自分のことは好きじゃない、それでもオレは…
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「うわぁ…」

 

天辺でサンサンと輝いて地上まで熱を放ってくるお天道サマの下で

本日の仕事内容を聞いた『オレ』は、思わず深いため息を吐き出していた。

 

「まあまあ、そんな面倒そうな顔しないで。お駄賃はちゃんと弾みますから。」

「そりゃまぁ、言われたからにはやってやんだけどよ…」

 

そうは言ってみるものの、目の前にいる眼鏡を掛け、古めかしい感じの服を着た長い銀髪の男から

渡された紙に書かれている内容をもう一度確認すると、自分の中でみるみるうちにモチベーションが下がっていくのを感じてしまう。

 

まず、今からセフィロスの『勝ち上がり乱闘』の為に『元の姿』に戻ってスタンバイだろ?

んでそれが終わったら、ブラピの勝ち上がり乱闘でラスボスとして立ちはだかる、と…

 

…セフィロスかぁ。オレ、正直アイツ苦手なんだよなぁ…。

アイツってなんつーか、ものすごく訳わかんねーし…

 

「…あぁ。そういえば、今日は『彼女』が応援しに来るとかなんとか」

「うう、それならちょっとは頑張れるかも…」

 

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――――『オレ』の名前は、「ガレオム」。

「エインシャント島」という、今ではもう存在してない浮遊島で造られた戦闘兵器さ。

 

亜空軍と「この世界」のファイター共との戦いの中で一度は消えたもんだと思っていたが、

『キーラ』とかいうやたら眩しいのにオレの意志と関係なく復活させられて、

それからまたファイター共に倒されて…、…んで、気がつくと人の姿にされちまってた。

 

後から聞いた話じゃ、銀髪眼鏡な右手利きの創造の化身ーーマスターハンドが残した力に選ばれたんだと。

 

…最も、オレ自身は最初、『「この世界」で生きること』なんて微塵も望んでなかったわけだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…、やっぱアイツすげえ苦手…。突然クックックって笑い出すし、なんかクラウドクラウドってめっちゃ言い出すし…」

「あはは…。だけど、ガレオムさんもいい感じに圧してましたよ♪」

「そ、そうか…?」

 

セフィロスにボコボコにされて負けた後、再び『人の姿』になったオレは戦場でもある基地の中で休息をとっていた。

 

「そうですよ。最後まで頑張ってて、とってもえらいです♪」

 

ちなみに、褒め言葉をこっちに投げかけながらオレの頭を撫でているのは、『ポッパラム』というかつて亜空軍の一員だった奴だ。

 

頭に猫耳みてえなでけえ白リボンをつけて、黒い上着と赤いスカートの上にフリル付きのエプロンを着ている、見た目16歳ぐらいの女の子。

周りからは『ポップ』と呼ばれるそいつは今日、勝ち上がり乱闘で戦うオレのサポートに来ていたりする。

 

「つーか、お前今日ホントは休みだったろ?オレなんかのためにこっち来るより家で休んでたりした方が良かったんじゃねえの?」

「じっとしてるのって、わたし的になんだか落ち着かないというか…。

それに、ガレオムさんが頑張ってる姿も出来るだけ近くで見ていたいし…」

「そ、そういうもんか…?」

「そういうものですよ」

「お、おう…」

 

…ポッパラムってのは、本来気が小さくてすぐ逃げるような奴だって聞いたことあんだけど、

目の前にいるこいつは、なんつーか、まぁ…、結構積極的な感じなんだよな…。

 

出会った頃はすげえオドオドしてて、見るからに弱そうな奴って印象だったのに…

 

「はい、これ。喉乾いてるでしょう?」

「おう、サンキュ」

 

ポップから受け取ったスポーツドリンクを、俺は一気に半分くらい飲んだ。そのおかげか、さっきの疲れも少しは和らいだような気がする。

 

「あ、そうそう。実はハチミツ飴も持ってきてるんですよ」

「あー、こないだ森丘で見つけたやつで作ったのな」

「まぁ直接採取してくれたのはメイ君ですけどね」

「…あいつ、相変わらず怖いもん知らずだよな」

「本人曰く『「元の姿」でやれば造作もないですよ』とのことだそうで…」

「だろーな…」

 

後から来るであろう天使二人を待っている間、オレはポップと話でもすることにした。

 

「…そういや、今日は一緒に買い物行くんだよな?」

「もちろん、約束ですから♪」

 

…約束、ちゃんと覚えててくれてたのか。

 

「買うものも既に決めてありますよ。まずお米にキャベツ、それからじゃがいもにグリーンピース…」

「ぐ、グリーンピースは、別に買わなくても良いんじゃ…」

「ガレオムさん、好き嫌いは健康な身体の敵ですよ?

強くなりたいって言うならそういうのもちゃんと食べなきゃダメです」

「うう、わーったよ…」

「ちゃんとガレオムさんの好きなハンバーグのお肉やプロテインのやつも買いますから、ね♪」

「ん、まぁ、それなら…」

 

…ポップは、忙しくない時はいつもオレのそばに居ようとする。

 

こいつが言うには「ほっとけない」とのことだけど、オレ的には『オレなんかに』構うのなんて、

ポップ自身の時間を無駄にしちまってるんじゃねえかって気持ちの方が強いんだよな…。

 

…けど、それでも、オレにとってポップと一緒に居る時間は…、

 

 

 

…トントン

 

トントン

 

 

「ん?」

誰だ、オレの肩を指で叩いてくんのは。

 

そう思って後ろに振り返ってみると…、

 

「あのー…、ブラピにピット、もう来ちゃってますよ?」

「げっ!?」

 

至近距離で銀髪眼鏡もとい右手が作り物みてえな笑顔をこっちに向けてて、

その更に後ろの方じゃ黒い天使が溜息を吐き、白い天使が苦笑いを浮かべながらこっちを見ていた。

 

「あわわ…」

ポップの方もそれに気づいてガタガタと震えだしていた。

 

そういうこともあってなんともいたたまれない気持ちになってしまったオレは、彼女と一緒にこう叫ばざるを得なかった。

 

「「ご、ごめんなさーいっ!」」

 

 

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「うぅ…、本当に本当にすみませんでしたぁ…」

「そ、そんなに謝らなくたって大丈夫だって!ボク達だって早く来すぎちゃったし」

 

…ブラピやピットとの激戦を終えた後、オレはポップや件の二人と一緒にパラソル付きのテーブルに座っていた。

本来は『ブラックピット』という名の黒い天使は、何も言わずに何故かこっちをジト目で見てたりする。

 

「ブラピだって、そんなに怒ってないよね?ね?」

「…まぁな。というか怒る気すら起きない」

「ほ、ほら、ブラピもそう言ってるわけだし、この話はここでおしまいっ!とりあえず一緒にお昼ごはん食べよっか!」

「あ、はい…」「お、おう…」

 

『ピット』という白い天使の一声で、ランチタイムが始まった。

…なんつーか、コイツも結構グイグイいくタイプだよな。

 

「それじゃ、いっただっきまーす!」

「「「いただきます」」」

 

オレの今日の昼飯は、その辺の店で買ったからあげ弁当とプロテインドリンク。

いつもならポップの作る弁当を持っていくんだけど、昨日はアイツが遅くまで働いちまってたから、

これ以上疲れ溜めさせねえようにって、オレが止めさせたんだよな…。

 

「お店のお弁当も、なかなか美味しいですね」

「ん、そうだな」

「お、ブラピのは…、うわぁ、見事に野菜しかない…」

「…ナチュレに無理やり持たされたんだよ」

「しょうがない。ボクのとり天あげるよ」

「あ、わたしのハンバーグも良かったら」

「あー…。んじゃ、オレのからあげも」

 

…普段はポップと二人きりの時が多い昼飯時だけど、こうして他の奴と食ったりすんのも、まぁ…、そんなに悪くねえのかもしんねえ。

 

「あー!ブラピそんなにとるなよー!」

「くれるって言ったのお前だろ」

「だからって3個もとっていいとか言ってないー!」

「まぁまぁ…」

 

他の奴がギャーギャーと騒がしくしてんのも『見てる分には』面白れーって思えるし。

 

「ブラピがその気ならこっちだって、えい!」

「ああ、オレのプチトマト!オレだって、えい!」

「うわあ、またボクのとり天とったあ!」

「あわわわ…」

「はいはい、二人ともそこまでにしなさい。私のお弁当のエビフライ分けてあげますから。」

「「「あ、パルテナ様」」」

 

 

……『親父』のいたエインシャント島も、賑やかなところだったのかな…?

オレは、あの亜空間の主の起こした事件の時に生まれ・・・、

いや、造られてすぐに戦場に送られたから、そういうのあんまりよく知らないんだ…。

 

けど、もしも…、もしもあの時、あの島が亜空間に飲み込まれる前に

オレが今でも憎たらしく感じるあの『禁忌』の存在に気づいていれば…、

そしてあわよくば奴を殴りに行けていれば…

 

 

「あ、水筒のお茶が切れちゃいましたね。わたし、ちょっと自販機でお茶買ってきますね。」

「おー、いてら」

「ボクは、パルテナ様と一緒に次の試合行ってくるね♪」

「…ああ」

 

…テーブルには、オレとブラピの二人が残された。

 

ブラピはまたオレの方をじっと見ているが、オレ的にはコイツとは特に話すこともないし、

ポップが来るまでの間プロテインドリンクでも飲みながら待っとくか…

 

「なぁ」

「…ん?」

 

おっと、なんか話でもあんのか?ブラピがオレに話って、一体何なんだ…?

あんま一緒に喋る仲でもねえから、なんつーか全然想像もつか

 

「お前とポップって、付き合ってるのか?」

「ぶほっ!?」

 

ブラピにそう言われた瞬間、オレは口に入ってたもんを盛大に噴き出してしまった。

 

「げほっ、ごほ…、いきなり何なんだよ…?」

「いや、お前らいつも一緒にいるし、ちょっと気になってな。まぁ、その反応は予想外だったが…」

 

オレとしては、お前からそういう話題が出てくること自体がビックリだわ…。

てっきりこういう話にゃ興味ないもんだと思ってたし…

 

「…で、実際どうなんだ?」

「そ、それは…」

 

…確かに、ポップとオレは一緒にいることが結構多い。

 

けど、それはお互いがお互いのことをほっとけないからというだけで、別に『そういう』意味で一緒にいる訳じゃない、…と思ってる。

 

「…そんなんじゃねえよ」

 

…それに、『今のオレなんか』じゃ、あいつの恋人にゃきっとふさわしくないだろうから…

 

「別に、そんなんじゃねえから…、オレとあいつは…」

「…ふぅん」

 

オレのその答えを聞いて、なんでか納得できないと言いたげな顔をするブラピ。なんなんだ一体…

 

そこへ、ポップがペットボトルのお茶を持って戻ってきた。

 

「ただいま戻りましたー!」

「…おう、おかえり」

 

ポップはさっきと同じようにオレの隣に座ると、一気にお茶を飲んだようだった。

 

「ぷはー!生き返ったような気分ですー!」

「…そっか、そりゃよかったな。」

「? なんで、あっちの方向いてるんですか?」

 

…………やべえ。

ついさっきブラピからあんなこと言われたせいで、ポップの事全然直視できねえんだけど…。

 

「あのー、ガレオムさーん?」

 

…だって、しょうがねえじゃん。そんな話されたすぐ後にそいつの方をちゃんと見ろってのが無理な話だろうが…。

こいつとひとつ屋根の下で暮らし始めてかれこれ半年ぐらいは経つわけだが、そういう風に意識してしまうと、どうにも…

 

などと考えていると、

 

「ちょっと、聞いてるんですか?ガレオムさんっ!」

「うおっ!?」

 

不意にオレのすぐ目の前にポップのふくれっ面が現れたと思ったら、次の瞬間には目の前が真っ暗になっていた。

 

「いてて…」

 

そのすぐあとに左半身に痛みを感じたので、椅子ごとぶっ倒れたんだと理解した。

 

「え、ちょっ!?ガレオムさん、大丈夫ですかっ!?

……うわぁん、ガレオムさんごめんなさい、ごめんなさい〜っ!!」

「や、オレ全然平気だし。つーか、お前は悪くねえ全然悪くねえから!

だから泣くな、じゃない、泣かなくて大丈夫だからっ!!」

 

それを見て慌てて泣き出したポップを、オレはどうにか落ち着かせようとする。

…オレ一応丈夫に出来てんだし、そんな反応しなくたっていいのになぁ…。

 

ポップの涙を止めようと奮闘するオレの背後から、呆れたようなため息が聞こえた気がした。

 

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「……だいぶ落ち着いたか?」

「…はい。すみません、わたし…」

「だから謝んなくていいって」

「あ、はい…」

 

あれからしばらく経って、ポップとオレは人の少ない小道を歩いていた。

『泣いてるとこあまり見られたくない』って言うから、とりあえず近くの人のいねえ場所見つけて今は適当に散歩してたとこ。

 

「わたしはもう大丈夫なので…、とりあえず、お買い物行きましょうか」

「おう」

「あ。いつものお店、ここからでも結構近いですね」

「お、ホントだ」

 

ポップの通信端末で開いてるアプリの地図を見てみると、なるほど、確かにオレらのいるマークのすぐ斜め上にいつも行ってる食い物売ってるお店があるな。

 

「このまままっすぐ行ってみましょう」

「おう」

 

そんなわけでオレらはいつものスーパーに向かって歩き出した。

 

「にしてもここ、ほんと静かですねえ」

「そだな」

 

今、聞こえてる足音は二人分だけ。

 

…昨日は遅くまでずっとひとりで留守番してたから、こうやってポップと二人でいられるのは本音としてはすごく嬉しい。

最も、本人にそれを知られるのは恥ずかしいから言ったりはしねえんだけど…。

 

「ねえ、ガレオムさん」

「ん?」

「ガレオムさんって、初めて人になった頃と比べるとずいぶん変わりましたよね」

「変わった?オレが?」

「はい。物腰もちょっと柔らかくなりましたし、他の人とあんまり喧嘩しなくなりましたし、

マスターハンド様からのお仕事もちゃんと最後までやるようになりましたし。」

「それは…」

 

……違う、オレは変わってなんかいない。オレがそうしてるのは、あくまでもポップに迷惑をかけないためだ。

 

オレが誰かと喧嘩したり仕事サボったりすると、お人好しなポップはすぐ頭を下げに来てしまうし、

こいつのそういう姿を見るとオレもなんだか申し訳なく思ってしまう。

 

正直な話、特に「この世界」で今でものうのうと生きてる『禁忌』の奴はぶっ潰してえし、

右手の野郎から押し付けられる面倒な仕事だって本当はサボってしまいてえ。

 

けど、オレに『生きて欲しい』と望んでくれたこいつに、なるべくなら迷惑なんてかけたくない。

だから仕事も頑張るし、ケンカだってしないようにしてるんだ。

 

…オレは今でも全然ダメなオレのままだよ。

『エインシャント島のみんなを護るために造られた』のにその役目を全然果たすことのできなかった、何もかもがダメな…

 

 

「えっと…、あ、食料品店見えてきました!」

「おっと、ホントに結構近いんだな」

「チラシの安いやつ、売れ残ってるといいですが」

「んじゃ、急いで行こうぜ」

 

 

 

 

 

「よっしゃ、米ゲットだぜ」

「お野菜も安くて良かったです〜♪」

 

食料品店の中に入ったオレ達は、早速必要な食料を取ってきてショッピングカートのカゴに次々と入れていた。

 

「あ、グリーンピースも見つけました♪」

 

うげ、やっぱグリーンピースも入れるのか。…頑張って食おう。

 

「ハンバーグの材料も買ったし、後はガレオムさんのプロテインを…、あ、こっちですね」

 

いつもそうするようにポップとオレは、プロテインの売っている場所に向かった。

いつも行ってる場所だから時間なんてほとんどかけずにそこに辿り着くと、そこには…

 

「あ、コトノハちゃん」

「おっと。こんなところで会うなんて奇遇だね、二人とも」

 

目の前に立っていたのは、一人の女性だった。

 

1本の三つ編みに結んだ桃色の髪、白色と桃色がメインの巫女装束、

それから、そんな格好にはミスマッチな感じもする、頭に着けられた双眼鏡のようにも見える四角い機械のゴーグル。

 

歳は、確か17歳ぐらいだったと思う。

 

全身からはふんわりと花の匂いもするそいつのことをよく知っていたオレは、特に遠慮も無く話しかけた。

 

「よお、姉貴」

「やあ、ガレオム。元気にしてた?」

 

すると、そいつはとても嬉しそうに、オレに笑顔を返してくれる。

 

『姉貴』

 

オレにとって、この『コトノハ』ってひとは姉に当たる存在なのだという。それには、オレもすごく納得している。

 

…何故なら彼女の正体は、エインシャント島で、オレよりもずっと以前に生まれたロボットなわけだから。

 

「オレはまぁ、元気だけど。…そういや、『親父』の方はどうなんだ?」

 

人の姿をしているのは、ポップやオレと同じようにあの右手の力によるモノなんだが、

現代で力を受けたオレらと違って、姉貴の場合は、過去の時代から呼び出された上で人の姿になったんだと。

 

「『パパ様』なら大丈夫。今日も元気に組み手で大暴れしてたし。あ、最近はよく鼻歌歌うようになったんだよ。」

「鼻歌ってマジか。けど、元気そうなら良かったよ」

 

…『親父』の子供である彼女がそういうなら、本当に元気なんだと思う。

 

「…会わなくていいの?」

「今は、会いたくねえ」

「…そっか」

 

…ダメなままの『今のオレなんか』に、『親父』に会う資格なんて無えから。

 

「……じゃあ、僕はこれで。今日はこれからパパ様やメイデイとお出かけの予定だから」

「そっか、そんなら『3人で』楽しんでこいよ」

「……うん。」

 

それに、『親父』の元には、不出来なオレと違って優秀な子供が2人もいる。あいつらさえいりゃあ、『親父』だってきっと大丈夫だと思う。

……あの完璧な家族の中に入り込んでいい権利なんて、オレなんかにあるわけが無えんだ…。

 

「ポップもガレオムのこと、よろしく頼むよ。あとあんまり張り切りすぎないように」

「あはは、肝に命じておきます…」

「ふふ。それじゃあ、またね。」

 

姉貴は商品の棚からプロテインの粉の入った袋を掴むと、笑顔で小さく手を振って、花の匂いとともにその場から去っていった・・・。

 

…その背中が少しだけ寂しそうな感じに見えたのは、気のせいだろうか。

 

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『……おはよ、父さん』

『ああ、起きたか我が息子よ』

『うん。…ねえ父さん、オレはいつになったら戦いに行けるの?』

『…お前は、怖くないのか?』

『ん、何が?』

『…お前の頭には、亜空間爆弾が搭載されている。

それを使うことになれば、お前だってきっとただじゃ済まない』

『…………』

『…今ならまだ「奴」に見つからずにそれを取り外せるだろう。だから…』

 

『ありがとう。でもその必要はないよ、父さん』

『え…』

『だって、オレは「エインシャント島のみんなを守るために」造られたんだろ?』

『それは…』

 

『だったら、オレは頑張るよ。…例え、自分が消えることになっても。

オレが頑張って、ファイター達やっつけて、「あくーかん」?ってのを広げていったら、みんなのことだって、きっと守ることが出来るはず。

……つっても、オレはまだ造られたばっかだから、みんなにはまだ会えてないんだけど』

『……。』

 

『けど、父さんが守りたいって言うんなら、きっと良い兄貴や姉貴ばかりなんだろうなぁ。

……もし、この爆弾を起動させずに帰ってこれたら、ぜひみんなに会ってみたいなぁ』

『…………帰ってこれるさ。お前なら、絶対……』

『へへっ、ありがと♪父さんがそう言うなら、きっと大丈夫だよね!だって、オレは父さんに造られたロボットなんだし!』

『……そう、だな。頼りに、しているよ…』

『ああ、ドーンと任せといてよ!』

 

『エインシャント島も、ここにいるみんなも、全部オレが守ってみせるから――――』

 

 

 

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「――――はい、どうぞ」

「おう、サンキュ」

 

…食料品店での買い物を一通り終えた後オレは、そこからすぐ近くの小さな公園にあるベンチに座ってポップから棒付きのアイスを受け取った。

 

「今日買ったのもなかなかうまそうだな。まぁ、オレはどの味のも好きだけど」

「ふふ。ガレオムさんって、本当にアイス好きですよね」

 

ポップもオレのすぐ隣に座って、アイスの袋を開けている。

 

『そろそろおやつ時ですし、ついでに買っていきましょうか』ってポップに言われて、

その言葉に甘えて選んだアイスは、イチゴと牛乳の味が程よく甘々だし、

中に入ってる凍ったイチゴの果実もしゃりしゃりしてて、結構美味しく出来てると思った。

 

「ん〜♪このアイス、すっごく美味しいです〜♪」

「だよなぁ」

 

口に入れたアイスをもぐもぐしているポップの顔も、すげえほんわかした感じになってたり。

……正直、すげえ可愛いと思う。

 

「? どうしたんですか、そんなじっとこちらを見てきて…?」

「あ、いや、えっと・・・、な、なんつーかお前、すげえ美味そうに食うよなーって…」

「まあ、実際美味しいですからねえ♪そうだ。このアイスのこと、スマッターにも呟いてみようと思います♪」

「…まぁ、いいんじゃねえの」

 

ポップは、エプロンについているポケットから平たい板状の通信端末を取り出すと、すぐにスマッターを開いて、文字を打ち始めた。

 

…あ、『スマッター』ってのは、一言レベルの短い文とか写真とかを乗せて、遠くに要るやつとも簡単に繋がったりすることの出来るアプリのこと。

……右手の奴は確か、『コミュニケーションツールでもあり情報を送り出すツールでもある』とか言ってたっけ…。

 

オレは…、登録はしてるけど、使うこと全然無えんだよな…。

 

「よし、投稿完了です!」

 

ポップはこういうの結構使いこなしてるみてえだけど、コイツの場合は、機械越しでも直接会う時でもコミュ力高え方だもんな。

 

……オレ?戦闘兵器だった奴に何期待してんだよ。あるわけねえだろ、そんなの。

 

「…さて、アイスも食べ終わりましたし、そろそろ帰りましょうか。」

「そだな、洗濯物も取り込まなきゃなんねーし」

 

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…ポップっていう、今となっちゃすげえ積極性の塊になっちまってる一体のポッパラムと出会ったのは、光の化身と混沌と闇の化身の起こした事件の中でのことだった。

 

望んでもいないのにあの光の化身に無理矢理従わされてファイター共と戦い、そして再び敗れたオレは、気がつくと人の姿になっていた。

その後しばらくはボーッとしてた(今思えば何にも考えたくなかったのかもしれない)んだが、

そんな時不意に、オレよりもずっと小さな『そいつ』が、目の前に現れて話しかけてきた。

 

『えっと、あの、その…、大丈夫、ですか…?』

『あ…、えっと、わたし、ポップ…、ポッパラムのポップって、言います…』

 

『ポッパラム』――それは、影虫から創られた亜空軍兵士の一種。

 

モノをばら撒きながら逃げることしか能が無えとは聞いてたが、人の姿とはいえこうやって直接見てみると、その訳がよぉく分かった気がした。

 

理由は簡単、目の前にいたこいつの態度が、めちゃくちゃオドオドとした感じだったからってハナシさ。

 

んで、そのポッパラムは、数人のファイター共と一緒にオレのことを見張ってたわけだが、

……呆れたことに、そいつはオレの目の前で、ガタガタと情けなく震えてやがった。

 

まぁ、オレって人の姿でも結構デカいし、目つき悪いし、頭にツノ生えてるしで、自分で言うのも何だけど、かなり恐ろしい感じに見えるとは思うんだ。

実際、この時はファイター共もかなり警戒してたと思う。

 

…………けど、このポッパラムは、頑なにオレから離れようとはしなかった。

 

流石にちょっと気になってそいつに訊いてみたら、震えた声ながらも答えが帰ってきた。

 

『とても怖い…、ですけど、でも、あなたのこと…、放っておけないんです…。

あなたは…、なんだかとても、悲しそうに見えるから…』

その言葉を聞いた瞬間、オレの頭に血が昇った。

 

『……てめえに何が分かる?』

そして気がつけば、オレはそいつの胸倉を掴み上げていた。

 

その時は、すぐにファイター共に止められて渋々手を離したけど、

この初めての対面からしばらくは、このポッパラムに対する苛立ちが止まらなかった。

 

その理由は、今振り返ってみれば、ファイター達と仲良さそうにしてて

恵まれてるように見えたそいつへの、ガキ染みた嫉妬だったんだと思う…。

 

だけど、当のそいつはというと、不思議なことにオレに構うのをやめなかった。

 

ブルブルと全身を震わせてるくせに、オレの顔を見上げながら今にも泣きそうな顔をするくせに、オレが怒鳴りつけたらすぐに大泣きしだすくせに、

それでもこのポッパラムは、オレと話そうとするのを諦めようとはしなかった。

 

そして、そんな姿が視界に入ってしまうことが、この時のオレを余計にムシャクシャさせた。

 

『…………なんで、オレなんかに構うんだよ?』

 

……他の奴のことを考える余裕なんて持ち合わせていなかった頃のオレは、その理由だって全く解ろうとしていなかったんだ…。

 

 

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「〜♪〜♪」

「…………。」

「ふふっ、そんなにそわそわしなくたって、ハンバーグは逃げたりしませんよ♪」

「わ、分かってらぁ…」

 

食料品店近くの公園から何十分か歩いて家に帰り着いたオレ達は、

洗濯物を取り込んで畳んだ後、今日のディナーであるハンバーグを作っていた。

 

オレ的に一番きつかったのは、やっぱり玉ねぎみじん切りだな。

……これいっつも思ってる事なんだが、アレって切ってる時なんであんな目に染みんのかな…?

けどまぁ、こうしてちゃんと完成したから、こういう苦労もした甲斐はあるんだが。

 

「…よし。箸も通りますし、これで完成ですね♪」

「よっしゃ。んじゃ、後は盛り付けだな。」

 

ハンバーグが焼けたのをちゃんと確認したオレらは、付け合わせのために予め焼いておいたニンジンやコーンとかを二人分に分けて入れた。

…あ、グリーンピースも解凍して入れるんだな。…覚悟決めるか。

 

 

 

「――それじゃあ、いただきます♪」

「いただきます。」

 

料理を始めた時には既に腹がすげえ減ってたオレは、ポップと一緒に食事の挨拶を済ませると、早速、見るからに美味そうな大好物から食い始めた。

 

「んー、うめえ!」

「ほんとですねえ。ガレオムさん、頑張って作りましたもんね♪」

「…んなこたねえよ。オレがやったの、玉ねぎのみじん切りと成型だけだし」

「いやいや、そういうのも大事な工程ですから♪」

 

オレの目の前で、ニコリと笑顔を浮かべるポップ。

 

「それにガレオムさん、着実に料理上手くなってると思いますし」

「そ、そう、かな…?」

「そうですよ?♪昨日のオムライスだってそうですし、あ、あと、こないだのカレーもすごく美味しかったです♪」

「そ、そっか…」

「だんだんと色んなことが出来るようになってるガレオムさん見てると、わたしも嬉しくなりますし♪」

「…まぁ、オレがそれぐらい出来るようになんねえと、お前すぐ張り切って色んなことやりすぎてぶっ倒れちまうし。」

「うう…、それに関しては重々反省していますから…」

 

痛いところを突かれてしゅん、とした表情になるポップだったが、

正直な話、オレとしてもこいつの働き過ぎる癖は何とかしたいと思ってたりする。

 

……そういや、ファイターとしても活躍してる、ポップといい勝負なレベルに働き者な「すま村」村長の秘書は、

あんまりにも働き過ぎる時は、村長の手で強制的に仕事を打ち切りにされるらしい。

 

…………明日にでも、右手の野郎にちょっと話してみるか。

 

「ささ、せっかくの温かいご飯ですし、冷めちゃう前に食べちゃいましょう♪あ、グリーンピースも残さず食べるんですよ」

「わ、わかってらぁ…」

 

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――――ちゃぷ。

 

「ふぅ…」

 

よく温まったお湯ん中に自分の身体入れると、今日一日で溜まった疲れが全身から逃げて一気に溶けていくような、そんな感じがする。

 

飯食い終わった(グリーンピースもきっちり食った)後、ポップが先に入って上がってから、オレも風呂に入った。

 

…風呂場の中は、真っ白な湯気と高めの温度、それからほわほわしてて清潔感のある香りでいっぱいになってた。

 

その香りは言うまでもなく、ポップのいつも使ってるシャンプーのだろう。

この良い匂いも、だいぶ嗅ぎ慣れてきたような気がする。

 

…思えば、ポップの家に来てから、もう半年経つんだよな…。

 

 

――光と闇の化身共が起こした事件がどうにか無事に終わってからまだ間もなかった頃、

オレは、あの右手が勧めてきたにもかかわらず屋根の下で暮らすのを拒んで、ひたすら野宿をしていた。

『親父』達のとこには当然帰りたくなかったし、誰かに頼るなんてのもかっこ悪いって思ってた。

 

…だから、一人で生きていこうと頑張った。

 

けど、すぐにその考えが浅はかだったと思い知らされることになる。

 

野宿を始めてから数日経ったある日、突然やってきた暴風雨が、オレの数少ない食い物や衣服とかの荷物を丸ごとどこかへ持って行ってしまったからだ。

 

…それを見た瞬間にオレが途方に暮れてしまったのは、もはや言うまでもないかもしれない。

 

『もはやどうしようもねえし、ここらで野垂れ死にでもしちまおうかな…?』

そう本気で思い始めた時、オレに助け舟を出してきたのがあいつだった。

 

『あのぉ…』

このクソ強い風と雨の中でもすま村のコーヒー飲む店までバイトしに行ってたというポップに、呆然と立ち尽くしていたオレは心配そうに声をかけられた。

 

『…とりあえず、うち、来ませんか?』

 

それから、腕をグイグイ引っ張られたオレは、あっという間にポップの家まで連れて来られた。

この時オレが抵抗しなかったのは、そういう気力が既に無くなってたからかもしれない。

 

家に着いた後は、シャワーを浴びさせてもらったり、

替えの服(後から聞いた話だと右手に急ぎで作ってもらったらしい)をもらったり、あと晩飯まで作ってもらったりと、

…とにかく至れり尽くせりのもてなしを、ポップからしてもらったんだ。

 

それでも、そういう『温かさ』は、オレなんかにとっちゃ『甘え』でしかないって思ってたから、一晩休んだらこの家から出ていこうって考えてた。

 

……けど、ポップは意外に鋭かった。

 

『朝になったら居なくなっちゃってる、・・・なんてことは、ないですよね?』

夜寝る前、ポップはいきなりそんなことを言い出した。

 

オレは思わずぎくりとしたが、それを知ってか知らずか言葉は続いていく。

 

『……ガレオムさんって、すごく思い詰めてしまう感じに、わたしには見えるんです。

だから、とっても不安になって、すごく怖くなってしまう』

 

……その時のポップの声は、今にも泣き出しそうな感じだった。

 

『…………あなたが、どこまでも遠い場所に行ってしまう、そんな気がして……』

 

涙の混じり出した声を聞いて段々と胸が苦しくなってきたオレにとって、

ポップが次に吐き出した言葉は、何よりも深く心に突き刺さるものだった。

 

『……わたし、もっと頑張りますから…!ガレオムさんのこと支えられるように頑張りますから…!』

 

 

『だから……、わたしのこと、もっと頼ってください…!

ガレオムさんが、わたしの知らないところで、ひとりで苦しんでたりしてるって思うと、わたしも、辛いですから……』

 

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「上がったぞ」

「あ、ガレオムさん。お布団の準備ならバッチリですよ!」

「相変わらず仕事早えーな」

「えへへ、それほどでも?♪」

 

風呂から上がった後は、いよいよ寝る時間になる。

 

ポップは元からあったベッドで寝るんだけど、オレはそれだと身長的にもサイズが合わねえってことで、オーダーメイドで拵えた布団を床に敷いてもらってる。

……まぁ、ポップとふたりで一緒につっても、オレ的には、ちょっと困るし…

 

「その前に髪乾かさねえと」

「あっ、わたしやります♪」

「おう、んじゃ頼むわ」

「はぁい♪」

 

ブォォォォォ…、ズッ…ズッ…

 

「……相変わらず硬えだろ、オレの髪」

「あ、はい…」

 

オレの髪質ってかなり硬くってさ、そのせいでブラシの歯がダメになっちまったことも割りかしあるんだよな…。

 

この辺りは、オレ自身の元の姿が機械だからってのが理由だと考えてる。

あ。でも、姉貴のは結構サラサラな感じなんだよな…。この辺の違いって何なんだろ…?

 

「はい、乾きましたよー」

「ん、サンキュ」

 

髪を乾かし終えた後は、すぐに布団へ直行。明日も試合用のアイテム運びとかあるし、早めに寝ちまわねえとな。

 

「明日も大乱闘のお手伝い、頑張りますよう♪」

「そりゃいいけど、お前ホント、あんま張り切り過ぎんなよ。こないだみてえにぶっ倒れられたら…」

「わ、分かってます、分かってますから!明日はちゃんと定時で終わるようにしますから…!」

 

ホントかよ…?昨日、朝に定時で帰るって言っといて、結局遅くまでハトの巣でバイトしてたのは、どこの誰だったんだか…。

 

……けど、ポップの必死そうに訴えてくる姿を見てたら、その言葉も吐き出すのをためらってしまう。

あんまきつい言葉浴びせると、ポップを泣かせちまうかもしんねえし、そういうのはオレだって見たくはないんだ…。

 

かといって、こいつの働き過ぎを放っときたくもないし、ホント、明日右手に相談してみた方がいいかもしれない。

 

「それじゃ、そろそろ寝ましょうか」

「…そだな」

「おやすみなさい、ガレオムさん」

「おやすみ」

 

……ポップが寝息を立て始めたのは、それからすぐのことだった。

まぁ、こいつの眠りに落ちるのが早いのは今に始まったことじゃないが。

 

 

「…………。」

一方、オレはというと、目が冴えてて全然眠れそうになかった。

どうして眠れないのかってのは、恐らく自分が一番よく分かってるんだと思う…。

 

 

…………真っ暗になった部屋の中でまず最初に思い浮かんでくるのは、オレが故郷を守れなかったってこと。

 

ガキ二人を捕まえて頭に付いてた亜空間爆弾を起動させたあの時、地上に降りてヘマばかりしてたオレも、これで島のみんなを守るための役に立てるんだって、…そう信じてた。

 

……だけど、光の化身に突然蘇らされた直後、奴と奴に囚われていた右手の記憶によってオレは、

エインシャント島が沢山の亜空間爆弾に飲み込まれてしまい、そして二度と「この世界」に戻ってこなかったことを目に焼き付けさせられた。

自分のやってきたことが全て無駄だったと、自分が造られた意味なんて何ひとつ無かったんだと、そう思い知るにはその事実は余りにも充分過ぎた。

 

エインシャント島のみんなを守るために造られたのに、その役目を全くと言っていい程に果たせなかったダメなオレなんて、生きていても意味なんて無い、

だから化身だろうがファイターだろうが誰でもいいからオレのことなんてとっとと跡形もなく消して欲しいって、そう思ってた。

だが光の化身は、そうしてくれないどころか、まるで自分の所有物かのようにオレの身体の自由を奪って好き勝手に弄びやがった。

だから、ファイター共に立ちはだかる駒として置かれた時に、奴らが完膚なきまでにぶちのめしてくれることを願った。

 

……結果的に一度はそれが叶うことになるんだけど、今度はあの右手が残した力とやらに選ばれたことで、また生き返るハメになっちまった。

この時は『どいつもこいつも、なんでオレのこと楽にさせてくれねえんだ』って、自分の周りの全てを恨んでた。

 

人の姿になった頃からオレのそばに近づき出したポッパラムに対してだって、そうだった。

あの頃のオレは、オレよりもずっと小さなそいつのことを弱っちいくせに仲間がいるのをいいことに

ヘラヘラと笑ってるふざけた奴だって思い込んでたから、とにかく拒み続けた。それこそ自慢の腕力も駆使して、何度も何度も…。

 

『殺せ、さっさと殺せよ!てめえらなら容易くできんだろうがっ!!』

 

無論、実力行使しときゃファイター共も今度こそ消してくれるかもしれないって、そういう魂胆も込みだった。

まぁ、そのポッパラムが説得してたからか、あるいはファイター共がお人好しだったからか、結局は止められるだけに留まったわけだが…。

 

ともかく、そうしたらポッパラムはすぐベソかいて逃げてくんだが、しばらくするとまたオレに近づいてくる。

オレはそいつがこっちに来る度に退けたが、それでもそいつはオレの傍にいることを諦めようとしなかった、泣きベソはかくくせに。

 

その繰り返しが何度も何度も何度も続いたある時、オレはとうとう我慢できずに心の中に抱え込んでた思いの全てをそいつにぶちまけ出した。

 

故郷や兄弟達を守ることが出来なかったこと、そんな世界で生きていくのがこの上なく辛いこと、オレが全然ダメなロボットなこと、

さっさと消えて楽になってしまいたいこと、なのに誰もオレのこと消してくれなくてもどかしいこと、あととにかく目の前のポッパラムがうっとおしいこと。

 

それらを怒りのままに、立て続けにぶつけてやったけど、それでもそいつは、オレの目の前で嬉しそうに笑ってた。

 

どうしてそうなるんだって不思議に思ってると、すぐにその答えが届いてきた。

 

『……ようやく、ちゃんと話してくれた』

 

オレが予想だにしていなかった言葉のすぐ後に、ポッパラムはオレに抱き着いてきた。

訳も分からず混乱しているオレに、そいつは更に言葉を続けてくる。

 

『あなたが話してくれて、わたし、とても嬉しいんです…!あなたのこと、ずっと知りたかったから…!』

 

知りたかった…?なんで、オレなんかのことを…?

頭の中に更に疑問符を浮かべたオレ。そんな時、女の子の泣きじゃくる声が耳に入ってきた。

 

『…………わたしはずっと、あなたを救いたかった…。

消えたがりのあなたの心を、どうやったら救えるかって、ずっと考えてたんです…』

 

……そいつの口から吐き出された言葉は、消える事ばかりを望んでいたオレが、これまで頑なに解ろうとしなかったこと。

 

『……けど、わたしのやろうとしてたことって、結局はわたしのワガママでしかなかった…。

あなたがどれだけ苦しんでるか、そんなことも知らずに、ただただ無理矢理生かそうとしてたんですから…。

本当に、ごめんなさい…、ごめんなさい、ガレオムさん……』

 

胸元ですすり泣く小さくてか弱い存在の想いを知った時、オレは、心の底から後悔の気持ちを覚えた。

 

オレのことをずっと思ってくれてた奴を、何度も泣かせた上に、こんなことまで言わせちまうなんて、

オレは、なんて酷い奴なんだって…、本当、どうしようもねえ奴だよなって…。

 

……けど、そんなオレにだってポッパラム…、いや、ポップは、顔を上げてこう言ってくれた。

 

『…………だけど……、それでも、わたしはあなたに生きていてほしいんです…。

恐らくそれは、あなたを余計に苦しめてしまうのかもしれない…。

でも、嬉しい事や楽しい事ととか、生きてることで感じられる色んな幸せとか…、

そういうのを知らないままいなくなってしまうのは、あまりにも悲しいって、そう思うから…』

 

まるで引き留めるかのようにオレの身体を包み込む細い両腕は、なんだかとても暖かく感じられた。

 

『……っ、わたし、頑張りますから…!ガレオムさんの苦しみを少しでも取り除けるのように、

あなたが安心して生きていけるように…、いっぱいいっぱい、頑張りますから…!……だから、お願いです…、』

 

 

『……どうか、わたしのために、生きていてください…!』

 

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…………まだ自分のことは好きになれないけど、それでも、明日へ向かおうと少しだけでも思えるようになったのは、

今ベッドの上ですやすやと呑気に眠っている、たった一人の女の子のおかげだろう。

 

規則的に聞こえてくる可愛らしく小さな寝息は、自然とオレをホッとした気持ちにさせてくれる。

 

……それは、『今日』が平和なまま終わった証。

だけど、言い換えてしまえば、『今日は』大事なモノを何一つ失わずに済んだということ。

 

大切だと思ってる人達が『明日も』当たり前のように存在している保証なんて

どこにだってないってことは、嫌と言うほどに理解してる。

 

……だから、オレはもっと強くなんなきゃいけない。

 

ポップも親父も姉貴も兄貴も、みんなのことまとめて守れるぐらい強くなれれば、

……オレもきっと、あの時みたいな辛い思いはしないで済むだろうから。

 

…………オレさえいっぱい頑張れば、今度こそ、ちゃんと全部守れるよね…?

 

明日が来るのはやっぱり不安だけど…、それでも、オレに『生きてほしい』と望んでる女の子の為にもどうにか生きていきたい。

そいつのことを悲しませることは、絶対にしたくないし、……できたら、ずっと一緒に…、

 

……いや、これはまだ、『今のオレなんか』が望んじゃいけないことだよな…。

 

 

…………あぁ、ようやくまぶたも重くなってきたな。

 

……明日も、今日みたいに、大切な人達が何事も無く穏やかに過ごせますように。

 

そう願いながら、オレも夢の中へと潜り込んでいった。

説明
擬人化したガレオム君の「この世界」での日常を描いた話です。
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ガレオム ポッパラム スマブラ 擬人化 

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