真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 100 |
「………………………………ん」
ねねは目を開ける。
「ここは、どこなのです?」
周りは、何もなかった。光すらもない暗黒。しかし、自分の体は光でもあたっているかのようにはっきりと見える。
「これは一体……」
周りを見渡すと、うずくまっている雪華がいた。
「雪華っ!」
駆けよろうとするが、いくら走っても距離が縮まらない。
「はぁ、はぁ……!」
次第に足は重くなり、前に進めなくなる。
「い、一体どうなってやがるんですか……?」
見える距離にいるはずなのに全く縮まらない。これは常識ではありえない。
「……考えるのですっ! わたしだって戦場で生きる者っ!」
伊達に軍師をしていたわけではない。恋を支え、詠と共に策を考え、数多の兵の命を預かってきたのだ。この程度で動揺していては今まで散った命に申し訳が立たない。
(現実にはあり得ないことが起きているという事は、ねねでは理解できない何かがあるという事。それが雪華とねねの縮まらない距離の原因?)
「……なら、その法則は?」
(距離が縮まらないという事は、少なくても私が見ているこの雪華は幻影の類。なら、本物の雪華はどこに?)
場所の推測を始めた時、頭に声が響いた。
【コノコ、ココニイル】
「なぁあ!?」
驚きのあまり飛び跳ねて、思わず両手を構える。
「だ、誰ですっ!?」
その問いに頭の中の声は答えないでただ言葉を続ける。
【コノコ、アブナイ。デモ、ワタシハダメ】
「だ、誰だって聞いてるのですっ!」
【アナタデモ、ダメ】
「か、勝手に決めるなですっ!」
【デモ、フタリナラ、デキル】
その言葉に、ねねは反応する。
「……二人なら?」
【アナタノカラダ、カシテ。ワタシガ、ハナス】
頭の中の声の提案に理性は反対する。
(ふざけるなですっ! 信用も何もない相手に体なんて貸せるわけがないですっ! そもそも、体は貸すものではないですっ!)
だが、何故か心は……
(……でも、でもっ! なんでっ! “信用できる”と感じてるのですかっ!)
冷静に考えればおかしなことだ。見ず知らずの、しかも妖術を使うような相手に信頼など普通は感じるはずもない。
(…………あ〜もうっ!)
しかし、悩んでいる暇はない。この空間に捉えられている間にも恋たちに危険が迫っている。ならば、急いで戻らなければならないし、雪華も助けなければならない。
(……あの男には、借りがあるのです)
ここで返さないのは自分の誇りが許さない。
「…………傷物にしたら許さないですからねっ!」
そう叫ぶと、地面にドカッと座り込む。
「さっさとやるのですっ!」
【アリガトウ】
目をぎゅっとつぶってると、体が温かくなる。
「へ?」
驚いて目を開けると、体が光に包まれていた。
「な、ななな?!」
【ダイジョウブ】
その光はだんだんと大きくなり、次第に視界は光に包まれ、柔らかく暖かな光の中でねねの意識はまどろみの中に落ちるように途絶えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
雪華は暗闇を必死で走っていた。
「はっはっは……!」
彼女の足は限界に近い。でも、止まらない。何で走っているのだろう? いや、分かっている。
『この鬼子めっ!』
この、大人から浴びせられる罵声から離れようとしているだ。
「ひっ!」
『お前のせいでまた村に災いが起きたっ!』
「違うもんっ! 雪華のせいじゃないっ!」
『いいや、お前のせいだっ!』
『災いの象徴めっ!』
『母殺しっ! お前を生んだせいでお前の母は死んだのだっ!』
「違う違う違うっ!」
雪華はもう知っている。あの村の大人たちは自分達の不幸の捌け口が欲しかっただけだ。自分たちと姿の違う雪華をそうすることで自分たちの心の安寧を保とうとしたのだ。
でも、雪華の世界で玄輝がそれを変えてくれた。あの旅の中で玄輝が悪くないと何度も言ってくれた。だから……
「私は、悪くないっ!」
『じゃあ、何で逃げてるの?』
「っ!?」
姉の姿をした、何かの一言で足が止まった。
「にげ、る?」
『うん。だって、ずっと声から離れようとしてるじゃない』
「ち、違うもんっ! 逃げて、」
『逃げてるじゃない。声だけ残して、振り返りもしないで走ってるじゃない。それを逃げてるって言うんじゃないの?』
「ち、ちが……」
姉の姿をした何かはどんどん迫ってくる。
『辛いんでしょ? 怖いんでしょ? だったら私と変わろう? そしたら何も考えなくていいんだよ?』
「あ、ああ」
目の前まで来たそれは口が裂けるほど笑って、手を伸ばす。
『さぁ、私と、変われ』
伸ばされた手が、雪華の顔に迫る。
「あ……」
顔に触られたら終わりだ。それが分かっているのに雪華の足は動かなかった。そして、指先が、
『失せよっ!』
触れる直前で、光がそれを防いだ。
『なっ!?』
『失せよと言っているっ! 影法師風情がっ!』
強い言葉と共に光も輝きを増し、姉の姿をした何かを焼き払った。
『ぎ、ぎぃいいいいいいいいいいいいいい!!!』
苦悶の声を上げ、姉の姿をした何かは形を崩し、やがて霧散していった。
「はっはっはっは………」
短く呼吸を繰り返した後に、雪華は両手で自分の体を包んで、へたり込んでしまった。
『大丈夫?』
「もう、やだぁ……」
大粒の涙をこぼし始め、そう呟いたら、止まらなくなった。
「やぁだあああああああああ!!! もうやだぁあああああああああ!!! こわいのやだぁああああ!!!」
子供のように泣きじゃくる雪華。だが、本来ならそれが正しいのだ。10歳の少女が命の危機に晒されて恐怖を感じないはずがない。しかも、それを耐えるための支えであった人間がいないのであればなおのことだ。
「あああああああああああああ!!!」
恐怖に折れてしまった雪華はもう泣くしかなかった。
『…………ねぇ、こっちを見て』
「あああああああああああああああ!!!」
光の声は届かない。ならばと、光は彼女を抱きしめる。
『…………怖かったね』
「あああああああああ!!!」
そうして抱きしめてどのくらいの時間が経ったのだろうか?
「ひっく、ひっく……」
このまま体中の水分が涙になるのではないかと思うほど出続けていた涙はだいぶ落ち着き、雪華も泣き叫ぶことは無くなっていた。
『落ち着いた?』
光の声を聞いて頷いて、ようやく顔を上げた。すると、そこにいたのはねねだった。
「ねねちゃん?」
『いいえ。私は彼女の体を借りているのよ。私はここにいる魂』
指さしたのは雪華の首から下がっている勾玉だ。
「……蛇さん?」
『ええ。あなたの兄に守るように頼まれたから出て来たのよ』
優しげな表情で雪華の頭を撫でる。すると、雪華は不思議と心が落ち着いていった。
「……………」
だが、次の蛇の一言でまた心が騒めき立つ。
『さて、そろそろ外に出ましょうか』
「っ! や、やだっ!」
とっさに出て来た言葉。
「もうやだっ! 怖いのもうやだ!」
『……………雪華ちゃん』
「雪華もうやだっ! 玄輝が来るまでもうここから出ないっ!」
雪華の言葉を聞いて、蛇は目線を合わせて問いかける。
『それで、いいの? 外にはあなたを待っている人がいるのよ?』
「よくないっ! でも、こわいっ! こわいっ!」
『何がそんなに怖いの?』
「…………」
そこで雪華は口を噤んでしまう。
『…………殺されそうになったこと?』
言われてから少し間をおいて頷くが、蛇は、
『本当にそれだけなの?』
さらに問いを重ねる。
『それよりも、もっと怖いことがあるんじゃないの?』
言われて、雪華は体を一瞬びくつかせる。
『あなたは、そうね。大事な人以外はどうでもいいって思っているわね?』
雪華は肯定の頷きを返す。
『だからこそ、大事な人がいなくなるのが怖い、傷つけるのが怖い。違う?』
「っ!!!」
雪華の反応を見て、蛇は確信した。
『あなたが一番怖いのは、あなたの中に眠っている力ね?』
「っ!!!」
雪華の中に眠る力。それは本来彼女が息絶えるまで表に出るはずのないものだった。だが、それを白装束が強烈な怨念を一気に流し込んだことで強引に表に出されたのだ。
未知の物は誰でも恐れる。ましてや、それが自分の制御できない莫大な力であれば尚のことだ。中にはそれを神として畏れることもある。臆して、逃げ出してしまうこともある。怯えてただ過ぎ去るのを待つこともあるだろう。
だが、人はそこで終わる存在ではない。未知の物でも、誰かの為に立ち向かうことができる。蛇はそれを知っている。だからこそ、雪華の頬を両手で包んで言霊を叩きつける。
『恐れるなっ!』
「っ!」
『ここで閉じこもって何になるっ! その力は永遠にあなたに付いてまわる! 逃げられないのよっ!』
蛇は語気を強くしつつも、優しさを失わない声色で続ける。
『あなたの力に臆するなっ! あなたは鬼の子っ!』
その言葉に雪華の頭で過去の記憶が瞬くように頭にちらつく。
「ち、違うっ! 違うっ! 私は雪華だもんっ! 鬼子じゃないっ!」
『そうっ! 鬼子ではない。鬼の子よっ!』
「……え?」
『あなたは異形の子ではない。生まれつき鬼の力を宿した子。だから、その力はあなたの物っ! 畏れるでないっ! 向き合いなさいっ!』
言われて周りを見る。相変わらず真っ黒いだけの空間。でも、よくよく見ればひび割れのような光があちこちに見える。
一番近くのひび割れに手を伸ばして、それを触ると、パリパリと砕ける。
「ひっ!」
思わず手を引いてしまう。そんな彼女の手を蛇は優しく包む。
『怯えなくていい。臆さなくてもいい。畏れなくてもいい。それに』
「?」
『あなたの兄は、自分が怖いからって前に進むのを諦める男なの?』
「っ!!!」
その言葉で恐怖に染まっていた心に火が灯った。
「……しない」
『勝てないような戦いで逃げ出す?』
「逃げない。勝てないなら、勝てるようにする」
『大事な人を、見捨てる?』
「絶対にしないっ!」
『なら、その妹のあなたは?』
(わたしは、雪華。御剣雪華だっ!)
それが、彼女の勇気を爆発させた。
「うっ、ああああああああああああああああああ!!!」
恐怖を乗り越え、雪華は暗闇を突き破って外に出た。
『さぁ、行きなさい。鬼の子よ』
蛇の声が優しくその背を押し出して、彼女は外の世界に戻る。
戻った時、風が吹き荒れ、周りにいた無個性の白装束が吹き飛んでいった。
「……なんだそりゃ?」
外に出た雪華の聞いた第一声は自分の大切な人たちを傷つけていた白装束のだった。
「………………」
自分の手を見る。それはいつもの自分の手よりはるかに大きい。玄輝と同じぐらいの大きさだ。でも、確認するのはそれだけでいい。
「……お姉ちゃんたちを」
だって、目の前の奴らを、
「いじめるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
心置きなく、やっつけられるのだから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
黒い球の中から出て来たのは、白髪の美しい女性だった。だが、その額には二本の朱色の赤い角が生えていた。
「……なんだそりゃ?」
悟鬼はその姿に唖然としている。対し、女性はゆっくりと手を一度確認する。
「………………」
そして、一度目を閉じてから、叫ぶ。
「……お姉ちゃんたちを、いじめるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
叫びは空気を震わせ、白装束二人を怯ませる。
「くっ!」
「ぬ、ぬぅ!」
だが、それは一瞬の事。二人は、すぐに構えようとするが、
「なっ!?」
悟鬼の目の前には女性の拳が眼前に迫っていた。拳は顔面へとめり込み、その勢いを殺すことなく相手を地面へと叩きつけた。その瞬間、凄まじい轟音と共に地面が大きく陥没した。
「………………」
悟鬼は顔が陥没し、痙攣して動けなくなっていた。
「馬鹿、な」
泥鬼はあまりの光景に呆然とするしかなかった。
「あ、あり得ん。鬼の力を完全に掌握している、だと!?」
「次、お前」
「くっ!」
殺られる前に殺る。全力の拳を素早く叩きこもうとするが、その拳が振るわれることは無かった。
「……は?」
何故なら、その拳はすでに雪華に握られていたからだ。動かそうにもピクリとも動かない。雪華はそれを確認してから、左手で肩を抑える。
「ふっ!!!」
そして、息を短く吐きながら全力で腕を引き抜いた。
「ちぃっ!」
視界から外すことなく、泥鬼は間合いを取るが、取れた気がしない。
(腕の再生はできるが……)
できたところで、だ。勝てるイメージが全くわかない。
(中にいる鬼は一体なんだ? 何が紛れ込んでいるのだ?)
少なくとも低級な鬼ではない。歴史に名を残している大鬼なのは間違いない。
(……ちっ、退くしかあるまい)
破殻した木偶人形二人ならばどうにかできるが、あの覚醒した鬼がいる以上、本来の目的を達するのは無理だ。
そう判断するや否や、周りを固めさせていた無個性の白装束達を動かし、自身はそのまま逃げ去ろうとする。
「逃がさないっ!」
拳を引いて飛び掛かる雪華。
「ふんっ!」
白装束は突っ込んでくる雪華目掛け、石を蹴りだす。
「っ!」
難なく避けるが、後ろに跳んでいった石は白装束の頭を弾き飛ばした。しかし、隙は作れた。後ろに大きく飛ぶと、空中で静止しだんだんと姿の輪郭がぼやけていく。
「っ! 待てっ!」
雪華は叫んで飛び掛かろうとするが、それを待つような相手ではない。そのまま消え去り、周りの無個性の白装束も霞のように消えていった。
「っ!」
白装束が消えた虚空を睨み上げる雪華。
(次は、やっつけるもん……!)
次にあった時、必ずこの手で倒すと、そう心に固く誓った。
はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。
いやぁ、ついに100になってしまいました……
ここまで何年かかっているのやら。完結するころには300とか行っているのではなかろうか? できればその前には完結させたいところです。
さて、今回は雪華が恐怖を乗り越え、覚醒したところで話が終わりました。ちなみに、覚醒した雪華は髪と体がF〇Oの地獄のアーチャーさん、顔が同じく〇GOのお酒とゴールデンが好きな酒呑み鬼といった感じです。(注:あくまでイメージです)
この覚醒については後々本編で書いていく予定です。
今回はこんなところでしょうか。
これからも頑張っていきますので、何卒宜しくお願い致します。
何か誤字脱字がありましたら、コメントまでお願い致します。
では、また次回っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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