恐るべし、色男 |
「神様仏様ラス様!お願いします!ナンパの仕方教えて下さあぁい!」
食堂で華麗にラスの足元に土下座を決めてるシーナ。ラスと一緒に酒を飲んでたビクトールがゲラゲラ笑っている。
「なんだぁ、またフラれたかぁシーナ?」
「そうだよ!そんで言われたよ!ラスさんぐらい優しくてかっこよかったらデートするのに、って!」
そこで僕を引き合いに出すということはアップルか。アップルだなとビクトールも頷く。ラスはリオン専用の護衛であり戦争に参加しないため、一般人に知りようが無い。
「だからお願いします!ナンパの仕方教えて下さい!!」
「だとよ。教えてやったらどうだラス?」
「うーん、困ったなぁ。勝手に寄ってくるからしたこと無いんだよね、ナンパ。」
「んなっ!?」
「出た、色男発言。」
それこそほら、こんな風に。と土下座するシーナと目線を合わせるように跪き、顔を上げさせてじっと目を見つめてから、優しく微笑んだ。そのラスの顔にキュンっとときめいたシーナは顔が真っ赤になってしまった。
「お、シーナが落ちた。」
「あーしまった!至近距離ツラい!!やっばい!その気になっちゃう!美少年キラーの破壊力怖い!!」
自分が美少年枠にある自覚はあるようで、すっかり頭を抱えたシーナ。ジーンが発した美少年キラーの呼び名がすっかり定着してしまった。何しろこの男、顔がいい。
「なんつーか、目が合ってじっと真面目な顔で見つめられたら一瞬危険な香り?がしてさ、あっカッコいいなー、でも一筋縄じゃいかないなーって思うのよ。それでしばらく見つめられて、不意に微笑まれたらドキッと、胸がキュルルンてするわけよ。分かる!?」
「いや分からん。」
「わーかーれー!システム的なやつなのわーかーれー!」
そうか、そんな風に感じてたのか。普段から意識してやってはいたけど、美少年側からの視点は新鮮だ。これだけ状況分析が出来たらナンパも成功しそうだけど、と思いながら再び椅子に座って飲みかけの酒を喉に流し込む。ワクだから酔わないけれど、酒の刺激は好きだ。
「そういやラス、美少年というか、美青年でも行けんだろ?」
「ああ。そっちは流石に美少年ほど落ちやすくは無いけど、線引きは分かるよ。」
「じゃあ…、」
ビクトールがキョロキョロと食堂を見回すと、丁度良く入ってきたフリックの姿が。あいつはどうだ?と指差してラスの視線をフリックに向かせて、ここぞとばかりにシーナが観察する。
フリックとラスの目が合って、ラスがじっと真面目な顔で見つめてる。くー、やっぱ顔がいい。お、向こうはちょっと戸惑ってる。しばらく見つめてラスが優しげに微笑んでー、フリックが赤くなって目を反らした!
「うん、彼ならいける。」
「よしきた!」
ガタッとビクトールが立ち上がってフリックの後ろに回り込むと、両脇の下から腕を回してがっちり抱えて引きずってきた。この熊、素早い。
「はーなーせー!」
「まーまーそう言うなって。ほれ。」
そう言ってビクトールが座らせたのは、ラスの膝の上。しかも横向き。
「おいこらビクトール!!」
「ごゆっくりぃ。」
「ゆっくり出来るか!すまん今すぐ降りるから、」
「ああ、大丈夫だよ利き手は空いてるし。」
違うそうじゃない、とフリックが立ち上がろうとすると、ラスが不意にフリックの手を取った。え、と困惑するフリックの手を労るように撫でて、目を見つめる。あ、フリックが赤くなった。完全に立ち上がるタイミング失ったわあいつ。
「訓練帰りかい?」
「そ、う、だけど、」
「注文はした?」
「ま、だ。」
ラスが触れていたフリックの手袋を、手の平の付け根側から指を入れてスルリと脱がす。普通の脱がし方じゃない、何あれエロい。手の平とはいえ素肌に触れられて口をぱくぱくさせて固まってる。うん、分かるぜフリック、あれは見てる俺もヤバい。
「ここ、怪我してるね。」
「え、あ、ちょ、」
「痛くないかい?」
「へ、平気だ…、っ。」
よく見ると、フリックの手の甲に切り傷があって、血が出てた。その部分にラスが親指を這わせると痛そうな顔してる。ふと、弱い風が吹いたと思ったらフリックの手の傷がみるみる塞がっていく。癒しの風だ。
「応急処置だけしたから、後でリュウカンに診てもらってね。」
「す、すまない。」
「訓練で頑張るのは分かるけど、怪我をしたら元も子も無い。戦士であれば体調管理もしないとね。」
「わ、分かっ、た。」
うわぁ、喋ってる間ずっと怪我があったとこ優しく撫でてる。口説いてるわけじゃないのにドキドキする。ほら、フリック真っ赤じゃん。横でビクトールが口押さえて笑い我慢してる。おい元凶!
よし、と言ってフリックの背中と膝裏を抱えて持ち上げて、立ち上がって、自分が座ってた椅子に座らせる。えっ今流れるようにお姫様抱っこしてすぐ下ろした。何あれ、何あれ!?
「注文してきてあげるよ。何がいい?」
「えっあっ、いや、自分で、」
「僕も丁度お酒取りに行くところだったから、ついでだ。何がいい?」
「えと、じゃあ、チャーハン…。」
「了解。」
ここで待ってて、と言うとフリックの肩ポンポンって叩いた。そのまま注文に行って……、って!何今の流れえぇ!?フリック、今やっと気付いたぞ、自分がお姫様抱っこされたの!うわぁ、耳まで真っ赤。
「だっはっはっはっは!!」
「…ビクトール、おまえ……」
耐えきれなくて笑い出したビクトールに恨めしげな目を向けるフリック。とにかく、俺がやることは一つとシーナがフリックに近寄る。
「なあフリック、ときめいた?」
「シーナ、お前まで!」
「だはははは!フリック、お前ラスとまともに話したの初めてだったろ。どうだったよ?」
「どうっておまっ、お前っ…、」
「ん?」
「…めちゃめちゃ優しい…。」
そう言って顔をテーブルに伏せてしまった。なんだあれ、優しすぎる、キュンキュンした、俺オデッサ一筋なのに、とぶつぶつ呟いてる。恐るべし、美少年(美青年)キラー。
ビクトールがまあまあと言いながらフリックの肩をポンポン叩く。
「尻なら浮気に入らねえぜ。」
「やめい!!」
バシッとビクトールの手を払う。同じ肩ポンポンなのに明らかにラスとビクトールで反応が違う。恐るべし、美少年(美青年)キラー。
「ついでに抱かれてきて感想教えて!」
「何でだよ!?お前が自分で抱かれて来い!」
「絶対戻れなくなりそうだからやだ!」
「俺はいいのかよ!?」
「オデッサさんとやらに操立ててんなら大丈夫だろ!」
「お前なあ!!」
「だっはっはっはっは!」
ぶっちゃけ至近距離だと抱いて!と叫びたくなるのだ。独りっ子だし、母に孫の顔は見せたい。
「おや、楽しそうだね。」
「っ!」
ビクトールがゲラゲラ笑っているとラスが戻ってきた。どうぞとフリックの前に出来立てのチャーハンを置いて、自分は向かい側の椅子に座って酒を飲んでいる。
「あ、ありがと、な。」
「どういたしまして。」
さっきまで抱かれる抱かれないの話をしてた相手が向かい側にいて、ニッコリ微笑んでいて、恥ずかしくならないわけがない。フリックはボンッと湯気を吹き出したように真っ赤になってしまった。
「なあラス、こいつ抱けるか?」
「おいこら!」
「うん、いけるね。」
ビクトールがフリックを指差して直球な質問をすると、さらっと肯定の返事が帰ってきた。フリックが真っ赤なまま口をぱくぱくさせてると、ラスが言葉を続ける。
「少し前ならそうしてたんだけど、今の僕には可愛い恋人がいるから。ごめんね。」
「だとよ、フリック。」
「残念だなぁフリック。」
「何で俺が振られた流れになってんだよ!」
とその時、フリックの真横に見覚えのある棍がドゴッと突き立てられた。
冷や汗を流しながらギギギと振り返ると、無表情のリオンが。
「…何してる。」
「り、リオン、いやこれはだな、」
「抱く抱かないって聞こえた。」
しまった、とビクトールとシーナは目を合わせた。ガッツリ聞かれてる。完全に巻き込まれたフリックはブンブン首を横に振る。
「ちちち、違うぞ!俺なんにもしてないぞ!」
「…ラスに触られて、優しくされて、膝に座って、お姫様抱っこまでされてたそうだな。」
「な、なんで、」
「一部始終見ていた人から聞いた。」
誰それ!?ていうかそれは不可抗力です!とシーナは心の中でツッコんだ。
まずい。このリーダー、めちゃめちゃ嫉妬深いぞ。地獄の底から出てきたみたいな声で喋ってる。フリック、ドンマイ。
「やあ、リオン。もう訓練は終わったのかい?」
「うん。…いや、違う。ラス、熊とシーナの戯れ言に悪ノリしないで。」
「少し前なら味見するところだけど、ちゃんと断ったよ。」
「……っ、」
ラスを見てリオンの顔が一瞬綻んだけど、すぐに無表情になった。おっ、痴話喧嘩勃発?
と思いきや、ラスがいつの間にかリオンの隣に立って、肩を抱いた。
「リオン、もしかして妬いたのかい?」
リオンを自分の方に向かせて、ニヤリと妖しげな笑み浮かべて。シーナは何あれめちゃめちゃエロい。と胸をドキドキさせていた。
そんなラスの顔を至近距離で食らったリオンは、みるみる顔を真っ赤にして、『妬くに決まってる!』と口に出すはずが、
「抱いて!」
と心に思ってたはずの言葉を口に出していた。
「いいよ。」
とラスは即答して、可愛いなぁとリオンの顔が周りに見えないようにぎゅっと抱きしめる。
「リオンさん、おそらくそれ逆です。」
とツッコミのためだけにいつの間にかアップルがいた。げっ、とシーナが驚く。
「今日の訓練を元に部隊編成を見直しますから、ラブラブタイム終わってからでいいので確認して下さいね。」
「…分かった。」
いやラブラブタイムってもうナニをするか丸わかりの台詞じゃん、とシーナは心の中でツッコむ。それでは、とまるでシーナを眼中に無いかのようにアップルは去っていった。もしかして、一部始終見てたのはアップルなのでは?
ラスもリオンを連れて、じゃあね、と食堂を出ていく。確かにリオンは見た目は美人だが、毅然とした態度で冷血だし常に真顔の鉄仮面だし強いし怒ると恐ろしい外見詐欺人間だ。あれを可愛いと言い切るラスはすごい、と残された者は思った。
「…で?どうだったよシーナ?ラスの色男っぷり、ナンパの参考になったか?」
「ま、ま、」
「ま?」
「全く参考になりましぇえん…。」
「だよなぁ。」
ビクトールの問いかけに項垂れながら答える。あの優しい仕草だけで落とす方法は彼にしか出来ない。自分には無理だとシーナは悟った。しかも、しかも、
「顔がいいんだもん。優しいんだもん。許しちゃうんだもん。」
「それな。」
シーナの呟きにフリックが同調する。本来のカリスマ性もあるが、やっぱり圧倒的に顔がいいから惹かれる。三日見ても飽きない美形は恐ろしい。
恐るべし、色男。
「彼、美少年キラーだけじゃなくて、群島一の色男って呼ばれてたのよ。どう優しくすれば落ちるか把握してるから気をつけてね。」
と一部始終見ていたジーンは後に語ったのであった。
終わり。
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美少年(美青年)キラーな4様と即オチした青い男 時系列はテオ戦後 坊っちゃん→リオン 4様→ラス(声A) |
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