ナイスネイチャの朝ごはん |
「おいっすー。お邪魔しまっすよっと」
いつもの軽い口調と共にナイスネイチャはずかずかと家に上がってきた。
昨夜のことだ。不覚にもナイスネイチャの前でめまいを起こしてよろめいてしまった。
しばらくじっとしていれば治る、という主張は聞き入れられず、次のレースの対策ミーティングはすぐに打ち切られて早く帰って休めと追い立てられた。
「ちゃんと食べているの?」と聞かれたので、トレーナー室に転がっているカップ麺の残骸、菓子パンの空き袋、栄養ドリンクの空き瓶などを指さしつつ、悲惨な食生活を暴露すると、怒られるかと思ったら盛大なため息をつかれて「とりあえず今日はさっさと寝なさい」と命じられた。
それでもささやかな抵抗を試みると、問答無用で担ぎ上げられて家まで運ばれ、ベッドに放り込まれた。
知ってはいたけど、ウマ娘は力持ちだ。
「おやすみなさい」
ナイスネイチャにしては珍しく優しい声だった。
だから、瞬く間に眠りに落ちた。
嫌な夢を見ることもなく、ぐっすりと眠ることができ、久しぶりに気持ちの良い朝を迎えられた。
ぐー
快適に目覚めると、元気よく腹が鳴った。
「はいはい。ちょっと待ってて」
ナイスネイチャは制服の上にエプロンを付けながら笑った。
「台所を借りますよ〜」
台所と言っても、小さなシンクとIHコンロがあるだけなのだが、散らかっていたはずのそこはキレイになっていた。昨夜帰る前に、彼女が片付けてくれたのだろう。
トートバッグから取り出したタッパーを電子レンジに入れると、続いて取り出した水筒に入っていたものをお椀に流し込む。
「時間がないから簡単なものしかないけど、贅沢言わないでよね」と言いながら電子レンジから取り出したタッパーの中のものを手早く食器に盛り付けていく。
あっという間にホカホカの白米に湯気の立つ味噌汁、焼鮭、他に二品の総菜が加えられた完璧な日本の朝食がテーブルの上に並べられた。
この家で初めて見るまともな食事だった。
「お口に合えば良いけど」
ナイスネイチャはそう言って、水筒やタッパーを洗い始めた。
「一緒に食べないのか?」
「私は作りながら食べちゃったから。あ、そうだ」
声をあげると食器を洗う手を止め、トートバッグから新たな包みを取り出してテーブルの上に置いた。
「お弁当。お昼に食べて」
そっけなく言うと食器洗いに戻った。
「朝ごはんが美味しくなかったら食べなくても良いけど」
「ありがたくいただくよ。ありがとう」
「トレーナーに倒れられたらレースの対策ができなくて困るからなんだからね。しっかり食べて、元気になって、良い作戦とか、トレーニングメニューを考えてよね」
「ああ、分かってる。いただきます」
「分かってないじゃない」
背中を向けているナイスネイチャは小声でつぶやく。
まずは味噌汁をすする。
「うまい!」
思わず大きな声が出てしまった。
「大げさだねー。褒めてもなにも出ませんよ」
「本当に美味しい」
「はいはい」
洗い物が終わったナイスネイチャは、寝室兼居間へと入っていき姿を消した。ガラガラと窓を開く音が聞こえてくる。
換気をして部屋を片付けてくれているのだろう。感謝しながら食べた白米も、焼鮭も総菜も美味しかった。味が良いだけではなく、腹が満たされ、それと同時に心が満たされる気がしてくる。体がぽかぽかと温かくなってくる。
ゆっくりと噛みしめながら食べていると、ナイスネイチャが寝室から帰ってきた。
「まだ食べ終わってないの?早く食べてくれないと片付かないんですけど。学校に遅れるわよ」
甘える時間は終わりだというように、お小言が飛んでくる。
「ネイチャのご飯が本当に美味しいから、幸せを?みしめていたんだ」
それはただの本心だった。
ナイスネイチャは珍しくしばらく動きを止めた後で、
「はいはい。その程度のご飯なら気が向いたらいつでも作ってあげるから、今はさっさと食べちゃって」
といつもの口調で返してきた。
「トレーナーが望むなら、一生だって作ってあげるんだから」
顔が真っ赤に火照っているのを隠す。
了
背中を見せたナイスネイチャが不満げに何かつぶやいている。
またお小言を言われないように、ご飯をかきこんだ。
了
説明 | ||
ネイチャが朝ごはんを作りに来てくれる話です。 「早く食べてくれないと片付かないんですけど」という絵を先に書いて、話は後から付けました。 |
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