艦隊 真・恋姫無双 158話目 《北郷 回想編 その23》
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【 赤艦 の件 】

 

? 南方海域 連合艦隊 にて ?

 

 

華琳が宣言した決着案。

 

それなりに両者を尊重した提案だったが、その案を聞いた早々蹴ったのは………有利だと思われた南方棲戦姫だった。

 

 

『………フザケタ……真似ヲ!  誰ガ……応ジルモノカ!!』

 

『何だとぉ!? せっかく華琳様が───』

 

 

それを聞き春蘭は激昂するが、南方棲戦姫から応じる気は無い。 寧ろ、配下の深海棲艦を煽り、囲みを強襲する構えまで見せつけた。

 

 

『私達ヲ……コノ南方棲戦姫ヲ………甘ク見ルナッ!!』

 

『甘くなど見ていないわ。 現実的に双方を比肩して、最善の案を貴女達に提示しただけ。 なのに、納得が出来ないだけではなく、この私にさえ牙を向けるつもり?』

 

 

華琳の頬には、既に涙など無い。 如何なる場所、如何なる相手にも弱味を見せない。 それが、覇王の道を歩むと決めた時に定めた、寂しがりやの自分への縛り、である。

 

勿論、怒れる南方棲戦姫には関係ないこと。 もし、華琳の涙の跡を見ても、惰弱なと顔をしかめ唾棄するだろうが。

 

それに、南方棲戦姫にも言い分がある。

 

通常、戦いとなれば立会人が必要。 第三者として、公平で片寄らない立場で、どちらかの勝敗を決めて欲しいからだ。

 

それが、この戦いでの立会人が、宿敵である艦娘達を救い、深海棲艦の自分達を半数以上壊滅させた張本人では、誰であろうが信じるのは難しい。

 

しかも、南方棲戦姫の狙いは北郷も含まれるのに、上手く論点を反らし、北郷を外して決着に持ち込もうとしていた。

 

これでは、華琳達を信じられない訳である。

 

 

『………人如キニ……何ガ……分カル!! 先ノ戦イナド………所詮……児戯ト同ジ! ソレガ……貴様ノ……名如キデ? 馬鹿モ……休ミ休ミ……言エッッッ!』 

 

『そう。 この私の提案を断り、真名まで汚すとは。 ならば、その報い………必ず受けて貰うわよ』

 

『茶番ハ……終ワリ! 格上ノ……深海棲艦ハ……オ前達……艦娘ヨリ……遥カニ……獰猛デ……強イ! コノママ纏メテ……艦娘共々……蹂躙シテ……ヤルワッ!!!』

 

 

しかも、南方棲戦姫は抜け目ない。

 

華琳達と言い争う前に現状を把握。 周辺に増援が居ないこと、先の戦いで判断した実力差などを冷静に判断していた。

 

 

 

その結果は───勝てる。

 

 

この場所に現れた三国の将達は、先の戦いでは下級の深海棲艦達を瞬殺し、少し上の存在である戦艦タ級達辺りで、手こずる様子が見受けられた。

 

それに比べ、手元に存在する深海棲艦は、南方棲戦姫が誇る虎の子の軍勢。 しかも、殆んどがエリート級まで仕上げた精鋭だ。 これなら悪くても、互角ぐらいは持ち込める。

 

そして、仲間である艦娘達は既にボロボロ。 今も動きが精細に欠いている状態だ。 南方棲戦姫が相手すれば一瞬、長くても五分もかからない内に壊滅するだろう。

 

後は、手こずる配下達とやり合っている隙に、横槍を喰らわせば簡単に勝敗が決まる。 後は誰か一人を捕縛し北郷の場所を吐かせれば、万事が終わると。

 

そう、見事な皮算用を弾き出したのだ。

 

そして、南方棲戦姫ば腕を垂直に上げ、攻撃態勢の準備を指示する。 艦娘達の表情は強張るが、華琳達は無表情。

 

まるで、何かが起こるのを……既に察しているかのように。

 

 

『全艦! 一斉ニ────』

 

『艦娘か深海棲艦かの……性能の違いか』

 

『─────!』

 

 

何処からとも無く聞こえる、若い女性の声。 流暢な喋り方は間違いなく深海棲艦では無く、艦娘側に近い。

 

しかし、付近を見渡せど深海棲艦ばかりで、敵である艦娘側の姿は無かった。 だが、慌てる南方棲戦姫の醜態を嘲笑うかの如く、さっきの続きとばかりに声が再び聞こえた。

 

 

『見掛け倒しでなければいいがな』

 

『───ダ、誰ッ!?』

 

 

 

華琳達とは違う、自分を小馬鹿にする声を捉えた南方棲戦姫は、攻撃を即座に中止し、件(くだん)の声の正体を捜す為に辺りを軽く捜索させた。

 

しかし、何処にも声の主が見当たらない。 

 

南方棲戦姫は苛つきながらも再度見渡そうとすると、彼女の付近に居た一隻の深海棲艦が、震える指で場所を示す。

 

そこは、南方棲戦姫の居る場所。

 

何を馬鹿なと、怒鳴りつけようと見れば、その方向は南方棲戦姫の少し上を向いているではないか。 

 

まさかと思った彼女は、慌てて直ぐに足元の水面下へ映る自分の影を見た。 

 

 

『イッタイ……何ガ………』

 

 

覗き込む水面に映るは、怪訝な表情を浮かべる南方棲戦姫自身の姿。 

 

だが同時に、悠然と佇む怪しい人影も、まさかと思われる場所にと映り出されていたのだ。

 

 

『…………ナッ!?』

 

『やっと分かったか。 戦場で調子に乗りすぎると命取りになるぞ。 この様に……』

 

 

驚愕する南方棲戦姫の頭上には、あの赤き艦娘が腕を組んで静かに立っていた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 正体 の件 】

 

? 南方海域 連合艦隊 にて ?

 

 

『ハ、早ク! 降リ───!!』

 

『……………では、見せてもらおうか。 君の言う深海棲艦の性能とやらを………』

 

 

南方棲戦姫が急ぎ頭を振ると、頭上に居た艦娘は羽の如く舞い上がり、空中で一回転して静かに海上へ降り立つ。

 

 

『全艦! 斉射ァァァ!!』

 

 

───!

────!

───!

 

 

それを見た南方棲戦姫は、赤き艦娘の着陸寸前を狙って攻撃を命じ、配下の深海棲艦が応じて砲撃を放つ。 水柱が数本、海面上に生じ、少し時を経て元の静かな海面に戻った。 

 

その様子を見て、南方棲戦姫は少しだけ身体の力を抜き、安堵の声を漏らす。

 

 

『ヤッタ……ノカ?』

 

『幾ら放っても、当たらなければどうということはない』

 

『────ヒッ!?』

 

 

南方棲戦姫の耳元で囁く女の声に、思わず悲鳴が零れ、直ぐに今いる場所より離れた。 

 

そこには、轟沈させた筈の赤き艦娘が笑みを浮かべ、南方棲戦姫の驚く様を楽しんでいる。 

 

その様子に半狂乱になった南方棲戦姫は、艤装の砲門を一斉に開け、赤き艦娘一隻に狙いを定める。 

 

距離は十分射程内範囲、風良し、波も穏やか、標的間にも障害物無し。 赤き艦娘の背後に居る、他の艦娘達も状況が良く掴めぬまま、射程範囲から慌てながらも急いで離れる。

 

 

『ナラバ……私ノ全力デ………オトシテヤル! 光栄ニ思ウガイイ!!』

 

『これで当てなければ、君は………無能だ』

 

『煩イッ!! 黙レェェェェッ!!!』

 

 

軽口をたたく強気な赤き艦娘に、業を煮やした南方棲戦姫の砲撃が激しい勢いで斉射された。 狙いは一択、少し離れた先で不敵な笑みを見せる赤き艦娘のみ。

 

だが、驚くべきことに、彼女は微動だにせず立ち続ける。

 

 

『コ……今度コソ! 今度コソハッッッ!!』

 

『オ、墜チロッ!! 墜チロッッ!!!』

 

『沈メエェェェェェ─────!!』

 

 

狂ったかの如く叫び声を上げ、艤装より何発もの砲弾が発射。 瞬く間に高熱と紅き焔が辺り一面を支配した。

 

そして、先程より桁違いの巨大な水柱が数十本、赤き艦娘の居た場所を念入りに念入りにと撃ち込まれる。 他の深海棲艦達も南方棲戦姫に倣い、少し範囲を広げて砲撃していく。

 

今度こそ、今度こそと、恐れと怒りを込めて、何度も繰り返し南方棲戦姫たちが砲撃するため、小さな水蒸気爆発が幾つも起こり、濃霧の如く海水の粉末が辺りを包み込んだ。

 

 

『……ハ、ハハハ! コレデ……轟沈……轟沈シタァ……!!』

 

 

気が済んだのか、未だに多数の硝煙を纏ったまま、南方棲戦姫は狂喜しながら先程の場所を指で示し、赤き艦娘を葬ったことを強調する。

 

たが、その指先の向こうから、濃霧を掻き分けて現れる目立つ色合いの人影。 

 

言わずと知れた───赤き艦娘である。

 

 

『キ、キキ……貴様ハァァ………何故ッッッ!?』

 

『当然、君を笑いに来た。 無能、と。 そう言えば、君の気が済むのだろう?』

 

『ア、アレ程ノ……火力ヲ受ケ……テ………轟沈……』

 

『私がか? こんな花火で轟沈とは、質(たち)の悪い冗談は止めにしてくれ』

 

 

あまりの泰然とした態度に、流石の南方棲戦姫も唖然としたまま声も出ない。 全力で放った砲弾が全て無効なんて……今までの深海棲艦生活の中で聞いたことが無いからだ。

 

 

この時になり、南方棲戦姫は一つ思い出す。

 

それは、戦艦レ級が失踪する前に言っていた言葉。

 

 

  『赤イノ………強イ。 次ハ……勝ツ!』

 

 

初め聞いた時は、聞き間違えか冗談かと思っていたが、どうやら違うと分かったのは、かなり経過した後。

 

そもそも、戦艦レ級を相手に一隻だけで立ち向かい、互角の勝負を繰り広げた後、いつの間にか消え失せたと……楽しげに若干悔しさを混ぜて語ったのだ。

 

こんな内容を、普通に信じろというのが無理な話。

 

しかし、あの戦艦レ級相手に単独で挑み、まんまと逃走に成功した艦娘が存在すれば、このままでは深海棲艦側に勝ち目など、全くないに等しい。 

 

だが、配下に堕とした三本木からの情報から、そんな艦娘は居ないとの証言を得た。

 

そんな艦娘は軍の管理には登録されておらず、当然なら三本木の側にも居ないという。 それに、そんなに強い艦娘なら元帥直属へ推挙され、此処には居ない筈だと。

 

 

『マ、マサカ…………レ級ガ……言ッテイタ………』

 

 

だが、その空白の時間は僅か。 

 

戦場での思考停止は死神に刈り取られる的。 それを知る南方棲戦姫は即座に立ち直ると、彼女は配下に命令を下す。 

 

 

『ナラバ………囲イ……押シ潰ス……マデ!!』

 

 

火力が駄目なら、数で押して肉弾戦で覆せばいい。 どうみても他の艦娘より小柄で華奢な身体。 瞬く間に蹂躙できると考えたからだ。

 

だが、その作戦も見事に砕かれた。

 

 

 

────いつの間に参戦した、うろんな者達に。

 

 

 

『このくらいの攻撃で屈伏するとはな。 ちっ、アイツとの再戦で肩慣らしになるかと思えば、とんだ期待外れだ!』

 

『最大限甘く評価しても〈普通〉以下ですね。 私の傀儡に劣るようでは話になりません。 せめて、左慈を取り押さえてくれるぐらい強ければ、興味を抱くのですがねぇ………』

 

『むうぅぅぅん! その程度で儂のだーりんに色目を使うなど言語道断!! だーりんに接触を企むのなら、まず亜細亜方面前継承者である、この儂を倒してからと知れッ!!』

 

 

新たな指示待ちしていた深海棲艦たち。 その実力は、かの艦娘達と対等以上と目された強者でもあった。

 

それが、新たに現れた変たぃ……いや、外史の管理者である〈左慈〉〈于吉〉〈卑弥呼〉の足元で倒れ伏している。 

 

沈まないということは、即ち気絶扱いされていることになるのだろうか。

 

 

もはや、南方棲戦姫には想定外過ぎて、この混沌を無表情で受け入れるしかなかった。 

 

だが、真に驚愕するのは───まだ、残っていた。

 

 

『さて、これで全員揃ったのだから、そろそろ変装を解いたらどう? 幾ら貴女自身が目立つからといて、この世界観に合わせたようだけど、色々と限界みたいよ』

 

『認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを。 まさか、これ程まで別人に成り済ました際の気楽さ、開放的な快感を味わってしまうと……戻るのが嫌になる』

 

『アンタねぇ! そんな見慣れない可笑しな格好や聞き慣れない口調されても、私や華琳様の精神が持たないわよ! まあ、元のアンタなんか直視したくなんかないけど………』

 

『フッ、紛い物の私より、真の姿で対抗してみろというのか。 なるほど、それでこそ………私のライバルだ!!』

 

『────だ、誰が、アンタなんかの〈らいばる〉よッ!! 一緒になんかするなッ!!!』

 

 

華琳に指摘を、そして桂花から文句を受けた赤き艦娘は、正体を晒す覚悟を決めると、覆っていた艤装の一部に手を掛け一息に剥がすと、辺り一面が光り輝く!

 

 

『ま、眩しいッ!!』

 

『コ、今度ハ………何ガ───』

 

 

近くに居た者達は顔を背けたり、目を瞑るなりして対処するが、そんな輝きも長くは続かず束の間で収まる。

 

だが、そこに居た筈の赤い艦娘は消え、代わりに現れた人物は────

 

 

『うふっ、魅惑の漢女……登場よぉん!! でも、さっきの変装はすっごく気に入っていたのにぃ。 この時代の人気がある、赤い絡繰に乗る渋いイケメンの口調を真似て……』

 

 

そこには、目に猛毒要素満載の破廉恥な服装で、これでもかとムキムキの筋肉美を見せ付ける巨体の怪しい人物……外史の管理者でもある〈貂蝉〉が居たのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 交錯 の件 】

 

? 南方海域 長門視点 にて ?

 

 

思わず視線の先に映る情景に……私の呼吸が止まった。

 

何だ、あれは?

何ダ、アレハ?

 

艦娘? 深海棲艦?

 

何度となく頭を振り、目を擦り、周りの反応を見て、漸く現実だと覚る。 いや、覚らざる得なかったが正しいのか。

 

あの赤い艦娘が………まさか、あのような者に!?

 

 

『アイツ……オレ達を騙しやがってぇ───って、おい!? 何だよ! 何でだよッ!! クソッ! 世界水準軽く超えてる筈のオレが! どうして動けないんだよッ!?』

 

『天龍ちゃん、気を付けて。 彼処に居る四人全員……天龍ちゃん……うぅん、此処に居る艦娘や南方棲戦姫より……遥かに強いから。 強さの底が……全く見えないくらい…………』

 

 

うむ、あの赤い艦娘の強さは異常だった。

 

あの戦艦レ級の追撃を封じ、瀕死の私達を全員救出。 そして、今も南方棲戦姫相手に単独で挑み、手玉に取っているなど、実際に見なければ信じられない。

 

だが、更に信じられないことに、新たな仲間まで参加したと思えば、あの赤い艤装は全て偽装。 

 

べ、別に上手い事を言った訳で無い。 本当に艤装は偽装であり、別の姿が隠されていたのだ。

 

私としては、この異様な光景だけでも処理が追い付かないのに、来援した海外艦の感性にも付いて行けない。

 

 

『くっくっくっ! 北郷の奴め………まさか、こんなAn ace up the sleeve (隠し球)を持っていたとはな! まったく、余達をClown(道化)扱いするとは………大した男だ!!』  

 

『あ、あれが………Lady of the Lake(湖の乙女)! まさか、まさか……この東の果てで……神々しい御姿を直に……拝見できるなんてぇ………』

 

 

ネルソン……如何に提督といえど、このような人外を招き寄せるような奇行………あったにはあったが、ここまで酷くは無いぞ。 まあ、関係はないとも、私では言い切れないが。

 

そして、ウォースパイト。

 

アレを見て、何故そんな事を言い出すのか、その理由を小一時間ほど問い詰めたい。 この長門さえ知る有名な話なのに、何処をどう間違えたらそうなるのだ。

 

そんな事を心の中で呟いていたところ、少し遠くの場所で、この戦いで親密になった艦娘三隻が集まり、何やら話す声が聞こえてきた。

 

 

『えっと、どっから……突っ込んだ方がいいのかな? 何か……凄く濃い人達が来援したこと? それとも………あの三倍速で戦う人の口調を真似てた、赤い艦娘だった変な人?』

 

『別に……不思議とは思わないが?』

 

『………わ、私も……少しだけ日向さんの意見に……賛成です』

 

『────えっ!? 日向さんなら分かるけど、潮が賛成するなんて………あっ! ど、どこか攻撃受けてたの!?』

 

『おい、瑞鶴。 それはどういう意味だ?』

 

 

一応、この付近に居る深海棲艦達は、南方棲戦姫を除き、全て駆逐されているから、私達は警戒だけすればいいのは理解できる。 だが、雑談に集中するなど危機感が足りん!

 

そう思いつつ叱咤しようと口を開く途中、私は考えを改めて黙って聞くことにした。

 

別に瑞鶴の言葉に否定などしない。 日向の言うことには、一ミリたりとも同意ができんのだから。 

 

しかし……だ。 あの常識人の潮が、部分的とはいえ賛成した。 どう考えても、そちらの方を大いに気に掛けたくなるのは当然ではなかろうか。 

 

べ、別に艦種で贔屓している訳ではないぞ!? これは、あくまでも、一般的な考えに基づいてだ!

 

 

『ですから、そう意味ですっ! って………そ、そんな事より潮は大丈夫ッ!? そういえば、攻撃されたのって───』

 

『だ、大丈夫です! 心配してもらい……そ、その……ありがとう……ございます……』 

 

『そう、良かった。 あっ、それじゃあ、元に戻すけど……何で?』

 

『だから、私を無視するな!』

 

 

勿論、盗み聞きなど以て(もって)の外。 だが、瑞鶴達が勝手に騒ぎ、近くに居る私の耳へ自動に入るのだ。 これは不可抗力というもの。 私に罪は無い。

 

そう、罪など無いのだ!

 

と言う訳で、私は辺りを警戒しつつも耳に入る会話を聞いている。 あくまで勝手に聞こえてくる雑音。 私が聞こうか聞かないかは、私自身が決めることなのだから。

 

 

『えーと、実は……YouTubeの映像とかで……お化粧や服で姿を変える人が居るって……前に……漣ちゃんから……』

 

『あっ、それねぇ! うんうん、見たことあるよ! すっごく綺麗な女の人が化粧を落としていくと、実は………っていうパターンだよね! う〜ん、一理あるかも!!』

 

『いや、そのような小手先の技術では不可能だ。 これこそ全て……全知全能たる……瑞雲神の神業に違いない!!』

 

『『 ……………… 』』

 

 

………………いや、潮の推測でも無理な話だ。

 

近くに居た者として言わせて貰えば、かの者の艤装は私と変わりない造りだ。 更に、服を利用して背の高低さ、体型の増減を誤魔化そうが、物にも限度という物がある。 

 

そもそも、先の艦娘の時は潮と同じくらいであり、今は二メートル近い背丈の偉丈夫。 しかも、声でさえ風鈴と銅鑼ほどに違う。 正に水と油のように相反するのだが。 

 

これはどう考えても元の姿と乖離している。 私も理由を考えるのだが、全くわからん。 寧ろ、荒唐無稽だと思われる日向の説明の方が、まだ納得できてしまう。 

 

無論、瑞雲神の奇跡など毛頭も信じないがな。

 

しかし、潮は確か………あの作戦の時、天龍達と一緒に出撃した筈。 その時に、あの艦娘だった時の背格好を大体把握していると思ったのだが。

 

 

────わざと思考誘導したのか?

 

────それとも、只の天然ボケか?

 

 

まあ、そんな些細のことはどうでもいい。

 

手足となる配下までも撃破された南方棲戦姫だ。 そろそろ何かしら仕掛けてくるだろう。 居ない提督の代わりに、この状況を的確に見極め、最善の行動を起こさなければ。

 

それに………な。

 

提督達の身は勿論心配だが、あの少女が一枚噛んでいるのなら安心だろう。 提督の身を心配し、消える時まで片時も離れなかった……心優しき少女ならば。

 

 

説明
赤い艦娘の正体が判明。7/7に前半部分を加筆修正。
あと、申し訳ありませんが、この作品の7月、8月分の掲載は休止します。用事が色々と重なりまして。
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