異伝 恋姫 2章−4 |
異伝・恋姫 2章 異国―4 迷子の鈴と桃の花
北郷万承屋が出来てから1カ月がたった。
当初、赤字すれすれの低空飛行気味だった店も、店主の節約生活が功をそうし、少し高度を上げた低空飛行にまで持ち直した。(低空飛行ではあるが)
店主(一刀)曰く「米が無いなら狩ってくればいいじゃない」と涙ながらに語っていたそうな。
・・・なにを、かは察してほしい。
そんなある日、
いつも通り、やってくる人は絶えないが、客は一人もいない相談室に一刀が半ば現実から逃避していると、
「失礼します」
と、一人の少女がやってきた。
見たところ、一刀と同じくらいか、少し若いくらいの少女だ。綺麗な黒髪が特徴的な長髪美人というところか
「外の看板を見て入ったのだが、本当になんでも仕事をしてくれるのか?」
「あぁ、内容によるな。流石に人を殺してくれとかの物騒な注文や罪になることは遠慮している」
「当たり前だ!そんなことこの往来でやってみろ、私でも討伐している」
「・・・それで、なんのご用事ですかな、長髪美人さん」
「関羽だ」
「・・・はい?」
「私の名前は関羽だ、と言ったのだ。聞こえなかったか?」
「・・・ああ、いや、聞こえている。少々自分の人生を省みたくなってね」
(こんな短期間に、曹操、孫権、関羽ときたか。俺、そろそろ死ぬんじゃないか?主に運が尽きちゃった系で)
「それで、関羽さんは一体何の用事で来たのかな?」
「人を探してもらいたい」
(・・・おや、この展開に見覚えがある、な・・・・)
「ふむ、誰を探せばいいのかな?・・・もしかして、天の御遣い様かい?」
「天の御遣い?ちがうぞ?・・・探してもらいたいのは、私の妹だ」
「妹?・・・関雲長に妹っていたっけ?」
「なぜ私の字を知っている?」
「ああ、ごめん。関羽って人に聞き覚えがあるんだよ(正確には、男、なんだけどね・・・)」
「・・・それで、探してもらえるだろうか」
「ああ、大丈夫だと思う。じゃあ、お代はその妹さんを見つけたらで」
「・・・いくらだ。あいにく私達はあまり裕福でなくてな(誰かさんの食事代のせいでな)あまりお金を工面することができない」
「・・・そうだな。まだ決めちゃいないけど、そんなに大層な値を言うつもりはないよ。もし払えないならつけてくれてもいい」
「・・・言っておくが私達は旅をしているのだぞ?つけても返せないかもしれない」
「その時はその時さ。こちとら自営業なんでね。結構融通がきくんだよ」
「・・・わかった。協力感謝する」
「あいよ、じゃあ行こうか」
「ときに、北郷殿、でよいだろうか」
「あぁ、好きに呼んでくれ。で、どうしたんだい?」
「1つ質問と、1つお願いがある。よろしいか」
「聞こうか」
「では、先にお願いだ。もう一人付き添いが出来ても構わないか?」
「いいよ(・・・まさか、な)、で質問は?」
「どのようにして探すんだ?」
「まぁ、おまじないみたいなもんだな」
「・・・?まぁいいか。では、少々ここで待っててもらえるか?私の義姉を呼んでくる」
「(・・・やっぱりですね)ああ、待ってるよ」
そういって関羽は広場の方へ駆けていった。
「関羽に張飛が女の子だったら、劉備もか・・・やっぱりここはパラレルワールドなんだな・・・」
そう言いながらも、「むしろむさくなくていいか・・・」と開き直る一刀であった。
「待たせたな、北郷殿。紹介しよう・・・こちらが我が義姉である劉備様だ」
「初めまして。北郷さんですね。劉玄徳っていいます」
そういって現れたのは、やはり一刀と同じか少し若いくらいの少女であった。こちらは関羽のようなキリッとした美人という感じではなく、居ると周りがほわっとするような柔らかい雰囲気の少女であった。それと、もうひとつ大きな特徴があった。
・・・まぁ、なんだ。あれだ、こう、お胸がとても大きくていらっしゃる・・・
そんなボインちゃ・・・もとい、劉備を見て、一刀の顔が赤くなるのは仕方がないことである。
「?どうしたんですか?北郷さん?」
「・・・!い、いえ、とてもかわいらしいので少しびっくりしてしまって」
「・・・や、やだ。北郷さん、お上手ですね・・・」
なんというか、初々しい中学生のカップルのようなノリの雰囲気になっているところを
「ごほん!すまないがさっそく捜索をお願いしてもいいか?」
「あ、ああ!!わかった!!」
「そ、そうね!!行きましょうか、愛紗ちゃん!!」
関羽の極寒の視線によって無理やり元の道に戻されたのだった。
教訓、関羽を怒らせることはしまい・・・
「先ほど言っていたが、おまじない、とは?」
一刀が言っていたことの真意を探ろうとする関羽
「あー、そうだな。俺の故郷に伝わるやつでね。いろんなおまじないがあるんだけど、それの一つだよ」
いつもの定型句で適当にごまかす一刀
「ちょっと、待っててね」
そういうと、一刀は地面にうずくまり、何かを書き始めた。
円を書いて、その中に四角や三角、を組み合わせたような幾何学的な模様を書いていく
「よし、あとはこの上に・・・」
書きあがった魔法陣のようなものの真中に木の棒を立てると・・・
・・・からん
「よし、あっちだ!!」
「をい」
木の棒が倒れた方向へ進もうとする一刀を、関羽の手が肩に置かれたことで阻まれた。
「これは、いったい、なにをしている?」
「いや、まじない」
「・・・これが?」
「すごいだろ」
「「・・・・・・・」」
(今こいつを本当に信用していいものか・・・)
(う〜〜ん。流石に私も北郷さんが遊んでるようにしか見えないなぁ)
呆気にとられる2人を気にせず、一刀はその方向へ足を進めた。
・・・実はこのまじない自体は八百長である。あらかじめ、魔術で張飛の気だと思われる強い気を探索し、その魔術がばれることを防ぐためわざとまじないのようにし、木の棒に少し力を加えて、探索で引っかかった方向へ倒すのだ。あたかも偶然を装って・・・
そういうことで、この方法自体は意味のない行為だが、信憑性は抜群にあるのである。
少し進むと、なにやら辺りが騒がしくなっている。
よく見ると、近所の子供たちが遊んでいるようだ
その中に見慣れない赤い髪の毛の少女がいた
「鈴々!!」
「鈴々ちゃん!!」
(きっと、鈴々というのは張飛の真名なんだろう。そしてあの赤い髪の子が張飛・・・もう何も驚くまい・・・)
少なくとも人物については俺の居た世界の知識は全く役に立たないことを再認識した一刀であった。
「愛紗に桃香おねえちゃん!いったいどこに行っていたのだ?」
「それはこっちの台詞だ!まったく・・・」
「そうだよ、鈴々ちゃん。私達はこれから仲間を集めなきゃいけないのに」
「うー、ごめんなのだ」
「さて、どうやら見つかったみたいだな」
そういいながら、一刀は3人に確認してみる。
「ああ、ありがとう、北郷殿。すぐに見つかってよかった。先ほどはすまなかった。疑ったりして」
「私もごめんなさい。てっきり変な人かと思っちゃって・・・」
(それはむしろ言わないでほしかった・・・orz)
一刀が心で落胆していると
「北郷って、一刀おにいちゃんのこと?」
「鈴々、知っているのか?」
「さっき、遊んでた子たちが言ってたのだ。『あのお兄ちゃんは変だけどすごく優しくて親切なんだ』って」
「変、って・・・」
北郷一刀、君は泣いていい
(すごいのだな、北郷殿は・・・本当に人望があるみたいだ。その点では桃香様に通じるものがあるのか)
(実はとってもいい人なんだ。北郷さんて。・・・仲間の件誘ってみようかな・・・)
「あ、あの・・・」
「そういえば、お代の件なんだが・・・」
「・・・そういえば、そうだな。いくら払えばいい?」
「え、えっと・・・」
ぐー
「・・・」
「・・・」
「肉まん2つでどうだ」
「ふふ、そんなものでいいのか?」
「・・・3つだ」
「あー、いいなー、鈴々も食べたいのだー」
「お前は反省」
そういいながら、そんなーと肩を落としている張飛、赤くなった顔をうつむいて隠している一刀と柔らかく笑っている関羽は昼ご飯を求めて商店街へ歩いて行くのだった。
「私の仲間になってくれませんか・・・・っていないじゃん」
関羽よ、義姉を忘れていいのか・・・
「違うもん。忘れられてないもん!!」
失礼した・・・
あれから、すぐに劉備のことを忘れていることに気付いた関羽は
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
とひたすら謝り続け、桃香は
「いいもん、私はお荷物だもん・・・」
と拗ねていたものの、一刀が
「ほら、お詫びだよ」
そういいながら桃香に花の形の髪飾りを買ってあげると
「・・・!あ、ありがとうございます」
とまるで花が咲いたかのような笑顔を見せてくれた。(不覚にも一刀はドキッとした)
・・・しかし
「・・・(むっすー)」
今度はこちららしい。一体どうしろと?
「なぁ、関羽。どうしたんだ?」
「いえ、なんでもありません」
「そ、そうか、ならいいんだが」
明るくなった劉備とは対象的に、関羽は大層お冠のようだ。・・・なんでだ
「あ、着いたぞ。ここの点心はうまいんだ」
ようやくありつける昼ご飯にさっきまでの微妙な雰囲気をあっさりとスル―した。
「おっちゃん!肉まん3つ頂戴!!」
「おう、北郷のあんちゃんじゃねぇか!」
「どう?最近は、売れてる?」
「まぁ、ぼちぼちってところか・・・で」
「うん?どうしたんだ?」
「そこにいるべっぴんさん達はどうしたんだい?」
「お客さんだよ」
べっぴんさんと言われた劉備、関羽、張飛はほのかに顔を染めながらまんざらでもない表情をしていた。
「ほれ、肉まん3つだよ」
「あんがと」
そういって、一刀は店主から肉まんをもらい、
「はいよ」
その3つを劉備達に渡した
「え、どういうことですか?」
劉備は困惑しながらもらった肉まんと一刀に視線を往復させている。
「ほら、みんなおなかすいてるだろ?」
「し、しかし!」
なおも食い下がる関羽にも
「しかしもかかしもない。ほら、関雲長ともあろうお方が人の好意をむげにはしないだろう?」
そう言いくるめられてしまった。
「お兄ちゃん、ありがとう。ふとっぱらなのだ!!」
張飛はさっそくもらった肉まんを食べ始めている。
「まったく、あんちゃんはいつもそうだよな。それじゃあんちゃんが食うものがないじゃないか。・・・ほら、もってけ」
「そう言ってくれると思ったんだよ。ありがと、おっちゃん」
「ぬかせ」
店主と一緒に笑う一刀を関羽と劉備はぼうっと見つめていた。
(なんだろう、桃香様を花と例えると、北郷殿はまるで大樹のようなお方だ・・・)
(最初は、愛紗ちゃんが紹介した、変な、でも面白い人だと思った)
(年相応の顔を見せると思ったら、時折みせる真剣な顔は私達を子供同然に感じるほど聡明だ)
(町のみんなに慕われて、それでも謙遜しないその姿勢がとても優しく見えた)
(それに) (それに)
(この人の近くにいると安心する) (この人といるととっても暖かい)
「・・・なぁ」
「おーい」
一刀が2人のことを怪訝そうな表情で見ていることに気づくのはもう少し後のことだった。
「私達の仲間になってくれませんか?」
無事に仕事を終えて、なぜか万承屋に戻ってきた一行は、とりあえずお茶でも飲みますか、との一言で、相談室で軽いお茶会をしている時に劉備が言った。
「仲間、とは?」
「今、この世は大変なことになっています。そんな世の中で苦しんでいる人を助けたいんです」
「で、そのお手伝いをしてほしい、か・・・」
「はいっ」
「すまないけど、答えはいいえだ」
「な「なぜです!!」」
劉備が聞くよりも大きくなってしまった関羽の声
それほどに驚いてしまったのだろう。
「そうだな。第一に俺はこの町が気に入ってるんだ。もう少し居たいんだよ。それと・・・そうだな、君たちに一つ質問をしていいかい?」
「ええ、なんでしょうか?」
「もし、君たちの目の前に大きな力を持ちながらも制御ができなくて周りの人たちを傷つけていた人がいたとする。君たちはその子をどうしたい?」
「な、それは・・・」
「即答できないだろう。つまりはそういうことだ。誰かを救うには、常に誰かを犠牲にしなければならない。酷なことを言うようだけど、君たちのその願いは、少々、痛い」
「それでも!!」
「仮にその力を治めるほどの力があったとする。そうしたら双方とも救われる」
「だったら・・・」
「その瞬間、膨大な力を恐れられ、駆逐される」
「!!!」
「否定できるかい?」
「・・・・」
否定できるわけがなかった
それが、この世界の根源に潜む本質だからだ
「確かに、この世界は裏切り、裏切られるだけの世界だ。とは言わない。でも、それでも、その行為を根絶することはできないんだ」
(だから俺は、傷つける側だったから、みんなから離れた)
「・・・変なことを言ったね。というわけだから、ごめんな」
「・・・いえ、こちらこそすみませんでした。・・・では、失礼します。・・・さぁ、行きましょう、桃香様、鈴々」
完全に言い負けてしまい、いまだショックから立ち直れていない劉備と張飛に退席を促す関羽
「でも」
「それでも、君たちのその理想は尊い。その理想が実現できるかもしれないって思ったら君たちにかけたいな。現金だけどね」
(俺も一度は夢見た理想だから)
その時の一刀の瞳に映ったのは憧憬か哀悼か
しかし、その寂しそうな瞳を関羽と劉備は心に刻みつけたのだった。
万承屋を出てから愛紗、桃香、鈴々は一言もしゃべらなかった。
しかし、その沈黙に耐えきれなくなった鈴々が
「お兄ちゃん、悲しそうだったのだ・・・」
「・・・そうだな」
あの瞳は普通じゃできない。
相当な思いが含まれている気がした
「・・・知りたい、な」
「うん」
あの言葉の真の意味を、そして答えを。北郷殿は何を伝えたかったのか、我々になにを期待しているのか。
ただただ、純粋に、知りたい、と思った
「北郷さんを驚かしてやろうね」
「そうですね、私達で平和にして」
「そうなのだ!あんな悲しそうなお兄ちゃんは嫌なのだ」
今は、前だけを見て、自分の『正しさ』をーーーー
3人の思いはさらに大きく、しかし、少しの影を残して成長していくのだった。
「・・・誰かを犠牲にしなければならない、か・・・」
3人が帰った後、一刀は、何もする気がせず、一人で椅子に身を投げ出していた。
自分は何を犠牲にしたのだろうか。自分のちっぽけな正義で誰を救えたのだろうか。
考えれば考えるほどわからなくなる問い。
魔力が発現し、暴走した俺を止めてくれたのは、わき目も振らず抱きしめてくれたじいちゃんだった。
体に無数の切り傷を受けながらもひたすらに
「・・・ははっ、人に言える立場じゃないってのに・・・」
自分でも止められず周囲を傷つける対象であった俺
傷を負ってしまったじいちゃん(犠牲者)
もしかしたら助かりたかったのかもしれない。
即答してほしかったのかもしれない
自分は悪者だって、自分は偽善者だって、
「今夜はあまりいい夢は見れそうもないな・・・」
いまだ、解くことのできない問いを胸に、夜は更けていく・・・
あとがき
最初に言っておきます。鈴々ファンの方々、申し訳ありません!!今回、はからずとも鈴々が空気になってしまいました。そして、最後がなんかあまりぱっとしない終わり方・・・
まぁ、今回は最初に日常パートっぽいなにかと一刀くんの矛盾した考えと、桃香の考えをちょっと書かせていただきました。それと、今回は戦闘はしないようにしました。どの武将たちも一刀くんの武に惚れるのではなく、内面にも惚れてほしかったのです。
さて、これで顔合わせを全員出来ましたね。この後、適当に間幕をつくってから、虎牢関の戦いに入りたいと思います。え?黄巾の乱?なにそれおいしいの?
いつもながら、誤字・脱字報告お待ちしております。また、アドバイス等も頂けると励みになります。こんな文才のない私ですが、最後まで読んでいただけると、大変うれしいです。駄文に付き合ってくれた方々に抱えきれない感謝の意を。では、ほっち〜でした。次回にまた会いましょう。
説明 | ||
今回は蜀のお話です。いつもながら、キャラが立ってない、キャラが崩壊している等いろいろあると思いますが、勘弁してやってください。では、どうぞ | ||
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コメント | ||
虎牢関の戦い、楽しみにしてます。(ブックマン) てんほーーーーーー!!!!!!舞台に上げてあげてぇーーーー!!!!(雪蓮の虜) まだ南蛮の顔合わせが・・・いえ、なんでも、黄巾は飛ばしてもいいでしょう!楽しみにしています(ヒトヤ) |
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