空飛ぶ戦車ドクトリン 第十二話 緋色の追憶 前編 |
私の目の前にいる男の名前は、トロイ・リューグナー。
かつて私がヴィージマに越境する際に手を貸してくれた犯罪者だ。
同じ顔の男が私の前で柔和な笑顔を向けている、そんな顔をする事が出来ない真正の屑であったはずのあの男がだ。
トロイは私に優しく言うのだ、武器を差し出しこれで話し合おうと。
その笑顔に彼を思いだす、暴君ミハイル・アレクサンドロビッチ・クトゥロフ。
暴君だが決して激情家ではなく癇癪とは縁遠い男だ。
それ故に恐ろしかった、怒って処罰する暗君の方がまだ察しやすい。
例えば彼は左右に友人が居たとして、左の者に天気を聞いて右の者をその会話の流れで処刑するようなそんな男だ。
怒らせたらとか気まぐれとかではない、何か我々には見えない何を見てそして下すのだ、普通斑になった荷物は整理して処分するものだが、彼は斑のまま処分が出来るのだ。
今のトロイ・リューグナーの目も私が見たあの暴君と同じ目をしていた。
私は暴君に対抗するのは彼と同じような"ホシビト"だけだと思って暴君の言葉を聞き彼の友人を探していたが…トロイも同じような眼をこちらに見せている。
彼に話さねばなるまい。
「長い話になるが構わないか?」
私は彼に全てを伝える、私が元の彼と越境しそして見たあの地獄を。
トロイにかつて彼と越境した話をかいつまみ説明し、その後自分が何処に行き何をしたのかを話した。
当時の私は自身の血筋とその境遇に強い興味を持ち、"魔術"なる未知の分野に興味を持っていた、その好奇心は友人や幼馴染に少し馬鹿にされつつも、その非日常的出来事に友人たちは興味の眼差しを向けていた。
血筋はやはり貴族の間では大事なもので家名と並んでかそれ以上に大事とされることがある。
例えば私はギュンター家の嫡男で家長になるが、それはギュンター家だけの話になるがその血の流れになると話は変わる。
それはどこの家と婚姻を結んだかになる、昨今の中産階級なる人々には縁のない話だろうが、貴族はこの血の結びつきが重要になる。
父と母がどの家の出身だったか、その家はどのようなものでその家はどういう婚姻で成り立ってるか…そうやって長い長い家系図が出来上がる。
その中で特異な存在が混じることにより、この貴族というものは秘密を抱えたコミュニティへと変貌する。
特異な存在は星から来た語り、死の意味をなくし、ある目的のために強固な意志を持っている、そんな存在が貴族階級の血に交じりそして営々と目的を果たすべく生きながらえてきたという。
"彼等"は断絶された存在で"血"は意味をなさいというが、その身から生み出された"知"は絶大で"彼等"の知が混じった家は大きく反映していった。
この辺りを説明していると、トロイは成程といった得心が言った顔をしていた。
星の向こう側の世界も我々と同じ歩みをしそしてより未来からきているのでその知識を使い今のままでは分からないまま行っている研究に神がかった先見性をもって投資できるのだとトロイは言った。
…暴君も同じことを言っていたよと告げると、今までトロイは見たこともないような笑顔でそうかという、私は科の暴君には聞けなかった"彼ら"の目的がいったい何なのか訊ねたかったがあの笑顔を見てこの質問は飲み込んでしまった。
暴君に対して感じたものを感じたというのが大きな理由だが、何より長い話の途中というのもあるからだ。
私はその特異点にあたる魔術師の家系、今ではホシビトの末裔と勝手に呼称しているがその家系の人間が今何をしているのか気になり、探し始めその中で一番多きな名前が彼のクトゥロフ王朝の大王だった。
彼とのコンタクトには骨を折ったが私の好奇心から始まった探求は噂となり彼の耳に入ったのだ、今思えばそういう方面に常に耳を傾けていたのだと今なら解る、彼からの連絡は彼の間者から、物凄く簡素な伝言が託された。
『君に興味がある、もし私に会う気があるのなら記録に残らない手段でヴィージマ迄来て欲しい。』
私はその言葉に胸が躍った、ただの昔話程度ならや余興程度ならこのような接触の仕方があるだろうかと、そして私は秘密裏に越境した。
その時のトロイとはその場だけの関係だった、帰りはミハイルから手配で帰れるだろうと勝手に思い込んでいたからだ。
越境後、私はその光景に来た事を後悔した、越境中も金を貰ったから渋々と案内していたトロイ・リューグナー、あの悪漢がそこまで嫌がるのかすぐさま理解できた。
死体だらけだったのだ。
野ざらしになった死体を貪ってるものがいる、一瞬野犬に見えたがよく見ると10歳前後の子供だった、蠅が集った?せこけた死体の食べれそうなところを必死に食べていた、いや食べようとしていたのだ。
顎が弱く死体を?み切れず、そのうち動かなくなってしまった。
ヴィージマでは圧政が行われており農村などでの貧困が酷いと聞いてはいたが、人が人を食うとは思わなかった。
その惨状に立ち竦んでいると、一台の馬車が私の方へと走ってくる、馬車は私の目の前で停まり、扉が開く、中にいた身なりのいい男が張り付けたような笑顔で私に向かってこういった。
「ギュンター様ヴィージマへようこそ、お約束を守っていただき我が大王も喜んでおられます、ささ早く馬車にお乗りください」
私が乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
生き地獄を通って、首都へと向かう。
その道程は恐ろしいものだった、吊るされた死体や野ざらしにされた死体がそこらへんに捨てられていた。
私のその恐怖が混じった視線に男は気づき、独り言のように語る。
「ここらは元々は別民族の別の国家だったのです…。」
そう言って色々語ってくれる、表情豊かにこの地がかつてどのような風習があってどんな人達が暮らしていたのかを、だがこの国の元の名前も人種名も言わずに男は言葉を選んで喋っていた。
そんな彼に私は尋ねる「詳しいんですね」と、私の言葉を聞いた瞬間男の顔には死相が浮かび、最初の張り付いたような笑顔になる。
「私の故郷ですから…生き地獄に変えられてもここが私の故郷ですから」
笑顔で私にそう答えた男は、今度はその笑顔のままこれから行く、首都ベロボークに関して語りだした、馬車を使い途中宿泊所を使っての四日間ずっと彼はベロボークのすばらしさを語っていた。
その言葉には必死に覚えたであろう事は伺えたが、最初のあの生き地獄の変わり果てる前の光景を語っていたのと比べるとただの情報としてしか感じ取れずにいた。
国境全沿いは生き地獄だったがそれが内部へ行くとそこはフェルキアと変わらない風景であった。
首都まで行くと男は私を馬車から降ろし、王家の馬車が待ってる所へ案内した。
私は案内の礼を言うと男は深々と頭を下げ一言だけつぶやくように言った。
「貴方が来てくれたおかげで、私は皆の元に行くことを許されたのです、礼を言うのは私の方です」
男はそのまま乗ってきた馬車に乗りそのまま来た道を帰っていった。
後から聞いた話だが、民族浄化の際には同族殺しをさせたのだという、命乞いをして味方を裏切るものではなく、同胞に信頼している者に殺させていたのだと。
私を案内してくれた男はあの生き地獄の生き残りでかつ領主だった、私がくる話を聞いた暴君が私の身を安全に首都に届ける代わりに、死ぬことを許可したのだという。
狂った話だがヴィージマではそういう事が横行して、国が膨張しているのだ。
私は自身の好奇心で殺されるのではないか?そう思わずにはいられなかった。
説明 | ||
視点がギュンターになっての回です。 一応地の文がトロイだと一人称が俺でギュンターは私となっています。 この話はギュンターの視点でホシビトいわゆる異世界チートの人がこのアンリアルストレンヂで何をしているかを描こうと思います。 正直話が思いつかないというより、ずっとこの世界の歴史どうしようかってなやんでいたのが、遅筆な理由ですかね。 この話も前編中編後編となる流れになると思います、まさか前編その一とかにはならないと思います。 恐らくこの話で今年最後になるとおみます。 短かったので、現在11話延長施術中 |
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