紙の月24話
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 スタークウェザーの言葉に敵味方関係なく自分の耳を疑った。

「何を言ってる。フライシュハッカー様は超能力者の世界を創るためだと……」

「やれやれ、疑いもせず馬鹿正直に信じてるから、デーキスに負けるんだ。彼みたいに自分の意志で考えて、行動できないから、超能力にも限界が来る。そこのブライアンみたいに」

 スタークウェザーは自分の頭を指さす。

「もっとよく考えな。本当に太陽都市を奪い取って超能力者の物にするなら、どうしてブルメを自分で連れて行かないんだ? 答えは簡単だ。彼にとって、太陽都市を支配することは本当はどうでもいいのさ」

 スタークウェザーの言葉は確かに説得力がある。この動乱で重要なのは太陽都市の管理コンピュータを乗っ取ることができるブルメだ。その彼女を他人任せにさせるのは得策ではない。

「作戦を聞いた後、ボクは彼に直接尋ねたんだ。そうしたら言ったよ、上手く太陽都市を乗っ取られようが失敗しようが重要じゃない。超能力者が人間に反旗を翻す。それこそが目的なんだ。やがて人間と超能力者の間で戦争になる。都市国家と政府の戦争よりも大きな、世界そのものが滅ぶようなやつが」

 デーキスもブルメも他の者たちも、フライシュハッカーの真意を知って絶句した。この出来事の先には、大きな破滅が迫っていることを知ってしまったからだ。

「それを知って、何でお前はそうも平然としてられるんだ……?」

「興味あるから。もし彼の言った通り世界が滅ぶってどうなるのか、その世界を見てみたいから、ボクはこの作戦に従っているんだ」

 超能力者は魂が汚れているというが、このスタークウェザーという少年はそれ以前に、人間に必要なものが欠落した怪物だと思い知らされた。

「そんな事……絶対にさせない!」

「そう、君なら止めようとすると思っていたさ。だからこうするんだ」

 そう言って、スタークウェザーはブルメを引き寄せた。

「な、何するの!」

「こいつが死んだら確実に、フライシュハッカーは人類を滅ぼす選択を選ぶぞ。どうするデーキス?」

 デーキスは超能力を使おうとして気が付いた。通路全体が濡れている。電撃を放ったらこの場にいる全員が被害を受けてしまう。ブルメに消火装置を操らせたのはこれが目的だったのか。

「どうした? 早くした方がいいぞ。硬直する時間が長くてもフライシュハッカーは人類を滅ぼす方へ選ぶだろうからな」

 刻一刻と破滅へ近づいているにも関わらず、誰も動くことができなかった。完全にスタークウェザーの独壇場となっている。

「残念だったねデーキス。こいつを殺すだけでフライシュハッカーの目的は阻止できると思ってたのに、目論見が外れてしまって」

「そんな事、初めからブルメを殺すなんて考えていない。ただ、フライシュハッカーの企みから下りてくれればそれでいいんだ」

 スタークウェザーは意外だとばかりに表情を変える。それはブルメも同じだった。

「誰も傷ついたり悲しい思いをしてほしくないから……それに」

 デーキスは一瞬ためらったが、はっきりと言った。

「ブルメの事が好きになったから」

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「どうして? 私のどこが……?」

「わかんないけど、一目見て好きになったんだ。勝手だと思うけど、君の力が役に立つとか、フライシュハッカーを止めるためなんかじゃない。そんな事とは無関係に、君の事が好きになったんだ……!」

 聞いていたスタークウェザーが嘲笑する。

「アハハ! そんなどうでもいい事でブルメを追ってたの? 面白いよデーキス!」

 自分の真面目な思いをバカにされたデーキスはスタークウェザーを睨みつけた。

「何だよその顔は。好きになるってそんな大事なことなのか? ブルメはどうなの?」

 急にデーキスは不安になる。自分の思いが、ブルメにとって好ましくないものかもしれない。そうだったらとても耐えきれない。

「君がボクを嫌いになっても構わない。ただ、君の事を気にしてる人がいるんだと知ってくれればそれでいいんだ」

「……一つだけ聞かせて、私はフライシュハッカーほどじゃないけど人間を許せないの……どうしたらいい?」

「ボクを信じてくれればいい。人を信じてるボクを信じてくれれば、ボクが必ず君を守るから」

 精いっぱいの告白だった。後はブルメの気持ち次第だ。

「おい、何を勝手に話してるんだ。信じるとか訳分かんない話なんかしちゃってさぁ!」

「あんたなんかには分からないわ。一生ね」

 突然、消火装置が作動する。さっきと違ってブルメとスタークウェザーの頭上にある物だけだ。思わずスタークウェザーは怯み、その一瞬を待っていたブルメが、手を振り払って離れる。

 ブルメに向かってデーキスは手を伸ばすが、それでもスタークウェザーが超能力を使う方が早い。

「貴様!」

 ブルメに向かって超能力が放たれる寸前に、横から飛んできた物によって阻まれた。ウォルターが持っていたホバーボードだ。

 猛スピードで飛んできたボードはスタークウェザーの右腕を砕かんばかりのスピードでぶつかった。ブルメは消火装置と同時に、ホバーボードも操作していたのだ。

「君の目論見も失敗だ。スタークウェザー」

 気づいたときにはブルメはデーキスの側へ、そして向かってくる仲間たち……。

「あーあ、残念だな」

 抵抗する気もなさそうだが、油断はできない。ウォルターや他の仲間たちが駆け寄ってくる。

「でも、フライシュハッカーは止められないさ。ボクはただ結果を早めさせようとしたに過ぎないんだから。無駄な努力だよ」

「無駄じゃない。絶対に彼を止める」

 宣言をしながら、デーキスはブルメの手を握った。

説明
暴走するスタークウェザー。デーキスはブルメを救う事ができるか
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