鳥 ‐ とり ‐
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 ある日、家へまさに直撃という雷が落ちた。よくもまぁ生きていられたと思う。

 漫画とかなら雷に打たれた人が超能力を持ったりするんだろう。けど。

 

 その役は、ウチではなんでか鳥だった。

 名前はリヒ。緑と黄色の混じる羽毛を持った、食い意地のはったセキセイインコだ。

 何度か人の声をマネて喋っているのを見たが、その日リヒはあろうことか、

「寝癖がすげーな、おめぇ」

 などと、少し訛った喋り方で私に話しかけてきた。

 私は身を引いた反動で歯ブラシを思い切り口の中へ突っ込んでしまい、悶絶しながらリヒを見た。

「……歯茎から血ィ出てんぞ」

 鳥は鳥だったが、口調はまるで親戚のおじさんだった。

 

 

それから何日か鳥と会話する日々が続いた。傍から見れば変だろうが、会話が成り立っているのだからもっと変だ。

 ある日、仕事で失敗して落ち込んでいた私にリヒが言った。

「人生ヤなことと同じ数だけイイことがあるからな、そう落ち込むな。……言ってなかったが、オレぁ未来予知の力もちょっと頂いちまっててな。おめぇ、その内ちゃんとイイことあるから気ぃ落とすなや」

 イイこと?

 現状からは予想も出来ないが、私はなぜだかリヒの言葉を信じる気になっていた。

 

 

 喧嘩をした。

 興奮しながら電話した友人に、喧嘩の相手はインコなのだと言ったら、今度休みに旅行へ行こうなどと言われた。どういう意味だ。

 憤慨しながら出社して、わだかまりを抱えながらの帰宅。

 鳥が床に落ちていた。

 

「これがイイ……こと……?」

 

 口うるさくて、いらない事ばっかり言って、静かなのはご飯時だけだったリヒ。

 喋れなかった頃は頃で、請求するのはエサばかり。

 たまにテレビにツッコミを入れたり、

 実用性のない雑学を聞いてもないのに教えてくれたり、

 帰って来た時には律儀に「おかえり」と言ってくれたリヒ。

 あのうるさいのが居なくなったら、そりゃあ楽にはなるだろう。けれど、あいつが居る間はヒマだと感じたことはなかった。

 だから全然「イイこと」じゃない。

 喧嘩別れなんて最悪なプレゼントだ。

 

 

「リヒ」

 カゴを覗き込む私の呟きに、友人が「なに?」と聞いてきた。

 カゴの中に居るのは、緑と黄色のセキセイインコ。1980円。安い。あいつを我が家に招いた時も、こんな数字を目にしていた。

 前に飼っていた鳥に似ているのだと友人に説明する。

 インコが羽ばたく。

 そのさまは種族として似ているのではなく、その鳥自身がリヒに似ているのだと私に実感させた。

 この子を飼っても、あんな口調で喋ったりしないし、未来予知もしないだろうけれど…。

 私は手を伸ばした。

 そして言う。

 これがイイことなのね、と。

説明
四年ほど前に書いた創作ショートです。
この話の原形は雑誌の小説コーナーにハガキで送ったりもしました(笑)
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