砕 ―SAI―
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 砕。それが、少年の名前だ。

 普段、街を歩いている中学生とは何の変わりもない、背丈や精神を持っている。街をあるいていても、普通の人間となんら変わりはない。しかし、この少年…砕はこの後恐ろしく進化する。彼の持つ、【大人顔負け】のとある能力によって。

 

砕 ―SAI―

 

(1)

 朝のつめたい空気が少年の体を触っていた。蛇のように彼の身体を這っている。彼の体の中に溜まっている熱を吸い取ろうとしている。しかし、其の蛇は幾ら熱を吸い取ろうと彼の体温が低くなる事はない。

 ランニング…。

 砕は1日にものすごい距離を走っているのだ。朝に十km、昼に五km、夜に一五km。それでも彼の体力の貯蔵庫の中身がきれる事はない。走れば走るほど彼の中には、【もっと走りたい】という欲望が生まれる。しかし、彼はそこを押える。何故なら彼は知っているのだ。それ以上は逆に身体に悪いのだ、と。

 少し少し、ペースが増していく。ペースを落とすということを知らない少年。体力の限界という事を知らない少年。全力で走っても体が付かれることはない。速度を出せば出すほど、自分の視界には、白くきれいな景色が瞳に映っていく。少年にとっては、それが楽しみで毎朝ランニングをしているようなものだ。それと同時に、有り余る体力を使いたい。という思いもあるのだろう。全力で走ること、三km。貯蔵庫の中身が少し、少なくなっていきていることに気が付いた。とはいっても未だ、バテるという状態にはなっていない。高々、すこし息が上がってきたという程度である。まだ、十kmは行けそうだった。

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「……」

 少年の後ろに、ピッタシと少年にあわせてきた影があった。姿を確認しようとも、顔がコートで隠れている。こちらが、スピードを遅くすれば、あっちもスピードを遅くし。こちらがスピードを速めれば、あっちの方もスピードを落とす。少年は立ち止まった。同じく、後ろにいた人間も止まった。

「…何だ?」

 砕は聞いた。コートを着ている人間にだ。コートを着ている人間は「クスッ」と、笑い、言った。

 女の声だった。

「『何だ?』ね、私の目的は…、アンタと立ち合う事ね」

 「?」

 立ち合い…。

 ようは決闘だ。最後に立っていた者が、勝ちである。

「何故? 俺が。」

「問答無用」

 回し蹴りが、綺麗な曲線を描いて砕の頭を狙った。踏み込みの甘くない蹴りだ、一体この蹴りを何処で習得したのだろうか。蹴りの形が空手なのだ。

 蹴り、と言ってもいろいろな種類がある。ムエタイ、キックボクシング、空手、?拳道等、といったものでも、全て蹴りに入るまでの形が違う。其の蹴りに入る形が、空手だったのだ。

 少年、砕が大人以上に持っている能力。其の一つは、【動体視力】である。動体視力とは、動いている物体を視線を外さずに持続して識別する能力のこと呼ぶ。そしてそれと同時に状況を瞬時に把握する事も出来る。

 そう、砕は一瞬で理解した。「自分は、今攻撃されているのだ」と

 しかし、何故自分なのだろうか。強い人間なら他にも存在する、ただ闘うだけであれば、街にいる不良辺りに喧嘩を売れば良い。ただ、そうすると複雑な問題になって行くが。喧嘩好きならそれでも大丈夫だろう。しかし、自分はなんでもない唯の人間だ。それなりの運動神経があるにしろ、空手と言ったよう物はやっていない。格闘漫画である程度の知識を知っている程度だ。しかし、それが簡単に出来る事でもないこと、空想だから出来る事を知ってしまっている。自分は一度も自分の力で喧嘩したことが無い、それは何時も、喧嘩になると気絶してしまうからだ。そして、気が付くと、自分は保健室にいて、養護の先生の看病を受けている。喧嘩の相手は別の人間に止められた時に逆上して、他の人間に手を出して集中攻撃を受けた人間が多い。止めた人間とは言え、手を出されれば、怒りもする。精神の確立が出来ていない少年達ならば尚更だ。喧嘩両成敗と言った所か、結局は、二人とも保健室行きになることが多かった。

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 蹴りが徐々に早くなっていく。しなやかな蹴りが、徐々に顔に掠るようになってきた。掠っただけでこの痛み、当たれば一体どうなるのだろうか。知りたくもなってきた。だが、当たれば間違い無く、自分はダメになるだろう。

「……。」

「……本気、出さないの?」

「俺か?」

「そうよ。」

「俺が喧嘩できると思うか、俺は今初めてこうしているんだぞ。」

「貴方……、何言ってるの。」

 女は、驚いた顔で、「こいつは本気で言っているのか」という様な口調で言った。

 

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