真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 102 |
さて、北郷に言われ、愛紗たちの所へ向かっていたはずの雪華だったが、その途中にあった物陰に隠れていた。
「ここなら……」
呟くと目を閉じて心の中で声を出した。
(蛇さん、蛇さん聞こえる?)
『ええ、聞こえるわよ』
その返事が来た瞬間、体が落ちるような感じがしたので慌てて目を開くと、何故か真っ白な空間に体が浮かんでいた。
「え? え? え?」
驚いて周囲を見渡すと、そこには何故かねねがいた。
「ねねちゃん!?」
「? 雪華っ! 無事だったのですかっ!」
「ね、ねねちゃんはどうして? なんでここにいるの?」
その質問に答えたのは蛇だ。
『ごめんなさいね。この世界の知識や言葉を覚えるために少しいてもらってるの』
苦笑と言った感じで蛇は答えるのだが、それに違和感を覚える雪華。それが何なのか思い出していくうちに、一つの答えが出た。
「……蛇さん言葉が上手になった?」
『あら、そう言ってもらえると嬉しいわね』
そうほほ笑んだ声を出す蛇に何が上手になったのかがようやくわかった。発音だ。今思い出すと前は聞こえてはいたけどどこか違和感を感じるような発音だった。
「…………でも、蛇さん前にあった時からそんなに時間経ってないよね?」
『ここと外は時間の流れが違うのよ。ここだと3日は経ってるわ』
「すごいっ! 三日でそんなに上手になったの!?」
目をキラキラさせて蛇に近寄っていく雪華。そんな雪華を見て、蛇は驚きの声で話す。
『……私が怖くないの?』
「? なにが?」
純粋は表情で首をかしげる雪華を見て、蛇は自分の考えを改めた。この子は、自分が思ったよりも純真な子だと。
『いいえ、何でもないわ。それで、あの人、小町さんだったかしら? 彼女に言われた件ね』
「…………彼女なの?」
『……一応、彼女にしておきましょう。』
こほん、と咳払いをしてから話を始めた。
『まず、鬼の力の危険性は聞いたわね?』
「使ってると鬼になっちゃうんだよね?」
『ええ。鬼の力は強大であるが故にその代償も大きい。その中でも一番危険なのが心まで鬼になることよ』
「それ、どういうところが問題なの?」
『いい? 鬼になると自分の欲に素直になるの。自分が食べたいと思ったら食べる。お酒を飲みたいと思ったら飲む。そして、人を殺したいと思ったらすぐに殺す』
「っ!」
蛇の言葉に思わず息を飲む雪華。だが、蛇は話を止めずに続ける。
『で、何より恐ろしいのは鬼の力がそれを可能にしてしまう事。だから、一度始めたら止まれない。最後は討伐されるか、化け物として成り果てるか』
「………………」
『でも、あなたは違うわ。元々、鬼と密接につながっている。だから普通の人間より遥かに鬼に対する耐性、と言えばいいかしら。それが高い。だから多少は制御できるけど過信しちゃだめよ。過信したら終着点は同じだからね』
肝に銘じよう、そう思って雪華は続きを聞く。
「じゃあ、あの力は使わない方がいいの?」
『使わない方がいいかどうかだけで言えばそうよ。でも、それは無理な話』
「無理な話?」
『白装束があなたの力を狙っているからよ。つまり、どう足掻いてもあなたはあいつらと戦う運命にあるわ』
「この鬼の力を……?」
強大な力というのは分かってはいるが、この力をどうしようというのかがいまいちピンとこない。
「どうするつもりなんだろう……?」
『あの短剣の力から察するにあなたの心を砕いて、操り人形にして制御しようというのが魂胆でしょう』
「………………」
あの短剣が刺さっていた時の事を思い出して体が震える。あれが心を砕くためと言われれば納得する。
「……でも、どうするの? 力は」
『ええ。私が抑えてるわ。でも、裏を返せば私の制御下にあるという事よ』
「え?」
『つまり、私が解放すれば力は使えるわ』
その言葉に雪華は一瞬目を輝かせるが、すぐに釘を刺される。
『でも、さっきも言ったけど過信しちゃダメ。何度も使えばその分鬼の力も強くなっていくわ。最後は私でも制御できなくなるし、その時はもはや鬼になったのと同義よ』
蛇の言葉に気を引き締める。
『そうならないように私も気を付けるけど、あなた自身も気をつけなさい。一度なってしまったら元には戻れない。これだけは本当に肝に銘じて』
雪華は何度も頷いて肯定の意を示した。
『じゃあ、他に聞きたいことは何かある?』
そこで雪華は小町の話の中で気になったことを尋ねる。
「ねぇ、私の中にある鬼の魂ってなんなの?」
『それは私にもはっきりとは言えないわ。でも、少なくともかなり強大な魂よ。正直、今まで眠っていたのが不思議なくらい』
「そ、そんなに?」
『ええ。それほどまでに融合していた、とも言えるかもしれないけどね。とにかく、油断しちゃだめよ。常に喰われる気持ちでいなさい』
再び頷くが今度は精悍な顔つきになっている。
「うん」
『とりあえず、力を開放したいときは今のように呼び掛けて。そしたら開放するわ』
蛇がそう言うと、急に空間が遠ざかり始める。
「ふぇ!?」
『大丈夫よ。元の空間に戻るだけ。あ、それとねねちゃんもそろそろ戻るってことを伝えておいてねぇ…………』
返事をする前に空間は元の物陰に戻っていた。
「………はっ!」
気が付いて周りを見渡してみると、日の高さが全く変わっていないのを確認して安心する。
「……愛紗お姉ちゃんの所に行こ」
しゃがんでいた物陰から立ち上がり、愛紗たちが休んでいる場所へと駆けて行った。
部屋の前に着くと戸を叩く。中から出て来たのは月だった。元に戻った雪華の姿を見て彼女の表情が喜びと驚きを含んだものに変わった。
「雪華ちゃんっ!」
「月お姉ちゃん!」
「良かった……」
そう言って涙ぐむと、詠も奥から顔を出した。
「雪華っ! 元に戻ったんだっ!」
詠も喜びの表情を見せ、駆け寄ってきた。
「うん、二人とも心配かけてごめんね」
「ううん、気にしないで」
「そうよ。でも、元に戻ってほんとによかったわ」
詠も月と同じように涙ぐむ。
「あ、それで愛紗お姉ちゃんたちは……?」
「“……………”」
雪華の言葉に互いに少し顔を暗くしてしまった。
「……まだ、目を覚まさないの?」
「……ええ」
治療中の愛紗、桃香、そしていまだに眠り続ける恋とねね。彼女たちは未だに目を覚まさず、こんこんと眠り続けている。
「お医者さんの話では、そこまで心配しなくてもいいって話だったけど……」
医者の見立てでは、恋は単純に疲れ、桃香と愛紗は疲れと戦闘の負傷で、という事だ。ねねに関しては体においても気の流れにおいても問題ないので、目を覚まさない理由は分からないとのことだ。
そこでさっきの事を思い出した。
「あ、ねねちゃんはもうすぐ目を覚ますと思う」
「“え?”」
この言葉に二人は目を丸くする。
「どうして雪華ちゃんがそんなことを……?」
「えーと、蛇さんがねねちゃんに色々教えてほしいから少し傍にいてもらってたんだって。でも、そろそろ戻るって言ってたんだ」
雪華の言葉に二人は目を合わせてからもう一度雪華を見る。
「え、えっと、それ本当なの?」
「たぶん」
と、言った瞬間だった。
「って、いきなり戻すななのですぅ!!!」
「“!!!”」
ねねの大声が部屋から飛び出してきた。
「ね、ねねちゃん!!!」
「あれ、ここはどこです?」
そう言って辺りを見渡すねね。そんな彼女に三人は駆け寄る。
「ねねちゃん大丈夫なのっ!?」
「月、詠、雪華。体調は大丈夫なのです」
体を色々と動かして確認をするが、問題はなさそうに見える。
「……ねねちゃん、よかった」
「うっ、心配かけて申し訳ないのです」
月の泣きそうな表情を見てねねは寝台の上で若干心苦しそうに謝罪する。
「そう言えば、さっき雪華ちゃんから聞いたんだけど、蛇に色々教えてたとか聞いたんだけど……」
「そうなのです。ものすごく色々と請われて、大変だったのです……」
疲れの見えるため息を吐いて、ねねは背伸びをした。
「とはいえ、教えるというよりもほとんど確認みたいな感じだったのです。そこらへんはやっぱり神様というべきなんですかね」
“それにしたって確認される量が凄かったですがね”と言って伸びを解いた。
「それで、今はどうなっているのです? ほとんど確認ばっかで状況が分からないのですが……」
そこで詠から状況の説明を受けて、周囲をもう一度見渡す。
「……あんまり、いい状況ではないですね」
「そうね。でも、来週頭の行軍は変更なしよ」
「……軍師はどうするつもりなのです? 私だけではもう賄い切れない人数ですよ」
「私が出ることになってるわ」
「詠殿が?」
「……私も出るつもりはなかったんだけどね」
“状況が状況だからね”と付け足した詠。しかし、その顔にはどこか高揚感があるようにねねには思えた。
(まぁ、色々と鬱憤が溜まっていたみたいですしね)
ちょうどいいのかもしれない、とねねは心の中で思って話を続けた。
「それで、今動ける将は?」
「確実なのは星と鈴々と華雄。出立までと考えるなら、寝ているだけだし、恋は戻れると踏んでいるわ。軍師の方は私とあんた、雛里が今のところ確実ってところかしらね」
「むぅ………」
詠の言葉を聞いて、眉をひそめるねね。その理由が分かっている詠はその心中を語る。
「あんたの言いたいことは分かるわ。足りないのは明らか。でも、やるしかあたしたちが生き残る道はない」
「分かってますですよ。どうしたものかなと思っただけです」
この先の行動を考えた場合、何が問題かと言えば率いる将だ。兵の練度に関しては問題ないが、兵の数に対して将が少ない。そうなると、将一人頭の負担が大きくなる。
(いくら将が有能でも、その器には限界があるのです)
たとえどんなに素晴らしい名将でも、たった一人で何万の兵を動かすのは無理だ。どんなに練度を積もうとも、どれだけ密な連携をしようともどこかでほころびが出てしまう。戦においてそれは致命的だ。しかし、兵の数は相手に負けている以上、無理もせねば勝てない。
しかし、どこまでの無理をするかは別の話だ。
「…………相手が内乱真っ盛りなのが救いなのです」
「そうね」
そう。相手の連携がすでにぐちゃぐちゃなのだ。斥候の話によれば城同士で連絡しようものなら内通を疑われて罰せられるなどというばかげた話になっているとのこと。正直、軍師から言わせれば失笑ものだ。
「まったく、度し難い愚行なのです。連絡を取らずして何を守ろうというのか……」
「自分の椅子でしょ。権力しか見てない人間が考えることなんてそれぐらいよ」
やれやれ、と心底呆れるがそれで助かっているのだからそんなに文句は言えない。
「軍議はいつごろです?」
「とりあえず、明日の昼よ。そこで詳細な策を詰めて、準備を始める」
「やれやれですな。3日も質問攻めにあって休む暇もないのです」
「3日? あんた何言ってんのよ。そんなに寝込んでないわよ」
「……あ〜、あの蛇が言ってたのはこのことですか」
「蛇?」
「何でもないのです。じゃあ、私はもう一度寝させてもらうのです」
そう言ってあくび一つをして布団に潜り込むねね。
「はぁ!? 何言ってんのよっ! 目を覚ましたなら後処理手伝いなさいよっ!」
「理由は雪華に聞いてくれなので、す……」
と、最後まで言い切らずにねねは眠りの世界に入ってしまった。
「あっ! ちょっとっ!」
詠は慌てて起こそうとするが、それを雪華が止める。
「詠お姉ちゃん、ねねちゃん本当に疲れてるの」
「いや、寝てただけじゃ……」
「あのね、ねねちゃんは蛇さんに3日もずっと質問されてたんだよ」
“どゆこと?”と頭に疑問符を浮かべる詠に雪華は時間のずれについて説明すると、にわかには信じがたいという表情になる。が、すぐに溜息を吐いてその表情を崩す。
「……まぁ、でも実際に雪華が言った後に目を覚ましてるし、あながち間違いじゃないか」
何せ、ついさっきまで急成長していた雪華が元の姿に戻っている。そんな摩訶不思議なことがあったのならば、雪華の言っていたこともあり得ない話ではない。
「にしても、神出鬼没の白装束、身長が自在に変わる女の子、時間をずらす蛇。もはやお伽噺の域よね、これ」
半ばやけくそ気味な嘆息を吐いてやさぐれた表情を見せる詠を心配して月が声をかける。
「詠ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ。自分の知らなかったことが一気に押し寄せて来たから疲れてるだけ」
「お茶入れようか?」
「……お願いしてもいい?」
その問いに月は笑顔で答えてその場を後にした。
「ふっー……」
三度の嘆息。それと同時に椅子へ座り込む詠。
「世の中、知らないことの方が多いとは思ってたけど、今回のは僕が想像できる範疇超えてるよ……」
「詠お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
「平気だって」
背もたれに背を預けつつ、ひらひらと手を振る詠。と、そんな時“ん、んぅ……”と声が漏れた。
「こ、こは……」
桃香が目を覚ましたのだ。
「桃香お姉ちゃんっ!」
寝台に駆け寄ってきた雪華を見て安堵の表情を見せる。
「よかった、無事、だったんだね」
「うん、怪我もしてないよ」
「そっか」
そう言って頬に伸ばされた桃香の手を雪華は優しく掴んで、そのまま当てる。雪華の頬の温かさに安堵したのか、桃香はそのまま再び目を閉じてしまった。
一瞬、その場にいた二人は肝を冷やすが、安らかな寝息が聞こえたことでホッと息を吐いた。
「とりあえず、桃香は大丈夫そうね」
「うん」
しかし、雪華としてはまだ安心できない。まだもう一人の姉が目を覚ましていないからだ。
「愛紗お姉ちゃん……」
彼女が寝ている寝台へ目を向ける。彼女は苦しそうに息を吸いながら眠り続けている。雪華は闇を恐れていた時期の記憶は何となく程度だが残っている。その時に誰か傍にいてくれたことも。
「…………」
そのせいで愛紗が負けてしまったというのが、雪華の心に自責の念を生み出してしまう。詠は雪華の心中を察してか、その肩に手を置く。
「詠お姉ちゃん……」
「そんな顔をしないの。目を覚ました時に今の見せたいの?」
雪華は力強く首を横に振って否定の意思を示す。
「なら、起きてしまったことに後悔しないの。起きてしまったのなら、次にどうするかを考えるの」
「次に、どうするか……」
「そ。僕たち軍師も間違えることはある。でも、間違えたからと言って立ち止まることは許されない。だから常に考えて次に何をすべきか、どうすれば間違えた分を超えられるかを考えるの」
詠の言葉に雪華は頷く。と、そこへ月がいい香りと共に戻ってくる。
「お茶、持ってきたよ」
皆さん、おはこんばんにゃにゃにゃちわ。
前回の投稿で暑いだのなんだの言ってたのに、今や寒いっ! という時期になっていることに驚きと申し訳なさを感じている作者の風猫です。
まさか半年も更新してなかったことに本当に驚いております……
前のあとがきで「モンスターのスポーツドリンクの味の感想を」みたいなことを書いてありましたが、すいません、忘れてしまいました……
ただ、青の方が好みだったのは覚えてます。今年の夏に再度出たら買ってみます。
この半年の間にマジカルミライ2021にも参加しました。いやぁ、やっぱりよかったです。個人的な思い出としては、DDルカをお迎えできたことでしょうか。
出た当初、買おうかどうか悩んだんですが、結局手が出せずに後悔していたので、迎えられてよかったです。
そして、今年はマジカルミライ10周年。春に情報が出るという事ですが、はてさてどうなるのやら……果報は寝て待て、と言いますので、のんびり待ちます。
あいかわらずの亀更新ですが、見守っていただければと思います。
今回はこんなところでしょうか。では、また次回っ!
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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