艦隊 真・恋姫無双 157話目 《北郷 回想編 その22》 |
【 桂花 の件 】
? 南方海域 連合艦隊側 にて ?
『────ったく、バッカじゃない? 一刀が倒れた証拠も確認しないで、勝手に喜んだり落ち込んだり。 これだから千年経っても、相変わらず私の掌中で遊ばれるのよ』
その猫耳頭巾の少女……桂花から言われた言葉を、双方が吟味し反芻して納得するのには、些かならぬ時間が掛かった。
『北郷………ガ……』
『提督(司令官)が──』
『だから、そう言ってるのよ! アンタ達の頭は野菜か果物でも出来てるの? 馬鹿なの? 死ぬの? まったく察しが悪いったらありゃしないんだから………』
《生きているのか》と最後まで言わせないどころか、罵詈雑言を浴びせる桂花。
こちらの言いたい事を直ぐに返す理解力、顔形も美少女と言ってもいいだけに、性格は物凄く悪そうだと感じとったのは、敵味方合わせて一致した意見である。
『…………何者カハ……知ラヌガ……北郷ノ居場所ヲ……教エナサイ。 サモナクバ………』
『ふん、人に聞きたい事があれば普通に尋ねるなり、礼を尽くして歓待し最後に伏して請い願うものよ。 それが、己の力頼みの脅迫なんて。 もう、これだから脳筋は……』
『………ナラバ……示スマデ!!』
桂花からの毒舌に苛立ちを覚えた南方棲戦姫は、艤装の砲身を向け一発、威嚇射撃で放った。
無論、当てるつもりは無い。
大事な情報元なのだから、命を喪失させるの愚は冒す行為は慎むつもり。 されど、腕や足が吹き飛んでも仕方が無いとも考えていた。 素直に喋らない方が悪いのだと。
艦娘側も助けに向かいたいが、何分距離が遠い。
それに、いま砲撃を喰らえば、間違いないなく轟沈する者ばかり。 身命を賭して救うには、些か事情が判断できず、二の足を踏むことになった。
だが、そんな事情などお構い無しとばかりに、更に毒舌の鋭峰は続く。
『………ほっんと、脳筋は血の気が多くて相手取るには疲れるわ。 まるで、誰かさんのように───』
『誰がぁ! 脳筋だぁぁあああぁぁぁッ!!!』
だが、南方棲戦姫の凶弾は、桂花に当たる直前で阻まれることになった。 頭上より高速で振り落とされる閃光、そして桂花の言葉を遮り反論する謎の女性の大音声。
─────ドォゴォォオオォォォン!!
気付けば、巨大な大剣を上段から降り下げた、眼帯の女性により凶弾は海面下へ叩き込まれ、狙いを外された凶弾は遥か深い海底にて爆発、桂花達は事なきを得た。
眼帯の女性は《どうだぁ!》と言わんばかりに、豊満な胸を反らしつつ桂花へアピールするが、桂花からは送られるのは冷ややかな視線ばかり。
『お、おいっ! 私が桂花の危機を救ってやったのに、何で睨まれるんだ!? それに私は脳筋ではないッ! 華琳様から直々に《やればできる子》と認定して頂いたんだぞ!!』
『へえ〜、そんなに偉そうなこと言うのなら、成果を挙げてみなさいよ! 挙げていないのなら出来ないのと同じでしょう! それに、たった今! 力で解決したじゃない!』
『───ギック!?』
『…………どこが脳筋じゃないと言ってるのよ、春蘭?』
そんな漫才じみたやり取りしている二人に、先の攻撃を無効化された南方棲戦姫は、ならばと両手の艤装から突き出る砲塔を向け、再度の攻撃を仕掛けようとする。
『……………あ、危──アブッ!?』
『下手に動くな、阿武隈。 奴らは、私達の一挙一動で、私達や周囲の仲間を……蜂の巣にするつもりだ。 不満だろうが、ここは彼女達を信じて……』
『ムガァ、ムガムガムガァァァ〜! ムガムガムガムガムガ、ムガッ!!(だから、私の名前は瑞鶴だってばぁぁぁッ! 幾ら中の妖精さんが一緒でも、全然違うからッ!!)』
艦娘達は声を出して教えようとしたが、南方棲戦姫の配下達が自分達に艤装を展開したまま、包囲を狭ませてきたので注意喚起が出せない。
『…………語ラナイナラ……イイワ。 艦娘ト共ニ……沈ミナサイ……!』
『……………』
南方棲戦姫が北郷の抹殺を狙うのは、敵対する艦娘達が力を付けるのを恐れたため。 だが、北郷自身を狙うのが無理だと理解すると、その標的を艦娘達へ定めた。
艦娘の轟沈を目指すのは、深海棲艦の本能みたいな物でもあるが、副次的な目的として、艦娘を大切に労る北郷へ心理的ダメージを与える考えもある。
さすが、北郷を相手に様々な手を使い、今まで苦しめてきた深海棲艦。 一箭双雕(いっせんそうちょう)の考えで、致致命的な打撃を喰らわせるつもりであった。
『………小賢しいわね。 孫子に曰く《算多きは勝ち、算少なきは勝たず》と言う言葉を知らないの?』
『………ソンナ言葉ナド……知ラナイ。 モットモ……コノ現状デ……意味ガ無イワ……』
『じゃあ、教えてあげる。 口先だけの空論じゃなく、その身へ直に教え────ッ!?』
饒舌に語っていた桂花だが、ユラユラと漂う南方棲戦姫の全体像を捉えると、目からハイライトが消えた。 急に歯を噛みしめ、視線で射殺さんばかりに睨み付ける。
何時もは遠目で観察していたため、気付かなかったゆえに。
『か、一刀に対して行った……数々の破壊活動だけでも……赦し難いのに……』
『…………?』
南方棲戦姫の姿を知り、桂花の性格を熟知している者ならば、思わず納得する事態であろうか。
ある一点を食い入るように見つめた後、思いっきり目を開き瞳を凝らしつつ、身体全体が小刻みに揺れる。
そして、南方棲戦姫に視線を合わせると、強烈な殺気を放ちながら言い放った。
『その……無駄に揺れ動く駄肉を惜しげもなく晒し、尚且つ破廉恥極まりない肢体で、この貧乳党の党主を見貶す(みおとす)屈辱的行為…………絶対に許容なんてできないわッ!!』
『お、おい………』
『うっさいわね! 春蘭、アンタだって同類よ! 私達にとって、ただでさえ巨乳とは二律背反の関係! 今回は、一刀の関係があったから組んであげただけなんだから!!』
かの大陸より、一人の女性が身体の格差で悲嘆に暮れ、その嫉妬と憤怒により生じたという伝説を持つ組織。
───《 貧乳党 》
巨乳を憎み貧乳を尊ぶ、自分達を駆逐しようとする巨乳人を排除せんと企んでいる、貧尊巨卑の集団。
各国の主要人物は疎か、庶民レベルさえにも深く浸透していると言われ、巨乳人より受ける数多の自覚、無自覚の影響から、哀れな貧乳党員を救うべく昼夜を分かたず蠢いている。
既に千年の長き年月を経過したのにも関わらず、歴代党主や側近、活動履歴等は未だ不明。
その全容は……全く明らかにされていない。
その膨大な情報は全て闇のベールで覆われ、何人足りとも部外者達が知る術は無かったのだ。
───だが、唐突ながら口頭とはいえ一部が暴露された。
その価値を知る者が居れば、各国の情報員達が血眼になり、情報の信憑性を精査するため東奔西走する事になろう。
しかしながら、この内容は知る事できても、その価値を理解する者が居なかった為、再び深淵の中へ溶け込み、二度と世に現れる事態には……ならなかったのだ。
閑話休題。
『…………何ヲ……言ウカト……思エバ……クダラナイ』
『──────ッ!?』
吐き捨てるが如く言い放った南方棲戦姫の一言により、桂花は般若も斯くやと思われる怒りの形相で睨むが、当の本人は何処吹く風と聞き流す始末。
実際、南方棲戦姫は桂花の話が理解できなかった。
そもそも、意識が目覚め気がついた時は、既に南方棲戦姫であり、彼女に前の記憶などなく、艤装や戦闘の概念はあっても、身体を覆い隠す衣服を着用する羞恥心など無い。
ただ、南方棲戦姫から言わせれば、コレが動く度に揺れるから微細の制御に苦労している。 特に、砲撃する際は反動で揺れ、その揺れにより体躯が動き狙いが外れる事があった。
早い話が………邪魔、不便、余計な物。
そんな意味合いで、自分自身が備え持つ実った異物を軽く腕に乗せ持ち上げると、驚愕と憤怒、そして嫉妬が入り混じった桂花の視線が一段と強く突き刺さった。
だが、そんな視線を受けようが、その妬む理由が心底分からない南方棲戦姫は、無表情のまま漠然と冷たく突き放す。
こうして、価値観の相違は交わらず平行線を辿るのだが、話が進まない故、それはそれで置いておく。
と言うか、それよりも重要な事を南方棲戦姫は問う。
『…………北郷ノ………居場所ヲ………教エナサイ……』
『何だとぉ!? 誰が貴様如きに───』
『…………教エナケレバ………今度コソ……………』
南方棲戦姫は、我が身が持つ艤装を全展開させ、艤装に装備された砲塔を全て向け、佇む二人に最終通告を与えるのだった。
◆◇◆
【 道化 の件 】
? 深海棲艦側 南方棲戦姫視点 にて ?
多勢に無勢。
大海という地の理。
明らかに比重の片寄った力の均衡。
今の戦況を簡潔に説明すれば、どう足掻いても勝負にならないと、諸事情を知らぬ艦娘側ならば判断するだろうか。
これまでの経過を知らなければ、強大な火力を持つ私たち、深海棲艦の艦隊と───
『おい、何やら……人を小馬鹿にした目を向けられたぞ?』
『心配しなくても大丈夫よ。 何たって春蘭は、華琳様にも認められた魏随一の脳筋なんだから』
『そうかぁ、それなら大丈──って、それじゃあ私は大馬鹿ぁ………いや、華琳様が認めて下さるのなら異存は……いやいや、それでは私は……いやいやいや魏随一と言うのなら……』
────時代錯誤の武装しか準備していない軍人ども。
この状況で仮に一戦すれば、私達の勝利は明らかと讃えるだろう。 もし、勝敗を覆す作戦を尋ねても『絶対に無理』と、声高らかと断言されることも想像に難くなかった。
────これが、普通の状況であれば。
鷹揚な態度で接する私こと南方棲戦姫だが、実際は眼前で緊張感の欠片も感じさせずに騒ぐ二人を危険視し、万全の注意を払いつつ、攻撃のタイミングを窺っているところ。
そもそも私の戦力は、他のエリアに巣くう上位の深海棲艦達にも拮抗できるものだと、自負していたのに。
臆病風に吹かれたか、ここはとは別の海域を担当していた港湾棲姫が消えたの良いことに、残された麾下を取り込んだ。
人間ながら私達顔負けの貪欲と目先の利益に乗じ、味方を私へ贈呈してくれた三本木。 奴の貢献度に免じ、褒美とし私は奴を仲間にと、わざわざ取り込んでやった。
…………ついでに、三本木の趣味としていた本により、深海棲艦側に多大なる影響をも与えることとなったが……まあ、これはこれで、また良しと考えるべきなんだろうけど。
あと、三本橋達と共に訪れ、無様にも逃走した残りの艦娘達を深海棲艦化させれば、私の勢力が最大勢力になり、このまま邁進(まいしん)できれば、全ての深海棲艦を把握できる。
そうすれば、この腐りきった世界を………私は蹂躙し破壊することができる……その渇望が………叶うはずだった!!
『───どちらにしても、私は馬鹿にされているじゃないかぁ!?』
『今頃気付くなんて流石は脳筋。 でも、華琳様が言っていたのは本当よ。 それだけ春蘭に実績があり信認されている証拠じゃない。 別に羨ましくも何とも思わないけど……』
しかし、先の相次ぐ激戦中、訳のわからない軍勢から苛烈な攻撃を受け、多大に削られたせいだ!
そのお陰で私の勢力が半減する結果になり、長きに渡り目指していた渇望が……頓挫するはめになった!
目の前で雑談する………この小娘のせいで!!
だが、だがな! この戦いが始まる前に吉報がもたらされたのだ! それは正しく、この勝敗が決まると言える情報!
北郷一刀が乗船していた船底に潜んでいた、潜水カ級が聞いたという、共にしていた軍勢の将が語ったという言葉だ!
《 この世界から、私達の存在を消滅させること 》
この報告を聞いて、私は小躍りした!
憎き邪魔な軍勢が消滅、無力化、雲散霧消。 つまり、私達の邪魔をする輩など──居ない!
現に艦娘や北郷の側には見当たらず、最後の決起を挙げた。
満を持して戦いを挑んだかいあり、スムーズに事が運び、邪魔してきた艦娘を全て制圧した後に、憎き北郷へ恨みの一矢を放ち護衛もろとも消滅が出来た。
次いで、黒幕と称する小娘も現れるが、二人だけで何になる。 一人は危険な気配を漂わせるが、もう一人は貧弱過ぎて、砲撃一発で終わるだろう。
現に、私の砲撃を逸らしたのが証拠。
北郷が生存しているなど、安い挑発をしてきたが、何分虫の居所が悪い私に、噛み付いて来た方が悪いのだ!
今度こそ、万事が快進撃! これで、あの小娘を排除すれば、私の溜飲が漸く下がるだろう!
それに、私は形だけの警告をしたが、相手が応じなかったのが悪いのだ!
恨むのなら、私と……同時に! 艦娘を! 世界を! 北郷を恨め! 北郷が居なければ、私はッッッ!!!
『モウ……我慢デキナイ! 返事ガ無イノナラ……!』
私は構えを解かず顔を動かし、深海棲艦達に合図を送り総攻撃の指示を与える。 これで、私が動き攻撃をしかければ、配下の者が追従(ついじゅう)して斉射させるために!
深海棲艦達が指示通りに動くのを見て、私も小娘どもの方向へ向き、標準を合わせようと砲筒を作動させる。 あの小娘どもは、未だに危機感無く話を続けていた。
私の口角が大きく上に向くのが分かる。 私の身体に歓喜が迸り、気分も随分と高揚していると自覚できたのだ。
あの隙だらけの、小さな身体を、粉々に砕く感触を思い浮かべると、まだ怖い者知らずで残虐非道な南方棲鬼だった頃の記憶が甦り、私に力を与えてくれる。
そんな私の頭には、小娘を誹謗する言葉が響く。
何と愚かな!
何と浅ましいのか!
何と無用心で、欺瞞に満ちた────
狂乱し震える身体を抑えつけた後、小娘たちに標準を定め、なるべく凄惨な現場にするべきと、威力を最小限かつ広範囲に狙いを定め、心で引き金をユックリと引く。
たが、最後に力を入れる際、急に背中が寒くなり、凍りついたかの如く次の動作が行えない。
───『待たせたわね。 桂花、春蘭』
そんな熱き私の心を急速に冷やす声が、背後より聞こえた。
報告にあった、消滅すると言っていた……人物。
名前は………確か、かの三国志で、最大の領土を誇ったという覇王と同じだったか?
─────曹……孟徳と。
◆◇◆
【 覚悟 の件 】
? 連合艦隊 桂花、春蘭側 にて ?
南方棲戦姫の後ろから、曹孟徳……華琳が包囲する軍勢から一人抜け出し、桂花達に歩いて近付く。 しかし、その途中には、春蘭や桂花を狙う南方棲戦姫達が立ち阻む。
春蘭は慌てて止めようと声を掛けようとするのだが、どうにも南方棲戦姫達の様子がおかしい。 具体的には、華琳が近付いても攻撃どころか、振り向く気配さえも無いのだから。
華琳の覇気に当てられたのか、側を通過しても南方棲戦姫達は指一つ動かない。 いや、必死に顔を歪ませ、身を捩る様子を見るからして、動かすことが出来ないようなのだ。
そんな南方棲戦姫を横に見て、華琳は春蘭と桂花の傍に近付き、労いの言葉を掛ける。
『二人とも、御苦労様』
『華琳様ぁ! 桂花の護衛、しかとやり遂げました!』
『ありがとう、春蘭』
『───はいっ!!』
華琳は春蘭に礼を述べると、満面な笑みを浮かべ嬉しそうに応える。 その様子に満足そうに頷くと、次は桂花に声を掛け、その策謀の冴えを機嫌よく讃えた。
『桂花、風の十面埋伏を応用した奇計、見事だったわ』
『恐れ入ります、華琳様。 狂悖暴戻(きょうぼつぼうれい)の輩など行動は全て直線的。 囮を置き、左右に分けて丸く収めるのが一番被害が少ない上策かと思いまして……』
『猪を仕留めるに正面から迎え撃つ者など居ないわ。 罠を張る、行動を制限するなりして搦め手で討ち取るのみ。 その道理が理解できれば、魏の軍師は安泰と見ていいわね』
南方棲戦姫たちを取り囲むは数千の兵。
兵の甲冑は三国混合、将も言わずもがな。 ただ、三国全員と行かないのか、見えぬ顔も何人か居た。
桂花が献策したのは、基本は囮を利用した伏兵攻撃。
兵法三十六計『抛磚引玉の計』であり、十面埋伏の計、釣り野伏せと理論は同じ。
ただ違うのは、本営である一刀を囮し、全方面から攻撃されても即座に数段構えの反撃をすること。
十面埋伏や釣り野伏せは、相手方の攻撃方向が限定、もしくは誘導されていたが、ここは大海原。 障害物が無い場所ゆえに、全方位が攻撃方向と目されるだろう。
ならば、本営を堅固にして誘い出し、攻められる前に包囲を固める。 三国には、桂花並みの軍師が多数存在するし、ある程度は各々の戦い振りも掌握しているのだ。
だから、桂花が大雑把な方針を決めれば、各陣営は動き出す。 後の働きに心配など不安要素は無い。 どの陣営も一刀という大事な玉を死守すべきと、奮戦するのだから。
勿論、囮役である北郷や艦娘にも被害が及ばぬように、何名かの実力者が護衛に入り、被害を防ぐ役目を担わせているのは、説明する必要も無いことであろう。
『これで、形勢逆転ってとこかしら?』
『…………はい』
『そう。 でも、それでは………困るのよ』
ここまで会話を交えた後、華琳は表情を厳しくさせ、南方棲戦姫と艦娘達の様子を眺める。
長門達を囲む深海棲艦達は、動かない南方棲戦姫の状況が分からず、ただ長門達を囲むだけ。 しかし、その周りを包囲する異国の軍勢からの牽制により攻撃も出来ない。
長門は直ぐに好機とし、深海棲艦の包囲から天龍達を連れ出し、ネルソン達に合流。 ネルソンもまた、相手方の手の内が分かり、警戒しつつも戦闘態勢を立て直す。
今の現状としては、数を見れば艦娘側が数隻多いが、損耗や質においては、圧倒的に不利と言える。
元は質が落ちる艦娘達の、理不尽な扱いからの逃走。 質が整っている深海棲艦と比べるのが無理な話。 数隻、実力ある艦娘が入っても、その差を埋めるのは難しい。
完全に艦娘側の不利な状況を否(いな)めない状況だった。
だが、華琳達が率いる兵達が参加すれば、数も質も完全に上回る結果になろう。 南方棲戦姫から怨嗟の声が、艦娘側からも安堵の声が聞こえてくる。
だが、その後で発言した華琳の言葉に、双方は衝撃を与えられることになった。
『今、此処に居る者に告ぐ! 私達は一切手出しはしない! 相手を屈服するまで戦えばいいわ! ただ、決着が付くまでは………包囲は絶対解かないと名言する!!』
『戯レ言ヲ………私達ガ勝テバ……ソノママ……』
『心配は無用、殲滅も追撃もしないわ。 包囲を解けば後は自由、逃げるなり攻撃するなり好きになさい。 これらの事は、我が真名《華琳》の名において誓わせて貰う!』
この言葉を聞き、その意味を知る者は、驚きのあまり思わず息を呑みこんだ。
『あれ? 今のって………司令官の部屋にあった……』
『は、はわわわ………明命書房刊の……』
『───し、知っているの! 雷、電!?』
☆★☆
今の宣言は、三国時代より大陸に伝わる誓約の言葉。
何を願う際に、発起人の真の名を付け加えると、必ず履行しなければならない強制力がある。 もし、破れば………その者の魂は汚れたと忌み嫌われ、破滅に追い込まれるという。
参考文献
明命書房刊
『世界にある、為になるかならないかの風習』
★☆★
その言葉の重みを知り、いつの間にか動けると自覚した南方棲戦姫達は嬉々とし、艦娘達も決死の表情で戦闘態勢に入り、一触即発の空間を作りあげる。
『華琳様、お言葉ですが、試練を与えるとしても相手との差が激しいかと。 これでは、落伍者が多数──』
『私達の大事な男を預けるのよ。 このくらいの危機、容易く乗り越えてくれなければ、意味などないわ』
そんな状況なのに、華琳としては自分達の助けは不要と判断し、この戦を一刀を任せる為の試金石にしようと目論んだ。
そもそも華琳の言ったことは嘘では無い。
今回の一刀を襲う惨状を見た三国の関係者達は、この状況に切歯扼腕し、誰もが一刀を救いたいと強く強く切願した。
当然、生身を遥か昔に失った彼女達に、現世の理に介入する術などない。 それに、一刀が命を失えば、自分達の傍に来るのも、理解はしていたのだ。
だが、提督として懸命に仲間を護ろうと動き、艦娘達も一刀を慕い、身命を賭して助けたいと行動する様子に、つい自分達を重ねてしまう。 一刀と送った動乱と平穏の日々を。
これを解決したのが、華琳曰く【 変態おぶ変態 】と言わしめた大変態………じゃなく、外史を司る管理者の一人《 于吉 》が力を貸すと、微笑みながら手を差し伸べたのだ。
───ただし、条件付きで。
『やむを得ないと分かっていても、飲むしかなかった条件。 勿論、一刀を助ける事ができたのだから、後悔など微塵もしていないけど…………』
『…………………………』
その条件は《この世界に顕現する者の魂は消滅させる》事。
元々、外史に対して否定的な考えを持っていた于吉は、鍵である北郷一刀の熱き想いにより、外史の扉が際限なく開かれる可能性があった事を華琳に説明した。
だが、一刀を排除しようとすれば、他の貂蝉達の肯定派が邪魔をし、何より近頃は、何かと北郷の追い掛けを続ける誰かさんの機嫌を損ね、非常に不味い状態になるらしい。
だから、《将を射んと欲すれば先ず馬を射よ》の言葉通り、先に行動原理である恋姫達を消そうと、考えていたとか。
だが、条件は厳しいものの、その分の見返りもまた多い。
・外史の兵でも参加希望があれば顕現させる。
・管理者側も全員一刀救援に参加する。
・この世界、そして恋姫達の外史は残す。
華琳達は条件を聞いても、誰もが悩む間もなく即答。
その答えは………今の状況を見れば分かるだろう。
『いえ、確かめるのは大いに賛同します。 しかし、かの娘達が倒れれば、一刀は大きく悲しみ、その戦を招いた華琳様へ負の感情を抱く恐れが………』
『あの子達を失えば、先導した私を恨むでしょうね。 だけど、私は……あの子達を確かめなけねばならないの。 一刀を託せれるのか……見極めなければ…………』
『…………御意……』
憂鬱な表情を見せ気落ちする華琳の言葉に、静かに俯くしかない桂花。 小刻みに身体を震わす華琳の目から、落涙が数行、頬を伝わり流れ落ちるのであった。
説明 | ||
桂花、南方棲戦姫に喧嘩売る。 5/23 桂花の策の説明、加筆修正しました。 |
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艦隊これくしょん 真・恋姫†無双 | ||
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