恋姫英雄譚 鎮魂の修羅44
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氷環「隊長様、起きてくださいませ、隊長様」

 

一刀「・・・・・なんだ、何かあったのか?」

 

炉青「なんだか、外が騒がしいどすよ」

 

仮眠を取っていた一刀は、二人に起こされ目を覚ます

 

何やら慌ただしい雰囲気が天幕の外から伝わってくるため、何かがあったことを悟り寝台から起き上がる

 

星「一刀殿、起きられていたか!」

 

その時、慌てた様子で天幕に星と菖蒲が入って来た

 

菖蒲「曹操軍から使者が来ております」

 

白蓮「曹操軍からだって、一体どうしたって言うんだ?」

 

そして、二人の後から天幕に入って来たのは彩香であった

 

彩香「一刀君、体調はいかがですか?」

 

一刀「仮眠を取って大分回復していますけど・・・・・一体どうしたんですか・・・・・」

 

彩香「実はその、大変申し上げにくいのですけど・・・・・私達、曹操軍の負傷者を治療してほしいのです・・・・・」

 

一刀「は?・・・・・」

 

その申し出に、一刀を含め公孫軍一同は戸惑った

 

白蓮「ちょっと待て、だってあんたたち、一刀の力は借りないと言っていたじゃないか!?」

 

彩香「そこを曲げて来たのです!・・・・・このままでは私達曹操軍は、進むことも退くこともままなりません・・・・・伏してお願い申し上げます・・・・・」

 

そして、彩香はその場で土下座をし、額を地面に擦り付ける

 

「・・・・・・・・・・」

 

この大陸では、土下座は自らの尊厳も何もかもを擲った行為である

 

曹を名乗る人物がここまでの事をするということは、それほどまでに切羽詰まっているということである

 

それと同時に、あの精強を誇る曹操軍がそんなことになってしまうというのは、一体どういう状況なのか

 

一刀「・・・・・分かりました、負傷者を連れてきてください」

 

白蓮「おいおい一刀、それでいいのか!?」

 

一刀「俺達の目的を忘れるな、俺達の目的は犠牲を一人でも減らしてこの戦いを乗り切ることだ、相手が誰だろうと関係ない・・・・・」

 

白蓮「それは、そうだろうけど・・・・・」

 

星「私も納得しかねます、これでは一方的な貸しの超過にしかなりえませぬぞ」

 

菖蒲「はい、一刀様の良い所ではあると思いますが、見返りを一つも求めないというのは、いかがなものでしょう・・・・・」

 

氷環「それはいけませんわ、隊長様!」

 

炉青「それじゃあに様が損する一方どすよ!」

 

一刀「まぁ、皆の言っていることも分からないでもないか・・・・・なら彩香さん、この借りは後日返していただけると思っていいですか?」

 

彩香「それはもちろん、今後数倍にしてお返しさせていただく所存です!」

 

一刀「分かりました・・・・・皆も協力してくれ、どのみちこのままじゃらちが明かないからな」

 

白蓮「・・・・・分かった、全軍を上げてやろう」

 

彩香「ありがとうございます、本当にありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、公孫軍の天幕に曹操軍の負傷兵が雪崩れ込んできた

 

その重傷者の多さに、公孫軍一同は面食らった

 

あれだけの精強を誇る曹操軍が一度の戦でここまで痛めつけられたことが信じられなかった

 

確かにこれなら、彩香が土下座をしてまで頼み込むというのも頷ける

 

使者に彩香が選ばれたのも言い出しっぺと言うこともあるが、同時に一刀の治療を受けることに反対していなかったということもある

 

しかし、これは一刀が治療できる人数を明らかに超えていた

 

星の気付け酒を服用しながら、やや無理やり氣を絞り出しながらの治療は難航を極めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「はぁっ、はぁっ!・・・・・次だ・・・・・」

 

氷環「隊長様、もうお止めください!!」

 

炉青「このままじゃあに様が倒れちゃうどすよ!!」

 

星「私の気付け酒ももうありませぬぞ、どうかご自愛下され!!」

 

菖蒲「もう十分です、一刀様!!」

 

いかに食事と仮眠を取ったとはいえ、全快したわけではない一刀の負担は大きかった

 

劉備軍の治療に続いて立て続けに舞い込んできた曹操軍の負傷者に翻弄され、氣が尽きかけては回復を繰り返し、傍から見ても明らかにやつれているのが分かる

 

一刀「せめて、せめてあと一人・・・・・」

 

白蓮「分かった、あと一人だけだぞ・・・・・次で最後だ!!」

 

彩香「分かりました、入ってきてください!!」

 

最後に彩香の誘導で天幕に入って来たのは

 

沙和「凪ちゃん、順番が来たなの!!」

 

真桜「すぐ治してもらえるで、しっかりせえ、凪!!」

 

凪「うぅ・・・・・ぅぅぅ・・・・・」

 

三羽烏であったが、沙和と真桜に担架で運ばれてきた凪が全身に傷を負い呻き声をあげていた

 

当初は治療を拒否していた凪であったが、沙和と真桜が華琳から許可を取り無理やり連れてきた

 

一刀「・・・・・おい、何だよこれは」

 

明らかにおかしい凪の傷を見て、一刀は戸惑う

 

これはどう考えてもついさっき受けたような傷ではない

 

中途半端に治っているところを見るに、受けたのは昨日か一昨日と言った感じである

 

一刀「・・・・・はああああああああああああ!!」

 

だが今はそんな詮索は後回しである、残りの氣を使い切るつもりで鍼を突き立てた

 

一刀「〜〜〜〜〜〜〜っ!・・・・・ここが限界か・・・・・」

 

文字通り全てを絞り出して、最後の五斗米道を行使した

 

凪「すぅ、すぅ・・・・・」

 

すると、呻き声は規則正しい寝息へと変わり、表情も安らかなものとなった

 

どうやら痛みの余り、碌に睡眠もとれていなかったようだ

 

しかし、残り僅かな氣だったため完全に癒すことは出来ず傷跡が残る事になってしまいそうだ

 

かつて黄巾の乱で凪の傷を跡一つ残さずに消したが、元に戻ってしまった

 

まさかこれも歴史の強制力なのでは、そう思ってしまいそうである

 

沙和「ありがとうなの、一刀さん」

 

真桜「うちらじゃ応急手当てが精一杯やったからな、助かったで」

 

一刀「それはそうと、これはどういうことだ・・・・・この傷はいつから付いたものだ?」

 

彩香「それは・・・・・昨日、大将軍と対峙した時に・・・・・」

 

一刀「そういうことか・・・・・」

 

変な傷だと思ったら、鞭の跡だったのだ

 

下手をすればショック死もありえただろう痛みと戦いながら一夜を明かしたということである

 

一刀「何で直ぐに・・・・・いや、言わなくても分かる、どうせ華琳の命令か、気を使って来なかったかのどちらかだろう・・・・・」

 

沙和「うん、そうなの・・・・・凪ちゃん、華琳様の顔を汚したくないからって・・・・・」

 

真桜「うちらも一刀はんに治してもらえ言うたんやで、せやけど聞かんくってな・・・・・」

 

一刀「まったくどいつもこいつも、只の見栄っ張りのカッコつけかよ・・・・・」

 

彩香「・・・・・・・・・・」

 

この余りにご尤もな意見に、彩香は何も言えなかった

 

あのような啖呵を切っておきながら、結局一刀の世話になっていては、そう言われても仕方ない

 

一刀「とにかく、また明日連れてくるんだ、次は完全に治してやる・・・・・」

 

沙和「分かったなの・・・・・」

 

真桜「恩にきるで・・・・・」

 

一刀「これからは、負傷者が出たら俺の所に連れてくるように・・・・・いいですね」

 

彩香「はい、分かりました・・・・・本当にお世話になりました」

 

そして、彩香は深く頭を下げ三羽烏と共に天幕を後にした

 

白蓮「一刀、あんなこと言って良かったのか?」

 

一刀「下手に傷を悪化させて来られるよかましだ・・・・・」

 

星「それは、そうかもしれませぬが・・・・・」

 

一刀「とにかく、俺は今日一日動けない・・・・・そのことを連合に報告してくれ」

 

菖蒲「承知しました」

 

一刀「それと、また食べ物を持って来てくれるか?」

 

氷環「分かりましたわ、隊長様!」

 

炉青「沢山作るどす、待っていてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩香「・・・・・ということです、華琳」

 

華琳「そう・・・・・一刀には、後で私からも謝礼をしなければならないわね」

 

春蘭「次からは、怪我人が出たら北郷の所に連れて行けばいいのであるか?」

 

桂花「あんた馬鹿なの!!?これ以上華琳様のお顔を汚すなんてあってはならないわ!!」

 

秋蘭「そうなりたくなければ、二度とあのようなことを起こしてはならない、違うか?」

 

桂花「わ、分かっているわよ、同じ失敗はしないわ・・・・・もっと慎重に策を練るわよ・・・・・」

 

今回、曹操軍は七千程の死傷者を出した

 

その中で一刀が治療できたのは二千五百とちょっと

 

全体の半分以下ではあるが、それでも十分にありがたかった

 

これで曹操軍は、残りの負傷者の世話を自分達で出来そうである

 

華琳「私達は、馬騰率いる涼州連合を舐めていたわね・・・・・」

 

彩香「はい、あれが一世代前の英雄の力だと思い知らされました・・・・・」

 

春蘭「いつかこの借り、数百倍にして返してくれるわ!!」

 

桂花「当たり前よ、私だってこのままやられっ放しで終わるもんですか!!」

 

華琳「その通りよ・・・・・馬騰は、我らが覇道における越えなければならない最大の壁の一つとして考えなさい」

 

秋蘭「しかし華琳様、今日の軍行はこれまでにした方がよろしいかと・・・・・」

 

彩香「ええ、一刀君もあの様子では今日一日は動けないでしょうから・・・・・」

 

華琳「・・・・・そうね、今日は各自ゆるりと英気を養いなさい」

 

彩香「それと華琳、張遼と華雄については如何しますか?」

 

華琳「それについては全面的に保留よ・・・・・」

 

稟「そうですね、この様な醜態を晒していては、誰も勧誘に靡いたりなどしないでしょう・・・・・」

 

風「結局お兄さんのお世話になってしまったのですから、かっこ悪いにも程があります〜・・・・・」

 

出来れば何進に続いて呂布も欲しかったが、今の自分達は人を勧誘するには力不足である

 

もっと魅力ある陣営に成長しないことには始まらない

 

華琳「(我らの覇道は道半ば、この様な所で躓いている場合ではないのよ)」

 

失態を演じた後ということもあり、言葉に発することなく心の中で呟く

 

自分自身を鼓舞するという意味でも、華琳の心中には焔が燻ぶっていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一夜が明けた

 

葵「んじゃ、俺も本格的に暴れるとするかな♪」

 

翠「今度こそ、狙いは袁紹軍だな」

 

鶸「お母様、やり過ぎないでくださいよ!」

 

蒼「お母さんだと、勢い余って袁紹さんの首もとっちゃいそうだからね・・・・・」

 

蒲公英「うん、その光景が嫌でも思い浮かんじゃうね・・・・・」

 

葵「ったく信用ねぇな、子は親を信用するもんだろうが!」

 

傾「子故に母親の性格をよく分かっているからであろう」

 

音々音「病が治って上機嫌なのは分かりますが、暴走されてはたまったものではありませんぞ、ですよな恋殿」

 

恋「・・・・・?」

 

虎牢関では、例によって作戦会議が行われようとしていたが、少々羽目を外し過ぎな葵を一同が諫めていた

 

楼杏「まったく、打って出ることを前提に話を進めないでもらいたいわね・・・・・」

 

風鈴「一刀君が前線に出てくるならともかく、そうでない場合は籠城に徹するべきですよ」

 

葵「分かってるって、俺だって虎牢関を一度も生かさないとか有り得ないことくらいよ♪」

 

霞「ほんまかいな・・・・・」

 

雅「なんだか葵殿を見ていると、以前の自分を思い起こす・・・・・昔の私は、皆をこのように不安がらせていたのだな・・・・・」

 

まだ一度もこの虎牢関をまともに使っていないのである

 

守るために存在するのに籠城戦を一回もせずに終わっては、虎牢関も泣くというものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな一同の願いは無残にも打ち砕かれる

 

病から解放された葵は、体を動かしたくて仕様がなく自発的に打って出る

 

荒ぶる葵を誰も止めることが出来ず、芋づる式に後に続くしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・なんなんだよこれは、一体どうなっているんだ」

 

白蓮「やってもやっても終わりが見えないぞ・・・・・」

 

星「続々と負傷者が雪崩れ込んできますな・・・・・」

 

菖蒲「一体前線では何が起こっているのでしょうか?」

 

朝から負傷者は定期的に入ってきてはいたが、昼になると同時にどんと増えた

 

重傷者も多いため、治療も骨が折れる

 

運ばれてくる殆んどは、袁紹軍の兵士であった

 

氷環「これは・・・・・恋さんによるものですわね・・・・・」

 

炉青「はいどす、この傷は方天画戟どす・・・・・」

 

一刀「呂布か・・・・・」

 

武器の名前を聞いて得心がいった

 

あの三国志最強、天下無双の飛将軍が出張ってきている

 

白蓮「これは元を絶たないと同じ事の繰り返しにしかならないぞ・・・・・」

 

菖蒲「はい、一刀様が治療した兵も再び前線に赴くでしょうから・・・・・」

 

星「このままでは一刀殿が倒れるのは必定でありますぞ・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

どの意見も尤もなのであるが、かといって納得しきれるものでもない

 

仮に公孫軍が前線に赴いても、それで解決すると言われればそうでもない

 

北郷隊で構成されているとはいえ、下手をすれば全滅の憂き目を見てしまうかもしれない

 

自分が呂布と戦ったとしても止められる保証もない

 

かといって、このまま手をこまねいていては自分のガス欠は直ぐにやってくる

 

その後は治療できる人間がいないため、結果的に犠牲者が増えるだけにしかならない

 

一刀「・・・・・分かった、このままじゃ埒が明かない、俺達も前線に行くぞ」

 

炉青「あに様、ウチ等も一緒に行くどす!」

 

氷環「はい、お供しますわ!」

 

一刀「馬鹿なことを言うな、前に言ったことを忘れたのか、連れて行ける訳がないだろう」

 

氷環「ではせめて、ついて行くだけでも!」

 

炉青「こっちの無事をあっちに伝えるだけでもさせてください!」

 

一刀「・・・・・構わないが、手出しは一切許されないからな」

 

姿を見せて向こうに無事を確認させるのはいいとしても、戦闘に参加させることだけは了承出来はしない

 

この二人を前線に送り出し味方同士で戦わせるなど、出来るはずもない

 

白蓮「だな、前にも言った通り、お前達は捕虜の立場だからな」

 

菖蒲「大人しくしていていただければ、こちらは何も言いません」

 

星「一刀殿が危機に陥ったとしても、決して合力せぬこと、これを誓えるのであればな」

 

一刀「言っておくが、それはここにいる者全員だからな」

 

白蓮「はあっ、何を言い出すんだ!!!??」

 

星「左様、いくら一刀殿でも無謀というものですぞ!!」

 

菖蒲「相手は黄巾党を一人で3万人も倒してっていう呂布なんですよ!!」

 

一刀「呂布にはな、以前にのっぴきならない仕打ちをしてしまったんだ、今回はその謝罪込みだ」

 

白蓮「それで命を投げ出すつもりか!!?」

 

一刀「勘違いするな、死ぬつもりはない、俺一人で戦うのはこれきりだ・・・・・我が儘なのは分かっているが、今回だけ付き合ってくれないか?」

 

星「・・・・・相分かった」

 

菖蒲「本当に、今回だけですよ・・・・・」

 

白蓮「まぁ、一刀には我が儘を言う資格はあるか・・・・・」

 

氷環「・・・・・了解しましたわ」

 

炉青「はいどす、決して手を出しません・・・・・」

 

一刀「・・・・・頼んだぞ」

 

どうにも納得しきれていない風に見えるが、話している時間も惜しい

 

元凶を抑え込まんと公孫軍は前線へ赴いていく

 

この日は、あいにくの空模様

 

曇天が空を支配し、雨粒が頬を叩いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵「おらおらおらおら、袁紹軍ってのは、こんなちんけな奴らしかいねぇのか!!!」

 

猪々子「おわあああああ、なんだこのおばさん!!!??」

 

斗詩「本当に病気だったんですか!!?」

 

悠「なんてこった、あたしの速さが通じない」

 

葵に対して、袁紹軍の将が三人がかりで相手をしているが、全く止められる気がしない

 

麗羽「まったく三人とも何をしていますの、そんな蛮族を相手に何を手古摺っているんですの!!?」

 

真直「相手は涼州連合の筆頭ですよ、あの三人では荷が重いに決まっていますよ!!!」

 

巨大な偃月刀、戦皇刀姫を縦横無尽に振り回し、三人を寄せ付けない

 

悠が後ろに回り込んでも背中に目があるのかってくらいに対応してくる

 

猪々子「なあ、悠姉の得意な後ろに回り込んで胸を揉むやつ、あれをやってみたらどうだ?」

 

悠「さっきから何度もやってるさ、だってのに一刀直伝の縮地が一切通用しないんだ、このおばはん」

 

葵「さっきから聞いてりゃおばさんおばはんって・・・・・俺はまだまだ魅力的なお姉さんだぜ!!!」

 

猪々子「だああああ、藪蛇だったああああああ!!!!!」

 

斗詩「強過ぎますううううううう!!!」

 

悠「どうすっかな、あたしは速さだけが取り柄だからな、それが通じないんじゃ逃げるしかないんだが」

 

逆鱗に触れたようで、更に激しい戦皇刀姫の暴風が襲い来る

 

翠「ったく、少しはこっちの事も考えてくれよな!!」

 

蒲公英「叔母様について行くのも骨が折れるよ・・・・・」

 

葵の援護をする形で、翠と蒲公英が周りの兵士達を蹴散らしていく

 

しかし

 

恋「・・・・・ふっ!」

 

「「「「「どぎゃああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

方天画戟の一振りで、一斉に兵士達が薙ぎ払われていく

 

蒼「うわあ、恋さんえげつな〜い・・・・・」

 

鶸「天下無双と言われるわけです、あれは絶対お母様よりも強いです・・・・・」

 

葵の強さも群を抜いてはいるが、恋の強さは無双という言葉そのものと言える

 

あれと同じ事を葵が出来るかと言われれば、出来ないと言わざるを得ない

 

そして、次々と倒れ伏していく袁紹軍を見かねたのか

 

愛紗「そこまでだ、呂布!!」

 

鈴々「鈴々達が相手なのだ!!」

 

春蘭「この夏侯元譲が相手になってやろう!!」

 

彩香「春蘭を援護しますよ、秋蘭」

 

秋蘭「はっ」

 

雪蓮「好き勝手やってくれちゃって、止めさせてもらうわよ」

 

梨晏「そっちに非がないのは分かっているけど、流石にこれは見過ごせないな」

 

明命「お覚悟してください」

 

思春「ここまでだ」

 

鴎「このままじゃ、駐屯地にまで来ちゃいそうだからね、足止めさせてもらうわよ」

 

巴「美羽様の元へは、決して行かせません」

 

そこいらの兵では被害が広がるばかりなので、其々の陣営の一騎当千を誇る将達が続々と集まってくる

 

炎蓮「ったく、俺は仲間外れかよ」

 

粋怜「大殿、自重して」

 

祭「うむ、呂布の強さは群を抜いておる、ここで堅殿が討ち取られでもすれば、大問題じゃ」

 

呂布の相手は他の者達に任せるも、炎蓮は離れた所で不貞腐れていた

 

炎蓮「分かっちゃいるが、俺だって天下無双ってやつとやりあいたいんだよ!」

 

粋怜「いずれ機会もあるでしょう、今は生き残る事が先決よ」

 

桃香「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、大丈夫かな・・・・・」

 

美花「それは何とも言いようがありません・・・・・」

 

雛里「は、はい、呂布さんと言えば、黄巾党を単騎で3万屠ったと言われていますから・・・・・」

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

華琳「呂布、その強さ、見せてもらうわよ」

 

桂花「・・・・・・・・・・」

 

季衣「春蘭様達、大丈夫かな・・・・・」

 

流琉「うん、心配だよ・・・・・」

 

美羽「七乃や〜、巴は大丈夫かや〜?」

 

七乃「他の皆さんもいることですし、大丈夫なんじゃないですか〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「壮観やな」

 

雅「ああ、あれは10人はいるぞ」

 

正確には11人、各陣営の最大戦力がたった1人の将に振り分けられていた

 

その光景を霞と雅は虎牢関から見下ろしていた

 

楼杏「あなた達は加勢に行かなくてもいいのですか?」

 

霞「行きたいのは山々やけど、ここの守り、疎かにするわけにもいかへんやろ」

 

雅「ああ、お主達だけでこの虎牢関はもはや守れん」

 

風鈴「そうね、私達の部隊はもう使い物にならないから」

 

傾「余は御免であるな、あのような怪物と共に戦うなど、巻き込まれれば一巻の終わりよ」

 

虎牢関は天下無双と称されるだけあってかなり大きな関である

 

盧植隊と皇甫嵩隊も全滅したわけではないが、これほどの関を守るには如何せん数が減り過ぎてしまった

 

そのため、張遼隊と華雄隊が回り込んでくる敵に備え、待機しているのだ

 

霞「それに、恋なら問題無いやろ」

 

雅「ああ、あ奴の強さは言葉では説明できんからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「ふふん、如何に数を揃えた所で恋殿の敵ではありませぬぞ♪」

 

傍から深紅の呂旗を持ち主を見守っている龍座の才は、余裕の表情を浮かべていた

 

恋「ふっ!!」

 

愛紗「ぐっ!!!!」

 

鈴々「にゃにゃっ!!!??」

 

春蘭「ぬうおっっ!!!??」

 

雪蓮「きゃっ!!!」

 

梨晏「うそっ!!!??」

 

明命「はうああああ!!!??」

 

思春「ぐうっ!!!」

 

巴「なっ!!??」

 

方天画戟の一振りで、一同は苦悶の表情を見せる

 

風圧により、地面が軽く抉れてしまった

 

恋「どうした、恋の力、まだまだこんなものじゃない」

 

愛紗「くっ、一斉にかかるしかないか・・・・・」

 

巴「ここまでの差を見せつけられては、それしかない様ですね・・・・・」

 

雪蓮「武人としては情けないけど、こんな所で死ぬわけにもいかないしね・・・・・」

 

明命「雪蓮様、援護します!」

 

恋「そう、一遍に来い、そっちの方が楽」

 

思春「甘く見てくれる・・・・・」

 

鴎「この数を相手に勝てると思っているの?」

 

恋「(コク)・・・・・勝てる」

 

鈴々「鈴々を舐めていると痛い目を見るのだ!」

 

秋蘭「姉者、後ろは任せろ」

 

春蘭「応っ!!」

 

彩香「果たしてどこまで通用するか、この怪物に・・・・・」

 

梨晏「出来れば一対一でやりたいけど、こっちも将だからね、止めさせてもらうよ」

 

そして、一斉に挑みかかる一同であったが

 

恋「弱い・・・・・」

 

鈴々「にゃにゃーーーーーー!!!??」

 

雪蓮「くうっ、なんて怪力よ!!!??」

 

明命「うわわわ、魂切が折れちゃいますううううう!!!」

 

春蘭「これならどうだ、どりゃあああああああ!!!!!」

 

彩香「援護します!!!」

 

秋蘭「はあっ!!!」

 

闘気を刃に籠め、渾身の気迫で闘気の斬撃を放つ

 

それに続いて彩香と秋蘭の矢が飛来するも

 

恋「ふんっ!」

 

春蘭「何ぃっ!!!??」

 

彩香「そんな、あれを全て防いだのですか!!?」

 

秋蘭「なんて器用な奴だ・・・・・」

 

方天画戟によってかき消され、叩き落とされる

 

普通なら必殺のタイミングなのであるが、どうやらこの怪物には普通は通用しないらしい

 

思春「速さでならどうだ!!!」

 

鴎「食らいなさい!!!」

 

細作の速さを生かし、思春が懐に飛び込み、鴎の苦無が飛来する

 

恋「鬱陶しい・・・・・」

 

思春「ぐううっ!!!」

 

鴎「うそっ、この呼吸でも駄目なの!!!??」

 

絶対に躱せないし、防ぐことも出来るはずのないタイミングだったはず

 

せめて苦無の一本くらい肌を掠めるくらいしてもいいのであるが、その全てを方天画戟が一枚の壁となり防ぐ

 

梨晏「う〜〜〜ん、どっちが弱い者虐めか分かんなくなるね・・・・・」

 

巴「これは、敵う気がしませんね・・・・・」

 

一部の者は、白旗を上げる寸前であった

 

その時

 

一刀「呂布か・・・・・」

 

梨晏「あ、一刀!?」

 

巴「どうして、一刀がここに・・・・・」

 

後方で医療に従事しているはずの一刀が前線に来ている状況に戸惑う一同であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

粋怜「大殿、行っちゃ駄目だってば!!」

 

炎蓮「はーーなーーせーーーー!!!!一刀だけ呂布と戦うなんざ狡いぞーーーーー!!!!」

 

祭「ええい、我が儘を言いなさるな!!」

 

冥琳「粋怜殿、祭殿、決して放してくれるな」

 

こっちは駄々をこねる御大将を必死で抑えていた

 

白蓮「桃香、ここにいたか!」

 

桃香「白蓮ちゃん、どうして白蓮ちゃんがここにいるの!?」

 

白蓮「余りに負傷者が途切れないからな、このままじゃ埒が明かないから、元を絶ちに来た」

 

桃香「でもこれで大丈夫だね、一刀さんが来てくれたんだから♪」

 

美花「果たして一刀様が加わったとて、変わりはあるのでしょうか・・・・・」

 

雛里「み、御遣い様の強さは本物でしょうけど、呂布さんの強さは計り知れませんから・・・・・」

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

華琳「噂に違わぬ強さね・・・・・一刀、あなたならどう戦うのかしら」

 

桂花「一瞬で殺られてしまうのでは?」

 

季衣「そんなこと言わないでよ、桂花!」

 

流琉「兄様なんです、きっと、きっと大丈夫です・・・・・」

 

美羽「なんだか不安なのじゃ、七乃ぉ〜・・・・・」

 

七乃「まぁ、一刀さんですからね、心配ないでしょう・・・・・多分・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星「愛紗、大事ないか!?」

 

愛紗「星、どうしてお前達がここにいるんだ?」

 

星「このままお主達の尻拭いをしていては、早々に一刀殿が倒れかねんからな」

 

菖蒲「はい、皆さん怪我人の出し過ぎです」

 

鈴々「そんなこと言われても・・・・・」

 

明命「はい、怪我人を出しているのは主に袁紹軍ですし・・・・・」

 

星「言い訳無用なり」

 

菖蒲「はい、連帯責任です」

 

個々の責任もさることながら、連合である以上、ここにいる全員の責任であることは明白である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「あーーーーー、あの無礼な御遣いですぞ、恋殿!!!」

 

恋「・・・・・?」

 

一刀「覚えていないのか?洛陽でお前に殴り掛かる寸前だったことを」

 

恋「・・・・・??」

 

一刀「覚えていないならいい、一方的に謝るだけだ・・・・・ずっとあの時の事を謝りたかった、すまなかった」

 

恋「・・・・・???」

 

本当に一方的な謝罪となってしまった

 

自分に向かって深々と頭を下げてくる男に、恋は戸惑うばかりだった

 

一刀「それでだ、詫びの一環として、俺が一人でお前の相手をする」

 

鴎「なっ、一刀、いくらなんでも無茶よ!!」

 

春蘭「北郷だけ戦うなど、狡いぞ!!」

 

一刀「やかましい、これだけの頭数を揃えて返り討ちにされている奴らが、偉そうな口を利くな」

 

ただでさえ多くの患者を押し付けられている身なのであるから、これくらいの嫌味も言いたくもなる

 

今更ながら、来てくれた白蓮達に感謝の念が絶えない

 

公孫軍が来てくれなかったら、とっくに自分は精魂尽き果てていただろう

 

秘密を共有したのもでかい、自分一人では今頃深い自責の念に押し潰されていた

 

一刀「捕虜になった氷環と炉青なんだが、あそこにいるぞ」

 

指さした後ろを見ると、そこには確かに自分達の副官二人がいた

 

氷環「恋さん、ねねさん、私達は無事ですわ」

 

音々音「ああ、氷環、炉青、大事ないですか!!?」

 

炉青「心配しなくてもいいどす、あに様が良くしてくれているどす」

 

恋「・・・・・よかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傾「一刀が来たな」

 

楼杏「氷環と炉青もいますね」

 

風鈴「二人の無事を確認させてくれたようね、一刀君らしいわ」

 

霞「それはええんやけど・・・・・一刀の奴、まさか一人で恋とやるつもりかいな」

 

雅「一刀の強さはこの身をもって知っているが、それでも恋相手ではな・・・・・」

 

傾「余なら死んでもご免であるぞ、あのような怪物相手に一人で何が出来るというのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵「・・・・・おいお前ら、いったん小休止とするぞ」

 

猪々子「は、なんだそりゃ?」

 

斗詩「戦いの最中なのに休憩って、どういう事なんですか?」

 

悠「あたしとしては嬉しいけどな、流石に縮地の使い過ぎで疲れた・・・・・」

 

葵「あの御遣いの戦いを見たいんでね・・・・・周りの奴らも一旦止めやがれ!!!」

 

翠「母さん!?いきなり何言いだすんだよ!?」

 

葵「んっ!!」

 

親指を向けた方向を見ると、天の御遣いが天下無双と対峙している姿が見て取れた

 

蒲公英「あ、御遣い様、恋と戦うんだ」

 

鶸「そんな、いくら一刀さんでも無茶も良い所だよ!!」

 

蒼「止めなくていいの、お母さん!!?」

 

葵「お前らの婿になる奴だからな、これくらいの難局は乗り越えてもらわんとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「なんなのですかあいつは、素手で何をするつもりですか?」

 

皆が武装している最中を手ぶらで散歩など、常識でいえば勇敢ではなく只の馬鹿と受け取られるであろう

 

腰に一振り挿しているものの、それを挿しっ放しにしているのを見るに、あれは只の飾りなのであろう

 

音々音「天の御遣いは、素手で戦うと聞いていますが・・・・・恋殿相手に無謀というものですぞ」

 

雨粒が少しずつ勢いを増してきて、服が僅かに湿り気を帯びてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「先手は譲る・・・・・どこからでも来い」

 

恋「・・・・・いいの?」

 

一刀「これも詫びの一つだと思ってくれればいい」

 

恋「なら、行く・・・・・ふっ!!!」

 

方天画戟を仁王立ちの一刀に向けてまっすぐに突き出した

 

瞬きをする間もないその速さは、並の相手なら自分が死んだことにすらも気付かない

 

恋「っ!」

 

しかし、この体重を乗せた渾身の刺突は白刃取りで防がれる

 

全身の波動を解き放ち、恋の怪力に対抗する

 

一刀「先手は譲った・・・・・つあっ!!!」

 

恋「くっ!」

 

方天画戟の刃と柄の間を蹴り上げる

 

蹴り上げの慣性に体勢を崩しながら、恋は後退する

 

恋「・・・・・おまえ・・・・・凄い」

 

一刀「これで貸し借り無しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪蓮「・・・・・何てことなの」

 

思春「我々が束になっても止められなかったというのに、しかも素手で・・・・・」

 

愛紗「一刀様・・・・・それほどの力がありながら、なぜあなた様は・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「次、恋の番」

 

一刀「来い」

 

方天画戟を肩に担ぐ恋に対し、一刀は右構えで更に氣を放出する

 

恋「・・・・・ふっ!!」

 

一刀「ぐうっっっ!!!」

 

方天画戟の一撃を、氣を込めた腕で受け流すも、衝撃がビリビリと走る

 

一刀「(この感触・・・・・あの矢を放っていたのはこいつか!!)」

 

あの槍の様な矢を受け流した感触と、今受けた一撃

 

種類は違えど、この二つは同質のものである

 

恋「ふっ!!」

 

一刀「くあっ!!!」

 

連続で縦横無尽に襲い来る方天画戟を躱し、受け流す

 

一刀「(くう、これはいつまでも持たないぞ!!)」

 

あの矢と同じだけの威力を受け続けるなど、どう考えてもリスキーでしかない

 

恋「ふっ!!」

 

一刀「しぃっ!!!」

 

唐竹で迫る方天画戟を再び受け流す

 

右に逸らした方天画戟を地面に突き立てさせる

 

一刀「くぬっ!!!」

 

恋「っ!」

 

更に方天画戟を右足で踏み抜き、地面にめり込ませる

 

一刀「せあっ!!!」

 

そこから左の回し蹴りで恋の右肩口を蹴り抜こうとする

 

恋「ふっ!!!」

 

一刀「ぬおっ!!!??」

 

ところが、恋は方天画戟がめり込んだ地面ごと一刀を持ち上げた

 

恋「はっ!!!」

 

一刀「うおおおおおおお!!!??」

 

そしてそのまま、地面ごと一刀を後方に放り投げた

 

一刀「ぐっ、くそっ・・・・・っ!!!???」

 

着地して顔を上げると、土の壁が迫る

 

方天画戟にめり込んだ岩を、恋が投擲してきたのだ

 

これは縮地をもってしても躱すことなど出来ない

 

一刀「はっ!!!!!」

 

思い切り氣を乗せた拳を繰り出し、岩を砕く

 

恋「んっ!!」

 

一刀「くっ!!!」

 

なんと、恋はその岩に隠れて一刀に肉薄する

 

一刀「ぐっ!!!!」

 

そして、方天画戟の刺突が一刀を捉える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「きゃああああああ、白蓮ちゃん、一刀さんが、一刀さんがあああああああああ!!!!!」

 

白蓮「おおお、落ち着け桃香!!!」

 

華琳「流石の一刀もここまでという事かしらね」

 

桂花「ええ、せめてもの情けです、埋めるくらいはしてあげましょう」

 

季衣「そんな、兄ちゃんが・・・・・」

 

流琉「ああ、兄様ぁ・・・・・」

 

炎蓮「おいこら餓鬼共、メソメソしてんじゃねぇ!」

 

桃香「だって孫堅さん、一刀さんがぁぁ・・・・・」

 

炎蓮「あいつはあんな程度でくたばりゃしねぇよ」

 

粋怜「そうね、本当に一刀君は殺しても死なない人間よね・・・・・」

 

祭「あの体の頑強さ、頭と同じくらい固いからのう・・・・・」

 

雛里「そ、それはどういう・・・・・あ・・・・・」

 

朱里「そんな、そんなことって・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「なんですか、凄いのは最初だけだったでありますか・・・・・」

 

当初は一刀の力と動きに仰天していたものの、10合もしない内に討ち取り音々音は安堵した

 

音々音「やはりただの馬鹿だったということですな♪」

 

素手でこんな所に来る時点で、蛮勇と言ってもいいくらいである

 

そう思っていたが

 

音々音「え、そんな・・・・・そんな馬鹿な事が・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋「おまえ・・・・・凄いけど、強くない」

 

一刀「・・・・・そうだな、俺は強くない」

 

恋「っ???」

 

一刀「俺の北郷流は・・・・・未成熟なんでね!!!」

 

恋「うっ!!」

 

腹に刺さった方天画戟を無理やり抜き、右回し蹴りを左腹部に叩き込み吹っ飛ばす

 

恋「・・・・・なんで、死なない?」

 

一刀「技を使うのが刹那遅かったら死んでいたよ・・・・・」

 

野登呂で方天画戟の切っ先を臓器に達する前に筋肉で防いだ

 

しかし、ダメージがないわけではない

 

腹部から血が流れ、急いで包帯を巻き氣で筋肉を収縮させ止血する

 

恋「・・・・・お前みたいなやつ、初めて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴々「・・・・・駄目かと思ったのだ」

 

梨晏「私も思わず叫びそうになったよ・・・・・」

 

秋蘭「ひやひやさせてくれる・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「(さて、どうするか・・・・・)」

 

今回は運が良かっただけである

 

体の中心軸を刺されなかったのもそうだが、タイミングが遅すぎても早すぎても野登呂は技として成立しない

 

刺さった一瞬に筋肉を収縮しなければ止められないのだ

 

同じことがホイホイできると思ったら大間違いである

 

仮に出来たとしてもダメージが積み重なれば重傷と変わりがなくなり、それで命を落とす

 

一刀「(いきなり本気にならないといけないってか・・・・・)」

 

治療の事を考えると躊躇われるが、ここで使わなければ最悪死ぬのは自分である

 

一刀「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そのまま氣のメーターを振り切らせ、薄皮一枚に絞り込む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪蓮「いきなり使うのね・・・・・」

 

彩香「私が一刀君なら、同じ選択をします・・・・・」

 

明命「うわわわ、大丈夫なんでしょうか、一刀様・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々音「・・・・・随分と多芸な奴でありますな」

 

先ほどの攻防もそうであるが、今度は全身から舞い落ちる白銀の羽に音々音は感嘆の言葉を零す

 

音々音「しかし、恋殿の勝利は揺るぎませぬぞ・・・・・」

 

その言葉には、いつもの自信に満ちた覇気は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「時間がない・・・・・いくぞっ!!!」

 

恋「っ、くっ!!!」

 

回天丹田状態での縮地

 

その速さは干支の型並みで、速過ぎてもはや目で追いきれない

 

恋の周りを取り囲むようにヒットアンドアウェイで、付かず離れず打撃を叩き込むも

 

一刀「(嘘だろ、こいつ全部防いでいるだと!!??)」

 

内心かなりの焦りを見せる

 

傍から見れば、袋叩きにしている様に見えるであろうが、自分が繰り出す当身は恋の体に一つも届かず、全てが方天画戟で迎撃されていた

 

恋「・・・・・ふっ!!」

 

一刀「くっ!!!」

 

間断なく繰り出される攻撃の狭間に襲い掛かって来た方天画戟の横薙ぎを躱すも

 

一刀「(こいつ、俺の動きを読んだのか・・・・・)」

 

回天丹田状態の自分の動きは、例え祖父であろうと10回に1回捉えられるかどうかだというのに

 

それどころか、あの打撃の嵐の中反撃に転じてきた

 

純粋な強さでは圧倒的に向こうが上である、とてつもない身体能力だ

 

回天丹田を使っても、彼女の基本的な力に付いて行くだけで精一杯である

 

恋「さっきの言葉、取り消す・・・・・お前、強い」

 

一刀「・・・・・言っただろう、俺は強くもなんともない、こんな邪道な技に頼っているんじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「・・・・・大したもんやで、一刀」

 

傾「ああ、あの呂布と互角に戦っているではないか」

 

雅「違うな、この戦い、一刀が不利だ」

 

楼杏「それは元からでしょう、なにせ一刀さんは素手なのよ」

 

雅「そんなものは関係ない、一刀が使っている回天丹田という技に問題があるのだ」

 

風鈴「それはどういう事なの?」

 

雅「あの技はな、一日に一度しか使えない、それ以上の回数を行使すれば寿命を縮めるらしい」

 

霞「つまりもう使うてるから、今日一日二度は使えんちゅうことか」

 

雅「そうだ、それを使ってなお互角では話にならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「ぐっ!・・・・・時間切れか」

 

回天丹田が解除され、白銀の羽が消えていく

 

あっという間に限界の3分に達してしまったようだ

 

恋「?・・・・・どうして、止めるの」

 

一刀「はぁ、はぁ・・・・・悪いな、この技の最大の弱点は時間でね、限界を過ぎると体中に激痛が走るんだ」

 

恋「そう・・・・・でも、恋は止めない」

 

一刀「・・・・・だろうな」

 

こっちの事情に向こうは構ってくれない

 

茶番とはいえ戦争である以上、お互いの命を懸けているのだから

 

一刀「(こうなったら、もう一度行くっきゃないな)」

 

今のところ通用するのはこれだけである

 

無茶を承知で、一刀は再び氣のメーターを振り切らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鶸「ちょっ、一刀さん、また使うんですか!!?」

 

蒼「それ以上使っちゃ駄目だよー!!」

 

翠「なんだ、何が駄目なんだ?」

 

鶸「あの技は、使い過ぎると寿命が削れるらしいんです!!」

 

蒲公英「ええええ、それじゃ、蒲公英達の旦那様でいられる時間が短くなっちゃうじゃん!!」

 

鶸「お母様、一刀さんを止めに行きます!!」

 

葵「駄目だ、お前らが割って入ったところで止められるもんじゃない、あそこに入れるのはあいつらと同じ強さを持った奴だけだ」

 

蒼「それは・・・・・そうかもだけど・・・・・」

 

葵「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「(ぐっ、痛ってぇ〜〜〜〜!!)」

 

回天丹田を一日に二回以上行使するのは、これが初めてである

 

全身の筋組織がブチブチと断裂し、悲鳴を上げているのが分かる

 

一刀「(なるほどな、一日に一回しか使えないわけだ!!)」

 

回天丹田が北郷流三大禁忌と言われる所以であると思い知らされる

 

しかし、今はそんなことを言っている場合ではない、ここでこの三国志最強の武将を止めなければ、無用な犠牲が増えるばかりである

 

これ以上の犬死にを増やすくらいなら、自分の寿命が幾分削れるくらい安いものである

 

一刀「ふぅぅぅぅ・・・・・はっ!!!」

 

素早く手を動かし、雷針砲を放つ

 

恋「んっ!!」

 

その高速氣弾は、あっさりと弾かれる

 

一刀「しっ!!!」

 

恋「ふっ!!」

 

今度は地を走る氣弾、地泉戒で足を封じるにかかるも、これも方天画戟で相殺される

 

一刀「(こいつマジなのか!!?)」

 

やけくそ気味に連続で氣弾を叩き込むが、方天画戟の堅い守りに阻まれる

 

回天丹田で威力も弾速も倍増しているはずの氣弾が、悉く防がれる

 

一刀「(どうするんだよ、こいつ!!)」

 

恋「・・・・・もう、飽きた」

 

氣弾を防ぐどころか、じわじわと距離を詰めてくる

 

遠方射撃で体力切れを狙うつもりであったが、それも当てが外れた

 

体力面でも、一刀は恋に劣っている

 

恋「ふっ!」

 

一刀「くっ!!!」

 

方天画戟の間合いにまで詰められ、横薙ぎを躱すが

 

一刀「(なんてこった、本当に手が無いぞ・・・・・)」

 

自分の北郷流は、目の前の天下無双を相手にするには力不足であった

 

せめて縮地法、干支の型が使えればまだ何とかなったかもしれないのに

 

もっと真面目に修行に打ち込んでいればと、後悔が拭えない

 

一刀「ぐあっ!!・・・・・っ!」

 

回天丹田の氣が消え、片膝を付いてしまう

 

筋組織が断裂したせいで、全身に青痣が浮かび上がる

 

恋「・・・・・もう、おしまい?」

 

ゆっくりと歩み寄ってくる天下無双に、一刀は自分がいかに弱いかを思い知らされた

 

一刀「はぁ、はぁ!!・・・・・流石は呂布だ、脱帽だぜ・・・・・」

 

雨足は更に強くなり、この場にいる全員がこの一騎打ちに釘付けとなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗羽「ちょっ、拙いんじゃないですか、このままじゃ一刀さんが!!」

 

真直「三人とも、北郷殿を助けに行きなさい!!」

 

葵「こぉら、死にたくなければ動くんじゃねぇ!!!」

 

麗羽「な、何を言っていますの、まさか助けに行かせないつもりですの!!?」

 

葵「お前らが割って入ったところで、撫で斬りにされるのが関の山だっつってんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「(こうなったら、一か八かだ・・・・・)」

 

悲鳴を上げる体を無理やり起こし、氣を開放する

 

一刀「くぁぁぁああぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

 

三度目のメーターの振り切り

 

完全に限界を超え全身の血管がぶち切れ、痛みを通り越して感覚が麻痺してくる

 

今にも倒れそうであるが、気力を振り絞り意識を保つ

 

氷環「隊長、様ぁ・・・・・」

 

炉青「あに様、後生どす・・・・・」

 

後ろで見守っている二人の手からは、拳の握り込みにより血が滲み出ていた

 

一刀「(これで駄目なら、ここが俺の死に場所になるな・・・・・)」

 

戦争を全否定している自分が戦場で死ぬなど、どうしようもない皮肉でしかないためそれだけは死んでも避けたい

 

上手くいくことを願い、一刀は腰を落とす

 

恋「っ・・・・・」

 

目の前の男から発せられる確かな気迫に、恋は方天画戟を握り締める

 

既に満身創痍のはずであるのに、自分の中の本能が警戒信号を発信する

 

一刀「・・・・・っ!!!!!」

 

渾身の縮地

 

目の前の相手以外を視界から除外し、まっすぐに突貫する

 

この速さは、縮地法干支の型の中での最速歩法、午の型筍歩のそれと同格であった

 

周りの者達は、一刀の姿がそれこそ掻き消えたようにしか見えなかったであろう

 

恋「ふっ!!!!!」

 

しかし、そんな誰もが反応しえない速さに、恋は反応した

 

方天画戟を突っ込んでくる一刀に合わせ、完璧なタイミングで振り下ろす

 

左脇腹から右の腹にかけて、袈裟切りに上と下が確実に泣き別れとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キイイイイイイイイイン!!!!!

 

恋「っ!!??」

 

甲高い金属音が鳴り響く

 

咄嗟に一刀が腰の兼元を逆手で抜き、方天画戟の刃を止めた

 

一刀「ずあっっっっっ!!!!!」

 

縮地の加速のまま懐に潜り込み、勢いを殺さず右の拳を恋の腹に叩き込む

 

恋「ぐふっ!!!!!」

 

一拍遅れて、恋の後ろの水溜りが弾ける

 

水飛沫と共に衝撃が突き抜け、後ろにいる兵士達が吹っ飛んだ

 

音々音「れ、恋殿!!!??」

 

後方に吹っ飛ばされ、腹を抑え方天画戟を杖代わりにする恋に音々音が駆け寄る

 

音々音「恋殿、大丈夫でありますか!!?」

 

恋「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!!」

 

音々音「・・・・・・・・・・」

 

目の前の光景が信じられなかった

 

あの黄巾党三万を一人で撃退した時でさえ息一つ乱さなかった主が、険しい表情で荒い呼吸を繰り返している

 

自分の呼び掛けに答えられないくらいに余裕がない、それほどのダメージを負ったということだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「な、何なの、今のは・・・・・」

 

桃香「わ、分かりません、一刀さんの姿が消えたと思ったら、呂布さんが膝を付いてて・・・・・」

 

炎蓮「一刀の奴、己を曲げたな・・・・・だがそれでいい、それでこそ人間というものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」

 

兼元を鞘に納め、一刀は目の前の天下無双に歩み寄る

 

その表情は鬼気迫るもので、降りしきる雨が肌を濡らす度に蒸発し、全身から湯煙が上がっていた

 

音々音「れれれ、恋殿!!!一旦退きましょう、こいつは普通じゃありませぬぞ!!!」

 

恋「・・・・・分かった」

 

軍師の言葉を素直に受け入れ、恋と呂布隊は虎牢関へと撤退していく

 

これを機に、涼州連合も兵を引き上げていった

 

一刀「く、ぐぐ・・・・・ぐあああああああああああああああ!!!!!」

 

凄まじい絶叫と共に再び回天丹田が発動される

 

しかしそれは一瞬で、一刀は目の前の水溜りにうつ伏せに倒れ込んだ

 

氷環「隊長様!!!」

 

炉青「あに様!!!」

 

一同が唖然としている中、もう我慢が出来なくなり、二人は急いで一刀に駆け寄る

 

回天丹田によって舞い上がった白銀の羽は降りしきる雨粒も相まって、悲しく揺らめいていたのだった

説明
叫喚の修羅
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コメント
犠牲者を出さないために自らの寿命を削っても安いって。一刀、大陸を平和にしたいならアンタは長く生きなきゃダメでしょが!!(戦記好きな視聴者)
なんだかんだ連合の存在が一刀ありきになっちゃってるのが連合にとって一番屈辱だろうなぁ(未奈兎)
元を絶つためにやり合うのは良いが、皇帝姉妹の救出作戦には一刀が必要なので討ち取っては駄目なのでは?しかし、とうとう力を見せてしまった一刀。回天丹田のリスクは知られているとはいえ、有力武将達が束になっても歯が立たなかった恋を単独で退けたのだから、さらに苦しむことになりそうですね。(Jack Tlam)
更新ありがとうございます(‐人‐)(恋姫大好き)
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