江東の覇人 1話 |
「ん・・・・・・」
心地よい目覚め。今日も良い1日を送れそうだ。涼しい風が頬を撫でる。
風・・・?
窓でも開けたまま寝たのだろう。うん。
そういえば・・・いつ寝たっけか・・・・・・覚えていない。
まあいいだろう。
草木の匂いも目覚めを祝ってくれている。
草木の・・・匂い・・・?
何だ・・・野宿でもしたのか俺は。
「おい・・・起きろ・・・」
そして、野太い声が・・・
野太い・・・声?
誰だよ、こんな心地よい目覚めに無粋な真似をするのは・・・・・・
そう思いながら、北郷一刀は目を開ける。
「身ぐるみ置いていきな」
・・・・・・・・・・・・
「おい、聞いてんのか」
夢だ・・・うん。
さあ、爽やかな風・・・草木の匂い・・・・・・俺を再び夢の世界へ・・・
もう一度眼を瞑り、一刀は眠気に身を委ねた。
「起きろっつってんだろうがぁ!!!」
どす・・・と、何かが頬の横に刺さる。
ひりひりと・・・頬が痛み、生温かい感触が頬を伝った。
「・・・・・・は?」
思わず目を開き、隣を見れば、自らの顔。
それが、鋭利な刃物だと気付いた瞬間、再び野太い声が聞こえる。
「起きたか」
声の方向を見れば、黄色い布が特徴的な男3人組。
「・・・・・・誰・・・?」
見た事無い顔・・・というか、服装も・・・何というか・・・・・・変だ。コスプレ?
「おい、死にたくなきゃ、金と服置いていきな」
その辺の雑魚キャラが吐くような科白を言いながら、先程の剣を突き出す男。
何だ・・・ドッキリか。カメラ何処だよカメラ。
実は現実逃避をしてる事に気付きながら、辺りを見渡す。
木・・・木・・・木・・・チビ・・・標準体型・・・デブ・・・木・・・木・・・木
気付く。唐突に気付く。1番始めに気付かなければならない事を一刀は気付く。
「ここ・・・・・・どこ?」
こんな森はフランチェスカやその周辺には存在しない。
林はあっても森はない。
おかしい。何かがおかしい。
だって、森にいるし。目の前の人、変だし。この剣、本物っぽいし。傷、痛いし。
え・・・何これ。夢じゃないの?ドッキリじゃないの?及川がその辺隠れてて、
『ドッキリやで〜!』
とか言ってくるんじゃないの?
「おい!!」
いきなりの怒鳴り声に、びくっと体が反応する。
「は、はい?」
「てめぇ、今の聞こえたか?金と服置いてけっつってんだよ!」
「・・・は、はぁ?・・・それより・・・・・・ここ、何処です?」
・・・・・・・・・・・・
沈黙。え、何その反応?そんな不味い事聞いた?・・・と、逆に不安になる一刀だが、沈黙の理由はそれではなかった。
「アニキ・・・こいつ、頭おかしいんじゃ・・・?」
「俺もそう思う・・・」
「ど、どうずる?捕まえる・・・?」
何やら相談を始める3人。あれ・・・もしかしてチャンス?
何やらピンチっぽいので、瞬間的に活性化した一刀の思考が色々な答えを導く。
1、逃げる
2、再び寝る
3、ここは夢!つまり俺はむて〜き!!かかってこいやぁ!!!
コンマ数秒で結論。
「逃げるが勝ち!!」
「あ、てめっ!!」
「ま、待つんだな〜」
3人が追いかけてくるが、関係ない。逃げる。ただ逃げる。ひたすら逃げる。
ここがどうだろうと、まず命。
結局ここが何処かは聞けなかったが、命より大事なんてものはないのだから。
ひたすら走り、数分後。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・まいたか・・・」
後ろを振り返っても誰もいない。足音も聞こえない。
「何なんだよ・・・ったく・・・・・・」
完全にまいた事で気が抜け、その場で座り込む。
周りを見渡すが、相変わらず森の中のようだ。
「・・・フランチェスカ・・・じゃない・・・・・・そもそも・・・日本・・・か・・・?」
あの時の3人を思い出す。日本語を喋ってた。日本語圏は日本だけ。必然的にここは日本なのだが・・・。
何となく、違和感が一刀の中に残る。
「とりあえず・・・歩こう・・・・・・あいつらがまた来たら困るし・・・」
幸いながら、森の出口はすぐ見つかった。
しかし、それは幸いなどではない。
それは絶望への・・・または・・・正しき世界への道。
「な、何だよ・・・・・・これ・・・?」
思わず裏返る声。
そこにあったのは・・・戦場。
人と人が殺しあう・・・愚かな舞台。
先程の男達のような黄色い布をつけた部隊と『孫』という旗を掲げた部隊。
勝敗は歴然だった。
素人の一刀でもわかる。
黄色い部隊は何の策略もなしに突っ込むだけ・・・陣形もくそったれもない。
対し、孫の部隊は陣形も定まり、突っ込んでくる敵をいなしながら横撃し、確実に殲滅していく。
あれは戦争ではない、虐殺だ。
孫の部隊が一方的に虐殺してるに過ぎない。
ちゃんとした軍隊だろう・・・大義名分もあるのだろう・・・
でも・・・それでも・・・・・・認めたくない。
いきなり襲いかかってくる非現実。
日本がどれだけ平和か、見せつけられるような非現実。
「う・・・うおぇぇ・・・げう・・・」
胃からこみ上げる物が止められない。
人の叫び声がここまで聞こえてくる。
気持ち悪い。去らなければ。ここから。去らなければならない。
その時、大勢の怒号にも似た声が聞こえてくる。
どうやら孫の部隊が勝ったようだ。
黄色い布の部隊は散り散りになりながら、逃げ去っていく。
とりあえず・・・終わった・・・・・・終わってしまった。
ここからでも見える。
死体の山が。
赤く染まる大地が。
大空へと届く煙が。
と、その時、一刀は体内に走る血が逆流する錯覚を感じた。
逃げる黄色い布の部隊の数人が・・・こちらへ向かってきている。
「まずっ・・・!」
すぐさま立ち上がり、森へ引き返した。
あんなのに出会えば、何されるかわかったもんじゃない。
というか・・・わかりきっている。
死。
頭に過る絶望を拭い、全力で森の中を駆ける。
しばらくすると、怒鳴り声や斬音が一刀の耳に入ってきた。
どうやら孫軍も追撃しているらしい。
「くそ・・・何でこんな事に・・・・・・!」
つい昨日まで友人達とバカ騒ぎしてたというのに、何故こんな目に合わなければならないのか・・・これも運命だとでもいうのか。
そんなもの・・・認めるものか!!
生きてやる・・・絶対に・・・・・・こんな所で死んでたまるか!!
俺はまだ・・・死にたくない!!
決意を胸に森を逆走するが、流石に体力が持たない。
ちょうどいい茂みがあったので、ひとまずそこに飛びこんだ。
怒声が飛びかう中、身を縮こませて耐え凌ぐ。
下手に動くよりはマシな筈・・・と、息を殺し、時が経つのを待つ。
体感での数分後、ようやく怒声が止んだ。
ほっ・・・と、息を吐き、立ち上がる・・・・・・
「名を名乗れ」
瞬間、一刀の背中に硬い物をあてられた。
「っ・・・!!」
全く気付かなかった。気配も何もなかったのに。
「・・・?・・・妙な格好だな・・・・・・お前、何者だ?」
男の声・・・先程の黄色い布の3人組とは違う。
「ほ、北郷一刀・・・・・・フランチェスカ2年・・・剣道部・・・」
とりあえず、情報だけ・・・それでも、あてられたものはどけられず、それどころかより強くあてられた。
「ふらんちぇすか・・・?そりゃ何処の邑だ?・・・お前、生まれは?」
「と、東京の浅草・・・」
「・・・知らねぇな・・・・・・!!・・・まさか・・・」
と、剣がのけられ、背後の男が目の前にやってくる。
桃色の髪をした男だった。褐色の肌に桃色、珍しいどころか、少し気味悪いとさえ思う色だが、不思議とそう感じさせない。むしろ、美しいとさえ思う色合い。年齢は・・・20代後半辺りだろうか。
「・・・・・・天の御遣い・・・か?」
「・・・はぁ?」
聞いた事のない単語で呼ばれ、思わず声に出してしまう。
それも気にせず、男はじろじろと見てきた。
「昨日の流星・・・この服装・・・間違いねぇ・・・・・・」
ぶつぶつと何かを呟く男。逃げたいのは山々だが、目の前の男には隙が全くなかった。先程といい、只者ではない。
逃げれば、殺される。
予感。
いや、恐らく事実。
とりあえず、すぐどうこうとする訳じゃなさそうだし、情報を集めよう・・・と、一刀は口を開いた。
「あ、あの・・・?」
「あ?何だ?」
「ここは・・・何処なんです?」
「ここか?荊州南陽っつうとこだ。自己紹介が遅れた。俺は孫覇。性が孫で名は覇・・・字が子威だ」
先程の男達とは違い、ちゃんと答えてくれた。
「孫・・・覇・・・さん?というか・・・字?」
字は昔の中国で使われていたものの筈・・・と、脳の片隅にある記憶を引っ張り出した。
何故、今になってそんなものを?
「ん〜・・・こうやってみると、中々いい面構えしてんなぁ・・・目も悪くねぇ・・・・・・」
孫覇と言う男が瞳を覗きこんでくる。
「な、なんでしょう・・・」
纏う空気が、殺気から好奇心に変わっていた。
半ば安堵にも似たものを感じながら、男の次の行動を待つ。
「よし決めた・・・お前・・・・・・雪蓮達の所に行け」
「しぇれん・・・?」
「・・・っ・・・・・・おいおい・・・・・・いきなり呼ぶかお前・・・あー、でも俺が真名言ったのも悪かったのか・・・」
「まな・・・?って何です?」
「・・・・・・知らねぇのか?真名っつうのは、その者の神聖な名の事だ。親しい者、愛しい者にしか授けてはいけない名前。他人の真名を知っても、本人の許可無しで、真名を言ってはいけないという・・・暗黙の了解を持つ名・・・それが真名だ」
それって・・・今、物凄く失礼な事をしたのでは・・・・・・嫌な汗が一刀の背中を伝う。
「良かったなぁお前。雪蓮達の所でそれ言ったら、容赦なく首刎ねられたぞ」
良かった・・・この人に会えて良かったと、心から祈る。
「ま、俺も腕一本で許してやんよ」
「って全然良くない!剣構えないで、お願いだから!!」
「冗談だよ冗談」
と言いながら、目は笑わず、剣に手を添えている・・・・・・もう、不注意に人の名前を呼べない一刀であった。
「で、あの・・・その、さっきの人、誰なんですか?」
「雪蓮は俺の妹でな。名前は孫策、孫家の主だ」
・・・・・・・・・・・・は?
「そん・・・さく・・・・・・って、はい?孫策って、孫子の『孫』に、策略の『策』?」
「おお、そうだ。かの有名な『江東の虎』孫文台の娘、孫伯符その人だ」
・・・・・・ええぇええぇぇぇえぇえぇえぇえぇ!!?
孫伯符って、あの孫伯符?三国志の、孫呉の孫策!?
そうだ・・・荊州っていったら、三国志の時代の地名だ・・・・・・さっきの戦争といい・・・孫策といい・・・まさか・・・・・・ここは、三国志の世界・・・?
いや・・・待て、早まるのはよくない・・・うん。だってさ・・・言ったよね・・・この人。
孫伯符は俺の妹・・・って。
孫策に兄がいたかはともかく『妹』って。
つまり、孫策は『女』!俺の知ってる三国志ではない!!
じゃあここ何処だよ・・・でも・・・・・・ここが三国志の世界って事だったら、ある程度辻褄はあうんだよな・・・・・・どうやって、ここに来たのか以外。
色々な思考を巡らせた結果、一刀は、唯一の情報源である孫覇という男から話を聞く事にした。
「あの・・・孫覇・・・さん?質問いいですか?」
「おう、何でも聞け。ああ・・・立ち話もなんだしな、俺の家来い」
と言い、歩き出す。背中を軽く見せたという事は・・・信頼の証なのか・・・・・・背中から襲いかかってきても、いなせる自身があるという事か。
とりあえず・・・ついていくしかない。
もう・・・一刀には、その道しか残っていないのだから。
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江東の覇人 1話です。 これで2つ目…後1つで見習い卒業です。 今日中に頑張ります! |
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コメントありがとうございます!(アクシス) 次回更新が楽しみです。(ブックマン) 孫覇って、オリジナルみたいだなコレは(samuraizero) |
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