唐柿に付いた虫 42 |
吸血姫が高度を下げる先を追った鞍馬の目に幾つもの篝火が映り、その鋭敏な耳に大勢の人の立てるどよめきのような音が入ってきた。
領主殿の設営した野営地の灯りが絶えることなく赤々と燃え盛っている。
あの大蝙蝠への警戒も有ろうし、大勢の盗賊団を虜囚として収容するのに手間取っているのもあろう。
(いかにあの領主殿が有能であれ、今夜中は、この山にちょっかいを掛けようという余裕はあるまいな)
とはいえ、日が昇ってしまえば、斥候の一人や二人は放つ程度の手は打つだろうが、それは鞍馬としては面白くない。
(まだ妖の脅威が去った訳では無い、あの山には暫し立ち入るべからず……とでも夜が明ける前にでも一報入れるか)
あの吸血姫が断片的に語った言葉を聞いただけでも、あの館に仕込まれた呪術と、それを支えたであろう道具類はこちらで押さえたい。
別段、それら霊宝を押さえたいのは私利私欲の類では無い。
そんな物が別の妖怪や堕落した坊主やらの手にでも落ちたら、それこそ別の火種の元である、霊地たる式姫の庭に収蔵し、時折は鞍馬の暇つぶしや、仙狸の酒の肴にでもなって貰う方が平和で良かろう。
それに、あの領主殿を少し脅かして、自分達の値段をもう少し吊り上げて置くのも悪く無い。
(まぁ、大蝙蝠は排除したが、黒幕は暗躍を続けているみたいだし、他の妖が居ないと確定したわけでもない以上、虚言では無いさ)
我ながら少々腹黒い詭弁だな、などと思いながら鞍馬は吸血姫の後を追って高度を下げた。
麓とは対照的に暗く空虚なあの盗賊団の立てこもっていた山に先に舞い降りた吸血姫が、館に駆け出す姿が見える。
(らしくないが、焦るのも無理からぬ事か)
今回の件には、彼女の王たる真祖と主の命が掛かっている、さしもの彼女が冷静さを多少欠いているのは致し方ない。
それを補助する為にも、自分は付いて来た。
鞍馬が軽く館の周囲を一巡りして、周囲の状況を見ながら高度を下げる。
その警戒する目に、館の庭先で倒れる一人の人の姿が見えた。
吸血姫の事は気になるが、生きているとしたら放っても置けぬ。
男に凝らしていた鞍馬の瞳が、すっと細くなる。
夜闇に上手に紛れる、動きやすそうな濃い鼠色の服を着た小柄な姿。
彼の持ち物だろうか、傍らには服と同じような色をした目立たぬ脇差が一振り転がっているが、いかにも軽装だ。
これは、領主殿の軍を迎え撃った、この山に立てこもっていた武装した野盗の一人では無い。
(なるほど、これはあの棺を取り戻しに来た盗賊の一人という事か)
鞍馬が、吸血姫に張り込みを依頼し、取り押さえて貰った内の一人だろうか。
あの大蝙蝠の襲撃で取り紛れていたが、盗賊団の全容解明の為にも、この連中の素性の調査も等閑(なおざり)にはできない、一人でも残っていてくれた事に感謝しつつ、鞍馬は棺の搬出に使われようとしていた、丈夫な木を井桁に組むのに使われていた縄を解いた。
細く縒った麻縄を複数束ねた、軟かく細く携帯性と強靭さを兼ねたそれに、彼らの技術と周到さが透けて見える。
「……これはまた、こちらも掘ると随分根深い感じだな」
ぼやきともつかない軽いため息を吐きながらも、鞍馬は手際よくひょいひょいと彼の体を縛り上げる。
堅く縛り上げるというより、力が入らないように的確に人体の要所の動きを封じるやりかた。
しかし、随分と深く気絶しているな……。
小さく引き締まった体は、かなり良く鍛え込まれたそれである事は、鞍馬には触れただけで察する事が出来る。
何があったかは知らぬが、その彼がこうまで無防備になるとは、余程に気力も体力も奪い尽くされたのだろう。
最後に自害を防ぐ為に、きつく猿轡を噛ませたその男を館の陰に寝かせてから、吸血姫の後を追い、館の横手に回った鞍馬は、意外にもまだ戸口の前で佇む彼女の姿を見出した。
「どうした、吸血姫?」
あの勢いだったら、今頃館の中で何か始めていたと思ったのだが。
鞍馬の声に、吸血姫が苛立たし気な顔を向けた。
「遅いぞ、軍師殿!」
麓から一人掻っ攫ってきて、魅了の術で操り人形でも作ろうかと算段して居った所じゃ、助かった。
物騒な呟きは聞こえなかった振りをしつつ、鞍馬は無駄口を叩かず、吸血姫の顔を見た。
「どうすれば良い?」
「この中に入って妾を招いてくれ、それで良い」
「判った」
鞍馬は、以前吸血姫が川を渡る事が出来ずに立ち往生していた姿を覚えている……恐らくあれと似たような、彼女の根幹に刻みつけられた何らかの禁忌の一つに触れるのだろう。
彼女の不老不死の肉体や、式姫から見ても異常な回復力、その身を霧や獣に自在に変える力の代償という事なのだろうか。
板戸を外し、竈や調理場が設えられた広い土間に入る。
ここは厨か……だが使われた形跡が薄すぎる、そんな事をちらと思いながら、鞍馬は戸外で待つ吸血姫に声を掛けた。
「吸血姫、入ってくれ」
待ちかねた様子で戸口を潜る吸血姫が周囲を見渡してから、ふむ、と一つ息を吐いた。
「やれ助かった、生者の結界には招きなくば立ち入れぬ。 これも妾達の弱点じゃ」
あの庭でもこの事を知りおるは主殿とお主だけじゃ、他言無用で頼むぞ。
「身内の弱点を吹聴して回る程阿呆では無いよ……しかし」
鞍馬が眉を顰めながら辺りを見渡す。
「妙な空間だな、聖性と魔性と俗性が重層化しているような」
だが、これと言って何か儀式の場らしい道具立ても何も感じないな。
「お主の見立ては正しい、恐らくここで時の果てへの道を固定しておったんじゃろうな、だが当然一目ではそれと判らぬように、何やら欺瞞を施してあるのじゃろうよ」
少しは手を抜かんか、師匠泣かせの馬鹿弟子が……。
そう呟きながら、吸血姫は厨のあちこちを調べ出したが、どうも日本のこういう部屋や調度、道具にはまだ馴染みが薄いせいか、調査の手が止まり勝ちである。
何やらぶつくさと涜神的な言葉を呟く声が、鞍馬の方に漏れ聞こえる。
「ふむ、方角的にはこの辺りに何か置くべきじゃが……この棚は何じゃ、軍師殿?」
吸血姫の指さす先を見た鞍馬が、小さく肩を竦めた。
「神棚……まぁ何だ、家の守りをしてくれる神様を祀る場所さ、それは大黒様という神を祀っているな」
「ふむ」
ただの木像で神は宿っとらんな、そう言いながら、吸血姫は神棚を探り出した。
それを見てから、鞍馬も手は触れぬようにだが、何か無いかと厨の中を見て回り出す。
四方の、余り厨に似つかわしくない立派な柱を見た時、彼女は僅かに苦笑した。
「こんな火の気の薄い厨だというのに、随分と火事を怖れて居たのかね」
「ほう、それは火事避けの守り札か?」
神棚の中の大黒を無遠慮に掴み出してしげしげ眺めていた吸血姫が、それを手にしたまま鞍馬の方に歩み寄る。
「ああ、火を使う事の多い厨では良く貼られているお札だな。 とはいえ、その辺のまがい物だ、小銭稼ぎで霊験を騙る輩が売って歩いてる代物さ」
ご丁寧に愛宕だ秋葉だと、あちこちの名の通った所の札を各種取り揃えているな。
そう皮肉っぽく呟いた鞍馬が札に手を触れ、その表情を僅かに改めた。
「どうした、軍師殿?」
「まだ糊が乾いてない……それに、この札から、微かだが何か妙な術の気配を感じる」
鞍馬の言葉の意味が解らぬ吸血姫では無い、彼女はその札に手を触れ、何かの気配を探るように深く目を閉じた。
ややあってから目を開いた吸血姫が、無造作にその札を引き剥がし、その裏を見た。
何やらの文字と文様を組み合わせた複雑な何かが書き付けられたそれを見て、吸血姫の瞳が鋭く細められる。
「考えよったな、これは力を表に出さぬ為だけの封じの紋じゃ、お主や妾がこの空間の奇妙さ以外を感じ取れなかったのも無理はない……そして、この柱の力を解放し、ここを儀式の場とするには別の札が要るという事か」
「札か……だがその札は」
恐らくその札は、盗賊団が黒幕から一回分を受け取り、そしてそれを使い終えた後に、再びこの封じの札に張り替える事で、自動的に廃棄される事となる……か。
周到な奴だ。
吸血姫から受け取った札の裏面をしげしげと眺めた鞍馬は、そこに施された術が、自分の理解が及ばない代物である事を確かめて首を振った。
「これは君たちの術か?」
君に……何とかできるか、そう問いかける鞍馬に、吸血姫は頷き返した。
「この場に施された術の大筋は見えた……この部屋の力を完璧に使いこなすには調査が足りぬが、このメダルと真祖の導きあらば、妾の力で時の果てへの道を開けるやもしれぬ……いや」
そこで吸血姫は小さく頭を振った。
そうではないな。
真祖、主殿……。
妾の全霊を賭けるに値する二人の為に。
「やってみせる」
二人の剣戟が激しさを増す。
その剣技は元より真祖より出でし物、個々の技量の巧拙、独自に編み出した工夫はあろうが、互いに手の内はほぼ知り尽くしている同士。
見えた隙が誘いの一手なのか、それとも自分の崩しが成功したのか、刹那の間にそんな読みあいをしながら、白刃と刃の如き爪が二人の間で閃く。
そして、その一瞬の隙に向けて放たれる凄烈なる奥義と、その封じ手の応酬が、さながら何かの舞いででもあるかのように、定命の者二人の前で華麗に繰り広げられる。
柱にもたれかかり、呼吸を整えながら、男はそれを少しでも見極めようと凝視し続けていた。
(斬撃もそれなりにあるが、刺突が多いな……)
細く鋭い剣の形状は確かに刺突向きではあるが、鋭く強靭な両刃は斬撃にも利があろうに、彼女たちの振るう剣技では、斬る動作の殆どが大きく動かす事で動きを眩ませたり、牽制するための技に集中しているように見える。
思えば、彼への止めと放たれたのも、白まんじゅうと彼の腕を刺し貫いた一撃も、鋭い刺突。
(何故だ)
無論、刀でも突きの技は数多くあるが、少なくともここまで偏重される事は無い。
彼女らの武術には、また別の理があるのか。
全ての技術には、それが成立した背景がある。
いつぞや、こうめと彼に対して鞍馬が講義してくれた事。
(そして、全ての技術に無意味な動作は無い)
殊に生存に直結する技術はそう。
武術なら、自分が使える武器、想定される相手の武装、想定される戦場、それにどう対応し、相手を倒すのか、無力化を目的にするのか。
それを考え、実地で試し、改善しながら技を研鑽し、積み重ねて来た歴史が、その動作には畳み込まれている。
時代が変わり、その動作が生まれた時の意味を失ったまま、ただ動作だけが伝承され、結果として現在は無意味と成り果てている、そんな事例も多々あろうが……。
(だから先ずは虚心に観察するんだ、相手の動きは様々な情報の宝庫なのだよ)
とはいえ、情報を読み解くにはとっかかりが必要。
文書に例えれば、文字や単語、概念を知らねばそもそも読めぬか、読めたとしても、その知識に応じて理解の深浅が生じるような物。
(だからこそ、護身術というだけでなく、戦場の隅にでも身を置くなら、武術の修練も多少はやって置く事さ)
そこで居眠りしているこうめ君、君のことだよ。
武術の心得があれば、式姫の事を知る一助にもなる、人や敵を見定める足しにもなる。
何事も経験は無駄にはならない、無駄に感じるなら、それは不運にも自身が無駄にしてしまっているだけの話。
(とはいえ、俺程度のぼんくらに何が見えるかは知らんが)
今は全霊で、この二人を見定めよう。
完全な回避などは無理な速度と間合いで繰り出しあう斬撃と刺突の嵐の中に、二人の体を掠めた傷から流れる血や布片が周囲に散る。
互角にしか見えない戦い。
だが、二人の間に、当事者だけが何となく判る、本当に微妙な差が生じ出す。
(……勝てる)
本来の真祖様ならば、その力には絶望的な開きがある、剣術一つ取っても、私など数合打ち合えれば上等だろう。
剣気を極限まで絞り、それを刃と化して剣と共に操り、小山の如き巨竜を、ハムの塊でも切るかのように両断したあの技を実見した事があれば、彼女に剣の勝負を挑もうとはすまい。
だが、急ごしらえの肉体に、無理に力を集めて元の姿だけ取り戻した今のあのお方が相手ならば、真祖の力を宿した宝剣と宝冠を我が物とした彼女の今の力が、僅かだが上回る。
今の真祖は、小さな器に無理に盛った力を溢れさせながら戦っているような物。
このまま、彼女に何かさせる間も与えず、持久戦に持ち込めば。
その思いに力を得て、彼女の剣が更に鋭く閃く。
キン。
硬く焼き締めた金属同士を叩きつけた時のような硬く澄んだ音と共に、真祖の薬指の爪が半ばから折れ、防ぎきれなかった攻撃が真祖の体を目がけて伸びる。
何とか体を躱した物の、真祖の右の翼の被膜が鋭く切り裂かれる。
「おっとと……やるねー」
均衡が崩れたか、真祖が防戦一方に追い込まれる、薬指の爪を再生している暇すらなく畳み込まれる。
もう少しだ……残る力を振り絞ってでも、更に力を込めて圧倒してしまえば。
彼女の心臓をこの宝剣で刺し貫き、この時の果ての地に封じ。
真祖の復活に使われ、かなりの力を喪ったようだが、式姫の庭の主から血と残る力を奪えば、私の力は更に強大になる。
その上で、後はじっくり、真祖の力を奪いながら、彼女の封印を強固にしていけば。
私は……。
「うんうん、中々悪くない計画だねー」
「……!?」
自分の内心が声にでも出ていたのか。
そんな事を思ってしまう程に、完璧な間での応答。
にこりと笑みを浮かべた真祖の顔が、妙にくっきりと見える。
一瞬とすら言えない程の刹那の自失。
攻撃に更に力を乗せようとした矢先に機先を制された事で、僅かだが体勢が崩れた。
命に至る、半歩の間が破られる。
彼女の内懐に影のように真祖が入り込み、長く鋭い爪を生やした手を手刀の形に作ったそれが、彼女の胸部に向かい、水が如くにするりと伸びる。
「くっ!」
何とか空いた左手でその手を払い、心臓へ伸びた攻撃の軌跡をずらしつつ、体を最小限に捩ってその恐るべき爪を躱し、大きく飛び退って距離を取る。
不滅の筈の心臓が、鷲掴みにされたかのように胸苦しい。
危なかった。
侮っていた訳では無論ない……だが、勝ちを確信したほんのわずかな心の隙に、無造作にひょいと飛び込まれたような、背筋の凍る感触。
太古から夜闇を支配してきた女神の目は、か弱き定命の者の心の動きなど御見通しという事なのか。
その力は拮抗すれど、勝負の綾を見切るその眼には、明確な懸絶があるというのか。
そんなこちらの思いを知ってか知らずか、真祖は楽し気な笑みをこちらに向けていた。
「今の踏み込みを咄嗟に捌けるなんて、大したものよー」
真祖が伸びた爪を眼前に翳しながらくすりと笑う。
「お城に居た時の貴女ならお仕舞だったのにね。 私を封じる手段を捜すために、随分とあちこちの厄介なのと渡り合ったんでしょ?」
不死者の多くは、その与えられた不滅の肉体や力に溺れ、戦いが粗雑になる者が多い。
だが、彼女はそうではなかった。
ちゃんと、その不滅の生を剣や術に乗せ、確かに生きて来たのだ。
その、真祖が知らぬ彼女の生の軌跡が、剣閃の合間に火花と散る。
「秘蔵の一瓶を空けながら、ドラちゃんとその辺りのお話できたら、とっても面白そうなんだけどなー」
そういえばー、唐柿ってチーズとか添えると良いお酒の供になりそうじゃないー、ワインと言えば最近作られ出したポルトーワインって知ってる?ワインを作る途中で焼きワイン(ブランデー)足してちょっと強めで甘ーく作って腐らないようにしてから、航海のお供にするんだけど、呑んだ事あるー? 私ーああいうのも結構すきなのー。
相変わらず、この方は呑んだり食べたりがお好きなようだ、あの城で彼女に傅(かしず)いていた頃を思い出すと、どうしても浮かんでしまう微笑を打ち消すように、彼女は目を伏せた。
「真祖様のお耳を汚し、美酒の友となれるような、面白い事など何もございませんでした」
その眼光に、自嘲や謙遜の色は無い、こなすべき事を行い、必要な物を得る為だけの旅路だったと……。
「……そっか」
あの城に居ながらにして、私の目は旧大陸ならば粗方を見渡す事ができる。
それを避けるために、恐らくは新大陸にも行き、亜細亜を経巡り、最後にこの日の本の国に至ったのでしょうね。
巧妙に痕跡を隠しながら移動を続けた彼女の微かな足取りを追い、随分世界のあちこちを旅する事となった。
そしてそれは、叛逆者を追う側が言うのも妙な話ではあるが……真祖が幾久しく感じた事が無かった、楽しみに満ちた時間であった。
真祖の支配及ばぬ地を巡り、自身の力が尽きる前に彼女を見つけ出さねばならない……それはまるで、この世界を舞台にかくれんぼや鬼ごっこ、そして宝探しの挑戦を受けた、小児の如きわくわくした日々。
追われる立場だった貴女にとっても、それは長い長い旅路だったでしょう。
日の下には身を置けぬ我らではあっても、月明かりの淡いの中に映るそれらの世界は、さぞや目に新しかったでしょうに。
ただ、それを受け止めるその心には、世界の驚異も美しさも楽しさも感じる余裕は無かったのね、我が愛しき叛逆者よ。
(逃亡者では無く、旅行者としてだったら、貴女はどういう感想を、その旅路に抱いたのかしらね)
語り合いたかった……な。
ふ、とそれと知られぬ程に微かなため息を吐いて、真祖は小さく肩を竦めた。
「あの一撃で終わりにしたかったんだけど。 まぁ、二番目に欲しかった物は貰ったし……いっか」
「二番……目?」
真祖の長く伸びた爪の間で、何かがきらりと光る。
「あれは……?!」
彼女が慌てた様子で胸元に手を伸ばし、そこに在る筈の物を探る。
その手の上に、ペンダントヘッドだけを切られた細い鎖がしゃらしゃらと落ちた。
あの一瞬で、私が気付かぬ内に。
愕然として上げた視線の先で、真祖の右手の爪がするすると縮み、その優美な手の裡に、彼女が胸元に提げていたメダルが収まった。
「私の物じゃ無いから、変な言い方になっちゃうけどー」
クルリと、器用にそのメダルが、彼女の指先で独楽のように回る。
「ここ『時砂の枯れ落つる地』に至る鍵、返して貰ったよ」
説明 | ||
式姫の庭の二次創作小説になります。 「唐柿に付いた虫」でタグ付けしておりますので、過去作に関してはそちらからご覧下さい。 |
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コメント | ||
OPAMさん ありがとうございます、元人間と最初から吸血姫という存在の差は大きく超えがたいかな、という辺りがこの差になってます。(野良) 常人には理解を超える程の戦いの最中に何気ない会話を交わす(真)真祖様の二人と焦りや苛立ちを見せる吸血姫。同じ不死者でも態度や感情をあらわにする部分の違いがはっきり書かれていて、野良さんが以前のコメントで書かれていた作品のテーマである超越者と人の関わりによる変化を対照的に感じられました。(OPAM) |
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