経験者は語る
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男の抱き方が分からないと悩むクロ。今まで恋愛のれの字も無かったクロにとって、触りたいと思うのもヒエンが初めてなのだ。不能なのは伏せた上でアップルにそれとなく相談したら、ジャスティス!!と鼻血を吹いてジョジ○立ちで静止して、それなら私よりも適任者がいますと紹介されたのが。

「既に手合わせしていらっしゃるからご存知ですね。ラスさんです。」

「やあ。」

まさかのラスだった。何故ラスなのかアップルに問うと、ラスさんが美少年キラーだからですと眼鏡をキラーンと光らせて答えた。

目を合わせた美少年は必ず頬を赤らめ、その気が無いはずの美少年をその気にさせる。元美少年だった美青年も彼と目を合わせれば見惚れてしまう。抱いた美少年美青年は数知れず、ついたあだ名が美少年キラー、とアップルが流れるように語る。なんだがよく分からないが、男を抱く経験が豊富なのは理解した。

後はお二人で、とアップルが退席する。先日の手合わせの件でクロはラスに苦手意識を持っていた。しかし、頭の回るアップルが薦めた男だ。レストランの一番奥の席で話す内容でも無いのだが、ここは腹を括ろう。

「単刀直入に聞く。男はどうやって抱けばいい?」

「ははは、本当に単刀直入だね。そうだな、女性との経験があればそれを元に説明出来るんだけど…。」

君、女性との経験は?と小声で聞かれ、言葉に詰まる。クロの様子になんとなく察したラスは、分かった、まず気を付けるべきことを教えようと生暖かい眼差しで話し始めた。

男性を抱く場合、挿入するのは尻の穴。本来受け入れるように出来ていないそこを入念に解す必要がある。まずは受け入れる側の性感帯を触りながら探ること。舌を絡める口付け、耳、乳首、相手の自身等を触って性的興奮を高めてあげること。女性と違って自然と濡れるようには出来ていないため潤滑剤や軟膏など滑りを良くする物を使って、指の腹でマッサージをするように、ゆっくり解さなければ相当な痛みを伴うし、切れて出血するのだと。

「君もヒエンくんを傷つけるのは本意ではないだろう?その手の潤滑剤なら買ってあるから、新品のをあげるよ。」

「……頼む。」

男だからといって何をしても耐えられるわけではない、むしろその逆だ。性感帯を探すのも解すのも最初は乱暴にしてはいけない、根気よくゆっくりしてあげてね、とラスは忠告する。受け入れる側は相当な負担なのだとクロは理解した。

「まあ、ヒエンくんは以前僕に抱いてくださいって言ったこともあるから、君に抱かれる覚悟は出来てるんじゃないかな?」

「…何だと?」

ヒエンが?こいつに?抱いてくださいだと?俺を好きなのではなかったのか?仮面の下から嫉妬のこもった目付きでギロリとラスを睨む。

「おっと、勘違いしないでほしい。その気が無いはずの美少年をその気にさせるのは僕が意識してやってるわけじゃない、不可抗力だ。第一、僕には可愛い妻がいるから他に手を出したりしないよ。」

「……では何故ヒエンはお前にそんなことを言った?」

「うーん…。君達もしかして同じベッドで寝てる?」

「ああ。」

「そういう雰囲気になったことは?」

「…よく分からん。」

「なるほど…。」

ヒエンくんも難儀だな、とラスが呟いて、クロが首を傾げる。

「ヒエンくんは見たところ男性も女性も経験が無い。知識だけが先行しているのかもしれない。」

「というと?」

「女性でもある心理状態なんだけどね。『恋人になって毎日一緒のベッドで寝てるのにどうして手を出さないんだろう?僕に魅力が無いのかな?何の経験も無い処女だからめんどくさいって思っているのかな?それなら処女捨てて色気出せるようになろう。』という考えに至っているのかも。」

「んなっ!?」

ヒエンに魅力がない?そんなわけあるか!不能だった俺を熱くさせたのはお前が初めてなんだぞ!とクロは心の中で叫んだ。

「多分僕に抱いてくださいって言ったのは、軍の部外者で尚且つヒエンくんにとって獣の魅力を感じるのが君の他に僕しかいなかったからじゃないかな。」

「…貴様何の動物に例えられた?」

「黒豹。」

他に動物に例えられた人物の話は、熊があだ名のビクトールぐらいだ。ラスを一目見て、一筋縄じゃいかないスマートな黒豹と例えたヒエンの観察眼は鋭い。

「それでも、ヒエンくんが運命をねじ曲げてでも好きなのは君だ。ヒエンくんの性格なら、襲って来るかもしれないね。」

抱かれる側が襲うのか?いや待てそういえば肩に噛みついた時にあいつ俺に迫ってきたな、とクロが考えていると、思い当たることが?とラスが聞いてきた。以前迫られたことがあると答える。

「それなら話は早い。ヒエンくんに、自分の言葉で真実を伝えて、抱きたいと伝えた方がいい。」

「…ああ。」

助言感謝する、とクロが椅子から立ち上がって去っていく。あの子の積極性ならおそらく自分で後ろを拡げてそうだけど、と思いつつ、ラスはその背を見送るのだった。

 

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一方その頃。

「ぶえックショイ!!」

なんとも親父臭いくしゃみをして、誰か僕の噂してるなー可愛いって罪〜と呟いていたのは軍主ヒエンである。

ラウラに札を作ってもらおうと店を訪ねると、珍しい先客を見つけた。

「リーオンさんっ。」

ヒエンに声をかけられリオンが無言で振り返る。相変わらず旦那のラスがいないとニコリとも笑わない。

「リオンさんも札作ってもらいに?」

「そんなところだ。」

「うっわ!セクシーすぎる声!!リオンさんそんなハスキーボイスでしたっけ!?」

「朝起きたらハスキーボイスだった。今日はセクシーリオンでよろしく頼む。」

「リオンさん冗談言えたんですね。」

「私を何だと思ってるんだ。」

「スパルタ国から来たスパルタン人。」

「よし、お望み通りビシバシ鍛えてやろう。」

「冗談ですぅー。でもどうしてそうなったんです?」

「いや、その…、昨日変な声を出しすぎて…。」

ラスがいないところでは毅然とした態度を取るリオンが珍しく口ごもる。その様子に、ハッ!とヒエンが気付いて口に手を当てた。

「まさか………、昨日はおたのしみでしたね?」

「ンンッ!?ゲホッゲホッ!」

「やっぱりー!!」

「あら、そうだったの?」

「いやラウラさんこれはその、」

ラウラに弁解しようとしたリオンだが、隣の店のジーンが声をかけてきた。

「ふふふ。坊っちゃん、ラウラは私の友人なの。隠そうとしても無駄よ。」

「ジーンさんっ!」

「ていうかそんなになるまで啼かされたんです?」

「ヒエン、お前女性の前で。」

「私のことはおかまいなく。ジーンと同じくその手の話、好きよ。」

まさかラウラもお腐れ様とは。理解が早いのはありがたいが同時に恥ずかしいとリオンは顔を手で覆った。

「トランに帰っていいか?」

「ラスさん置いていってくれるなら。」

「置いて行くわけないだろうが私の旦那だぞ。」

手を離してギロリとリオンが睨むも、明後日の方向を向いてピーピーと口笛を吹いている。

今朝もラスが洗濯を手伝ってくれて助かったとヨシノから聞いているし、群島の交易ルートを開拓したいゴードンにいろいろ助言してくれてるし、海鮮系の料理を作らせたら絶品なので一番忙しい昼時のレストランも手伝ってくれる。おまけに美形だから集客率もいい。まさに客寄せパンダだ。レストランの売り上げも軍の収益になるためヒエンは正直ラスにだけは残ってほしいのである。

「いいなー、いいなー、身体も中も綺麗にして良い保湿クリームで全身すべすべもちもちにして、えっちな気分にさせる香水をほんのちょっとつけてラスさんに喜んで貰ったんでしょ!!」

「ちょっと待て何で知ってる?」

「リオンさんが保湿クリームと香水買ったのうちの城の店ですから。お買い上げありがとうございまーすっ!」

右手の人差し指と親指で輪を作り、チャリーンと小銭の効果音がしそうなポーズをした。

「この城にプライバシーは無いのか!?」

「軍主の僕だけでーすっ。」

キラッ☆と何処かで見た星空飛行する歌のアイドルポーズをするヒエンに、ピキッとリオンの額に青筋が走る。

「もういい二度と買わん。」

「えー。お金落としてくださいぃー。」

「人の旦那を客寄せパンダにしているお前が言うな。」

「ラスさんの自発的協力ですぅー。」

「嘘をつけ。宿代代わりに手伝ってくれと言っただろ。ラスの優しさに甘えるな。」

「ぶーぶー。でもいいなー、リオンさんラスさんに抱いてもらってー。ラブラブでー。」

頬をぷくーっと膨らませてふてくされていたヒエンの顔が、だんだん落ち込むように元気を無くしていく。

「いいなー、いいなぁ、いいなぁ……、……いーいーなぁー!」

どんどん声が小さくなったと思いきや、いきなり大声を上げてうわーん!と泣き出してしまった。

「なっ、何だどうした!?」

「ちょっとジーンこれどうしたらいいの?」

「あらあら。どうしたの軍主さん?」

「ジーンさぁーん!」

ラウラの呼び掛けに隣の店のジーンが出てきて、ヒエンの頭をよしよしと撫でた。とりあえずラウラが札を作ってる間、奥で話聞くわとジーンがリオンも引っ張ってヒエンを店の奥へ入れた。グズグズ泣くヒエンに改めてどうしたのかと聞くと。

「る…ンンッ、クロが、手を出してくれないんですぅ…。」

ジーンはクロについて知る数少ない人物だが、リオンが一緒にいたため言い直した。

「毎日一緒のベッドに寝てるんですよ?いつでもそうなってもいいように保湿クリームでもちもちすべすべにして、自分で後ろ拡げてるのにクロったら全くそんな素振りしないんだもん…。僕はもちろん可愛いんですけど、可愛いだけじゃ駄目なのかなって、色気無いのかなぁって…。色気ってどうやって出したらいいんです?やっぱり処女捨てるしかないんですかね?」

「…だ、そうよ坊っちゃん。」

「待て何故私に聞く。」

「あなたの専売特許だもの。」

「専売特許じゃない。」

「リオンさんラスさんに処女捧げました?」

「当たり前だ。…って何言わせる。」

「どうやってそんな雰囲気に持ち込んだんです?」

「どう、って…、」

リオンがラスに処女を捧げたのは賊に媚薬を盛られて、ラスが助けてくれた時だ。あの時は憧れの人がラス本人と知らずに、ただ似ている人と思って、どうせ男に抱かれるなら憧れの人に似ているあなたがいいと、抱いてくれと頼んだのだ。恥ずかしい過去を思い出してリオンはガンッとテーブルに額をぶつけて顔を伏せる。

「リオンさん?リオンさーん?」

ヒエンがリオンの顔を覗き込もうとすると、腕を回して顔を隠した。

「……私から、抱いてくれって頼んだ。あとはされるがまま身を任せた。…二度は言わん。」

詳細を伏せて答えるリオンの様子に、あの人やっぱり言ってないのね、悪い男。とジーンがため息をついた。

「けれど意外ね。あなたの性格なら襲っていてもおかしくないのに。ふふふ…、手を出してもらうの待ってるなんて健気じゃない。」

「右腕を封じてる間、何度かそうしようとはしてたんですぅ。でも、クロの意思で触ってほしくて…。」

クロの過去を知っているヒエンは、無理矢理襲ったりしたらその時のことを思い出してしまうのではと考えた。聞いただけでも壮絶な光景を目の当たりにしたクロの意思に反することはしたくない。

「だからいっそ処女捨てて色気出そうかなって。というわけで百戦錬磨のラスさんに抱いてもらおうかなーと。」

「殺すぞ。」

「うっわ地獄の底から出てきたみたいな重低音ボイス。」

「お前の色気のためにラスを使われてたまるか。第一ラスは私の旦那だ、今は私以外抱かん。」

「えー!」

「お前だってそのクロとやらが他の人間を抱いてるのは嫌だろう。」

「嫌ですけどー!でもいい年齢だし女性を抱いたことぐらいはありそうなんだもん!もちろん僕が一番可愛い自信はあるけど女性の色気には勝てないもん!!だから僕いつ入れてもいいように道具も仕入れてもらって自分で拡げてるんだもん!!もう指三本も入るんですからねー!!」

「お前そういう内容を大声で言うな!」

「あら、大丈夫よ音は消してるから。」

いつの間に?とWリーダーがジーンを見る。

「ふふふ、とにかくはっきり言ってみたらいいんじゃないかしら。抱いてほしいって。」

「でも…。」

「せっかく恋人同士になれたんだもの。想いを通わせて身体をつなげるって大事よ。それに、向こうは軍主さんがそんな努力してるなんて知らないんでしょう?なら思いの丈をぶつけてはっきり言ってやりなさいな、僕の処女もらってって。」

「ジーンさん…。」

いつもの猪突猛進な軍主さんなら出来るわとジーンがポンポンと背中を叩くと、ガタッと立ち上がった。

「うんっ!ありがとうジーンさん!今晩突撃してみる!!」

「その意気よ。頑張ってね。」

そのままダッシュで店の奥から出ていった。入れ代わりでラウラが札を持ってきたのだが、ヒエンの分は取り置きすることにしてリオンに頼まれていた札を渡した。

「…先ほどの会話、私は必要無かった気がするんだが。」

「ふふふ、そんなこと無いわ。経験者の言葉って大事よ。」

「ところで、あんたの旦那っていつも一緒にいる色男よね?ジーンから聞いてはいたけど、一体どうやってあんな色男落としたの?」

「……ジーンさん?」

「ごめんなさいね坊っちゃん。その手の話ラウラも好きだから。」

それからラスが迎えに来るまでの間、根掘り葉掘りラウラから質問責めに合うリオンなのであった。

 

 

 

終わり。

 

説明
悩むルカ(クロ)と乙女の悩みを抱える2主が先輩カップルに助言される話。4坊含みます。
坊っちゃん→リオン
2主→ヒエン
4様→ラス(声A)
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