紙の月26話
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 ゴウマ市長を殴り飛ばしたが、デーキスの爆発した怒りは収まらなかった。すぐそばに立っていたホースラバーにその矛先を向ける。

「ああああああ!!」

「デーキス!」

 ウォルターがいち早く動き、危険も顧みずに全身から放電しているデーキスに向かって飛び掛かった。

「落ち着け!! こんな事しても」

「でも……でも!」

 なおも暴れ続けるデーキスを必死で押さえつける。

「これじゃあ何にもならないじゃないか!」

「ブルメは生きてる!」

 その言葉を聞いて、徐々にデーキスの放電が静まっていく。

「だから、こんなところで暴れてないで自分でブルメを見てみろ!」

 デーキスが落ち着いたことを確認して、ウォルターは彼を開放するとその場で仰向けに倒れこんだ。

「ブルメ……」

 ブルメの傍にはアラナルドがついていた。3発も銃弾を受けている彼女を見て、デーキスは再び感情が爆発しそうになる。

「ほら、ブルメはまだ呼吸をしているだろう? 負傷したけど、まだ彼女は生きている」

 アラナルドがそう言って耳を澄ます。かすかだが確かに、ブルメが呼吸しているのが聞き取れた。

「でも、どうして……?」

「これを見てくれ」

 ブルメはわき腹に1発、胸に2発の銃弾を受けていた。致命傷となる胸の2発はブルメが胸元にしまっていた一枚のメダルで心臓への到達を防いでいた。それは前にデーキスが贈った月の鉱物で作られたメダルだった。

「ああ、ああああ……」

 デーキスはブルメが捨てたと思っていた物が、こんな偶然を引き起こすなんて、喜びと驚き、安堵の感情で全身から力が抜けていった。

 その彼らの前にホースラバーが姿を見せる。気づいたウォルターはすぐに立ち上がって身構える。

「まだやんのかおっさん。あんたらの頭はそこで伸びてるのに」

 治安維持部隊がホースラバーの周りに集まって、再びデーキスたちに銃を向ける。再び一触即発の空気に変わりかけたところを、ホースラバーが手を伸ばした。

「銃を下ろすんだ。必要ない」

「しかし……」

「ゴウマ市長が倒れた。君たちは彼を至急医療施設へ。市長代理として私が指示を出す。行くんだ」

 未だ困惑を隠せない治安維持部隊だったが、命令通りゴウマ市長を担ぎ上げて姿を消した。

「その子も運ばせてくれないだろうか? 治療が必要だろう」

「けっ、どの口で言ってやがる!」

「信じてくれ……とは言えないが、任せて欲しい。市長が倒れた今、治安維持部隊は私が命令を下す。その子には手を出させない。だから、君たちも安心してヴァリスに会うといい」

 デーキスはじっとホースラバーの目を見る。まるでその真意を測るように。

「分かりました。ブルメをよろしくお願いします」

 それだけ言うと、心配そうにブルメの顔を見てからデーキスは立ち上がって進み始めた。

「デーキス、いいのかい?」

「うん、でも信じたわけじゃない。僕たちには他に選ぶことができないんだ。ブルメの傷も今の僕たちには治せない。だから今はあの人に託して、ヴァリスに会いに行く」

 デーキスの言葉がホースラバーの胸に突き刺さる。自分たちの罪とはいえ、子供たちにそう言わせてしまった事に……。

「おい、髭のおっさん。もしその言葉が嘘だったら今度こそ次はないからな」

 すれ違い際にウォルターが釘を刺していく。

 ああそうだ。今度こそ守りたい。前市長が残したこの太陽都市と子供たちの未来を。そのためなら、自分がいくら傷ついてもいい。ホースラバーはそう思った。

 

説明
太陽都市の支配者に、デーキスの怒りが爆発する。
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