エルドグラン戦記 第1話 詭計のシルバーブラッド
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説明

中世期1158年。

エルドグラン。大国と小国がひしめくこの世界では、概ね3つの超大国が君臨していた。

超大国の一つ。シュヴァルツェン連合王国は、西方一帯に君臨する連合王国。
あらゆる国家が連合した、文字通りの連合王国だが、政治の実権はシュヴァイン島の王国議会が握っていた。

議会で多数派を握る「クラックス党」の党首、カーズ・シルバーブラッドを首相とする内閣は、過去数十年の間に帝国主義政策を進め、シュヴァルツェン連合王国は領土を拡大させた。

しかしその過程で、必然的にシュヴァルツェンと衝突不可避な国が、東に存在していた。
同じく版図を広げ、広大な領土を形成していたラズガルド帝国である。

領土拡張を続け東進していたシュヴァルツェン連合王国は、東の盟主ラズガルド帝国と緊張関係にある。今はまだ直接的な戦争には至っていないが、ラズガルド帝国の女帝「アイゼンヴァール」は、非常に好戦的な人物で、戦争の火蓋が切られるのは、時間の問題のように思われた。

しかし、シルバーブラッド首相はこの状況を利用した。

かねてより議会が実権を握っている状態では、意思決定に時間がかかってしまう。
そこでシルバーブラッドは、ラズガルド帝国との「開戦は時間の問題」と、議会を脅しつけて、不安を煽った。そしてもし戦争が起きれば、「議会」主導の遅々とした意思決定では、戦争準備や戦争進行など、あらゆる面においてラズガルド帝国に遅れを取ってしまうと訴える。

「女帝アイゼンヴァールは血も涙もない。
支配した国の領主、大臣などは皆殺し。
もし連中の軍勢が我が本土に攻め行った時、この議会には肉体一つ残らない。
残るのは諸君らの血と、胴体と頭の切り離された屍(しかばね)のみとなるだろう。」

などと、事実を大袈裟に誇張して、ラズガルド帝国の支配者アイゼンヴァールの恐ろしさを議会に訴える。

同時にシルバーブラッド首相は、こう付け加えた。

「…もしも、このシュヴァイン島が攻め落とされることがあったとしても…
その責任を取るのは、私一人だけで良い。
全ての戦争責任を私に押し付け、諸君らはこのシルバーブラッドの首を、ラズガルドの女帝へと押し付ければ良い。私一人が全ての責任を取ろう。

…その代わり。軍事におけるあらゆる決定権を、私一人に委ねてほしい。
さすればこの私が、全ての責任の名の下、この戦争に勝利するための方策を迅速に行うことが出来る…」

戦争の責任は全て首相が取る。その代わり、戦争におけるあらゆる意思決定は、議会を通さずにシルバーブラッド首相の独断で行うことが出来るという…ある意味で「毒薬」のような確約を、議会は呑むことになった。

議会を掌握する議員達の内心は、
「首相一人が戦時の全権を握ることは不安だが、もし我が国が敗戦した時は、全ての責任をシルバーブラッドに押し付けることが出来る」という打算的な思惑があった。

シルバーブラッドが「女帝アイゼンヴァール」の残虐非道さを(幾分かの虚実も含まれる)殊更強調したおかげで、議員達は「勝利すること」ではなく「もし負けた時に処刑されたくはない」という恐怖が頭を支配していた。

シルバーブラッド首相の思惑通り、議会では、戦争における全権を首相に一任する

「非常事態権限移譲法」

が賛成多数で可決。
シルバーブラッドは軍隊を掌握することに成功した。

王国議会は、シルバーブラッドに権力が集中することを恐れてはいたが、同時にシルバーブラッドのことを信用してもいた。

「あらゆる意見を取り入れる」ことで評判のシルバーブラッドは、なんだかんだで「議会」の意見は重視するだろうと。

…議員達は、そう思っていた。

だが実際は、その逆だった。

軍を掌握したシルバーブラッドは、軍内部の将軍達を、自身に忠実な者達で固めて、反対する者達は更迭した。

この動きを問題視した王国議会の一部の野党議員達は、シルバーブラッド首相の辞任を要求。

するとシルバーブラッドは、自身に反抗的な野党議員達を、「ラズガルド帝国とつながっているスパイである」という疑いをかけて、次々と投獄、処刑していった。

シルバーブラッドが所属する与党「クラックス党」の重鎮達も、シルバーブラッド首相に対して、「やりすぎである」と諌めようとしたが、シルバーブラッドはこう言葉を返した。

「私に全ての権力を委ねたのは、議会の決定ですよ。私は議会の決定に何一つ違反していません」

そして首相は「クラックス党」においても、自らの意に従わない議員達を、投獄していく。
…軍の幹部は全て、シルバーブラッドの懇意の人物達で固められ。
王国議会は、シルバーブラッドの恐怖政治に、もはやなす術がなかった。

議会からは「反シルバーブラッド勢力」が一掃され、「非常事態権限移譲法」は改正されることに。

改正後「非常事態権限移譲法」には新たな条文が付け加えられる。

″国家におけるあらゆる決定事項は、軍事面のみならず、その全てを首相の独断で行使出来るものとする。議会は首相に対して助言を行うことが出来るが、決定に対する拒否権等は有さない″

これはすなはち、シルバーブラッドの独裁を許すことを、意味していた。

しかしこの改正案は、全会一致で可決される。

議会には、もはやシルバーブラッドに逆らえる者はいなかったのだ…
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