デートするぞ!!
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「以前から気になっていたんだが、」

「なぁに?」

「デートとは何だ?」

「へっ?」

グリンヒル奪還直後、ある日のムツゴロウ城。鍛練していたルカ(以下クロ)にナナミが料理を差し入れし、それを食べていた最中にクロがふと疑問を口にした。問いかけられたナナミは一瞬目が点になる。

「えっ?えっ?デート知らないの婿どの?」

「知らん。」

「えええ?うそぉ?今までどうしてたの?お姉ちゃん心配になってきたよ?」

「……それほど一般的なのか?」

「恋人とか婚約者いたら知ってて当たり前だよ?」

「ヒエン以外にいたことは無い。婚約者もいなかった。」

愛だの恋だの、復讐と憎悪に満ちた今までの人生には必要無かった。過去のトラウマにより性的興奮を感じることも無かった上に、差し出された女は全て首を締めて殺していたため婚約者もいない。あの蛍を見て命の儚さを知り、一度死んだ身。愛おしいという感情も性的欲求も全て、ヒエンの狂気によって与えられたものだ。

「でも何で知りたいって思ったの?」

「……ヒエンが、俺とデートがしたいと言っていた。」

ヒエンの敵を斬るためにクロとして生きると決めた日、『ずっと閉じ込めておくつもりだったけど。ルカとデートしたいもん!』と言っていたのを思い出した。

「そっか、ヒエン張り切ってたもんねー。」

嬉しくなったナナミはふふっと笑って、デートとは親しい男女や恋人同士の二人が待ち合わせして出掛けるものだと教えた。監禁されていた時はムクムク達がいたとはいえ二人きりの時間が多かったため、デートする意味が分からずクロは首を傾げた。

「今さら二人でいることに意味はあるのか?」

「あるよ!!一緒にお買い物したりいろんなとこ見て回ったり!それに!前は一緒に出掛けるなんて出来なかったじゃない?」

「ああ。」

敵の大将同士で出掛けるなど出来るわけがない。グリンヒルの森で二人(と一匹)で会ったのは奇跡だ。

「婿どのもせっかく外に出れるようになったんだもん。いいじゃん!ヒエン誘ってデートしておいでよ!」

「……何処へ行けばいい?」

「あ。」

先ほどまでデートの意味すら知らなかった人間が、デートプランなど立てられるわけがない。ここはお姉ちゃんの出番ね!とナナミは異様に張り切った。

「そうだなー、近いとこだとデート感無いし、グレッグミンスターとかいいんじゃない?」

「トランの首都か。」

「そう!バナーの村から関所の途中はモンスター出るけど、婿どのならチョチョイのチョイだもんね!」

「フン、当たり前だ。雑魚に遅れは取らん。」

「トランだけにね!」

「おい。」

「あっ!そういえば、グレッグミンスターのケーキ店に売ってるチーズケーキ絶品なんだって!ゲオルグおじさん言ってた!」

「あの異様に腕の立つ男か。」

確か旧赤月帝国の将軍だった剣士。あの男がもっと早くヒエンの仲間になっていたら楽しい斬り合いが出来ただろうな、と加入した時期を残念に思っていたため覚えていた。訓練所で手合わせした後に必ず菓子を食っていて、このムツゴロウ城の新作スイーツも毎回楽しみにしているのだとか。

「ついでにチーズケーキのお土産よろしくねっ!」

「お前もいつでも行けるだろう。」

「二人の初デートで買ってきてくれたっていうのが重要なの!」

「そういうものか?」

「そういうものなの!」

そうと決まれば善は急げと、完食した頃合いを見計らってナナミがクロをぐいぐいと押していく。

「早速ヒエンを誘いに行こ!今なら執務室にいるはず!」

「おい、押すな。」

二人の初めてのデート!ここはお姉ちゃんがお膳立てしなきゃ!とやる気に満ちて鼻息荒くしているナナミ。なんだかんだ言いつつもナナミの強引なお姉ちゃん節は悪くない。たまに立ち止まったりしつつも大人しく押されていく。

 

そうして執務室に到着すると、

「たーのもー!!」

と言いながらナナミがバターン!と勢いよく扉を開けた。道場破りか?

「何の用だちぢれマイマイ。」

「ちぢれマイマイじゃないもん!!」

シュウの言葉にぷくっと頬を膨らませて言い返したナナミが高速で判を押していたヒエンの方を向く。

「ヒエン!婿どのが今すぐデートしたいんだって!!」

「行く!!!!」

「待たんか貴様。」

ガタッと立ち上がって即答したヒエンの頭をぐわしっと鷲掴みにしたシュウ。眉間に皺が寄っている。

「何さシュウ。」

「決済印押してない書類があるだろうが!」

「ふーんだ!全部チェックしてるもーんだ!今日中に必要なのはもう全部押してあるもーんだ!あとは明日やればいいもーんだ!」

「何っ?」

シュウが書類をチェックしようと手を離した隙にピューッと素早く移動し、クロの手を取る。

「クロ!デートどこ行く?」

「グレッグミンスターがいいとナナミが言っていた。」

「婿どのにお土産も頼んだからよろしくね!」

「オッケー!ありがとナナミ!」

「おい待て馬鹿まだチェックは終わってないぞ!!」

「やーだーよ!」

そのままクロを引っ張ってバビューンと脱兎の如く部屋から出ていった。いいことしちゃったとルンルン気分のナナミも退室し、ハァーと深いため息をついたシュウは天井を向く。

「モンド、ヒエン殿についていけ。特にクロの動向を見張るように。」

「御意。」

天井裏にいたモンドが短く返事をする。いくら絆されたとはいえ、かつての敵の大将と二人きりで遠くに行かせるわけにはいくまい。シュウは再び書類のチェックを開始したのだった。

 

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バナーの村から関所までの道のモンスターはクロにとって赤子の手を捻るようなもので。二人はあっという間にグレッグミンスターに到着した。バルカスと別れ、お腹減ったからどっかで食べよう、とヒエンが手を繋ぐ。

「っ、」

手を繋ぐ回数はヒエンに監禁されてから増えた。己よりも小さいヒエンの手から手袋越しでも体温を感じる。幼き日の、母に手を引かれて歩いた記憶を思い出す。

「手は繋がないといかんのか?」

「当たり前じゃんデートだよ?そ・れ・と・も、腕に抱きつく方がいいならそっちにするけど。」

「あれは歩きにくい。このままでいい。」

「んふふ、宿屋のカレーライス美味しいって聞いたんだよねー。楽しみー!」

「……出る前にナナミの作った飯を食ってきたんだが。」

「口直し!!」

ヒエンに手を引かれながら宿屋に到着し、店主のマリーに挨拶をして店内のレストランに行く。クロは飲み物だけ注文してヒエンが食べる様子を見ていたが、あーん!とスプーンを差し出されたため一口食べる。そうするとヒエンが機嫌良さそうに笑って、口直しになったでしょ?と聞かれ、悪くない味だと答えた。食後に出されたハーブティーが美味く、これ売って!と店主に頼むも非売品と断られてガックリと肩を落として。コロコロ表情を変えるヒエンは見ていて飽きない。

 

再びヒエンに手を引かれて宿屋を出た後は、グレッグミンスターを見て回る。城やかつての花将軍の屋敷を見て、やって来たのは交易所。入るなりヒエンは木彫りの御守りをあるだけ三十個ほど購入する。クロは御守りを見てあの日の夜襲を思い出し複雑な心境になった。

「お守りなんぞ買う必要があるのか?」

この俺がいるというのに、不確かな御守りなんぞに頼るなど。

「あったり前じゃーん。御守りこーんなに安いんだよ?」

「それがどうした?」

「今ラダトで高値ついてるから売るの!」

「売るのか。」

「あらかじめゴードンさんに周辺の町の相場調べてもらってたんだよねー。」

テレポート娘のところへ行く前に交易所に寄ったのは相場を知るためだったのか、とクロは関心した。

「それに、僕にはクロがいるもんね!」

先ほどの思考を読まれたのかとギクッと肩を振るわせると、んふふ、とヒエンが笑って見上げてくる。本人曰く、最高に可愛い角度の上目遣いで。

「ちゃあ〜んと、分かってるからねっ。」

「っ、なら、いい。」

含みのある笑顔すら可愛いと感じ、随分毒されたものだと自分を可笑しく思う。その後はナナミに頼まれていたチーズケーキを買って、とある邸宅の前を通りかかるとヒエンが足を止めた。

「ここは?」

「リオンさんの家。」

「は?」

「せっかくグレッグミンスターに来たんだし、ラスさんに一緒に来てもらおうかなーって。」

トランの英雄リオン・マクドールの夫であるラス。ヒエンはリオンに対し尊敬の念は微塵も無いが、ラスはいるだけで集客になるため彼を尊敬している。二人は必ず一緒に行動しているが、システム上ラスはリオンの同行者となる。ヒエンがリオンを連れてくる時は全てラス目当てなのだ。

しかし、この俺がいるのに他の男を連れていくのか?とクロの胸がチリチリと痛む。

「クロ?」

邸宅に行こうとしたヒエンの手を握り返し引っ張る。首を傾げるヒエンにどう言えばいいか迷って数秒思案し、

「……この俺とのデートの最中だろう。」

と絞り出すような声で告げた。

クロの言葉を聞いたヒエンはニンマリと笑い、握られた手をグイッと下に引っ張ってクロを無理やり屈ませると唇にチュッと口付けた。

「っ!!」

「ヤキモチ妬いてくれた?」

「妬く、だと?」

この胸の痛みが、ヒエンの目をラスに向けさせたくないと思ったこの感情が、嫉妬。

「だぁ〜いじょぉ〜ぶっ、今日は最初から迎えに行く気無いから。」

「何?」

身を屈ませたままのクロの耳元に顔を近づけ、小声で囁く。

「ルカが妬いてくれるかな〜って。」

「お前…。」

かつて狂皇子として世を震撼させた己の全てを奪い容易く手玉に取る少年。小声とはいえいつ知り合いに聞かれるかもしれない外で本名を呼ぶとは。つくづく面白い男だ。ジョウイの野心も気に入ってはいたが、ヒエンの野心はそれを遥かに上回る。この野心に満ちた可愛い悪魔に振り回されるのも悪くない。ニヤリと口元を歪ませ、クククッと笑った。

「うふふっ、今僕のこと可愛いって思ったでしょ?」

「心を読むな。」

「だってルカがこんなことされて笑うの、僕を可愛いって思った時だもんね〜。」

「小声とはいえ本名で呼ばない方がいい。」

「大丈夫。ここ開けてる場所だから、モンドさんそんなに寄ってこれないもん。」

「やはりあの忍に気付いていたか。」

「シュウの性格考えたらね。」

小声で話してクロが身体を起こすと、先ほどの含みのある笑いから一転してヒエンがにぱっと笑う。

「さあってと!早くラダトに行って御守り売らなきゃね!」

「またあの道のりを戻るのか。鏡は使えんのか?」

「国が違うと駄目みたいなんだよねー。それにあそこのモンスターお金大量に落としてくれるし!」

「まあ、いいだろう。」

どうせ雑魚だ、倒すのは容易い。早く早くと急かされ握った手を引かれながら、デートというのも悪くないものだなと思うクロなのであった。

 

 

そんな初めてのデートを満喫しているクロとヒエンを家の窓から見守る人物もまた二人。

「……人の家の前で何をやっとるんだあいつらは。」

「ははは、僕をダシにされちゃったか。」

 

 

終わり。

説明
ルカ主の初デート話。幻水Webオンリー星の祝祭で無配だったものです。
2主→ヒエン
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