新・恋姫無双 〜呉戦乱記〜 第10話
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北郷と雪蓮がひと悶着をしている間に呉はその後、天子の忠臣と見なされて蜀と共にヒト、モノ、そしてカネの動きが活発化する。

 

雪蓮がかまえる建業は以前の寂しい街並みから、かつての華やかな町並みへと姿を変えた。

 

そして冥琳たちによる法整備により、自由な経済活動の推進と所得権の確立がなされ、各人が自由な商売を行えるようになると同時に、経済的な紛争を解決する司法制度の改革を推し進めた。

 

その法典が「経済法」という名の法律による民事紛争の解決である。

 

呉での商売慣習や習わしを尊重しながらも、所有権に派生した物権等の権利を広域に保証することで法による支配の下を確立させ、民衆の経済活動を支援する。

 

自分たちで一揆やうちこわしといった荒業による自力救済の禁止の正当性を謳うと共に、司法での紛争解決が奨励されるこの改革が実を結び、城下町は賑わいを広げていった。

 

周瑜派の広域な自由を認めた法統治が民衆に広まりそして大きく支持される形となった。

 

民衆の好意的な民意をもとに周瑜派は、国家基本法という国家法、つまりは国家の枠組みでもある憲法の作成を慎重に進めることになる。

 

現在は民衆の意見交換と国家権力の分析、そしてその権力の分散と、行使。そこに焦点が当てられ、作成が行われることに。

 

これには北郷の意見も参考にされており、憲法条文の変更の際の民主的な手続き、また地方議会による地方分権・連邦国家による、共和制での国家統治を最終的には目指していた。

 

もちろん王族のしきたりを決める宮廷法の作成も同時に進行されていくことになる。

 

天子といえども法には従う、という考えのもと、王の権力の範囲明確化、そして行使出来る権力を法で制定する、という大陸での前代未聞な行いを周瑜派は行おうとしている。

 

そしてそれと同時に乱世の好奸こと早速曹操が動く。

 

彼女はさらに勢力を広げんと涼州連合を攻撃し、侵略を始めたのだ。

 

これにより馬騰を筆頭とした小国連合国家の涼州に対し、魏は完膚なきまでに叩きのめし、涼州連合は滅亡してしまう。

 

蜀・呉は涼州連合に対する魏への侵攻の警戒を強めていた分、直ぐ様軍事的な支援を行うも、曹操を前にしては劣勢を強いられた。

 

結局は魏の猛攻の前に蜀・呉は撤退し、涼州連合の生き残りは頭領・馬騰の娘である馬超を筆頭に蜀に保護されることになった。

 

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「えぇぇぇえええええん・・・・・」

 

撤退する両軍に保護された馬超たちは失意のまま撤退するが、馬岱の悔し涙を流す。

 

「蒲公英・・・・泣くなよ・・・・」

 

馬超はそれを見て弱々しい声で咎めるが、馬岱は止めどなく流れる涙をどうする事もできず、ただ自分たちの生まれ故郷が、そして肉親たちがいなくなってしまったことに絶望を感じるのは無理もないことだった。

 

「だって・・・・だってぇ・・・・」

 

耐えることができず、激情に身を任せ馬岱は大声で泣き叫んだ。それを見た涼州連合の生き残りの兵たちも、同様に涙を流し、自分たちの無力さと非力さを呪うかのように泣き喚く。

 

「・・・・泣くなよ・・・・頼むから・・・・母様・・・・母さん・・・・私は・・・私は・・・これからどうしたらいいんだ・・・・。教えてよ・・・・」

 

馬超もついに抑えきれなくなり、大声で泣いた。

 

最後に見た母の顔は死を覚悟しつつも娘たちに心配をかけさせないとする慈愛のある笑顔であった。

 

その最後の笑顔が馬超の頭をグラグラと揺さぶり、感情を激しく揺さぶる。

 

自分の生まれ故郷が滅ぼされ、師と仰ぐ母も死に、馬超はこれからどうして生きていけばいいのか?そしてどうしてこの家臣たちを、率いていかねばならない重圧に打ちのめされていた。

 

そんな馬超のそばに雪蓮と桃香がそばにより、肩を抱き合う。

 

「今は辛いかもしれない・・・。私も母様が死んだときは貴女と同じ心境だったわ。でも今の馬超たちには桃香もいる、そして我々もついているわ。貴女たちは決してひとりじゃない・・・・それだけは忘れないで」

 

「雪蓮さんの言うとおりだよ翠ちゃん。今は辛いかもしれない。でもこの生きている以上、必ずこの借りを返すことはできるはずだよ。私たちも翠ちゃんたちを救うことができなかった・・・・。私はこの借りは必ず返すつもりだよ・・・!!だから翠ちゃんも・・・ね?」

 

「桃香・・・・孫策・・・・うぅぅぅぅうう」

 

二人に励まされ、再び涙を流し続けるのであった。

 

「涼州連合が壊滅するとは・・・・。やはりもっと警戒するべきだった」

 

北郷は失意の馬超を励ます雪蓮たちを見ながら悔しそうに呟く。隣にいた冥琳も頷くと同様に表情はその暗く、悔しさを秘めていた。

 

「お前の言うとおりだ。今回は私の読みが外れてまった・・・。孔明たちと議論を交わし、曹操の侵略を予想したのだが・・・・。相手はやはり頭がいい。こうも裏をかかれるとはな」

 

冥琳たちは曹操の侵攻をあらかじめ考慮し、涼州連合を蜀と軍事的に支援し、防波堤になってもらうという構想を練っていた。

 

もちろん諸葛亮も連合の抑止力と、涼州連合の異民族の防波堤という役割を担っている側面を考慮すれば侵攻は早々はしてこないと踏んでいたのだが・・・。

 

だが曹操はそうした動きを予測し、涼州連合が成熟する時間を与えず、間髪いれずに攻撃をしてきた。

 

曹操はどうやら蜀と呉が連合を組んでいることを知っているのだろう。

 

ゆえに蜀と呉が連合軍を組む暇を与えずなかったのは、反董卓連合での連合での動きを見て、曹操は気づいたに違いないというのは北郷は容易に想像がついた。

 

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「涼州を制圧、そのあとはやつはどう動く?北郷、お前の考えを聞きたい」

 

「まず考えられるのは、袁紹だろう。やつは軍の再建がうまくいっていないと聞いている。このまま袁紹を押さえれば北方の敵はもはや異民族のみとなり、驚異がなくなる。これで南方への攻略の弾みがつくだろう。次に考えられるのが、劉表だ。南征への足がかりとなりうる戦略的な場所であるからな。劉表を抑えることができれば連合を分断できうるからだ」

 

「完璧な回答だな。ゆえに・・・我々も大きく動く必要がある。残された時間はそう多くはないぞ」

 

「それは孫呉の独立か?」

 

「それもある、だが・・・・ここではなんだ」

 

そう言うと冥琳は人気のない場所まで連れて行く。

 

「さて話そうか・・・。今は内密に動いてはいるが・・・実は山越と同盟を組むべく動いている」

 

「それはすごいな。だが君たちは山越との対立は凄まじいとの話もあるが、勝算はあるのか?」

 

北郷は驚きの声を上げる。というのも呉と山越は犬猿の仲と言っても過言ではなく、今現在でも小さなイザコザが絶えない隣国であった。

 

だが呉と互角に戦える軍事国家でもあり、またこの同盟が成立できれば南方の警戒をする必要がなくなり、北方に戦力を集中できるという利点もある。

 

山越としても大陸国家であり、迫害を受けていた漢王朝の弱体化に伴い、呉に独立を認めさせ国家として正当な地位の確率を目指していた。

 

また魏の肥大化が進むなか南方の防波堤としては、呉の進退というのが山越にしても十分気にはなる懸念事項であった。

 

両国互いの利害も一致しているし、山越自身も蜀呉連合の一員として、利益を享受が出来るかもしれないと考えてもいるようで最近になって交渉が本格的に始まっていたのだった。

 

「敵の敵は味方だということだ。条件としては山越を独立国家として認める、そして通商・交易の対等な地位の保証を認めるという形で交渉は行っているが・・・・」

 

「うまくいってないということか」

 

「うん、呉と山越の対立は前王孫堅より前まで遡るからな。そうやすやすと上手くいくものではない」

 

冥琳は苦虫噛み潰したような顔で進捗を語る。その表情からして優れた交渉人である冥琳をもってしても厳しい状況であるということを物語っていた。

 

「山越にも面子がある以上、そう簡単にこちらの提案には乗れないのだろうな。だがこのまま進捗がなければどうする?」

 

「・・・・最悪南征による制圧を考えている。だがそれは最悪の一手だろう」

 

「冥琳の言うことは理解できるさ。力による制圧は憎しみを生み、さらには戦争による荒廃による復興となれば同盟を結ぶ意味もないことは自明の理ということか」

 

呉が目指す同盟関係というのは山越の軍事力による更なる抑止力を狙ったものである以上、南征を成功させても、軍を壊滅させてしまえば元も子もないということだろう。

 

ましてや連合の参加を呼びかける以上は、互いを恨み、憎む戦争を行えばその構想は瓦解する。

 

恐らく冥琳や孔明他連合の参謀たちは、益州の平定後、南蛮とも交渉を行うつもりなのだろう。

 

大陸だけでなく迫害を受けていた他国を国家として尊重し、連合に参加させることで、北方の少数異民族の連合である五湖も恭順を示し、連合を強大に出来うる可能性を秘めていると考えていた。

 

そうなれば曹操を北方の五湖・西には蜀、南は山越と呉のよる広域な包囲網により押さえ込む事ができるという戦略的な意味合いももちろんある。

 

「ご名答だな北郷。ただそうなる前に互いに妥協点を見つけ、連合に参加してもらうよう奮闘する。山越を火の海にすることは私個人としても本望ではないからだ」

 

「そうだな」

 

無論そういった構想を抜きにしても冥琳は山越の侵攻は極力したくはないという考えであり、北郷も頷く。

 

ここで山越を討伐してしまえば、侵略国家としての汚名をかぶることになり、魏がその負い目を利用してくる可能性もある。

 

ましてや今後共和制連邦国家の樹立を目指す冥琳からしたら、民意が反旗を翻すことはなんとしても避けたいことでもあったからだ。

 

「じゃあ本格的な行動は呉が独立してからか?」

 

「そうなるな、独立ができれば更に交渉を加速させる。袁術の領土を奪えば、それを山越に割譲することも辞さないつもりだ。むろんタダでは渡さないがな」

 

領土を割譲してまでも山越との同盟を組みたい冥琳に、今での呉の立ち位置の危うさを北郷は痛感する。

 

連戦連勝の曹孟徳を止める、そして独立と悲願を成し遂げるのには、これしかないということか。

 

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「そうだな・・・。馬超のような悲劇をもう産まないためにも、やるべきことをしっかりとやっていくしかないだろう?俺も自分のできうることを後悔ないよう全力でする。それしかないのだろうな」

 

「北郷にそう言ってもらえると助かる。我々はここで立ち止まるわけにはいかないのだからな」

 

そして失意のまま涼州連合は蜀のもとに保護され、馬超たちは蜀の兵士として仕える事となった。

 

だがそれから暫く、呉に更に緊張が走る。

 

なんと劉表が突如病死したのだ。

 

これより曹操は圧力をさらに強め、その跡を継いだ嫡子である劉綜はその圧力に屈し、早々領土を明け渡す事になる。

 

冥琳と北郷の予想は大きく外れ、曹操の攻撃を受ける形で劉備が追いやられてしまったのだ。

 

曹操の侵攻が行われると劉備たちは傷口を広げることなく、いち早く撤退を図り都を遷都する。

 

蜀の奮闘もあり魏から逃げることに成功すると、それと同時に蜀はその勢いのまま、なだれ込むように劉璋が支配する益州を侵攻を開始することに。

 

蜀自身、自分たちの領土が曹操にぶんどられてしまったことからの危機感もあった。

 

だがこの曹操侵略による撤退に危機感を抱いたのは呉であった。

 

雪蓮は連合消失の危機感を呉が強く抱くと蜀に対して、大規模な軍事支援を行い益州攻略戦を支援すべしと声を上げた。

 

「蜀の危機ということは連合消滅の危機でもあるということ。ここは正念場よ!兵を動員し、益州攻略を支援するべきだわ!」

 

と蜀の撤退という報告を雪蓮は聞くと直ぐ様家臣を招集。

 

王座の間で雪蓮が声を上げると家臣一同は賛同の声を上げる。

 

「姉様の言うとおりだわ。劉備たちには我々も恩義がある。このまま彼女の危機を助けず、漁夫の利を得るような行為をして果たして民に対し顔向けはできるであろうか!?」

 

と妹の蓮華が雪蓮の意見に先陣をきって声高々に賛同をする。

 

以前は姉の一歩後ろに引いていた妹が矢面に立ち、声を張り上げるその姿を見て雪蓮は僅かにではあるが姉の顔に戻り、微笑む。

 

(成長してきている・・・・ってことね。フフフ・・・・お姉さんも嬉しい限りよ)

 

心の中で妹の変化を喜ぶと同時に再度声を上げる。

 

「蓮華の言うとおりだわ。わが友を見捨てる行為は孫呉の恥。この危機を見捨てることを果たしして呉の民が許すであろうか?断じて、否である!友を見捨てず手取り助け合う姿に民は我々を信じ、共に剣を取り戦うのだ!ゆえに軍に出立準備をさせい!!」

 

「「御意!」」

 

雪蓮の号令を聞くと家臣は敬礼をすると直ぐ様自分の持ち場へと早足に去っていくなか、冥琳は雪蓮に耳打ちする。

 

「雪蓮・・・・例の山越の件だが・・・どうする?」

 

「できればしたくはなかったのだけど・・・仕方ないでしょうね。使者を送ってくれる?」

 

「了解した」

 

そう短く伝えると冥琳は急いで王座の間をあとにする。ひとり残された雪蓮はポツリと一人しゃべる。

 

「あの世で母様に半殺しにあうのは確実ね・・・・。でもこの時代、そうは言ってられないものねぇ・・・」

 

そう言い肩をすくめると雪蓮は思わず天を仰ぐように上を見上げ、溜息をつく。

 

「だけど時代は変われば、考えも変わる。それに対応していかなければ、今度滅ぶのは私たちになる。それは私は絶対嫌なのよ、母様」

 

雪蓮はそう呟くと、王座を立ち上がり、迷いのない凛とした佇まいで歩き出していくのであった。

 

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そして益州攻略戦では雪蓮直下の北郷隊と甘寧隊、そして新たに加わった呂布隊と周泰隊と、呉が持つ最高戦力をもって蜀を支援することを決定しすぐに馬を走らせる。

 

「はぁ〜い?桃香♪」

 

そして蜀の天幕で軍議を行っている一同の前に雪蓮は笑顔で現れた。

 

蜀一同は軍議を行っている最中であったが全く進展はなく、参加している者の表情は暗く、どんよりとした雰囲気が支配している中での雪蓮の姿はまるで太陽のように輝き、後光が差しているようだった。

 

「しぇ、雪蓮さん・・・・!!」

 

桃香は驚愕あまり口をあんぐりと開けた状態であったが、雪蓮はそんな彼女をみておかしそうに笑いながら再度口を開く。

 

「困ってるって聞いたからね。助けに来たわよ!」

 

「・・・・・ありがとうございます!!」

 

涙を浮かべて頭を下げる桃香を関羽はチラリと一瞥し、雪蓮の方を向くと頭を下げる。

 

「我々の危機にこうして駆けつけてくれたこと、感謝余りある。蜀の兵の代表として、私からも、礼を言わせてもらう!」

 

「ふむ、呉軍が来てくれたのならこの攻略戦、勝機は見えたというものだな。朱里よ、そうであろう?」

 

趙雲がそう投げかけると孔明は興奮のためか顔を赤く紅葉とさせながら同意する。

 

「ひゃ、はい!はわわ・・・まさかこんなことって・・・」

 

「あわわ・・・・・」

 

「想定していない事態に直面し、慌てるところは相変わらずだな孔明、?統」

 

?統と孔明はアワアワと慌てるのを見て笑みを浮かべる冥琳がそこにいた。

 

「今回は私も出張る。存分にこき使ってくれよ、孔明殿」

 

そう言うと冥琳は余裕の笑みを見せる。

 

呉のトップ2人のこの冷静さが蜀のどんよりとしていた空気を一気に晴らしていく。

 

孔明は目をカッ!と開くと声を上げ拳を上げる。

 

「・・・・皇国の存亡この一戦にあり!です。雛里ちゃん!呉の人達ともう一度策を練ろう!!」

 

「あわわ・・・うん!分かった」

 

二人は呉軍と連携をし策を再度練るつもりであり、喧々諤々と熱い議論が始まった。

 

前線は呂布がこじ開け、両脇は北郷隊、甘寧、周泰が挟撃をかけ、さらに蜀の五虎将軍こと有能な将たち率いる蜀軍により劉璋がいる益州を強襲する。

 

「じゃま・・・・」

 

呂布はそう呟くと方天画戟を横になぎ払う。

 

それと同時に何十人もの劉璋軍の兵士が吹き飛ばされていく。

 

「恋殿の進軍を止めることなどできないのです!」

 

陳宮は呂布の後ろに隠れるような形で涙目でそう叫ぶ。

 

陳宮の呂布付きの軍師とはいえまだ子どもである。

 

度胸もあり、この戦場の雰囲気に飲まれず、呂布に指示を出すあたりは流石というところか。

 

「呂布軍を支援する!北郷隊、攻城戦用意!!」

 

そう叫ぶと北郷たちの工作兵を守る形で遊撃隊が前に出て敵を押し出していく。

 

「敵をそのまま押し出せ!!呂布の進撃と波長を合わせて攻撃をするんだ」

 

北郷は敵を1人2人となぎ倒すと、声を上げ部下に激励を出す。

 

「北郷隊長!!呂布が前に出すぎています!!」

 

「呂布を守れ!!前衛から工兵展開!」

 

そういうと前に出ている呂布の側面を直ぐ様工兵が取り付きガードを固め側面を守る。

 

「むむむ・・・前に出すぎたです・・・・あ!恋殿!これはあの北郷隊とかいう・・・・」

 

「ん。助かる・・・・」

 

呂布はこくんと頷くと北郷隊に礼を言う。

 

「呂布!加勢に来たぞ!!騎兵隊を前に立たせ、呂布を援護しろ!!戦車を出せ!!甘寧軍と周泰軍は?!」

 

北郷がさらに指示を出して、副官が角笛で部隊に知らせると直ぐ様、騎兵隊とは別に馬をつなげたチャリオット、馬車のような貨車を引っ張りながら後方から凄まじいスピードで敵を蹴散らしていく。

 

戦車隊が先陣をきるとそれと同時に騎兵隊が敵を蹂躙し、敵を戦車で轢き、馬で蹴り飛ばす。

 

轟音が響く中伝令兵はそのまま俺の耳元で大声で捲し立てる。

 

「現在甘寧・周泰の部隊が我々の方に向かっているとのこと!!」

 

「火力を集中して一点突破!というわけか」

 

北郷が伝令兵の報告を聞きそう呟くと陳宮はウンウンと大きく唸る。

 

「是非もないです!!恋殿がいれば問題ないのです!」

 

それから暫く、右側面から大きな混乱が生じる。甘寧・周泰の部隊が到着したのだ。

 

「甘寧・周泰の両部隊が到着です!」

 

「すまない北郷!」

 

「遅れてしまいました!!」

 

思春と明命がそう言うと北郷の前に姿を現す。それを見て北郷を強く頷き指示を出す。

 

「部隊を集結後に呂布の突撃を支援し、我々も前に出る!!総員一斉射のあと突撃!敵を城に追いこめるんだ!!」

 

北郷がそう言うと部隊は弓矢の一斉射が行われ、その後吶喊する。

 

呂布の攻撃に合わす形で呉軍は敵を一気に粉砕していく。

 

「両翼から蜀の援軍!!」

 

「遅いぞ!!孔明はなにをやってる!!」

 

副官の報告にそう北郷が叫ぶ。

 

彼からしたら自分たちの一斉射の笛を吹いたあとに両翼から攻撃して欲しかったようであり少し不満げでもある。

 

ただそれは現場にいる人間と軍師との温度差が垣間見える瞬間であったがこれでも順分な展開速度ではある。

 

それほどまでに彼は度重なる戦闘で成長をし、勘が冴えてきたということだろう。

 

後方から祭と黄忠と冥琳の弓兵隊が一斉に弓を放ち援護射撃を行う。

 

蜀からの挟撃が加わり、敵は出鼻をくじかれたようで撤退の動きを見せていた。

 

「隊長!敵は城に退却をしていきます!!」

 

「逃がすな!!総員追撃!!騎兵隊を再度突撃させろ!!!」

 

「恋殿!!ここは前に出ましょうぞ!一気に敵を蹴散らすのです!」

 

「ん・・・・がんばる」

 

「前進だ!!劉備軍に遅れを取るな!!」

 

北郷がそう叫ぶと同時に追撃を開始する。

 

彼は逃げ惑う劉璋軍の兵士をアレよコレよと切りつけては返り血がべっとりと張り付く。

 

それを見て劉璋軍は江東の赤鬼が自分の目の前にいることに恐怖し、さらに戦場を混乱に陥れる。

 

と同時に飛将軍呂布の強烈な攻撃と呉で1・2を争う技量を誇る思春らがそこに加わり鬼に金棒という状態であった。

 

こうして劉璋軍は開戦での敗戦後、城に閉じ込められ籠城を余儀なくされた。

 

昼までの激戦のあとの夜戦も敢行され、深夜に周泰の工作兵たちが密かに設置した大量の粉末を冥琳と祭とそして黄忠が率いる弓兵隊が火矢で斉射。

 

籠城を構える劉璋の城壁に豪音と共に崩れ落ち大穴があく。

 

「火計は戦略の基礎とはよく言ったのものだな」

 

冥琳は得意げな顔で崩落する城壁を見やりながら一人つぶやくと祭と黄忠も頷く。

 

「うむ、ここまで上手くいくとはな・・・・。城壁も崩れた、ここからが正念場よ」

 

「黄蓋さんの言うとおりです。このあと我々が主導権を取れるかどうか・・・・」

 

後方では雪蓮と蓮華、劉備の隊が連携をとり、劉備を慕ってついて来た避難民や難民たちの救助支援を行う形となった。

 

城壁の崩落より戦力を一転集中させ突破を図る連合軍に対し、爆破の混乱がまだある中で劣勢に立たされる劉璋軍。

 

結果は火を見るより明らかであり戦局が転換する。

 

孔明は扇を振り、声を出す。

 

「城壁が壊れてしまえばこっちのものです!!全軍の火力を集中!!城侵入を目指します」

 

城壁崩落と同時に一気に進行を開始する連合軍になすすべなく侵略を許す劉璋軍。これにより降伏勧告が出され、劉璋はこれを受諾した。

 

これで益州攻略戦は連合軍の勝利となり、劉璋は敗走。蜀は遷都し益州の成都に都を設けた。

 

現在、益州全土は蜀の統治下に置かれ益州の沃土な土地による大量の作物を作ることのできる領土を確保できた。

 

これにより国力は一気に増し、劉備は一気に有名諸侯の仲間入りを果たす。

 

まさしく怪我の功名ということか、と連合の参謀たちは苦笑いを浮かべるのであった。

 

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それから暫く蜀との交易が本格的になると、銭の為替、両替商が発達する。

 

金銭の両替・人民の交易による輸出入の通商が始まり蜀、・呉で経済的な結びつきが大きくなっていった。

 

蜀は呉との為替・両替商を見て、さらに通貨による経済発展をさせようと考えたようで?統を中心に経済改革を実施。

 

商売人や町人たちの資金を集めて保管し、その金を用いてほかの商人を資金的に支援する、という金融制度を創設する。

 

現代で言えばいわば銀行である。

 

最初は試験的であったが資金の調達、財の貯蓄が天子の名のもとによる権威ある蜀の管理のもと行われる、という安心感からか町人はこぞって預金を始めた。

 

集まった資金を活用し、商人の融資を行い、商人がさらなる財投資をすることで、経済の好循環を産み出し蜀の経済発展に大きく寄与することになった。

 

呉も蜀のノウハウを享受する代わりに、経済法典の開示を交換条件とし銀行を創設し、同様に財投資を活発化させた。

 

蜀も呉とほぼ同じ経済法を制定し、この法律は呉との交易による国家間での貿易紛争解決にも用いられることになった。

 

成都と建業は大きく発展し、両国の国民は法による支配と所有権の確率という概念が浸透していくことになった。

 

だがそうした呉・蜀の独自の法の支配による動きを全くコントロールできない漢王朝は、より求心力を大きく失い、諸侯たちの動きが活発化する。

 

これは食うか食われるかの群雄割拠の幕開けを意味した。

 

涼州連合、劉そうを鎮圧した魏は勢いそのまま袁紹と開戦。

 

これが官渡の戦いと言われる戦いである。

 

下馬評では巨大な軍事力を持つ袁紹が圧倒するということであったが、曹操はその下馬評を見事ひっくり返した。

 

敗因としてはやはり反董卓連合でおった虎狼関での戦いの損害が予想以上に大きく、軍の再建に時間を要していたことが挙げられた。

 

それはあのとき共闘した袁術もいえる。

 

袁術もあの後手痛い打撃を受け、孫呉の行いを完全にコントロールする事ができなくなりつつあることからも伺える。

 

呉軍の蜀の大規模な援軍派遣も袁術の軍の停滞具合と陰りが生まれつつあるのを見越しての判断であり、呉の主力部隊をたとえ動かしても袁術は動けない、というジレンマを抱えていたのを冥琳は見切っていたからであった。

 

話は戻すが袁紹は自分の領地を追い出され、敗走。

 

その後袁紹を蜀の桃香たちは偶然発見、これも保護することに・・・・。

 

そしてその裏で袁紹の敗走のよるどさくさを好機と捉え、呉は袁紹に捕らえられていた黄忠の家臣でもあった厳顔と魏延を密かに保護するという作戦を北郷は立案する。

 

魏が袁紹との戦闘の混乱から立ち直れていない隙を狙う形となり、今が好機であると冥琳たちを説得するべく北郷は彼女と話し合う。

 

「黄忠の家臣を救出・・・だと?」

 

「はい、魏は袁紹の広大な領地をまだ完全には占領は出来てはいません。この混乱に乗じ、我々が潜入部隊を組織し救出します」

 

「続けろ」

 

「はい。潜入、救出が任務でありますので少数精鋭の部隊編成が必要となります。従って我が部隊1個大隊で編成後、密かに潜入し厳顔らを救出します。現在、間諜を放ち情報を収集中でありますが、黄忠の家臣である厳顔・魏延のいる牢獄は判明しています故、あとは実行を待つのみです」

 

「なるほどな・・・・だが呉の利益がないぞ、北郷。蜀との連合であるのでもちろん検討はするが、我々の利点がなければ貴重な兵をやるわけにはいかないな」

 

と北郷が説明をするも冥琳は彼の提案書を鋭い目つきで睨みつけたあと、ペンペンと提案書を叩く。

 

「・・・・しかし・・・・・出兵にかかる資金の件も十分検討はしています。こちらをご覧ください。部隊編成を最大限圧縮しての編成として、短期での救出を目標としています。兵の損失、軍資金等の損失は最大限少なくなるつもりでありますが・・・」

 

そう言うと冥琳の持つ提案書のページを開き、説明をするが冥琳は厳しい顔を崩すことはない。

 

「ふむ・・・・お前の気持ちは分かるつもりだ。友軍での黄忠の支援は我々も感謝しているが、それとは話は別だ」

 

「分かりました・・・・・」

 

そう言って肩を落とし、冥琳の執務室を去る彼を冥琳は見送る。

 

その後彼女は机に置かれた立案書を手に取りすぐに雪蓮に執務室に向かう。

 

「雪蓮!今回の出兵なのだが・・・・」

 

「一刀の提案ね・・・・。私も承知しているわ、こちらとしても孫呉は義に背くことはしないってね。しかし冥琳も意地悪ね」

 

「・・・まだまだツメが甘いからな。この作戦立案で私を唸らせるなど百年早い」

 

そう言うと雪蓮の机にペシンと彼の書いた作戦立案書を叩きつける。それを見て雪蓮もにやりと笑う。

 

「でもこうして私に掛け合う・・・。冥琳も素直じゃないのねぇ」

 

「・・・・・否定はしないさ。私としてもこの連合は重要な関係であると認識している故だよ。ただ蜀と交易は我々も利益を享受している以上、貸し借りは無しにしたい。政治的な駆け引きもあるということさ」

 

暗い笑みを雪蓮に浮かべる冥琳。そんな彼女を見てうへぇ・・・・とげんなりした顔で苦笑する雪蓮。

 

「いい性格してるわね〜。素直に救いたいって言えばいいのに」

 

「・・・・・・・・・フン」

 

冥琳は無言で雪蓮をギロリと睨むが、まぁいいかとでも言うように肩をすくめた。

 

「いや、そうだな・・・・。お前の言うとおりだよ雪蓮。ここは素直に救いたい、と言うべきなんだろうな」

 

少し寂しく笑うとそう言って執務室を出ていった。

 

雪蓮はその後ろ姿を微笑んで見送ると、直ぐ様詠たちを呼び出す。

 

「なに?」

 

「なんでしょうか?雪蓮様」

 

「北郷を呼んで頂戴。救出作戦の裁可が降り立ってね」

 

「「はい」」

 

その後二人により呼び出された北郷は、雪蓮に知らせを聞くと、少し興奮した面持ちで頭を下げた。

 

「ありがとう!雪蓮!!」

 

「礼は冥琳に言うことね。貴方の立案書をコッチにあげたのは彼女なんだから」

 

「え?!冥琳が・・・・?でも彼女は・・・・この作戦は受け入れられないって・・・」

 

「貴方の前ではああいうけど、考えていることは貴方と一緒ということ。まったく素直じゃないんだから」

 

「そうか・・・冥琳・・・・後で礼を言わないと・・・」

 

「出立は1週間後、それまでに部隊を編成し終えること。今回は速度ある展開が必須だからね。モタモタしてられないわよ」

 

「雪蓮、それは問題はないよ。もう部隊の編成は終わっている。いつでも行ける」

 

「流石!抜かりないわね。では直ぐ様厳顔・魏延救出作戦を発動する!北郷よ!今回も孫呉のために邁進してくれること期待しているわ」

 

「御意!」

 

そう言うと敬礼をし北郷は出ていく。それを見て雪蓮は少し嬉しそうにクスリと笑う。

 

「フフフ・・・気合入れちゃって。まぁ一刀がいれば大丈夫でしょう・・・。さて軍令部に話をつけに行きましょうかねぇ」

 

雪蓮は北郷を見送ったあと腰を上げ、執務室を出ていった。

 

-7ページ-

 

直ぐ様潜入隊を組織し救出作戦を展開することに。

 

潜入部隊は第15部隊、通称北郷隊が主立って行われることに決まる。

 

俺はその後蜀に移動し、ブリーフィングを行う。

 

「今回の作戦は黄忠将軍の家臣である、厳顔、そして魏延の保護を目的とする!作戦の詳細は北郷隊長が話される!」

 

副官が皆の前で注目させるとお願いします。と頭を下げる。俺は皆を見渡し声を張り上げた。

 

「今回は潜入任務ゆえ少数精鋭だ。また援軍も厳しい中での困難な作戦ではあるが、諸君たちの奮闘により成功できると考えている。まずはこれを見て欲しい」

 

そう言うと北郷は紙を広げ部隊長たちに説明をする。

 

「現在厳顔と魏延が捉えられている牢獄は未だ曹操の支配下にはおかれていない。そこで陽動作戦を蜀が敢行し、敵を引き付ける。牢獄の前には山岳部であるゆえ侵攻方向は限られている。現在推定される敵の侵攻路としては東側と南側の通行路を通るはずだ。そこで蜀の部隊をこの2つの通行路に配置させ、強襲をかける」

 

地図を広げると北郷は地図に書いてある通行路の位置に駒を二つ置く。そのあと北郷隊と書かれた駒を3つ別々の位置に配置をさせる。

 

「強襲のあいだ我々は部隊を3つに分け捜索を開始する。牢獄は広くはない。必ず短時間に見つけられるだろう。なお3つの部隊名は識別を容易にするため白虎隊・九尾隊・玄龍隊と名付ける」

 

「3つに分ける根拠はどういったもので?」

 

部下が尋ねると北郷は冷静に説明をする。

 

「牢獄が3つあるからだ。ゆえに3つに部隊を分けることにした」

 

なるほどと先程の部隊長は頷くと北郷はさらに説明を続けていく。

 

「もし可能であるのなら袁紹に逆らったとされる政治犯や文官なども可能であれば救出するように。救出、潜入は蜀の強襲が始まってからだということを忘れるな!もちろん我々も潜入前に芝居を打つ、蜀の攻撃前に敵の注意を牢獄から離すため魏がいるであろう警戒区域に粉砕爆破をしかける」

 

「爆破により敵の注意を引きつけ、蜀がそこに攻撃を加える・・・と?」

 

「そうだ。今夜工兵班は通行路に粉末を仕掛け、明朝に火矢により爆破させる。それを合図に蜀は強襲を開始するという手はずにしている」

 

皆が大きく頷くのを見ると部隊長たちに激励の言葉を投げかける。

 

「説明は以上だ。この作戦が成功した暁には有給休暇2週間が与えられる。さっさと終わらせて楽しい休暇といこうじゃないか!」

 

「「ハッ!!」」

 

部隊長が敬礼をすると直ぐ様解散し持ち場に戻っていく。

 

そして深夜に伝令兵から工兵が粉末の配置を完了させたとの報告を受けた。

 

「よし、このまま予定通り待機!明朝に爆破後直ぐ様退避させろと伝えろ!」

 

「御意!」

 

伝令兵が去っていくと直ぐ様副官を呼び戦闘配置を命じさせる。

 

「戦闘配置だ!!」

 

副官がそう言うと一斉に部隊は潜入行動を開始。3つに分かれやがて姿を暗闇にくらます。

 

北郷は玄龍隊の長として潜入を指揮するべく現地へと出張る。

 

間諜の情報を収集を緻密におこなった北郷隊に暗闇であっても迷うという事はなく、闇をソロソロと移動していく。

 

潜入してから暫く山々に隠れるようにそう大きくはない建物を発見する。これは牢獄であろう。

 

それから残りの白虎隊と九尾隊の到着を待つ。

 

「明朝までまだ時間はある。監視兵を配置後、今のうち休んでおけ」

 

北郷はそう言うが北郷はずっと牢獄を見据え、休むことなく監視を続ける。

 

敵の動きを少しでも知りたいという思いもあったからだ。

 

「見張りは魏兵だな・・・・。もはや三公輩出の名家である袁家は見る影もなし・・・か」

 

「そのようですね・・・・。ただ爆破後の混乱に乗じれば勝機はあると・・・・」

 

となりで一緒に監視している副官は同意する。

 

「そうだ。魏はまだこの僻地にまで主力部隊をやれるほどの余裕はないはずだ。今いる兵も後方部隊の末端だろう。練度は推して知るべし・・・だな」

 

「違いない。この作戦なんとかなりそうですな」

 

「ああ」

 

そう言うと引き続き監視を続ける。

 

敵はおそらく200人もいればいいといったところか。

 

戦略的に価値があまりないこの牢獄に人数をかける意味はないということだろう。

 

そうこうしているうちに夜明けが、山々を照らし始めると同時に、轟音が鳴り響く。工作兵が爆破したようだ。

 

それから暫く、牢獄を監視する。敵は動揺しているようで直ぐ様兵士を爆破した通行路へと向かわせていく。

 

それからさらに暫く、遠くから戦闘を知らせる笛が鳴らされた。戦闘が始まったようだった。

 

「よし、予定通り潜入するぞ!!」

 

3つの隊はその後牢獄を強襲し、残っている魏兵士を素早く鎮圧していく。

 

「ひ・・・?!なんでこんなところに呉兵が?!」

 

敵は怯んでいるが戦力を蜀の方に向けてしまっている状態では江東の赤鬼を押しとどめる事はできない。

 

いつも通り敵の返り血が北郷の服、防具を真っ赤に染めると敵兵は恐れ慄く。

 

「江東の赤鬼だ・・・・・。助けて・・・・」

 

「逃げろ〜!」

 

魏の兵士たちは北郷を前に逃げ出していく。

 

「赤鬼の面目躍如ですな!自分が魁となります隊長!こいつ・・・どけぇ!!」

 

そう言うと副官は敵を弾き飛ばし牢獄へと突入していった。

 

俺もそれに続くと捕らえられている人々を救出していく。

 

「あぁ・・・ありがたや」

 

そう言って感謝の言葉を向ける囚人たちを保護するが厳顔や魏延は見つからない。

 

どうやらこの牢獄にはいないようだが直ぐ様、標的発見の角笛がほかの部隊が鳴らす。

 

「隊長!!厳顔と魏延と名乗る女性を白虎隊が保護!!作戦は成功です。撤退を!!」

 

「ああ、総員撤退!!」

 

撤退の角笛を鳴らしその後可能な限り投獄されていた者たちを救出し、撤退を開始する。

 

その後敵の追撃もなく、苦もなく救出ができた。

 

まさに台風のようにかき乱して去っていったといったところか。

 

 

 

その後陣営に戻ると救助した人々の治療が行われており、やせ細った囚人たちを用意させていた救護兵たちが看ている。

 

副官が北郷が来たことに気づくと敬礼をして案内をする。

 

「隊長、厳顔はこちらに・・・・」

 

二人は厳顔がいるであろう天幕に入ると食事をバクバクと食べる美女がそこに。

 

隣の救護兵があまりの食いっぷりに苦笑している。

 

灰色の髪色を煌びやかな簪(かんざし)で纏めた妙齢の美女は黄忠と同い年くらいであろうか。

 

投獄されていたということで少しヤツれていだがこの様子を見る限り体調自体は問題ないようだ。

 

「ふぃ・・・・久しぶりに食ったな。ん、貴殿か儂らを救ってくれた者は」

 

「はい、我々は黄忠将軍の友軍である呉の部隊のものです」

 

彼はそう言うと同時に救護兵を見やると救護兵は頷き、会釈をして天幕を出ていく。

 

「おお!!紫苑の友軍か・・・あやつめ粋なことを・・・。貴殿には命を救われたな、感謝する」

 

「我々も黄忠殿に支援をいただきました。これで御恩が返せて嬉しい所存でございます。厳顔殿」

 

「桔梗だ。命の恩人に真名を許さんなど言語道断よ」

 

「そうですか。では桔梗殿・・・・」

 

「ああ、敬語はいいですぞ。かたっ苦しい扱いはなれておりませんでな、お館様よ」

 

「・・・・お館・・・・・?」

 

思わず聞き返してしまう北郷だが、厳顔はカッカッカと太陽のような明るい笑顔を見せる。

 

「うむ、命の恩人ですゆえ。貴殿をそう呼ばせていただく。ご不満か?」

 

「まぁ・・・・それだったら・・・・構わないが・・・・」

 

「ではお館様今回助けていただいた御恩、この厳顔決して忘れませぬぞ」

 

厳顔は頭を下げる。北郷は慌てて恐縮し頭を上げてくださいと言う。

 

「ん、ではお館様、わが家臣魏延は・・・?離れ離れになってしまいましてな、心配でして・・・」

 

「魏延は我々が保護している。現在は大事をとって別の天幕で安静にしているよ」

 

「そうであったか。いやぁ結構結構!!」

 

ハッハッハと豪快に笑う厳顔に、北郷も少し笑顔を見せると桔梗に今後の話を持ちかける。

 

「蜀には黄忠殿もおられるし安心して欲しい。桔梗さんたちは救護兵による診療後、異常がなければ直ぐ様蜀に向かわせるよう手配するつもりだ」

 

「感謝申し上げますお館様。ふふ・・・・しかし・・・・」

 

「ん?なにか?」

 

「いえいえ、わしもまだまだ捨てたものでもないということですな。こんなイイ男に救ってもらえるなど、美女冥利に尽きるというもの」

 

「ハハハ・・・桔梗さんが美女であることは否定はしませんよ。ただ黄忠殿には我々部隊としても支援をしてくれた恩義はある。これで忠義を尽くせたことは孫呉の兵としての誉れではあるな」

 

美女であると言われ桔梗は一瞬動揺の色を目には知らせるが、すぐに表情を飄々とした雰囲気に戻す。

 

「な?!・・・フフフフ・・・・口も回る、さらに忠義にも厚いとはお館様も食えぬ男よ、ますます気に入りましたぞ。今度蜀に寄られたときは、是非とも一杯やりたいところですな」

 

「そうだな。そのときはよろしく頼む、桔梗さん」

 

そう言うと二人はガッチリと強い握手を交わす。

 

厳顔は握手をするとキラリと光る強い眼差しをこちらに向けるが北郷はその視線を軽く受け流す。

 

その素振りを見て桔梗はほうぉと声を上げると、ニヤリとこちらに笑みを向ける。

 

北郷は彼女に微笑むと会釈をして、後ろについてくる副官と共にそのまま天幕をあとにした。

 

そして天幕から去った後、副官が隣で深い溜息をつく。

 

「疲れているようだな。心労というところか?」

 

「ええ、ヒヤヒヤですよ全く・・・・。あの目つきは間違いなく殺気に近いものでしたから」

 

「厳顔は芯ある肝のすわった武将だ。俺を試したというところだろう。ただ豪快ではあるがゆえに純粋なお方だ。扱いやすいといったほうがいいのか・・・。信頼における人間だと俺は思っている。無論こちらに真名を預けるということは敵意はないだろう」

 

「そうでありますが、しかし・・・・」

 

「心配症は貴様の悪い癖だぞ。このまま厳顔と魏延の治療後は、そのまま蜀に合流だ。その後建業に我々も帰還する。楽しい休暇といこうじゃないか」

 

「忠告肝に銘じます。ではこのまま彼女らの診断を行います。」

 

「よろしく頼む。俺はこのまま蜀に陣営に行って、厳顔らの保護を手配してくる。お前たちは陣営の撤収作業に入ると同時に、いつでも魏延と厳顔を引き渡せるようにしておけ」

 

「了解です。それまでは北郷隊は私が見ます。いってらっしゃいませ」

 

副官に指示をしてから俺は蜀の陣営へと向かうため馬を走らせる。

 

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そして蜀の陣営に着くと兵士に北郷であると伝える。

 

暫くすると案内がされ天幕へと向かうと軍師である諸葛亮と将軍の関羽の二人がそこにいた。

 

「北郷殿!来てくださったのか!」

 

関羽は少し嬉しそうにこちらに向かうと笑顔で握手をしてくると背中をバンバンと叩く。

 

「ええ、作戦は成功しました。被害は?」

 

関羽に笑顔で笑いかけると同時にガシッと握手を交わしたあと、孔明に蜀の状況を聞く。

 

「はい・・・、こちらも損害は軽微です」

 

孔明がそう答えると俺は彼女に頭を下げる。

 

「陽動での展開をしてくださったこと、友軍での共闘に孫呉の兵を代表してまずは礼を言いたい。貴女たちの働きがなければ、我々も潜入はできなかっただろう」

 

「こちらこそ厳顔、魏延の2人のため兵を派遣してくれたこと、大変感謝しています。王である劉備の代わりに御礼を申し上げます」

 

北郷が頭を下げると諸葛亮もつられるように頭を下げて感謝の辞を述べる。

 

「私からも礼を言わせてもらうぞ、北郷殿。貴殿の策、見事であった。我々も容易に奇襲に移行ができたのも、貴殿の兵たちの練度の高さ故だと思っている」

 

関羽も北郷の方をポンと叩くと労う。

 

その表情は作戦が成功したことによる興奮か、些か高揚しているようにも見える。

 

「恐縮です関羽殿。さて孔明殿、厳顔と魏延の2人は今は保護していますが、心身に異常がないようでしたら、直ぐ様そちらに合流させたいと考えています。どうでしょうか?」

 

「分かりました。ただ・・・・」

 

「ん?なにか?」

 

腑に落ちない態度で北郷に接する孔明を彼女らしくないと思い不審に思ったが、その表情が彼が予想していることであろうというのは容易に把握ができていたので不審に思うことはなかった。

 

「はい・・・・、わざわざ北郷さんがここまで我々を支援してくれるというのが・・・・」

 

「こちらに利点がないのに、という事ですか?」

 

「そうです。先の益州攻略戦も放っておけば、我々を吸収することができたはずです。吸収ができれば優秀な将が呉に付くことになり、天下への道が近くなるはずなのに・・・なぜ我々にそこまで協力を?」

 

「おい!朱里!!その言い方は北郷殿に失礼であろう!!」

 

孔明がジッと北郷を見つめながら疑問を呈すと、関羽もマズイと思ったのか、声を荒らげ無礼であると声を上げる。

 

「いえ構いませんよ、関羽殿。そうですね・・・・実際この作戦を立案したのは私ではありますが、一度拒否をしたのは冥琳です。その理由は孔明殿が言ったような理由でありましたね」

 

「・・・・そうですか・・・やはり・・・」

 

孔明は少し落胆したように顔をわずかに落とす。

 

呉が利益享受のために動いていると考えているのだろう、と彼は悟ったがそのまま話を続けることに。

 

「ですが冥琳はその後雪蓮に掛け合うと、直ぐ様蜀と共同戦線を呼びかけています。それが答えだ・・・ということではないでしょうか?」

 

「え?!・・・つまり我々を仲間だと・・・そう思っているということですか?」

 

「はい、孫呉の人間は仲間だと認識したら、見捨てることはしません。その行いを民が見ることで忠義を示し、力を貸してくれるのだと。それが孫家の家訓のようです」

 

「損得勘定を考えず、仲間のために・・・か。孫策も周瑜殿も相当な度量の持ち主であるな・・・」

 

関羽は感嘆の表情で深く頷く。

 

「冥琳は表面上はああは言いますが、この連合を大事にしていきたい、と彼女自身が常日頃公言しています。素直じゃないんですよ、特に彼女はね」

 

黄巾党討伐での蜀との共同戦線での勝利の宴を幸せそうに見守るあの時の冥琳の笑顔が彼の頭によぎった。

 

彼女の軍師という仮面の裏には、雪蓮やほかの人々の幸せを誰よりも願う心優しい女性であることを知っている北郷は、冥琳のそういった偏屈な姿勢に内心苦笑をする。

 

それを聞くと孔明は満足そうに微笑む。

 

「北郷さんありがとうございます。これで桃香様には良い報告ができそうです。我々としても呉とは共存共栄を果たしていきたい、改めてそう思えるようになりました」

 

「そうですか、それは私としても良かった。こちらも雪蓮と冥琳には良い報告ができそうです」

 

孔明と北郷は再度握手を交わすと笑顔を交わし合う。

 

関羽も孔明の蟠りが溶けたことに満足しているようで、嬉しそうに微笑み強く頷く。

 

「そうであるなら、北郷さん私の真名を受け取ってもらえるでしょうか?」

 

「ああ、朱里の言うとおり私も異議はない。北郷殿どうか私の真名も受け取って欲しい!そして共にこの乱世を戦いましょう!」

 

「分かりました。これからは良き戦友、良き理解者、そして良き盟友であることを切に願う所存です、朱里殿、愛紗殿」

 

三人で強く頷きあうとお互いの顔を見つめ合う。

 

三人のその眼差しは強く、決意に満ちた炎がメラメラと燃え上がっているかのようであった。

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遅れました。仕事が忙しく、なかなか執筆が進みませんでした
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冥琳 雪蓮 真・恋姫無双 呉√ 恋姫†無双 

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