新・恋姫無双 〜呉戦乱記〜 第11話
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その後厳顔と魏延二人は治療を受けたあと蜀のもとへと送り出し、北郷隊は呉に帰還。

 

北郷はすぐに軍令部に赴き、冥琳に報告をする。

 

「・・・以上が戦果の報告であります。なお我が軍の損害としては軽傷者は10名、重傷者0名、死者0名であります。現在軽傷者は治療を受けており、回復後に部隊復帰させる予定となっております」

 

「報告ご苦労・・・・、この度の軍事行動はよくやったな。それで・・・」

 

「はい、厳顔・魏延をあちらに引き渡しましたが、コチラも袁家の投獄されていた文官一同を救出することに成功しております」

 

「よし、上出来だな。あちらも優秀な将兵が復帰したのだから、コチラもそれなりに旨みがないとな」

 

「孔明殿は気づいておられてますが・・・・?」

 

「益州攻略と現在の厳顔・魏延救出に我々も手を貸しているのだ。恐らく遺恨を持ち込むことはしないはずだろう。相手が得すぎることもなく、こちらも貰いすぎることはない、まさに可もなく不可もなくといった状態だ。これでお互い十分な利益が享受できたということだよ北郷」

 

「なるほど、そうですか」

 

「うん。ただ文官は多くて困ることはない。ましてやあの無能な袁紹に良識を持って逆らう文官ということは有能であることは一目瞭然。北郷よ、こうして策を巡らせるのだぞ?覚えておけ」

 

「ははは・・・ご教授ありがとうございます。以後、精進します」

 

得意げにフフンと笑うと同時に彼女は眼鏡をクイっと上げる。

 

「ふむ・・・・・。このあとのお前の予定は?」

 

「今日中には提出する書類等が終わります。それからは有給休暇を取らせていただきますが・・・・」

 

「では提出後私の部屋に来るように。今日は久々の祝い酒だ。付き合ってもらうぞ」

 

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その後冥琳は自分の家で酒をもてなしてくれた。

 

なんと彼女の作った美味な料理もつくという嬉しいオマケもついてきた。

 

「では今回の作戦の成功を祝い乾杯!」

 

「乾杯!!」

 

二人はそう言って酒を飲み交わす。

 

「ふぅ・・・・そういえばこうして二人で飲むのも久しぶりだな」

 

北郷は盃にある酒を飲み干すと久しぶりに親友と酒が飲めたことを嬉しく話す。

 

「どこかの誰かが行方をくらましていたからな」

 

「そ、それは言わない約束だろう?」

 

冥琳は悪戯っ子のような笑顔でこちらを見やるとクイッと酒を飲む。自分の逃げ出した過去を皮肉られてしまいどもってしまう。

 

「フフ・・・冗談さ。だがお前がこうして戻ってくれた事は感謝している」

 

「・・・・ごめん・・・・」

 

「何を謝る必要がある?お前は戻り、そして雪蓮に笑顔が戻り、呉はこうして着実に成長してきているのだ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

北郷が静かに重い表情で注がれた酒を、再度口に入れているのを冥琳は見て、彼の考えていることを一瞬で悟る。

 

「そうか・・・・雪蓮から話を聞いたのか」

 

「うん」

 

「・・・・・・・正直に言うと今でももっと上手い言い方があったのではないか、と考えてしまう自分がいる。本当に情けないがな。だがこうしてさっぱりと関係を終えれたことを、後悔はないつもりだ」

 

「そんなことは・・・・」

 

「北郷、もう私と雪蓮はお前と出会う前から、既に終わっていたんだよ。お互いに依存して・・・・ぬるま湯が気持ちよくて・・・・お互いに踏ん切りがつかめなかった・・・・それだけさ。だからお前が気にする必要なんてなにもないんだ」

 

「でも冥琳君は雪蓮を愛していたはずだろう?」

 

「愛していたさ・・・・誰よりもな。だが私では・・・ダメなんだ。私は雪蓮に対して王として接してしまう、王としての雪蓮を良しとしてしまう。そこがお前との決定的な違いなんだと・・・そう思っている」

 

「雪蓮に王の重みを背負わせてしまうということか?だけど冥琳、君や雪蓮の立場を考えればそれは仕方のない事なんじゃないか?江東の小覇王となるのには冥琳がいなければ出来なかったはずだ」

 

「だがお前と私のその明確な違いが雪蓮を・・・・救える重要な要素なんだと思っている。それは私のような『こちら側の人間』ではそれはできないからだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「気に病むことはない。私は雪蓮が幸せにあればそれでいいのさ。それが私がもたらす幸せでなくてもだ」

 

「冥琳は、君は強いな・・・・」

 

「そんなことはない、私は弱いわ・・・・・。実際はこうやって格好つけて強がっているだけよ・・・。こうしていないと、酒でも飲んでいないと・・・・」

 

彼女は目に涙がジワっと浮かんでくると同時に涙を見せたくないのか顔を横に向ける。

 

「冥琳・・・・!」

 

「北郷・・・・大丈夫だよ。私は・・・私はきっと乗り越えられる・・・・。そして雪蓮と・・・新しい、友人としての関係を・・・・」

 

絞り出すかのように呟くが、堪えきれない激情がユラユラと込み上げてきたのかうつむいてしまう。

 

「・・・・何度も言うがお前が気にする必要はないんだ。雪蓮も分かってくれている・・・・」

 

「・・・・ああ」

 

さぁ今夜は飲もう!と冥琳はそう言うと少し困ったような、何とも言えない笑顔で酒を浴びるほど飲んでいく。

 

俺もそんな彼女が痛々しいと思うと同時に、なんとか気持ちの整理をつけようと、藻掻く親友の心境がわかるがゆえに冥琳の酒に付き合った。

 

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そうこうしているうちに食事も終え、深夜になり月の光が部屋を照らす。

 

冥琳は飲みすぎたようで酔っており、珍しくダウンしてしまった。

 

北郷も酔ってはいたが冥琳と違い、飲むペースを幾分セーブしていたため、視界はユラユラと揺れてはいるが意識もまだはっきりとしている。

 

ダウンした彼女を担ぎ、寝室へと運ぶと冥琳は崩れるように寝具へと倒れ込んでしまった。

 

酒を飲んで、酔うことで何かから逃げようとする彼女を、こうして見ると胸がズキンと痛む。

 

親友であるのに・・・・共に戦おうと誓った友であるはずなのに、彼は弱っている彼女をどうする事もできずにいる。

 

う〜んと唸る彼女を見て頭を優しく撫でる。彼女はそれが心地いいのか目を開けて、少し笑顔に戻る。

 

「・・・・・ありがとう北郷。付き合ってくれて・・・・」

 

「いいんだ。俺は君の・・・・友人だ。とことん付き合うよ」

 

「・・・・・友人か・・・・お前にそう言われると嬉しい半面・・・・どこか寂しい・・・・な」

 

「それは・・・?」

 

「私は・・・・雪蓮が好きだったが、それと同時に貴方にも・・・・少なからず好意を抱いていたわ・・・。だからこそ大好きな二人が・・・・笑顔でいられるのなら・・・私は・・・・」

 

「・・・・・・・バカ。どうしてそうやって自分が犠牲になることばっか考えてるんだ・・・。それじゃ君が救われないじゃないか・・・」

 

「自分が愚かなのは・・・・・・・知ってるさ。だがこうしなければ雪蓮も、お前も、そして私も前に進むことはできないと思ったから・・・・。北郷・・・雪蓮を・・・・彼女を支えてちょうだい」

 

「・・・・それはできないよ」

 

「・・・・・・・・なぜ?」

 

「君も・・・・冥琳も雪蓮についてやらないと・・・・前にそう言っただろ?」

 

北郷に断られ、悲しい顔を浮かべる冥琳であったが、建業の街並みでかつて彼女が彼に託そうとした願いを思い出す。

 

あの時も彼は同じことを言った。

 

『雪蓮には冥琳がいないとダメだ』

 

とそう優しく、強く諭してくれた彼。

 

冥琳はあの頃と全く同じ笑顔でそう言う北郷を見て、涙が大きな眼からとめどなく溢れ出てくるのを感じた。

 

「あぁ・・・・・そうだったな・・・・・。アイツにはお前だけじゃ・・・・持て余すだろうからな・・・・」

 

そうして震える声でそう言うと、冥琳の目尻から涙が静かに流れ落ちる。

 

彼は流れ落ちる涙を指で拾い、そのまま彼女の頬を優しく撫でた。

 

「ずっと一緒でないとダメなんだ・・・。たとえ・・・・雪蓮と冥琳が恋人でなかったとしても・・・君たちの絆を誰も絶つことはできないのだから・・・・」

 

「ありがとう・・・・一刀・・・・」

 

そう静かに言うと冥琳はグイっと俺を引っ張り抱き寄せる。

 

ほのかな汗の臭いと酒の匂い、そして彼女の甘い匂いが北郷の鼻腔を刺激し思わず顔を染める。

 

「・・・・・冥琳?」

 

「あぁ・・・。人のぬくもりが、人の温かさが、これほどまでに喜ばしいことはなかった・・・・。すまない北郷、もう少しだけ・・・・もう少しだけこうしていたい」

 

「・・・・大丈夫だ。冥琳が満足するまで・・・・」

 

「うん・・・・・」

 

そうして冥琳は北郷を強く抱きしめる。

 

雪蓮に勝るとも劣らない彼女の豊満な体が、北郷の体に完全に密着し、優しく包み込まれる。

 

だが彼は不思議と心が乱されることはなく、整然とした心境で冥琳を包み込んだ。

 

冥琳も顔は彼の顔のちょうど真横にあるため、表情は見えないが、同じように柔らかで暖かい雰囲気が冥琳から感じる。

 

だがそれもしばらく、北郷の服にポタポタと水滴が落ち濡らしていく。

 

北郷は何も言わずただ優しく抱きしめ、頭を優しく撫でる。

 

「冥琳は自分を弱いと言ったけど・・・・・・冥琳は弱くなんかないよ」

 

「え・・・?」

 

「冥琳、君は強い。俺は・・・・俺は君たちが怖くて逃げ出した身だから分かるんだ。あの時、俺は君たちに拒絶されるのが、同情されるのが恐ろしく怖かった。だから逃げ出したんだよ・・・」

 

「北郷・・・・あなた・・・・・」

 

「こんな弱腰男と違い、冥琳は雪蓮とキチンと向き合い、逃げ出さなかったじゃないか。俺は・・・・俺は・・・・冥琳が弱い人間だなんて決して思わないよ・・・・」

 

「うん・・・・・」

 

曖昧な返事を冥琳は返すとさらにきつく抱きしめ、体を震わせる。

 

北郷はそれから何も言わず彼女を包み込むと頭を優しく撫で続けた。

 

大丈夫だよと、一人じゃないと安心させるかのように。そうして二人はいつの間にか意識を手放していた。

 

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「う〜ん・・・・」

 

それから北郷が目を覚ましたのは日が昇ってからだいぶ経った頃であり、隣では冥琳が泣き腫らした顔でぐっすりと寝ていた。

 

「・・・・・・・冥琳、ほらもう日が昇ってるよ。起きないと・・・・」

 

そう優しく囁き、冥琳を揺すると彼女はう〜んと唸ったあと目を覚ますが、顔色は悪く頭をガックリと抱える。

 

「頭が痛い・・・・」

 

「見事な二日酔いだな。水持ってこようか?」

 

「すまない、頼む・・・・」

 

冥琳はしおらしく謝ると再び寝具にダウンしてしまう。北郷は水を彼女に渡すと、調理場を勝手に借りてお粥を作る。

 

「ほら、お粥だ。これなら食べられるか?」

 

「ああ・・・・大丈夫だ」

 

そう言うと彼女は粥を静かに食べる。

 

「すまないな・・・客人であるお前がこのような・・・・」

 

「気にすんな、それに今更じゃないか。今日はゆっくり休みなさい。軍令部には俺が言っとくから心配はしなくていいよ」

 

「うん・・・・・・」

 

「たまにはこうやってハメを外してもバチは当たらないさ」

 

北郷は彼女に優しく微笑むと立ち上がり、去ろうとするが冥琳がギュッと袖をつかみ離そうとしない。

 

「冥琳・・・?」

 

「・・・・ごめんなさい」

 

ハッと気づき冥琳は手を離すと彼女は小さく謝る。

 

「大丈夫だよ、すぐ戻る」

 

優しく彼女の頭を撫で、微笑むが冥琳の顔は些か恥ずかしそうに目をふせる。

 

それから軍令部に赴くと祭の執務室に行く。

 

「ん?なんじゃ北郷か。お主、冥琳を見なかったか?今日は姿を見せとらんのでな・・・・」

 

「祭さん、冥琳はちょっと今日は休ませて欲しいそうだ。体調が悪いそうで」

 

「・・・・そうか。なら仕方ないのぉ・・・。まぁあいつは働きすぎゆえに、たまには休んでもらわんとな・・・。それに儂もこうして酒が飲める、なんと甘美なことか」

 

そう言うと、祭は何も追求はせず、酒を引っ張り出してはうまそうに飲む。

 

それを見て北郷は苦笑をし、特に咎めることはしなかった。

 

「冥琳は休暇が溜まっておるからな。あやつが休めば部下も休める。まったく困ったものよ・・・・」

 

「確かに彼女は休まないからな・・・・。それでいて仕事もきっちりやるし・・・・」

 

祭は呆れるように呟くと、北郷もそれに追随するこのように苦笑する。

 

それは優秀すぎる上司を相手にする冥琳の部下たちを心底同情をしてのことだ。

 

冥琳も所詮は人の子であるということで休めば、これで部下たちも心おきなく、羽を伸ばせるということなんだろう。

 

「数日休暇を出そうかの。冥琳にそう言っておいてもらえんか?」

 

「わかった」

 

その後祭はどこかウキウキしている様子で仕事に移る。

 

冥琳が休むことで一番得する人間は、実は祭であるのかもしれないと悟る。

 

確かに彼女の仕事中に酒を飲む悪癖を、逐一咎めていたのは、冥琳ただ一人だけであったからだ。

 

そんなウキウキしながら、酒を嗜んでいる彼女をみて北郷は肩をすくませ、ヤレヤレと嘆息をする。

 

祭はそのまま報告ご苦労だった。と言って酒を飲みながら仕事を再開した。

 

ただあの時のように決して何も聞かず、いつも通りの素振りをする祭ではあったが、冥琳がどうして休んだかを鋭い彼女が知らないわけではないだろう。

 

そうであるのにあえて何も聞かない彼女に北郷は内心感謝すると共に頭を下げ執務室を出ていく。

 

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それから再び冥琳の家に着き、彼女の部屋に行くと静かに寝息を立てる冥琳がそこにいた。

 

さっき食べていた食器はもうなくなっている。多分冥琳が自分で下げたんだろう。

 

北郷は椅子を持ってき彼女のそばに静かに置くと静かに座り、本を読む。

 

どれくらいそうしていたのだろうか、小鳥のせせらぎと太陽の眩しい日差しだけがこの部屋を包む。

 

彼女の青ざめていた顔色も、今では幾分か元に戻ったようでリズムよく寝息を刻んでおり、その表情も昨晩のような悲壮感はなく、何処か幸せそうな微笑みを浮かべていた。

 

日が暮れようかという頃に冥琳は静かに目を覚ます。

 

「完全に目が覚めたようだな。気分はどうだ?」

 

ほら水だ、と北郷が手渡すと冥琳は静かにそれを受け取り、コクコクと喉に流していった。

 

「はぁ・・・・随分と寝てしまったようだな・・・」

 

「たまにはいいんじゃないか?どうせこの様子だとあまり寝てないんだろ?」

 

「ああ・・・・まぁ色々と仕事がな・・・・」

 

「そうか・・・忙しいのは分かるが、体あっての資本だ。無理はいけない。祭さんも心配していたよ?」

 

「ああ、もう少し自分と見つめ直す時間が必要ということだな・・・・」

 

「祭さんもしばらく休めってさ・・・。冥琳、君は・・・・・」

 

北郷は冥琳の寂しい笑顔を見て、彼女がまだ立ち直っていないことを悟り、心配そうな顔で見つめる。

 

冥琳のその心の痛みを癒してあげたい、そして雪蓮と再びわだかまりなく、時にはバカをやって、そして時には共に笑い合えるような関係になって欲しいと北郷は願っていたからだった。

 

ただ自分が冥琳から雪蓮を奪ったという罪悪感も否定はできないが・・・・。

 

そういった彼の葛藤を知ってか、知らずか冥琳は少し微笑むと、彼の頬に手を添えて優しく撫でる。

 

「そう思いつめた顔をするもんじゃない、北郷。私は・・・前を向かなければならないんだなと昨晩で痛感しているわ。このまま過去に囚われ、引きずっていても・・・雪蓮に申し訳が立たないからな」

 

「ほんとうに大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。雪蓮とのことは心配するな。あいつも分かっているからこそ、変わらず接してくれているんだ。大丈夫、私は・・・決して一人ではない。雪蓮やお前やそして祭殿、大切な人が私を見守ってくれている。雪蓮とアレコレがあってそれがようやく実感できたんだ」

 

「そうか、なら良かった。腹減ってるだろ?飯にしよう!」

 

それから北郷が買出しに行って、調理を行い、冥琳と食事をとることにした。

 

食事は当然胃に優しい、流動食中心にし、周瑜もそれを黙って食していた。

 

食事が終わると、冥琳は開口一番頼みごとがあると北郷にお願いをしてきた。

 

「北郷、お前にまだ頼みがあるのだが・・・」

 

「ん?なんだ?」

 

「雪蓮もここに呼んで欲しいんだ。もう一度3人で・・・・向き合えるように・・・・またやり直せるようにしたいんだ・・・。すまない、無理な事を言っているかもしれないが・・・」

 

冥琳は自分に言い聞かせるような言葉使いでそう言うと、深い溜息をついた。

 

冥琳から個人的なお願いをしてくる事に、北郷も少し喜びを感じていた。

 

彼女は滅多に頼みごとをしてくることはないし、こういった本音を吐露するということもないからだった。

 

弱いところを見せない、みせたくないという冥琳の意地がそうさせてきたのであったが、昨夜あれだけ本音を吐露すれば、最早誤魔化せないと冥琳も悟ったのだろう。

 

「分かった・・・。今日は遅いから明日、待ってな!」

 

そして翌日、北郷は雪蓮の執務室に入ると相変わらず難しい顔で書簡を処理する雪蓮がそこにいた。

 

「あら一刀、おはよう。休暇中でしょ?どうして・・・・」

 

雪蓮は休暇を取っている北郷が執務室に来ることに少し驚きながらも、どこか嬉しそうに笑う。

 

「おはよう雪蓮。実は雪蓮に頼みがあって・・・・」

 

「何かしら?」

 

「いま冥琳も休暇を取っていてね・・・・。それで3人で食事でもって思ってるんだけどどうかな・・・?」

 

「・・・・・そう」

 

雪蓮は少し寂しい笑顔を浮かべると、少し哀愁を含ませた溜息をはく。

 

「冥琳がそう言ったの?」

 

「うん」

 

「分かった・・・・でも食事だけじゃあれでしょ?せっかくだから、これから街をめぐりましょうよ」

 

予想だにしない答えが来たため北郷も目をパチクリと見開くが、雪蓮はそんな彼をお構いなしに話を進めていく。

 

「決まりね。なら・・・」

 

「ちょっと・・・それは・・・・」

 

「なによ〜別に夕方まで待つ理由はないでしょ?それなら一日、街でもどうかなってね。まぁ視察よ、視察!」

 

体のいいサボる理由が見つかったという事なのか、雪蓮は少し早口でそうまくし立てる。

 

北郷も特に断る理由もないので、肩をすくめ承諾をする。

 

「分かった。じゃあ雪蓮は都合が付いたらまた冥琳の家に来てくれ」

 

「ん・・・・。了解よ、ああ!一刀そこにいてちょうだいな。ちょっと待っててね・・・・」

 

それから何も言わずに、すごい速さで仕事を片付ける彼女の姿に相変わらず圧倒される北郷。

 

「はい、おしまい!!」

 

「相変わらず、凄まじい速さだな。圧倒されてしまうよ」

 

そして二人で部屋を出ていく。二人は道中一緒であるため世間話で花を咲かす。

 

「まぁね、ただ最近は体が鈍っちゃってねぇ・・・・。一刀相手してくれる?」

 

「手合わせかい?また半殺しにされたら、俺としても辛いところではあるけど・・・・」

 

北郷が少しいじると、雪蓮も苦笑する。

 

「あとの時のことは時効でしょ〜?勘弁してよね。それにいまの一刀なら私と張り合えるって〜」

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。ただ呂布じゃダメなのか?彼女の方が強いし互いに研磨出来るいい機会だとも思うんだけど・・・」

 

呂布が入ってきてからは、呉軍の訓練も活気がつき、思春などは呂布としょっちゅう手合わせをしては、技量を高めているようである。

 

呂布も呂布で、今の環境にはまんざらでもない様で、口数は少ないが、心は開いてきているようで、自分の真名を許す人間が増えてきているようであった。

 

無論、雪蓮も呂布と真名で気さくに呼び合う仲である。

 

「恋?あの子は確かに強いけどね・・・。ちょっと問題があるのよ」

 

「ん?何の?うわぁ?!」

 

北郷が聞き返すと雪蓮は彼の裾をグイっと引っ張り、耳元で熱い吐息を交えて妖艶に語りだす。

 

彼女の吐息が耳元にあたり北郷は背筋をゾクゾクと震わせる。

 

「手合わせのあとはすっごく体が火照ってね・・・・恋じゃあ・・・無理でしょ・・・?」

 

「え?火照りって・・・ん・・・ちょ・・・・」

 

耳元に息を吹きかけられ、思わず情けない声を上げてしまう北郷に、雪蓮は蠱惑的な笑みを浮かべると、サッと離れる。

 

「へへ〜ん、まだまだ一刀も脇が甘いわね〜」

 

雪蓮は先程の妖艶さはぱっと消えるとケラケラと腹を抱えて笑い出す。

 

それを見て彼も肩をすくめ、一本取られたなと笑うしかなかった。

 

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そうこうしているうちに冥琳の家の前に着く。

 

「雪蓮?随分と早いな。食事はまだ・・・・」

 

冥琳は家でずいぶん早い雪蓮の登場に少し驚く。

 

彼女は二日酔いがすっかり治ったようで元気を取り戻していた。

 

「おはよう冥琳。私も休暇を取ったから、今日は街を巡ろうかって一刀と話しててね」

 

「視察がしたいってね。まぁ夕方食事をするのだから、買い物がてらどうかなってね。どうかな?」

 

「あ、ああ、私はそれで構わないが・・・・。しかし本当にいいのか?雪蓮」

 

冥琳が心配そうに言うが、雪蓮は余裕の笑みを浮かべ大丈夫よ、とその心配を退ける。

 

「大丈夫よ〜。それに休みなしに働いてたんじゃ、あの子達も辛いでしょ?たまにはお互い、羽伸ばさないとね?」

 

「月と詠のことか?確かにあの者たちはお前の補佐をしているが・・・・」

 

「それに今日は休むって、もうあの子達にも伝えてあるから大丈夫よ。今日一日は3人で一緒に過ごしたいの。だめ?」

 

上目遣いで伺う雪蓮に北郷と冥琳は目が合うと、互いに溜息をつき、そしてクスリと笑う。

 

「そうだな・・・。こうしてせっかく3人で揃うんだ。楽しもう」

 

珍しく冥琳が同意すると雪蓮はやった〜と満面の笑みで喜ぶ。

 

それから3人で街をめぐるが、北郷は建業の変化に驚き目を見開く。

 

建業はかつてのような寂しさはなくなり、商人たちが行き交い、商いを活発に行う活力ある街並へと変貌を遂げていた事を北郷は驚いた。

 

「すごいな・・・まさかここまで・・・・」

 

「お前は益州攻略戦のあと直ぐ様、厳顔救出作戦を行っていたから、当分建業を留守にしていたのだったな。知らなかったは無理ないか。天子の忠実なる家臣である孫策様がいるゆえだよ。まったくたいしたものだ」

 

「そうよ〜。天子の力は伊達ではないということね〜。桃香に感謝しないと・・・ん?なにかしら」

 

「楽器かな?」

 

「そのようだな・・・。ちょっと行ってみよう北郷、雪蓮」

 

露店を巡っていると何処からか楽器を奏でる音が。

 

冥琳を先頭に3人が音のする方に行ってみると、路上ライブを行っているようだった。吟遊詩人のようなものだろうか。

 

ライブを見て冥琳は一瞬きらびやかに目を輝かすのを二人は見逃さなかった。

 

「吟遊詩人か・・・。さしずめ路上ライブといったところかな」

 

「「路上らいぶ?」」

 

雪蓮と冥琳二人は声を合わせて、聞いたことのない単語を、彼に聞き返す。

 

北郷も思わず現代用語を使ってしまったことに苦笑する。

 

「ライブっていうのは楽器や歌などを披露することを指す、俺の国の言葉なんだ。腕に自信のある者は、路上でこうやって演奏を披露して路銀を稼ぎ、自分の名を広げるんだ」

 

「へぇ・・・一刀の国でも似たようなことをしているのね」

 

「同じ人間である以上、行動原理はそう変わらないのかもしれないな。だが・・・ふむ・・・・いい音だ・・・・。それに詩の内容も悪くない・・・・心に響くような・・・ん?」

 

詩人の演奏を気持ちよさそうに聞く冥琳であったが、少し怪訝な顔をすると、首を少しひねる。

 

「どうしたの冥琳?」

 

「音が違うな・・・・ちょっと、そこの旅人よ!」

 

冥琳は急に女性である吟遊詩人の前に立つと、楽器をぶんどる。

 

「え?!なんでしょうか・・・・そのぉ・・・」

 

「私が弾くから、お前はそのまま歌え」

 

冥琳は困惑する詩人にそう言う。

 

聴いていた町人も急に呉の大都督である周瑜が出てきたことに、驚愕しているようであり、ざわめきが起こるが当の本人は全くお構いなしに、楽器の調律を慣れた手つきで始める。

 

「よし・・・いつでもいいぞ」

 

冥琳は調律を終えたようで詩人に開始を促す。

 

当の詩人は困惑しながらも、歌を再開すると、冥琳は自分の感情に身を任せるかの如く、楽器を弾き始める。

 

まさか冥琳がこれほどの楽器の演奏のスキルを持っているとは、町人も思っていなかったようで、さっきまで弾いていた詩人とは全く違う音色に驚愕の色を隠せなかった。

 

「うわ・・・・!久々に聞いたけどやっぱ凄いわねぇ・・・」

 

雪蓮は冥琳の凄まじい演奏技量に思わず感嘆の声を上げると同時に、北郷も詩人の歌と冥琳の弾く音の絶妙なハーモーニーに目を細める。

 

「楽器を弾くのがうまいのは史実通りなんだな、冥琳」

 

「あら!冥琳って後世でも有名なの?楽器弾くのが上手いって」

 

「うん、俺の世界では周瑜は美男子、芸術家でもあるって逸話が有名だったな。だがこうして間近に聞くと・・・」

 

「へぇ・・・・やっぱりね」

 

雪蓮は納得したかのように頷く。

 

吟遊詩人も冥琳の技量を見て、安心したのか楽しそうに、笑みを交えて歌を歌い、それに合わせて即席で歌に合わせ演奏を行う冥琳。

 

その音色は詩人が歌い内容に合わせ、時には悲しく、時には怒り、そして嬉しくといった喜怒哀楽の感情を冥琳は音楽で表現させる。

 

観客も思わず聞き入ってしまい、演奏している周りはいつしか大きな人だかりができていた。

 

そして歌い終えると、観客からの歓声があたりを支配する。

 

「ありがとうございます。こんなに楽しく歌えたのは初めてで・・・・」

 

詩人が弾き終わった冥琳に深く礼をすると、顔を紅葉しながら、楽しそうに語ると冥琳も優しく微笑む。

 

「うん、音の調和を楽しむことが重要なのだよ。仕事だから、路銀を稼がないと、という焦りと邪な気持ちは、そのまま音で出てしまうものさ。純粋に音を楽しみなさい。そうすればもっと良い詩を届けられるはずだ。私も楽しかったよ」

 

「は・・・はい!」

 

冥琳から楽器を返してもらい、顔を真っ赤に染める吟遊詩人に、雪蓮はジトーと冥琳を見つめる。

 

「生粋の女たらしっていうのも後世で有名だったりする?」

 

「否定はしない・・・・かな」

 

そりゃこれだけハイスペックな人がいたらモテるだろうに、と北郷も苦笑する。

 

楽器を愛おしそうに抱き寄せる女性の吟遊詩人は、目が完全にハートになり、まるで恋する乙女だ。

 

そうして吟遊詩人に別れを言うと冥琳は戻ってきた。

 

「すまない、ちょっと弾きたくてつい・・・・血が騒いでな」

 

思わず体が動いてしまったようで、バツが悪いというように謝る冥琳であったが、北郷は笑顔で冥琳を賛辞する。

 

「最初は驚いたけども・・・、冥琳って凄く上手いんだなぁ・・・。感動しちゃったよ」

 

「そ、そうか?」

 

「ああ。演奏でこれほどまでに心を揺さぶられることってなかったからなぁ」

 

北郷も純粋に、冥琳の演奏に賛辞を送ると、雪蓮も笑顔でそれに同意した。

 

「私も一刀と同じ。冥琳の演奏は大陸一だっていつも思ってるんだから」

 

「そう言われると・・・なかなか照れるな。だが・・・ありがとう」

 

少し頬を赤らめながらも、恥ずかしそうに笑みを浮かべる冥琳に、雪蓮も北郷も微笑むと、雪蓮はさぁ!と声を上げる。

 

「じゃあ夕方の食材の調達といきましょう!」

 

「そうだな」

 

「うん」

 

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それから3人で食材を調達すべく、市場をぶらりと歩く。

 

雪蓮はもっぱら酒、冥琳は食材をアレコレと吟味し、と二人の対照的な姿に北郷は苦笑しながらも、荷物持ちを喜んで行った。

 

特に雪蓮は凄まじい量の酒を買っているようで、北郷も思わず声を上げる。

 

「雪蓮、いくらなんでも買いすぎじゃ・・・」

 

「王がこうしてお金を落とし、経済を回しているのよ〜。文句言わない!!」

 

「とは言ってもだな・・・・」

 

あれちょうだい、これちょうだい、と指定しては金を気前よく店主に渡し、北郷にお酒をどんどん持たせていく。

 

冥琳もさすがに北郷が不憫であると感じたのか、雪蓮の酒の爆買いを諌めるべく声を上げる。

 

「まったく屁理屈を・・・。雪蓮、お前の荷物を持つ北郷のことも考えてやれ」

 

「え〜?!だってこの市場のお酒って、珍しい酒が出回ってるんだもの・・・。めったに行けないんだから、いいでしょう〜?」

 

「モノには限度というのものがあるだろうにまったく・・・・。ほら北郷、荷物を。すまないな」

 

「あ、ありがとう冥琳。感謝するよ・・・・」

 

「ちょ、無視しないでよ〜。もう!分かったわよ・・・」

 

ブーブと抗議の声を上げる雪蓮を無視し、冥琳は北郷の荷物を持ってやると雪蓮も申し訳なく思ったのか、酒の購入はストップした。

 

それから市場を3人でめぐる。魚などを売っている魚市場でも冥琳は目を光らせ、真剣に素材を吟味していた。

 

雪蓮はというと、露店でアレコレと買い食いをしながら、楽しみ、両手が塞がっている北郷にも露天の食事をあげたりと買い物を楽しんでいる。

 

北郷も活発な市場でふと気になる「モノ」を見つけた。荷物を一旦地面に置くと商品をジーッと見つめる。

 

「お気に召したのもがありましたか?」

 

「ん?ああ、この商品が気になってね」

 

北郷が指をさしたのは指輪であった。煌びやかというわけではないが、装飾が施され、なかなかオシャレだ。

 

「ああ、これでございますか。いやぁ旦那様もお目が高い。これは巷の女性でも人気のものでしてな。想い人に渡すというのが流行っているようで」

 

「そうか・・・・。なら・・・これを二つ!」

 

「ありがとうございます!またのお越しを!」

 

「高かったなぁ・・・・。財布が空っぽだ」

 

なかなかの値段であり、北郷の財布がすっからかんになってしまったが、彼としては買いたいものが変えて満足である。

 

北郷は渡された商品を受け取ると直ぐに、ポケットにしまう。

 

「うん?北郷、何を買っているのだ・・・?ほぉ・・・お前もなかなかやるではないか」

 

冥琳が急にヌっと出てくると北郷の真横にたつと、露天の売り出している種類を見て察するとニヤリと笑う。

 

「な、なんだよ・・・・」

 

「いや、そういう常套句は悪手ではない、ということだけは言っておこうか?雪蓮も喜ぶだろう」

 

「ちぇバレたか。じゃあはい、受け取ってくれ」

 

「え?」

 

北郷はポケットから指輪を取り出すと、冥琳に差し出す。

 

「冗談はよせよ、北郷。これは雪蓮に渡すものだろうに」

 

「二つ買ってある。俺にとって君たち二人共は大事な存在だからね。雪蓮は恋人だけど、今まで面倒も見てくれた恩もあるし、冥琳に対する感謝の気持ちとして受け取ってもらえると嬉しい。友人の証みたいなものだよ」

 

冥琳は目を見開くが、直ぐ様いつも通りの表情に戻り、彼から指輪を受け取る。

 

「・・・・・ありがとう。受け取っておくよ」

 

彼女は指輪を宝物のように丁寧に指にはめると、少しはにかむ。

 

その表情は冥琳が滅多に見せない、年相応な女性の顔であった。目が少し潤み、はにかんだあとは北郷に微笑んだ。

 

それから買い物を楽しんだ3人は家に戻り、食事を作る。

 

冥琳が本筋を行い、北郷は手伝い、そして雪蓮は火を起こす。

 

火を起こすのは時間がかかるだろうと北郷は考えていたのだが、雪蓮は南海覇王を取り出すと器用に扱い、カチンと石に擦らせると火花を起こし、火を発生させた。

 

「はい、おしまい!」

 

雪蓮は竈で発生した火を大きくするべく、その後適当に火種となる木を適当に放り込み、フーフーと空気を送り火を大きくする。

 

そうこうしてるようにひと仕事終えたような満足な顔をして、酒を飲む。

 

「手伝ってくれないのか?」

 

北郷は苦笑いを浮かべるが、雪蓮はニヤリと笑う。

 

「私の役目は火をつけること!それしか言われていないからねぇ」

 

「そうか・・・・ハハハ」

 

「雪蓮は料理ができないからな。自分が足でまといになることを知っているだけ、十分さ。だが、嫁入りを目指す女が、自分の飯すら作れないのではな」

 

「グッ・・・・それを言われると立つ瀬がないわ・・・。しょうがないわね〜手伝うわよ!」

 

冥琳は雪蓮を上手いこと誑かすと雪蓮も、渋々と手伝いを始める。

 

手伝う雪蓮を尻目に、冥琳は北郷にウインクをした。

 

雪蓮の手綱を握るというのはこういう事なんだな、と北郷は肩をすくめる。

 

そうこうしていうちにキチンと3人分、それもかなりのボリュームであり美味そうな匂いが部屋を満たしている。

 

「あら凄い食事ね!うまそ〜」

 

「うん、今日は初めての3人での食事だからな。たまにはこういった趣向も悪くはないだろう?」

 

雪蓮が少し驚きながら聞くと、冥琳が得意げに頷く。

 

「俺たちも手伝ったけど、ほんと冥琳ってなんでもできるんだなぁ・・・・」

 

あまりの高スペックっぷりな、この美女を見て北郷も驚きの声を上げる。

 

「子どもの頃に祭さんから相当仕込まれたからな・・・・。まぁこういった食事はあまりしないのだが・・・」

 

「ああ、それなら納得だな」

 

「祭は酒も好きだけど、食事も美食家だからね〜」

 

雪蓮がそう言うと北郷はかつて美食を作ってくれた祭を知っているので、合点が行く。

 

なるほど彼女譲りの免許皆伝であるなら、その冥琳はこうなるだろうと納得する。

 

「さて皆揃ったことだ。食事をはじめようか」

 

冥琳は酒を継いでいくと、さぁどうぞと手を前に差し出す。

 

「そうね♪」

 

「うわぁ・・・・美味そうだな・・・・」

 

3人が座ると雪蓮が開口一番笑顔で祝辞を述べる。

 

「では益州攻略戦の成功を祝って、乾杯!!」

 

「「乾杯」」

 

北郷と冥琳は笑顔で杯を掲げると酒を一口含む。当然雪蓮は一気飲みであったが。

 

「ぷはー、やっぱ疲れた体にはこれよね〜」

 

飲み終わるとく〜と嬉しそうに声を上げる雪蓮をよそに冥琳は苦笑する。

 

「相変わらずだな、お前の酒豪っぷりも」

 

「そういう冥琳だって今日は二日酔いだったんでしょ〜。祭から聞いたよ〜」

 

「な?!・・・・北郷お前が・・・・!」

 

「いや俺はそこまでは・・・・」

 

冥琳がギロッと睨みつけるが、その後面白おかしく笑顔になり笑い声を上げる。

 

「ハハハッ冗談だ。私もたまにはハメを外したくなる、ということだよ雪蓮」

 

「そうよね〜たまにはハメ外さないと疲れちゃうわ!私も書類、書類で嫌になっちゃうわよホント〜」

 

「何を言っている、お前は羽を伸ばしすぎだ」

 

「え〜?!私も頑張ってるのにぃ〜」

 

「月や詠から報告は聞いてるぞ。時折行方をくらますそうじゃないか?どこで何をしに行っているのか・・・・。今聞かせてもらおうか?」

 

「う・・・一刀ぉ〜助けてよ〜」

 

冥琳からの追求に助け舟を出すと北郷も笑いながら冥琳をいじる。

 

「まぁまぁ、冥琳も昨日はへべれけになったんだから、それでおあいことしようよ。昨日の冥琳はホント可愛かったもんな・・・・」

 

「ちょ、ちょっと北郷、貴方何を言って・・・」

 

冥琳はまさか自分がいじられると思っていなかったのか、困惑の色を見せ、思わず素の口調に戻ってしまう。

 

「え?!一刀、冥琳と飲んでたの〜?ズルいわよ!!」

 

「実は昨日二人でね。冥琳も今回の快進撃で、酒が進んで今日は仕事に出られなかったということ」

 

「・・・・昨日は少し飲みすぎただけだ・・・・、まったくお前も余計なことを・・・・」

 

少し拗ねているのか冥琳は口を尖らせて、ジト目で俺を見てくる。

 

そういった表情は、彼女はなかなか見ないので俺は思わず笑ってしまう。

 

「まぁ冥琳も休みもらってるっていうし、なら今日も飲み明かしましょう!!」

 

それから3人で談笑を楽しみながら、酒をたしなんでいく。

 

-8ページ-

 

「しかし一刀もよくやってくれたわ。これで蜀は私たちと行動を共にするでしょうし、いよいよね・・・・」

 

「そうだな。今回の作戦で蜀との団結が問われ、それをなんとか出来たのが大きい。結果、連合はより強固となり、さらに蜀は益州と将兵をさらに支配下に置くことができた。我々も行動を起こす時であろうな」

 

冥琳と雪蓮は二人はそう言い合うと強く頷き合う。

 

彼はそれを見て、蟠りなく二人が接している、特に冥琳がいつもの状態に戻っていることを内心喜び、北郷も微笑む。

 

「決起の時は近い・・・ということか?」

 

「ああ、袁術もまだ軍の再建に時間をかけている。今こそが好機であろう」

 

「そうね。今を逃せば、私たちは列強の波に飲まれてしまう。それは避けなければならないことだわ」

 

二人が強い決意を語ると、北郷は二人に酒を再度注ぐと声を上げる。

 

「・・・ではこれからの呉の悲願成就を願って!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

三人で杯をカチンと軽くぶつけ、酒を飲んでいく。

 

その後、楽しい宴に北郷は珍しく酔ったのか、今度は彼がダウンしてしまい、寝転んで寝息を立ててしまっている。

 

「もぉ〜今日は飲もうっていったのは一刀なのにぃ・・・ほら起きなさい!」

 

雪蓮は彼を起こそうと揺するが、全く起きようとしない。

 

「寝かしてやれ。北郷も疲れているのよ」

 

「・・・・・そうね。ここのところ休みなしだったし・・・お疲れ様、一刀」

 

雪蓮は優しい笑みで、寝ている北郷の頭を優しく撫でた。

 

それを見て冥琳は、雪蓮は自分の前では違った雰囲気を発するのを感じ取る。

 

「やはりお前は変わったな雪蓮」

 

「ん?そう?どこが変わった?」

 

「雰囲気が・・・・優しくなった。特に北郷がいる前だと特にな」

 

「・・・・・・・・」

 

「だが私はお前のそうした変化を、決して咎めることはしないつもりだ。いや、むしろ嬉しいことであると、そう思っている」

 

北郷と出会う前に冥琳は雪蓮がそういった年相応の弱さを見せることは確かにあった。

 

だがそれを冥琳は必要ない弱さであると、咎め、諌めるようにと説教することは多々あった。

 

呉の悲願を成し遂げるには、その弱さが雪蓮の足をすくうと考えていたからであり、王としてその弱さは持ってはいけない脆弱さであったからだ。

 

今にして思えば、雪蓮は冥琳に本当の自分を見て欲しいというメッセージを発していたのかもしれない。

 

あの時それを弱さだと、咎めたときの雪蓮の顔は、凄く寂しいそうな笑顔を浮かべるだけであった。

 

「私は・・・・これでよかったと本気で思っているんだ。北郷と貴女であれば・・・・・私に夢を見せてくれるであろうとな」

 

「夢?」

 

「ああ、雪蓮がひとりの女性として幸せに過ごす、という私の夢だ。正直・・・・天下を取るというのは私個人としては、どうでもいいのかもしれない・・・。天下をとればもう皆が争うことなく、幸せに過ごせる。それはお前の幸せに副次的にとはいえ、繋がるのだと、本気で思っていたのだ」

 

冥琳は静かに酒を一口飲むと、話を続ける。雪蓮はずっと冥琳を見つめ続けている。

 

「だからそのためにお前の、人としての感性を否定し、お前の心の叫びを無視をした。それが後の幸せに繋がるのだと・・・そう思っていたから。だが・・・それは私のエゴを押し付けていただけだったのかもな」

 

「・・・・ひとつ勘違いしているわ、冥琳」

 

「え?」

 

「私は確かに、弱気になったり、時には王としての使命に苛まれたこともある。でも貴女がその時私を支えてくれた。今のお前は間違っていると、地に足で立ち、生き続けなかればならないのだと、そう言って支えてきたじゃない。私はエゴを押し付けてきとは思ったことは一度もないわ。今の私がいるのは、冥琳という羅針盤がいたからこそ・・・ここまで成し遂げられたのだと思っているわ」

 

「雪蓮・・・・・」

 

「ゆえにこれまでやってきたことに、そしてこれから起こることに後悔なんてあるはずなはいわ。・・・冥琳、どうかこれからも私や一刀、そして呉の皆のためにも力を貸してほしいの」

 

雪蓮は力強く彼女の手を握ると、強い眼差しで語りかける。

 

「言われなくても・・・だよ。私はお前たちの幸せを見届ける義務があるわ。でもありがとう、お前にそう言われ・・・救われた」

 

「ありがとう、冥琳。私もあなたからそう言った話が、本音が聞けて嬉しかった。冥琳って本音をあまり話さないでしょ?だから尚更・・・嬉しかった」

 

冥琳は雪蓮が握ってきた手に自分の手を優しく重ねると、微笑む。

 

それを見て、このかけがえのない親友の優しさが雪蓮の琴線に触れ、涙を浮かべる。

 

「まったく・・・そうやってすぐ泣くところは子どもの頃から変わらないな・・・・」

 

冥琳が優しく頭を撫でると、彼女は子どもの頃泣き虫であった雪蓮を思い出す、雪蓮は涙を浮かべながらも笑顔で声を震わせながら、抗議の声を上げる。

 

「もう・・・・もうこどもじゃ・・・ないもん」

 

「ああ、分かっているさ・・・・」

 

冥琳は微笑んだまま、優しく頭を撫で続ける。

 

「・・・・北郷に感謝しないとな」

 

「うん、冥琳とこうして・・・・新たな関係を築いていける。一刀に感謝ね」

 

二人は酔いつぶれて、静かに寝息を立てる北郷を微笑んで見やる。

 

北郷は冥琳だけでなく雪蓮にも気を遣い、こうして宴を開くことに尽力してくれた。

 

二人がもう一度こじれた関係をやり直せるように、そして二人が共に生きていけるように。

 

彼のそういった見えない配慮に、二人は大いに感謝をした。

 

「私は・・・・お前を、そして北郷を残し、消えることはしないよ・・・。お前たちの幸せを、生き様を良き友人として・・・見守っていきたいから」

 

「ありがとう・・・冥琳。約束・・・・ね」

 

「ええ」

 

二人はその後短い抱擁を交わすと、雪蓮が冥琳の唇に軽く触れる。

 

「・・・・雪蓮なにを?」

 

「誓いの口づけ」

 

そう言って悪戯を企むお転婆な笑顔を冥琳に見せるとクスリと笑う。

 

「まったく・・・・お前は・・・・。伯符・・・どうか・・・・どうか幸せになってね」

 

「うん」

 

雪蓮が潤んだ目で笑顔を作ると強く頷く。

 

二人の微笑みを月日が照らし、優しい夜風が彼女たちを包み込んだ。

 

二人の新たな門出を祝うかのように、そして新たな断金の誓いをした二人を祝福するかのように。

 

死んだ雪蓮の母が喜んでいるかのように、二人を風が優しく撫で続けるのであった。

 

-9ページ-

 

 

北郷は二人の行いを寝息を立てるふりをしながら、ずっと聞いていた。

 

それから二人が寝静まったころを見計らい、部屋をあとにし、中庭で夜風にあたる。

 

酔った体にこの夜風は心地よかった。

 

「一刀も夜風に当たりに来たの?」

 

「ん?雪蓮かい?冥琳は?」

 

「もう寝ちゃった。一刀は?」

 

「俺は酔い覚ましにね・・・。宴はどうだった?俺は途中で覚えてなくてね・・・・」

 

「うそばっかり。ホントは冥琳とのこと聞いていたんでしょ?」

 

「・・・・雪蓮には嘘は付けないなぁ。盗み聴くことはしたくなかったんだけど気になってね・・・。ごめん」

 

「ううん、気にしてない。それより・・・一刀は私とずっと一緒にいてくれる?」

 

雪蓮は隣に座ると、頭をコツンと肩にのっけて、寄りかかる。

 

「ああ」

 

北郷はそう短く言うと、さっと手を握り、雪蓮の顔に近づき口づけをする。

 

雪蓮は最初は驚いたように目を見開いたが、すぐに目を閉じ彼の口づけを受け入れる。

 

「ん・・・ちゅ・・・・はぁ・・・・もう・・・」

 

雪蓮はトロンと潤んだ目で文句を言うが、それが彼女の本気の抗議でないと北郷は知っており、優しく肩を抱き寄せ共に月を見上げる。

 

「ふふふ・・・ごめんな。でもこうした方が伝わるんじゃないかって思って・・・・少しキザだったな。すまない」

 

「ばーか。・・・・一刀・・・・好きよ、ずっと一緒に・・・・」

 

「俺も好きだよ・・・・」

 

雪蓮はそのまま彼の抱擁に身を任せ、嬉しそうに微笑み、北郷と手を握る。

 

だがなにか感触あると思い手を離すとそこには指輪があった。

 

「ん?手に何か・・・あ!これ・・・・露店にあった・・・」

 

「君にとね。受け取って欲しいんだ」

 

「うん・・・・ありがとう一刀」

 

と、幸せを噛み締めるかのように静かに目を閉じ、今度は雪蓮が北郷に口づけをする。

 

二人はそのまま笑顔で微笑み合うと、互いに肩を寄せ合い、綺麗な月影を見続けたのであった。

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コメント
mokiti1976-2010さん、コメントありがとうございます。痛いところを疲れてしまいました(^◇^;)サイズは把握していると思っておいてください。描写不足なのは申し訳ないです。(4BA-ZN6 kai)
指輪を送るのは良いのですが…指のサイズとか大丈夫なのかが気になります。一刀なら二人の指のサイズは既に把握済だったのでしょうが。(mokiti1976-2010)
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