festa musicale [ act 1 - 1 ]
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 入学式も無事終わり、なんとかマトモに大学生できるようになって来たかなと思う今日この頃。

 大学の近くにあるカフェ"空"に通い始めてから、早三ヶ月。かなりのハイペースで通ってる気もするけど、仕方ない。

 あそこで働いている同い年の店員――馨が淹れてくれるコーヒーが、ホントにおいしいから。 仕方ない。 うん。

 そんなことを考えながら、お気に入りの服に身を通す。

 今日から一週間、大学のオリエンテーション期間。その間にサークル勧誘やら、講義説明やら、いろいろなことがあるらしい。

 期待と不安で一杯なのが当たり前の、大学1年生。

 のはずが、心はかなり落ち着いている。

 やっぱり、入学前に友達が居るって言うのは大きいのかな。

「んじゃ、行きますか〜」

 気合を入れる感じに独り言をつぶやいてみる。ちょっと元気が出た。

 

 

 

 大学が決まってからすぐに部屋探しをした甲斐があって、大学から近くてそれなりに広くてかつそれなりの値段と言う、相当に好条件の部屋を探し当てることが出来た。

 まぁ、予約と言う意味で一月から家賃を振り込んでいるのがちょっともったいなかったかな、とも思うけど。でもそれに見合う部屋だ。

 学校まで徒歩十分にして、最寄駅まで徒歩5分。最高の条件。

 4月頭ってだけあって、朝はまだちょっと冷えるけど、それでも軽快に自転車で風を切る。

 小さい頃から伸ばしてる髪は、そろそろ先っぽが腰に届くかな、って言うくらいまで伸びて、風になびいてる。

 …いいねぇ、なんか大学生だねぇ。と含み笑いしてしまう。

 わたしの周りで歩いてる人たちは、みんな同じ大学の人なのかな?

 今通ってる道はちょうど駅と大学との間を結ぶ道になってて、春は桜が満開になって人々を迎え入れる桜並木。

 四月に入るともう少し散りだして、青色が点々と見えてきちゃうのが残念だけど、それでもまだピンク色の花びらがはらはらとまい散ってる。

 とても、キレイ。

 この街は、本当にキレイだ。

 

「…ん?」

 前を歩く学生。とは言っても一年生に見える。

 よく見ると、わたしも良く知っている彼だ。

「おーい、かーおーるー!」

 そう、神矢馨。入学前に知り合った、同級生。お気に入りのカフェでバイトしてる人だ。

「ん?あぁ、灯か」

 と、振り向いてから馨は言った。目の前に来てブレーキをかけると、ひらりと音がする感じの軽やかさで地面に降りる。

「あら、あぁとかご挨拶ね〜。せっかくオリエンテーション前に見つけたから一緒に行こうと思ったのに〜」

「あぁ、悪い悪い、朝だからちょっとテンションが…」

「その低血圧、どうにかした方がいいわよ?どうせコーヒーで覚ましてるんだろうけど」

「む、そんなことはないぞ。コーヒーを入れるのは顔を洗ってさっぱりしたあとだからな」

「飲んでるじゃない、同じよ」

 まぁ、他愛のないやり取りだ。二ヶ月くらい前からずっと続いている、本当に他愛のない。

 

 

 

 灯とつるむようになってから二ヵ月が過ぎている。もう二ヶ月だ。

 お互いのことを認知したのは正確には三ヶ月前のことだけど、その頃はまだ店員と客という関係から大きく外れることのない、いたってシンプルな関係だった。

 映画とかテレビドラマみたいなドラマティックなきっかけなんてなかった。ただ、自然と心と心が近づいていくような、そんな感覚で。

 間を取り持っていたのが俺の入れるコーヒーだったって言うのが誇るべきポイントだけど。

「というわけで、わが学部は一定の学問を追及するというよりは、えー個々人の進む道にあわせた総合的な研究プログラムを…」

「…」

「具体的には必修科目の撤廃や、…」

「……」

「なんちゃらかんちゃら…」

「うん、出る」

「え、ちょっと一応最後まで聞かなきゃダメよ」

 はっきり言おう、最初の一分で俺は飽きた。

 というよりも、受験前から既に知っている話をもう一度聞かされても、ただつまらないだけでなく時間の無駄だ。

「じゃぁ、一緒に出ようぜ灯」

「え…?」

 話は続いてる。というよりもとどまるところを知らないかのようにガンガン続いてる。ノンストップ暴走機関口。

「…まぁ、いいかな…?」

「よし決まり。荷物まとめよう」

 そう言って俺は椅子の下に置いておいたショルダーバッグを肩に掛け、灯を促した。

 

 

 

 外に一歩踏み出すと、新入生と思われる姿はなく、サークル勧誘のための出待ちをする上級生ばかりだった。

「あ、そこの君新入生?うちのロッ研興味ないかな〜」

「ねぇねぇちょっとでもいいから話聞いていかない?」

「応援団入部希望者を募ってまーす」

 ほとほとうんざりである。つか何回同じチラシを渡したら気が済むんだろうか。

 それに、探してるサークルがある。そこを見つけてそこに入ることが、まず大学生活で一番最初にすべきことなんだ。

「あのー、Wind Ensemble Kって言う吹奏楽のサークルがあると思うんですけど、知りません?」

 まぁ答えてくれるとは到底思えなかったけど、一応聞いてみた。

「あ〜、知ってるよ!まぁ立ち話もなんだから…」

「ありがとうございます」

「え、良いの?」

「めんどくさい」

 だって、この人たちのサークルの部屋に連れて行かれるじゃないか。それは非常にメンドクサイ。

「ねぇ、そのサークルって、やっぱり吹奏楽?」

「あぁ、説明してなかったっけ?アンサンブルって言って、少人数の、例えば金管五重奏とかって言う編成で演奏する人たちが集まってる団体で、ウインドってついてるから多分吹奏楽だと思うんだけど…」

「やっぱり音楽なんだ。さすが全国一の指揮者」

「高校の、な。変なうわさになるからやめれ」

 大体それだってもう半年以上前の話だ。今年は俺よりもすごい指揮者がいるかもしれないし、この大学なら俺よりも優れた人はいくらでもいる。

 

 

 

 そんなことよりも、ウインドを探さなきゃいけない。と言うか、ない。どこだ?

「おい、ウインドってどこだ?」

「いやわたしに聞かれても…」

「だよな」

「新しい漫才…?」

「あれ、もしかして君は神矢馨君じゃないかい?」

「まさか漫才のわけないじゃないか、しかも灯こそ良く分からないボケするなよははは」

 …ん?

「いやボケてるつもりはないんだけどな〜ははは。で、君は神矢君だよね?」

 …んん?

「あれ、違った?前に全国大会だったかなんだかの会場で会った記憶があるんだけどな〜、人違いだった?」

 …んんん?

「あれ、あなた確か…」

 思い出せない。

「て言うか、誰でしたっけ?」

「あぁ、これは木っ端微塵に忘れられてるか〜、俺影うっすいからな〜、まぁ仕方ないか〜」

 でも、どこかで見たことがある気がした。このひょうきんな態度、スラリと伸びる背、そしてなによりもタレントのように端整な顔立ち。

「…あ」

 思い出した。

「お、思い出してくれた?さてさて僕は誰でしょうか!」

「えっと、篠宮英駿さん?」

「正解っ!」

 背景に「イエーイ!」と言う感じのポップが浮かんでくるかのように親指をグッと出してくる篠宮さん。昔からこんな人だったけど、変わってないな。。。

「ねぇねぇ、誰?」

「あぁ、灯は知らないか」

 袖を引っ張って説明を求める灯に、出会ったときのエピソードを軽く説明してやる。

 最初の出会いは確かコンクールの全国大会の会場のロビー。

「そこで、何を思ったのか、一人で叩いてたんだ」

「楽器?じゃぁあの人パーカッションやってるんだ。 スゴイ勇気のある人だね〜、そんなところで1人でやるなんて」

「あぁ、まぁ勇気があるのかな。 いろんな意味で」

「?」

 叩いてたのが…バケツだと知ったら灯はどんな顔をするだろうか…。

 そう、一人で五種類くらいのバケツを叩いていた。スティックで。

 でも、驚くのはそこじゃない。

 その五種類のバケツを全て駆使して、見事な音楽に昇華させていたのだ。

 その音はさながらドラムを想像させるもので。

 まだパーカッションと言う楽器について(ある程度の知識はあったが)そこまで良く知らなかった俺から見たら、何か神々しいものすら感じるほどだった。

「ねぇねぇ、この大学に来たと言うことは、俺と吹奏楽をやってくれると言うことで良いのかな??」

「ん?あぁ、そのことですか」

 まぁ、結果だけ見ればそうなのかもしれない。

「まぁ、あなたとやろうと思ったわけではないですが、吹奏楽はやろうと思ってます」

「おぉぅ、相変わらず厳しいねぇ。でもまた吹奏楽をやってくれるだけでも俺は万々歳よ〜♪」

「ははは…」

 そっちこそ、相変わらずよく分からない性格だ。

 

 

 

『…』

『ン?君は、、、神矢クンだね!もう演奏終わったのかい?』

『え?あぁ、はい…というかなんで俺の名前知ってるんですかあんたは』

『だって有名じゃん♪まだ二年生なのに指揮者として舞台に立つなんて。しかも地区大会ではとんでもない成績で上がってきてるんでしょ?有名にならないほうがおかしいよ♪』

『はぁ…そうですか』

『それはそうと、そこで何をしてるの?あ、もしかして俺のパーカッションを聴いてくれてるのかな?イヤー照れるなー、人に聞かせるほどのモノじゃないってのに神矢クンに聞いてもらえるなんて思いもしなかったよー』

『…(すげぇマシンガントークだ)』

『アレ?違った?ひょっとして俺の早とちり?それはそれで恥ずかしいなー♪』

『…フ』

『ア!今鼻で笑ったでしょ!それ人にやらない方が良いよ!結構失礼だ!まぁ俺相手ならいくらでもしてくれてOKだけどねー』

『あぁ、スミマセン。ついクセで』

『クセかよ!直そうよ!でもまぁクセなんてそう簡単に直ったら誰も苦労しないからねー、地道に直してったら良いと思うよ』

『そうですね(なんだこのスピードの差は)』

『まぁそんなことはどうでも良いや!とりあえずこのまま続けても大丈夫かな?まだ叩き足りないんだー』

『いや、それは良いですけど』

『ん?どうかした?』

『…運営の人たちがたくさん来ましたけど』

『中で演奏してるってのにこんなところでドンチャカドンチャカ何をやっとるんだね君はああああああああ!!!!』

『…』

『…』

『…とりあえず逃げよう!』

『え、なんで俺まで!?』

『良いから良いから♪旅は道連れ世は情け〜』

『コレ旅じゃないから!つか道連れにするなあああああ!』

 

 …今思うとアレもスゴク…メチャクチャだった…。

「…フ」

「ア!今鼻で笑ったでしょ!それ人にやらない方が良いよ!結構失礼だ!まぁ俺相手ならいくらでもしてくれてOKだけどねー」

「…あの時と同じこと言ってるよ」

「ふふふ、仲良いんだね、二人とも」

 

 …さて、これからどうなるんだろうな。大学生活。

 かき乱されてかき乱されて気付いたら自分のペースがなくなってる気がしてならない。

 でも、そんな大学生活も、良いかもしれないな。

 

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大学生活スタートです。
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