連載小説86?90 |
まさかまさかの楓。
値切り交渉じゃなかったけど、安い類似品を尋ねるなんて。
「似たデザインで、バーゲン対象の服って、ありますか?」
「え、えーと…ちょっと待ってくださいね」
そりゃ、困るよねえ。店員さんも苦笑いしながら引っ込んで行ったよ。
「楓、無理言わないの」
「でもさー、諦めきれないじゃん。これは高いけど、似たデザインがあるなら」
言ってる事は尤もだけど、やってる事は強引だ。
「あんた、図太いわ」
「よく言われます。っと、店員さん戻って来た。あの、どうですか?」
「はい、こちらなどどうでしょう」
店員さんの手には、確かに似たような服が。
「どれどれ? おお、これもいい! で、お値段は…」
「こちらになります」
どれどれ? つい私も値札を覗き込んじゃう。
「んー、五千円か。えりか、買ってもいい?」
「そ、それは自分で判断してもいいと思うよ。私大蔵大臣じゃないし」
でも、五千円なら、一点買いとしては妥当な価格だと思うな。
「よし、じゃあ買います!」
「ありがとうございます〜」
さて、今度は自分の分も見ないと…
「えりかは何を買ったの?」
「私はヘアアクセ。目立ちすぎず、埋もれず。いいのがあったからね」
という事で、なんとかこのお店での買い物は終了だ。
「じゃ、次のお店に行こう」
「次はどこ行くの?」
次のお店は「Catre(キャトル)」、ちょっとハードなデザインが売りのお店。
「加藤君も付いて来てよ」
「わーってます」
すっかり存在感を失ってる加藤君だけど、忘れたりはしない。
「いくぞー!」
「おーっ!」
〜つづく〜
三つめのお店は「Catre(キャトル)」。さて、掘り出し物はあるかな?
そして、楓の動向はどうなるのか!
「楓さんや、ぱっと見、どう?」
「そうだねえ、高そう…」
感想、そっち?
「値段以外の感想も言いなよ〜」
「値段以外〜? 私には無理だな」
ちょ、無理って! 無理ってなんだ!
「普通デザインの感想を先に言うでしょ、普通」
「いやー、まず値段で切らないと、また暴走して高いの買っちゃいそうだし」
確かに、暴走対策は大事か。今まで何回も一緒に買い物行ってる仲だけど、
ここまで暴走するのは初めて見たし、何かあるんだろうな。
「暴走するなら私が止めるからいいけど?」
「いや、やっぱ自分で止めないとだし」
なんだかしっかりしちゃって、寂しいやらほっとするやら。
「とにかく、入ろう入ろう。んじゃ、加藤君、また待っててね」
「りょーかい。あんま買いすぎるなよ?」
「保証しない」
とは楓の弁。ま、暴走の基準は金額だしね。安い物を多く買っても、
そんなに暴走って感じはならないから。
「損な役回りになっちまったぜ、全く」
「つべこべ言ってないで、待っててよね」
さて、中に入ろう。かくいう私もこのお店はあんまり来ないから、
久しぶりだったりする。
「さーて、何かいいものはないかなぁ」
せっかくだし、楓は自主性に任せてしばらくは物色だ!
「えーと…」
このお店はハード系。っても、ハード系って、なんぞ?
「ちょっとラインナップ変わった?」
チェーンとかジッパーの多いモノトーンのデザインか…
「んん? こっちは、飾りベルト?」
腕やら首やら腰やら、なんか、こんなだったっけ…
「あのー」
私はおそるおそる店員さんに訊いてみた。
「はい、なんでしょう」
「ここって、デザイナーさん、変わったんですか?」
第一に感じたのはそこだった。
「なんか、前来た時とデザインが変わってる気がしたんですけど」
「いえ、デザイナーはしばらく変わっておりませんが。失礼ですけどお客様、
最後に来店されたのはいつ頃でしたか?」
最後か。受験が本格的になる前だから、えぇと…
「去年の秋、ですね」
「そうですか。でしたら、デザイナーは変わっておりませんよ?」
ふむ、という事は、単純に今はこのデザインが中心、てだけなのかな?
「そうですかー。ありがとうございます」
「いえ。ですが、デザイン自体は新作発表ごとに決まったテーマで行っておりますから、
デザイナーが変わったように感じたんですね」
ふむ。
「そうかもしれませんね。変な事訊いてすみません」
「いえ。そういったご意見も貴重ですから」
良くできた店員さんだな。そんなに歳変わらないだろうに。
「さて、何かいいのはあるかなー」
一通り店内を見回す。正直言って、この手のデザインはどうもなぁ。
「私のカラーとは違う…なぁ。って、これはぁ!」
赤と黒だし、チェーンもないし、チャックも少ないし、いいかも。
「えぇと、値段は?」
仕立ては良さそうだ、という事は、値段が怖い事に…
「ど、どれどれ」
ど、どきどき。
「在庫処分のシールだ。何々? 三万五千円が…」
やっぱり高い!
「五千円?」
あり得ない! これは確認せねば!
「す、すみません! 何度もすみません!」
「はい、なんでしょう」
二回も声かけて、迷惑かもしれないけど、このカラクリ、
知らねば納得して買えない!
だって、実は問題あるかもしれないんだから!
「こ、これ…」
「あぁ、この服ですか?」
ん、何か知ってる様子。
「な、なんでこんなに安いんですか? いくら在庫処分でもこんなに…!」
「あぁ、それは…」
ドキドキ!
〜つづく〜
安売り価格の謎を解明すべく、店員さんに質問した私。
さて、どんな回答がえられるのか。
「この服はですね、前回のモデルなんですが、ちょっといわく付きでして…」
「い、いわく?」
ま、まさか。
「着ると事故るとか、血染めになるとか、そんなのですか?」
「い、いえ、それだとさすがにオカルトですけど…この服、実はデザイナーが」
ふむふむ。デザイナーがどうしたんだろう。
「デザイナーが採寸ミスしちゃってですね…買ったお客さんが誰も着られない言う…」
「えぇ〜? そんなの意味ないじゃないですか!」
買っても着られないとなると、安売りしたって、売れないような。
「いえ、単純にサイズが合わないだけですから、お客様のサイズによっては、
問題なく着られますから」
「でも〜。フィッティングできないですよね? ここ」
試着できないんじゃなあ。さて、どうしようかなぁ。
「あ、でも、もしサイズが合わなかった場合は返金させて頂きますよ」
「え、まじですか!」
そ、それなら!
「はい。返品に応じますから」
「でも、そんなサービスするほど着られないんですか?」
し、心配だなぁ。
「ま、まぁ、それは…」
「でもって、これは返品された奴じゃないですよね?」
私、古着は興味ないんだよなー。
「あ、それは大丈夫です。古着のような事はしてませんから」
よかったー。
「じゃあ、買います!」
ダメで元々、チャレンジだ!
「ありがとうございます。無事に着られる事を祈ってます」
よっし、チャレンジだぜ。
〜つづく〜
チャレンジャブルな買い物をした私。
さ、楓はどうかな?
「楓〜、どう? いいのあった?」
「えーと、こんだけ。えりか先生、ジャッジメントお願いします」
ふむ。て!
「楓どれだけ手に取ってるの!」
「いやー、まずは気に入った物を選んで行こうとしたらこんだけに…」
まーた楓は両手いっぱい持って…
「とりあえず、全部買ったらいくらになるか、計算しなさい」
「はいー」
ケータイを取り出し、値札の価格を一個一個計算して行く楓。
そして、一個数字を入れる度に表情が青ざめて行く楓。面白いなぁ。
「うぐぐ…私はこのフロアで予算オーバーするつもりはないぞ!」
「じゃあ、吟味しなきゃ」
というところで私の出番なのか。
「えりか先生、お願いします!」
「はいはい。んじゃあ、まず全部見せて」
楓から服を受け取って、一個一個見て行く。全部新作か。
「んー、これとこれは、色違い。これとこれは、同色系。こっちは…っと」
「おお〜、見事だ」
感心する前に、自分でその辺を吟味して選ぶ能力を身につけて欲しいよ、はぅ。
「んで? 楓さん、捨てられないポイントはどこなの?」
「んーと、チェーンとチャックのデザイン。後は…モノトーンのチェック柄」
て事は、新作のデザインアイデンティティに響いたのか。
「で、予算は?」
「こんくらい」
と見せられたケータイ(電卓モード)の画面とをチェック。
「じゃあ、二着だな」
「じゃ、私が選ぶんでいいんだね?」
楓の確認を取ると、私は「自分基準モード」を立ち上げた。
「まず、全部がくっついた服はないから、一着めはこれね」
「ほうほう」
チェーンが多くて、モノトーンのチェック柄をしたワンピ。
「で、二着めはチャック」
「ほうほう」
ファスナーの多いデザインで、色は赤と黒のチェック。
ここのブランドは基本チェック柄が多い。
「後は戻す、でいい?」
「むぅ、仕方ない」
よし、任務終了。
「後一つだけ言わせて。この基準を、自分で持てるように」
「努力します」
さて、後はお会計だね。
「さ、買いに行くなら言っておいで」
「うい」
私は待たせてる加藤君の所に戻った。
「お待たせ」
「買い物、済んだのか?」
どうやら待たせてもさほど気にしてる様子はない。
「まーね」
「あいつ、また暴走したのか? なんかやり取りしてたよな」
私は苦笑いしかできなかった。
「大変だな」
「お待たせ〜」
暢気に戻って来た楓に、私達はついつい忍び笑いをしてしまった。
〜つづく〜
七階での買い物を無事に済ませた私達。
この順番で一階ずつ降りて行くぞ!
「さーて、六階に来ましたよ」
エスカレーターで六階に下りて来た私達。
「ここはどんなお店が多いの?」
「んーと、小物と、羽織もの中心? あぁ、後、加藤君」
「へ?」
急に話を振られて、クエスチョンが浮かんでる。
「ここはベンチがあるから、休んでていいよ。買った物は随時渡すから」
「なんだ、そういう事か。じゃ、お言葉に甘えて」
正直、立ちっぱなしじゃ悪いしな。
「それじゃあ楓、好き好きに見て回ろう。何かあったらメールくれい」
「おう」
そうして、私は楓と別れて、私は一人お店に入った。
「BachーPlanzen(バッハープランツェン)、小物のお店。リニューアル以来、来てないからなぁ」
横目に映るのは、傘専門店に入る楓。???
「まぁ、いいか」
私は私の買い物を楽しもう!
〜つづく〜
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