さよならのための。
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「それじゃ、また、な」

 

 

「はい、それではまた」

 そう唇が動こうとする。

 そう言わなくては、と思うのです。

 

 …うそを言うのがとてもつらいのです。

 

 心の中の本当は。

 そんな風に、軽やかにさよならを告げるあなたが、少し憎いのです。

 

 

 口から出かかった言葉を伝えようと思うけれど音は発せられず。

 私は、彼をしっかと見つめようとした視線をすっと下げる。

 

 

 あなたの突然の訪問は、とても嬉しかったから。

楽しかった時間はあっという間にすぎていき、気づいたときにはもう、別れの時になっていた。

 少しの間の戯れに指を絡め合った手はそっと離れがたく、結ばれたまま。

「また会いに来るからさ」

…そういうけれど、彼の地から東の端まで来ることにどれほどの時間を費やすのかなんて、私でもわかります。

 

そう思うからこそ、もう少しだけ、ほんの少しでも、一緒にいたいのと思うのに。

 この繋いでる手を 離したくはないのに。

 

 

 

 あなたはこんな風に 笑顔で。

 私を見て 平気な顔で。

 

 

「またな」

 

 

 と、おっしゃるのですね。

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『…できるのなら、もう少しだけ 一緒に』

 

 

 

 正反対の言葉が、口から出かかりそうで。

 思わず、唇を噛む。

 

 

 それすらも上手く声にしようとしない自分がもどかしくて。

 「サヨナラ」を告げたあなたをただただ、苦しく、思う。

 

「…きく?」

 

 

 あなたは下を向いたままの私を見て。

 どうかしたのか?と顔をのぞき込んだ。

 

 …今の私の顔はどう映るのでしょう。

 このまま行かせたくない気持ちと理解する気持ちがぐちゃぐちゃに混じりあっていて。

 いつもの平静さなんて取り繕えない私を、見せたくないのに。

 

「……」

「す、すいま…せ」

「こっち向けよ」

 

 ぐい、と腕を引かれ、碧い目と視線が合う。

 

 どうしたら私の気持ちをわかってくれるのでしょうか。

 言い出せないこの想いをあなたは気づくのでしょうか。

「また会えるから」。

 そんな言葉じゃ どうにもならない物だってあるでしょう?

 ましてやこんな風に自由に、お会いできることなど難しいことなのに。

 

 視線がかち合うだけでこんなにも、思う心は溢れ出てしまう。

 …もしかしたら、もうすでに、その内を見透かされてしまっているのかもしれない。

 

 あなたの表情が変わる。

 困ったような、なぜか嬉しいような。

 複雑な感情をたたえているように思えた。

「おまえでも、そんな顔、するんだな」

「…っ…すみません」

 反射的に、視線を下げる。

 

「何であやまるんだ」

「すいま…」

「…きく」

 そう私の名前を言うと。

 ふわり、と漂う香りと、ぎゅっと抱きしめられる感触。

 そっと、囁くようにまた、名前を呼ばれる。

「そんな顔をするくらい、俺が好きってことなんだろ?…だから、あやまるな」

 

 しばらく間があって、言葉を濁しながら呟いた。

「…俺だって本当は、このまま攫ってしまいたいんだよ」

 …しょうがないよなあ?

 

 そう呟いた彼は苦笑して私を見つめる。

 

 

 

 

 嬉しい。

 

 うれしい うれしい。

 

 

 

 私は その言葉だけで。

 

 

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「…そんなこと、言ったら怒られますよ?」

「…だろうな」

 そう言って、お互いに苦笑する。

 

 

 

 そっと、私の頬にキスが落ちる。

 

 もう片方にも、まぶたにも。

 

 たくさん、たくさん。

 キスの雨が降る。

 

 

 

 

 

 少しの間の戯れに指を絡め合った手は

 

 そっと離れがたく、結ばれたまま。

 

 

 

 

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 結ばれた手は、離れても

 

 今は、少しだけ笑顔を見せて。

 

 次にお会いする時を、こころより願って。

 

説明
APH島国腐向け やたら甘すぎる乙女BL。 えっちいのはかけません。 タイトルを当初より少し変更しました。
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