう見たくないよ……」

 理奈は希望を信じて、講義を受けるのだった。

 

(災いを乗り越えるには、地道な努力を続ける事。簡単に一発逆転なんて、できない。だって、人間は小さい存在なんだから。

 だけど、だからこそ、地道な事を続けていけば、いつかきっと、災いは乗り越えられるよね……)

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 そして、恭一、まり恵、三加はというと……。

 

「……奈穂子……」

 高校に通う途中で、恭一は幼馴染の名前を呟いた。

 奈穂子が魔法少女になった事で彼女の存在は消え、人々からも彼女の存在は忘れられていった。

 彼女の存在は、世界から風化しようとしていた。

 だが、恭一だけは彼女の名前を憶えていた。

 絆が消える事はない――それを、証明していた。

「奈穂子、って、一体誰なんですか?」

「分からねぇけど、名前だけは知ってる気がする」

「それは、あなたの大切な人でしたか?」

「……多分、な。気のせいかな」

 奈穂子は、架空の人物かもしれない。

 同級生はそう思っていたが、何故か恭一だけは実在すると信じていた。

 まり恵と三加は頭を捻っていた。

「奈穂子……奈穂子ねぇ」

「いるような……いないような……」

「遅刻するぞ。早く、学校に行こう」

 そう言って、恭一が駆け出そうとすると――

 

「おはよう、恭一君!」

 ピンクの髪と青い瞳をした制服姿の少女が、恭一に笑顔で駆け寄ってきた。

 

 これは、ある魔法少女の願いから生まれた物語。

 

 人の心に宿る灯火を信じて戦った物語。

 

 神や大いなる力に頼らずとも、自分の力で幸せを手に入れる事ができると信じた人々の物語。

 

 これは、人が紡ぐ、人のための、人の物語。

 

 ある魔法少女の物語

 〜完〜

説明
世界から魔法と脅威が消えます。
ご都合主義との別れになりますが、僅かにご都合主義も残っており……。
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