異世界雑貨店ルドベキア2
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蒸し蒸しと、いくら空気を入れ替えても淀んだような蒸し暑さ。

あおいだ団扇の風も熱波に感じて、とても涼しいなんてものじゃない。

 

元々1日に数人しか来ないルドベキアのお店も、お昼を回って一人もきていない。

異世界の『冷房』なんていう便利なものがないこの世界にあっては、天気は仕事ができないれっきとした理由の一つだ。

 

それなのに、異世界からきた人たちはみんな、アメニモマケズ、カゼニモマケズ。

アリスも例に漏れず、この猛暑のなか一生懸命にお店の中を歩き回っている。

 

(ルド)「アリスちゃん、お掃除も商品の準備もその辺にしようよ。こういう日はお客さんもそんなに来ないから。」

(アリス)「そうですね・・・。あ、そろそろ桶の氷入れ替えてきますよ。ついでに冷たい飲み物も・・・」

(ルド)「ああ、飲み物の方は私が用意してくるよ。アリスちゃんは冷たいココアでいい?」

 

店内のあちこちに、魔法で作った氷を桶に入れておいている。

こうしてから空気を回すとだいぶ涼しく感じるようになった。

 

それもあっという間に溶けてしまう。

その度にアリスがせっせと水を魔法で凍らせ直して入れてくるものだから、私もなんとなく落ち着かなかった。

 

(ルド)「冷房かあ・・・。何か良い手はないかなあ」

(アリス)「う?ん、室外機とエアコン本体があって・・・。よく考えてみるとどうやって空気を涼しくしたり温めたりしてるんだろう?」

 

異世界人はみんなこの世界の魔法を見て驚くけれど、異世界の『科学力』も大概だと思うんだよね。

ただ、魔法も科学もエネルギーがあって、それを変換する仕組みがある。

本当にゼロから生まれるものはない。

 

とはいえ、いくら考えても涼しくなる方法にはつながらない。

今日はもう何も考えたくなかった・・・のに。

 

 

(ルド)「あら・・・いらっしゃい」

(アリス)「あ、いらっしゃいませ!」

 

扉が開くのも確認しないで声をかけてしまって、アリスも慌てて声をかける。

遅れて開いた店の扉から、赤いチョッキを着た二足歩行の白黒猫がおずおずと入ってきた。

猫といっても、身長は150センチはある立派な獣人の少年。

 

このお店に来るお客さんは馴染みの人ばっかりで、少年はウチでは珍しい一見さん。

 

(少年)「あ、あのルドベキアさんいますか?」

(ルド)「はいはい、いらっしゃい。今日は何かお探し?」

 

ソファーから立ち上がった私を見て少年は少し笑顔になった。

少年が店内の道端に置いてある桶を短い足で一所懸命に避けながら私の元まで歩いてくる。

私の前の前に来たあたりで桶からこぼれた氷を踏んづけて思いっきり尻餅を着いた。

 

(ルド)「大丈夫!?ごめんね、氷散らかってて・・・。怪我はない?」

(少年)「あ、いえいえ大丈夫です。ボク結構丈夫なので。わあ、本当エルフさんだ・・・。」

 

少年は尻尾を振って見せる。

 

(アリス)「わあ、猫さんだ?」

(少年)「あれ?もしかして君、異世界から?」

(アリス)「え?うん、そうだよ。ええと・・・」

(少年)「ボクも異世界から来たんだよ!」

 

少年はハッとして慌てて私の方に向き直る。

 

(アル)「あ、遅れました。ボク異世界から転生したアルバート・マタビっていいます。アルって呼んでください。ルドベキアさんの噂を聞いて、ちょっと見てもらいたい物がありまして・・・」

(アリス)「ねね、なんで私が異世界から来たってわかったの?」

(アル)「この世界で無邪気に猫獣人を猫と呼ぶ人は異世界から来た人くらいだからね」

(ルド)「猫獣人をうっかり猫なんて呼んだら、愛玩動物と一緒にするなって怒られるからね・・・」

 

アルは首に掛けた小さな四角い箱を私に差し出した。

 

(アル)「これ、カメラっていうんです。ちょっと壊れちゃったみたいで、シャッターを押してもちゃんと写らないんです」

(ルド)「確か風景を紙に写す機械だったね。ちょっと見せてくれる?」

 

カメラはこの世界にはないけど、異世界人のものを何台か見せてもらってる。

最近はカメラはスマホという機械に一緒になっていることが多くて、もうほとんどどういう仕組みなのかよくわからなくなってしまった。

アルのカメラは比較的単純なもので、取り入れた光をフィルムに焼き込むものみたい。

 

(ルド)「カメラの内側のレンズが割れてるね・・・。」

(アル)「か、カメラの命が・・・。きっと落とした時に割れたんだ・・・。」

 

このカメラは今までみたカメラの中で一番単純な仕組みかもしれない。

10年前、私がサモナンに来た頃はまだ話に聞くことはあった。

でも、その時すでに異世界人の持ってくるカメラはどれも『メモリー』というものに記憶するものばっかりだった。

 

当時15の私が今ほど物を知っていれば、聞いた話から何か作れたかもしれないと思ってたんだけど。

今、ここに現物がある。

 

(ルド)「内側のレンズの替えがどうにかできれば直せるかもしれないけど、街で同じものをお願いすると金額的に手がでないかも・・・。」

(アル)「ちなみにいくらくらいなんですか・・・?」

 

ガラス自体が魔王の卵の影響で流通が滞っていて高騰してるし、メガネとかのレンズを扱っている職人さんもそこまで多くない。

塊のガラスがあれば削って整えることなら私でもできるけど、透明度がちゃんとあるものとなると簡単には手に入らない・・・。

 

(ルド)「ざっと、金貨120枚かな・・・。」

(アル)「そ・・・そんなあ。ちょっとやそっと頑張って稼げる金額じゃないですよう」

(アリス)「私たちの世界のものって、超技術だって言って街の人たちは扱ってくれないもんね・・・」

 

実際は仕組みや作りがわかれば、この世界でも作れそうなものは結構ある。

ただ、一個人で作るには手に余るものも多いけど。

 

一体どういう構造になってるんだろう?

どうしてカメラには2枚のレンズが入っているんだろう?

もっとよく調べたらもしかしたら・・・。

 

(ルド)「できるかわからないけど、真似して作ってみようか。」

(アル)「ほ、本当ですか!?」

(ルド)「確か、光でフィルムに映像を焼き込んでるんだよね?仕組みをちゃんと理解するためにカメラを分解させてもらえれば助かるんだけど・・・」

(アル)「あう・・・」

 

アルは少し迷って私にカメラを手渡した。

 

(ルド)「元の形には戻すけど、思い出の品なら無理しないでね・・・?」

(アル)「いえいえ!ボクは写真撮影が魂の趣味なんです。背に腹は変えられません!」

 

(ルド)「わかった。ひとまず分解して必要な材料を調べてみるね。時間がかかるからまた日を改めて来てくれる?お店を開けてる時間ならいつでもいいから、時間がある時にでも」

(アル)「わかりました!いざ作る時はぜひボクにも手伝わせてください!あ、費用の方も合わせて教えていただければ・・・」

(ルド)「今回はタダでいいよ。良いもの見せてもらえるし」

(アル)「え?で、でも・・・材料費ってものすごく高いんじゃ・・・?」

 

見たところアルは冒険者や商人、騎士団ではないみたい。

同じ異世界人でも、お城の騎士団長からアリスみたいな町の魔法使いまでいろいろ。

ようするに、必ずしもお金持ちじゃない。

 

(ルド)「いいからいいから。その代わり、カメラはウチの目玉商品にしちゃうからね」

(アル)「おお!楽しみにしてます!」

 

レンズの材料には心当たりがある。

目玉商品にするとは言ったけど材料の採取が難しいから、量産も難しいかもなあ・・・。

 

 

アルが帰った後、アリスに店番を任せて私は奥の研究室にこもってカメラの分解と研究に勤しんだ。

 

日が沈み閉店の時間でもものすごく蒸し暑い。

研究室は窓も扉も閉め切って、小さな部品が風で飛ばないようにしなければならない。

この季節に研究室に籠りきりになることは、普段はほとんどしないんだけど・・・。

 

ますます暑くなる熱帯夜。アリスと、アリスから冷たい飲み物を受け取る私は下着姿だった・・・。

 

(アリス)「家の中でこんな格好で過ごすなんて初めてです・・・」

(ルド)「あはは・・・。まあ、私たちじゃ見慣れた格好だよね」

(アリス)「ッブ!誰かが聞いたら誤解されそうですねそれ」

 

 

カメラにこんな裸同然の姿を撮られたらどうしよう?

ふと、カメラの危険性に気が付くルドベキアだった・・・。

説明
暑い猛暑の日に、けむくじゃらの暑そうなお客さん
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ルドベキア オリジナル 異世界雑貨店ルドベキア 異世界 

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