薔薇を背負う人
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群島諸国解放戦争において活躍し、150年が経った今世界中に名前が知られている宿星が二人。

 

天貴星ラインバッハと地文星ミッキー。

 

ミッキーが執筆した物語の名は『薔薇の剣士〜ラインバッハ三世の冒険譚〜』。世界に広く知れ渡る伝説的英雄の物語だ。

その伝説的英雄の物語のファンが解放軍にいる。

「そして俺は偽名でこう名乗ったわけだ、シュトルテハイム・ラインバッハ三世ってな!」

ご存知、熊ことビクトールである。

そして、その物語の主人公と作者を知っている者もまたここにいた。

「へえ、懐かしいなその名前。」

群島諸国連合の英雄、ラス。かつてラインバッハとミッキーを仲間にした男である。

 

ラスが食堂にリオンの食事を取りに行ったら、意外な人物が懐かしい名前を口にしていたので思わず話しかけた。ビクトールが酒を飲んでいた手を止めてこちらに顔を向ける。

「おうラス!お前もあの話知ってんのか?あれ俺ガキの頃からずっと読んでたんだぜ。」

「ああ、知っているも何も…、」

遠い昔、船内の壁新聞に連載していたミッキーの小説がその後世界中に広まって伝説的英雄の物語になったのは知っていたけれど、まさかビクトールがその物語のファンだとは。あの長い名前を覚えるぐらいだから相当好きなのだろう。小説はラインバッハがリーダーになってしまっていたから、フレアがミッキーの胸ぐら掴んでたな。

「ラインバッハ本人を知ってるからね。」

「へあっ?」

「懐かしいな。彼の勇敢さは知ってたけど、こっちまであの薔薇の剣士が広まってたなんて。」

ミドルポートに戻るまで各地で人助けをしながら勇名を馳せたと聞いている。彼は船酔いしやすい体質だが、友のためなら船酔いを堪えて戦う気骨と、父の悪行に憤りを覚える程の純真さを併せ持った好漢だ。彼の周りの人間と服装の癖が強かったが、人の才能を見抜くラインバッハ自身には好感を持ったのは覚えている。

無人島に蟹を食べに行くのに誘ったらついてきてくれて、その場で焼いた蟹を一緒に食べて。最初は丸かじりに抵抗があったみたいだけど、ひと口食べたら『美味しいですね友よ!』と目を輝かせてかぶりついてたっけ。それからは無人島に誘う度に『もちろんです!共に参りましょう!』と喜んでついてきた。交易にも詳しかったから、蟹狩りに必ず一緒についてきたチープーとも仲良くなってたし、彼が領主となったミドルポートは世界有数の港へと成長したから、商才と統治能力もあったのだろう。父親の2世とは雲泥の差だ。鳶が鷹を生むとはまさにこのこと。スノウの他に親友と呼べるのは彼ぐらいだ。

ああ、懐かしい。あの頃は楽しかった、今ここにいたらミルイヒといい勝負だと亡き友に思いを馳せていると、

「え、ラス、いや、ラスさん?えっ?シュトルテハイム・ラインバッハ三世を?知ってらっしゃるので?」

ビクトールが疑問符を浮かべて、挙手しながら、彼らしくない畏まった口調で話しかけてきた。酒を置くほど動揺するとは珍しい。

「もちろん、だいぶ昔の友人だからね。」

群島解放戦争から生きてるのも、真の紋章持ちなのも軍の重要人物には知れ渡っている。ビクトールなら問題ないだろうとあっさり回答すると。

 

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ビクトールの背後に薔薇が咲いた。

ビクトールの作画がベル○ら風に変わった。

作画が変わったビクトールがラスの足元に膝をついた。

両手を組んで祈りのようなポーズをして、

「ラス様っ。」

と語尾にハートマークをつけて、目をキラキラと輝かせた。

 

ビクトールと一緒に飲んでたフリックは、

「ビクトールがラスに落ちたあぁあぁ!!!」

と鳥肌が立って寒いのか腕を抱えながら叫んだ。

 

「何でだよ!?あいつ美少年でも美青年でもないぞ!?」

「いやなんか作画変わった!!」

「作画って何だ作画って!そんなわけないだろ……、ってホントだあぁあぁ!?」

「あいつの背後に薔薇が咲いてるの初めて見た…。」

「ヤバい鳥肌が、」

「だっははははは!ヒィ、腹いてえ…!」

食堂にいた面々はベル○ら風ビクトールを見て鳥肌が立つ者もいれば、腹筋が死んでしまうほど大笑いする者もいた。

一方、ベルば○風に変わったビクトールはどこから出したのか、手に薔薇の剣士の本を持っている。

「も、もしかして、これに書かれてる巨大船のリーダーラスって、ラス様のことでいらっしゃいます?」

一応ラスの情報は軍の重要人物以外には内緒なので、ビクトールが小声で、しかも珍しい畏まった口調で問いかける。差し出された本をパラパラとめくって、ミッキー、命が惜しかったんだな、とかつての仲間を思い出した。

父のサポートをする上で使い勝手がいいというだけで弓を選んでいたが、フレアも天才肌なのでありとあらゆる武器を扱えたのだ。ラスの実姉であり、顔も良ければ実力もある彼女に睨まれたら、命は無い。ラインバッハについていくために早死にするわけにはいかないと修正したのだろう。

当時の壁新聞に載っていた文章から内容が修正されているのを確認して、それでもあの頃を思い出して懐かしさに微笑みながら、

「ああ、うん。これ僕だね。」

小声であっさり回答すると。

「ふわあぁぁあ………!まさか、まさか、あなたが、((紫の薔薇の人|薔薇の剣士の登場人物))だなんて…!」

ドキンッ…という効果音と共に背後の薔薇がまた咲き誇り、ビクトールが両手で口を押さえ、乙女の顔をして歓喜した。作画といい、いろいろ混ざっている呟きをツッコむ者はいない。

それを見た周りの面々は更に鳥肌が立つやら、大笑いするやらで食堂は阿鼻叫喚に包まれる。

 

「やべえ、もう俺寒い、鳥肌立ちすぎて寒い…。」

「た、たしけて、もう、腹いてえ、ヒィ、」

「おい誰か担架持ってこい!笑いすぎて動けなくなったやつ医務室運べ!」

「こっちもだ!寒すぎて動けなくなってるぞ!」

次々と担架で運ばれていく者達。医務室のリュウカンからしたら馬鹿馬鹿しい状況である。

「俺はあれを目の前にしてニッコリ笑ってるラスの方が怖い。」

とフリックは語る。

 

誰かあのビクトールを、いや、ベル○らの熊を止めてくれ!と食堂の面々が心を一つに祈りを捧げた。

 

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ドゴッという鈍い音と共に振り下ろされた棍が脳天に直撃し、ビクトールが地に伏した。その後ろには、いつの間に来たのか解放軍のリーダーであるリオンが無表情で立っている。

ついでに背後の薔薇も消えてベルば○風の作画も戻ったため、

「ウォオォオォ!リーダーぁあぁあぁ!!」

「かっちょいいぜリーダーぁあぁあぁ!!」

「流石だぜリーダーぁあぁあぁ!!」

「リーダーぁあぁあぁ!!ありがとうございまぁあぁあっす!!」

「リーダーぁあぁあぁ!俺はあんたについてくぜぇえぇえぇ!!」

食堂の面々が歓喜の叫びを上げた。

一方、リオンはラスを迎えに来たところビクトールがラスの足元にいたため、

「邪魔な熊をどかしたかっただけなんだが…。」

という理由で脳天に一撃入れたのだとか。

「ラス、遅い。」

「ごめんねリオン。懐かしくて、つい。」

「懐かしい?」

「この本、僕の古い友人の活躍が書かれてるんだ。」

「友人?」

「シュトルテハイム・ラインバッハ三世。」

「えっ、実在してたの?」

「ああ。そういえば偽名で名乗ったんだっけ。そうか、そんなに好きなんだねこの話。」

熊にしては長過ぎる名前をスラスラ言ってたのは、好きな物語の主人公の名前だったからか、とリオンは納得する。

ラスが懐かしいなと本をパラパラめくりながら嬉しそうな顔をするものだから、リオンは無表情ながらも拗ねてラスの腕に抱きついた。

「リオン?」

「…親しかったの?その人。」

「うん。あの頃友人とお互い呼んで笑い合ったのは彼ぐらいかな。」

船長になってから出来た友人は少ない。騎士団時代からの仲間は仲間だし、テッドは自分に惚れてたくせに極力近づこうとしなかったし、かつて親友だったはずのスノウはボロ服を纏うまで自分を友とは呼んでくれなかった。

彼ぐらいなのだ。船長になってから、共に戦って、仲間になってからもずっと友と呼んでくれたのは。無人島に誘ったら喜んでくれて、チープーと三人で、蟹を食べながら次の交易の話に花を咲かせて。

もう亡くなってからだいぶ経ってるけれど、彼の勇敢さを記した小説が世界に広まって有名になっていて、ビクトールのように彼のファンが今の時代にもいるのは嬉しい。ミッキー、いい仕事したな。

ラスの顔を見上げながら、自分も年月が経ってこんな顔をする時が来るのかもしれないと考えるリオン。コテン、とラスの腕に頭を預ける。

「ねえラス。その人のこと、教えて。」

「ん?どうしたんだい?」

「ラスの友人の話、沢山聞きたい。これから一緒に生きる上で、ラスの楽しかった話を知りたい。」

「……そっか。それなら、リオンの話も聞きたいな。」

「私の?」

「うん。君と、テッドの話。」

「!?」

驚いて顔を上げると、ラスが優しい眼差しで微笑んでいて。周りに聞こえないようにラスが小声で優しく話しかけると、リオンも小声で話す。

「君達がどうやって友達になったのか。あのテッドがどうやって心を許したのか、俺は知りたいな。」

「…話してたら泣くかも。」

「泣いてもいいよ。そのために俺の胸はあるから。」

ラスの言葉にキュンとときめいたリオンは、真っ赤になってラスの腕に顔を押し付けて頬ずりする。

「…ずるい。」

「ずるい男だからね、俺は。」

「…好き。」

「知ってる。」

 

 

その後、ビクトールに返しておいてくれと薔薇の剣士の本をフリックに託して、ラスとリオンは自分達の食事を持ってリオンの部屋に戻っていった。

 

しばらくして目を覚ましたビクトールが、

「((紫の薔薇の人|薔薇の剣士の登場人物))は!?」

「誰だよそれ!?」

と叫んだのだそうな。

 

 

 

 

終わり。

 

 

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ああ、友よ。生涯の友、ラス殿。

貴方とチープー殿と共に無人島で語らった日々は私の宝です。

最初は手掴みで食べるなんて、と躊躇いましたが、思いきってかぶりついて良かった。あの語らいで未来の商会との縁が出来たのですから、あの巨大蟹の味は忘れないでしょう。

あなたが仲間に誘ってくださった時、私は本当は無条件で貴方についていきたかった。しかし、父の不正を許せなかった私は、後始末のために時間が欲しかった。だから、貴方に薔薇の胸飾りを頼んだのです。

貴方が美少年キラーであることも知りましたが、構いません。私と共に交易について語らい笑い合った時間が全てです。罰の紋章の呪いと戦う貴方にとって、あの楽しい日々が少しでも助けになれば良いのです。

 

全てが終わり、紋章砲の争いも終わったすぐ後、諸国を旅する私に信じられない一報が届きました。貴方の恋人、キカ殿の訃報です。

不慮の事故で海に散ったと、そして、貴方が旅に出たのをフレア様からお聞きしました。

それを聞いて私は決心したのです。まだまだ各地を旅して、見聞を広めると。そして、

『ミッキー、私の物語を書くのです。これから旅をする中でいろんな困難に合うでしょう。それを物語にするのです。後世に伝わるような物語をお前なら書けるはず。頼みましたよ。それと、巨大船のリーダーの記述はちゃんと直すのです。ラスは私の生涯の友。その友の功績を私が奪うような記述は許しません。訂正しなさい。』

『かしこまりました、ぼっちゃま。』

私の物語が後世に伝われば、いずれ貴方の耳にも届くでしょう。真の紋章を宿した者は不老となる。つまりは仲間がいなくなっても生きることになる。この先私や、仲間達がいなくなり、貴方一人になっても、百年経とうとも。

私の物語で貴方が少しでも、巨大蟹を共に食べた日々を思い出してくれたら、懐かしんでくれたらと、願わずにはいられないのです、友よ。

 

 

 

 

 

 

 

薔薇の剣士の巻末にはこう記されている。

 

我が生涯の友に捧ぐ。

シュトルテハイム・ラインバッハ三世より。

 

 

 

 

 

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【薔薇の剣士より抜粋した巨大船リーダーラスの記述】

薔薇の剣士と、ラスの決闘がはじまった。

双剣の剣士ラスと薔薇の剣士。お互いの実力は互角。

見守るものたちの握っていた手ぬぐいが汗で湿る。

決着のつかない戦いに、薔薇の剣士は剣を鞘に納めてこう言った。

『あなたの熱意は剣を通して伝わりました。あなたと共に参りましょう』

双剣の剣士ラスも剣を納める。

『ありがとうございます、薔薇の剣士どの』

『どうか、ラインバッハとお呼び下さい。私達は互いに剣を交わし言葉を交えた友です』

薔薇の剣士とラス、二人は固い握手を交わす。

『ラインバッハ。共にクールークを討つため戦いましょう』

『ええ。』

城主は息子に向け、こう言った。

『お前も若いうちに見聞をひろめるのがよかろう』

『ありがとうございます』

かくして、薔薇の剣士は巨大船のリーダー、ラスと友となり、打倒クールークの旅へと出発したのであった。

道中わからずやの島長や

ききわけのないエルフ、

金に目のくらんだ地方領主などが

ラスの頭を悩ませもしたが、

薔薇の剣士の活躍のおかげで、

それ以上に多くの勇者が、群島の人々が、

仲間になることを約束した。

気がつけば巨大船には、

あまたの勇者があつまっている。

薔薇の剣士とラスは時に互いを励まし、共に戦いながら互いの信頼を深め、二人は固い友情で結ばれていった。

 

 

 

 

「つまりよ、巨大船のリーダー、ラスはこのシュトルテハイム・ラインバッハ三世の唯一の友なんだ。剣を交わし、友となり、固い友情でもってクールークを討った。それがこんな近くにいたんだぞ!興奮しねえわけねえだろ!!」

「分かったから落ち着け。あともう作画変えるなよ。」

 

 

 

終わり。

説明
モラビア城後の解放軍。ビクトールさんキャラ崩壊。ギャグです。
4様とあの人の友情小話も。
4様→ラス
坊っちゃん→リオン
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