恋姫と無双 〜恋する少女と天の楯〜 其の四 |
お読みいただく際の諸注意
この作品での主人公、北郷一刀は原作と同名のオリキャラです。
したがって、知識や武力などの能力については変更し、性格も変えています。
また、他のキャラにしても登場の仕方や主人公の能力により、主人公に対する好感度や対応を原作とは変えていますし、原作のキャラのイメージを壊すこともあります。
各勢力の人事異動もあり。これじゃバランスが…と思っても暖かい目で、もしくは冷たい目で見てください。
それと、あからさまにするつもりはないですが、ルートによる柳眉の好感度は魏>呉>蜀となっています。そのため、表現に柳眉の個人的見解がはいるかもしれません。そのときはご容赦ください。
原作にて『女性らしいやわらかな〜』などの表現があるので、本作では武官でありながらも、女性らしい柔らかさがあることの辻褄合わせとして『氣』と言う表現を持ち出します。氣=強さの一つの基準。武将や武の才がある者(原作のキャラ)はみな氣を遣える設定です。
「」の前には言葉を発した人物の名前が入ります。真名がない場合は原作で呼ばれている名が入ります。
恋姫と無双 〜恋する少女と天の楯〜 其の四
『嵐の前』
<side桂花 始>
桂花「―――覚悟を決めなさい、北郷一刀」
こいつのあまりの緊張感のなさに苛立った私は、気が付けばこんな言葉を口にしていた。
目の前の男――北郷一刀――は現状をまるで理解していない。
それは、部屋に入って直ぐの質問からもわかった。
一刀「気になってたことなんだけど、話の途中で剣を抜くように言ったのはなんで?」
……などと、どの口でそんな科白を吐くのか、
こいつは長の話を聞いて、その真意にすら気が付かなかったというのっ!?
長が必要以上に私たちに邑から出て行くことを勧めたのは、余所者が足を引っ張ることを避けるためで、こちらの身の心配など髪の毛一筋ほど心配などしていなかった。ただの邪魔者を排斥していたに過ぎない。そして賊の目がこちらに向けば僥倖と、その程度にしか思っていなかったに違いない。
だから、相手に主導権を握られることは避け、こちらを邑の戦力として組み込み、こちらの話が通るようにしなければならなかった。危険度から言えば、今ここを出ることは選択肢にない。数で負ける邑が賊に立ち向かうためには策がいる。そして私が、私の策がどれだけ最良であったとしても、余所者である私の話など聞き届けてはもらえないのであれば、その結果がもたらすものは敗北と死だけだ。それならばと、あの場で最も分かりやすいこいつの武を見せつけることでこちらを認めさせ、ある程度の発言権を得る必要があった。
なのに、こいつは……この男はそれにすら気付かずボケッとしている。
その能天気さには苛立ちしか浮かばない。
能天気であるということは現状を理解しようとしていないことにつながる。
それは一人一人の士気が戦局を左右する戦場において、一人の士気が上がらないということだ。それは全体の士気を下げる結果に繋がる。ろくに訓練されていない邑人と賊の戦おいて、人数の多さと士気が勝敗を分ける。そして、現状に当てはめるとするなら、人数が負けていることを策で補ったとしても、士気は賊を上回らなければこちらが勝つことはない。
……それだというのに。
こいつは人を殺すことが嫌だという。
当たり前だ、誰も好き好んで人を殺したりなどしない。でも、生きるためには……。
人であることをやめ、血の味を覚えて奪う事しかしないケモノには言葉など何の意味もない。あるのは奪われるか、奪われないかの2択だけだ。そしてより弱い者にその矛先は向く。だから力ある者が知で、武で護らなければならない。そのためにケモノの牙を折る必要があるなら、命を絶つ必要があるなら力ある者はそれをしなければならない。
こいつが他の国から来ているといっても、今は、ここは、この国はそういう時代だといって割り切らないと、自分もキズつくし弱い者を護ることも出来ない。
それが分からないこいつに…
私が持っていない力を持っているこいつに……
……私は腹が立っていたのだと思う。
だから、普段気になんてしない男のこいつなんかに忠告したのだ。
私の言葉が効いたのか、こいつは神妙な顔つきになり自分の得物を持って部屋から出ていった。
気まずかったなんて思ってないけど、重かった空気が少し軽くなった気がした。
……さて、私も覚悟を決めなくちゃ。
戦略、軍略の策を一通り修めはしたけれど、今回が軍師としての荀文若の初陣なのだから……
桂花「あんたはいいわよ……殺すのは相手だけなんだから………」
あいつの出て行った戸口を見ながらの恨み言は、誰の耳にも入ることなく空気にとけていった。
<side桂花 終>
<side一刀 始>
覚悟を決めろ……か。
文若の言葉に、その眼差しに、自分はどうするべきか分かっているのに、何も言う事は出来なかった。
今回のことで自分は人を殺すかもしれないと、そこで俺は考えることを止めていた。
冷静に考えれば、襲われて自分が死ぬこともあるのに……微塵も自分の命を勘定に入れていなかったんだと言われて気付いた。
一度気付いてからは、どうしようもなく怖くなった。今まで自分が生きていた世界以上に死が隣り合わせにあるこの世界が、それが当たり前であることが、そして自分も今回で死ぬのではないかと……
そして俺は逃げるように部屋から出ていった。覚悟を決めているであろう文若が、自分と違う人間に見えて……
取り残されている気がしたから……
独りなんだと思ってしまったから……
それからは当てもなく、ただ人目のあるところを避けて歩いた。
こんな自分が、戦の準備をしている誰かの邪魔になってその人が生きることの邪魔をしてしまわないように……
運が良かったのか、気にもされないのか、誰にも話しかけられず、誰の目にも留まらない所まで来た。
ずっと下を向いていたからか、ふと顔を上げると、既に太陽は山に隠れるといったところで夕方になっていた。
一刀「どうりで、地面が赤いわけだ」
自身を省みていたら、ずいぶんと時間が経っていた。それなのに、どうしたらよいか、どうするべきかを何もわからず、無為に時間を過ごしていたことに嘲笑してしまう。……いや、わかってはいたのだ。ただ決心が着かなかっただけで。
こっちの世界に来るまでは、ほとんど明日を約束されている毎日を何となく生きて、勉強するために、友達と会うために学校に行って、好きな部活をやって、自分のためにと剣術を習ってきた。
毎日が楽しいことだけだった訳じゃないけど、充実していた。
それが、今日起きたら、いつもの布団の中ではなく草の上で寝ていて、漢という国にいた。これまでの常識が、今までの当たり前がなくなっていた。最悪、ここに来るまでの間で命を落としていたかもしれないのだ。
一刀「覚悟を決めろってさ・・・・・・わかるけど・・・そんなのできないよ……人殺しなんて。この世界では当たり前かも知んないけど、そんなこと押し付けんなよ、俺に!!」
だんだんとこの世界に俺を連れてきた『何か』に対する怒りが沸き起こってきた。それと同じくらい自分に対して情けなさと惨めさを感じる。
この世界では―――自分がいた世界の他の国でも、きっと―――誰もが死と隣りあわせで懸命に生きている、一瞬一瞬を自分の出来ることを精一杯している。それに引き換え俺は、今の今までそのことに気付かなかった。今日の賊にあったことだって懸命に生きることをせずに、殺すことが嫌だからと、文若に言われるまで抵抗もしようとはしなかった。……何となくだけど、そのときの俺は殺すことが嫌なんじゃなくて、決めることをしたくなかったんじゃないかと思う。何にしても結局、自分は中途半端で、するもしないも、責任のない曖昧な状態に逃げていただけなんだと。
一刀「なんだ、俺は殺すことが怖いんじゃなくて決めることが怖かったのか……」
と、見上げた空は薄い紫の中に赤が映え、空に映る青白い月は綺麗で、浮かぶ小さな光を放つ星は儚げで
……なんだか泣きたい気持ちになった。
そのまま、ぼけっと日が落ちるのを眺めていたら、不意に人の気配がして視線を向ける。
すると、そこには文若よりもちょっと小さい位の女の子がいた。
??「……兄ちゃん泣いてるの?」
この娘から見たら今の俺は泣いている様に見えたのだろう。
一刀「あ、俺か?泣いてなんかいないよ?」
??「うっそだ〜、雰囲気が泣いているようだった。ボクも時々ここで泣きたくなるからわかるんだ〜」
一刀「そっか……じゃあ、君の言うとおり泣いてたかもね」
??「兄ちゃん、旅の人でしょ?なんか嫌なことあったの?」
一刀「わかるの?……あ、そっか服か。別に嫌な事はなかったけど……それにしても、ズバズバ聞いてくるんだね」
??「嫌だった?ごめんね。兄ちゃん、なんか話しやすくて……」
一刀「そんなこと無いよ、ありがとね。ちょっと、迷ってただけだし」
??「ん?よく分かんないけど、くよくよしちゃダメだよ?元気じゃないとご飯も美味しくないし」
一刀「ふふ、そうだね」
??「うん!」
何気ないやり取りではあったけど、見るからに活発なこの娘に、この娘の満面の笑顔に元気をもらった気になった。
そのあと、その娘と少しの間無言で夕日を眺めた。
一刀「……じゃあ、そろそろ戻るわ」
??「うん、気をつけてね〜」
一刀「おう、あんまり遅くなるまでに帰んなよ〜」
俺はその名前も知らない娘に手を振って、長の家に向う。
出た時と違って、いくらか足取りは軽かった。
……そうして戻った部屋には、大の大人ですら泣いて逃げ出す鬼が仁王立ちで待ち構えていた。
桂花「こんな時間までいったいどこほっつき歩いていたのよ!?あんた、いまがどんな時なのか理解してないでしょう!!!この――――」
帰ってきてからはそれこそ地獄のような時間だった。今まで外にいた俺に文若は怒り心頭。これまでのキツイ言葉がそよ風に感じるほどであった。
文若の第一声は口調さえ違えば少しは悶える様な科白なのに、などと見当違いのことを考えながら、「この――」に続く文若の言葉の大剣に体を差し出した。
…
……
…………
地獄のような時間は、文若が言い切って満足するまで続いた。
その後は、明日早いからと簡単な食事をして床に就いた。
……まぁ、余談ではあるが、「風呂は?」と聞いたら、
桂花「そんなの簡単に入れるわけないでしょう!!」
という言葉を賜りました。
どうやらこの国、この時代では、風呂というのは大変費用が掛かるため、そう簡単には入ることはかなわず、水やお湯などで身体を拭くのか常だそうだ。
一刀「じゃあ、文若はもう身体とか拭いたのか?」
桂花「……変態っ!!」
そうこれは本当に余談である。
床に就いてしばらく時間が経った。恐らく日付も変わった頃だろう。…それなのに
…………眠れない。
ここまで、眠れなかったことはあっただろうか?
……たぶん、なかった。いつもはどんなものであれ、布団に入ればすぐ眠れるのに。まあ、今回は布団ではないわけだが。
コレは、今では覚えていない初めて遠足に行くことになった時と似ているんだと思う。
遠足という、今まで経験しなかったこと、親と離れて何かをすることに対する期待。
遠足という、初めてのことに対すること、親と長い距離離れていることへの不安。
その期待と不安。新しいモノに触れるという、成長できるという喜びと興奮。
そう、子供のときの明日が楽しみで眠れないということ。それに似ている。
ただ違うのは、明日が怖い、明日が来なければいいと願っている、期待ではなく恐怖ということだけで。
結局、俺は独りになるとまた同じことを考える。
……人を殺すときのことを考えては震えているのだ。
…………大分時間が経った。それでも、夜は明けない。
もう、目を閉じているだけで良いやと、寝返りを打ったとき、少し離れた床で寝ている文若がもそもそと動いた。起こしたかなと、じっとしていると、文若はそのまま布団から出て外に行ってしまった。
この時間の一人歩きは危ないんじゃないかと、眠れないということもあって俺も部屋を出て後を追った。
部屋を出て少ししたところで、月明かりに照らされた文若を見つけることが出来た。その姿はとても……とても幻想的だった。夜、月明かりの下。草の音と風の音の中で唯一人佇み月を眺める美少女…
なんかすごい絵になるな、なんてことを思ってしまう。
……でも、今この時の文若はどこか寂しさを感じさせた。
風景に溶け込むというよりは、浮き出ているような……孤独感。
最初は声を掛けず部屋に戻るつもりだったが、その様子を見ていたらどうしても気になってしまい、俺は近づき声を掛けていた。
一刀「月にウサギでも見えるのか?」
桂花「っ!!あんた、なんで……」
文若は声にビクッと驚き、声のした方――俺のほうを見た。
一刀「一度起きたら眠れなくなってさ」
桂花「……そう」
文若は訝しげな表情を向けるが、納得したのか気にしなくなったのか、視線を月に戻した。
一刀「……文若は?」
桂花「……」
文若はじっと月を見たままだ。
桂花「……月を、見てたのよ」
一刀「…そっか」
やや間があって文若は答える。それからはただ風の音と草の音だけが場を流れた。
桂花「……戻らないの?明日は早いのよ?」
一刀「ん?あぁ、まだ寝付けなさそうなんでな、もうしばらくはここに居ようかと」
桂花「…そう」
……らしくない。文若の言葉にキツイものがない。文若でも明日のことで緊張しているのだろうか?
俺は少なくても文若が戻るまでは居るつもりだった……夜が明けるまで文若がここにずっと居るような気がしたから。
戻らないの?と聞かれたからには文若はもう戻るのかと思った……けど、まだ文若は動かない。
だから、俺は何も喋ろうとせずただ月を見上げていた。
桂花「私は…」
一刀「ん?」
桂花「なんでもない、独り言よ。聞き耳を立てるな」
一刀「はいはい」
それから文若の独り言は続く。俺は口を挟まず目を閉じていた。
……なんだ、同じじゃないか。と文若の独り言を聞いて俺は思った。
文若も覚悟を決められずここに居ることが分かってしまったから。
最善とすべきことが分かっていても、それをしたくない自分が居る。
迷い、逃げ出したい自分が居る。
決意を固めてもそれを実行したくない自分が居る。
明日になれば全てがはじまり、そして終わってしまうかもしれない。
そして、明日には相手を殺さなければならなくなる――――
それは俺も文若も変わらない。
ただ違うのは役割による手段と対象の違い――――
―――――俺は自らの手を汚し自分を殺して相手を殺す。
―――――文若は自らの策で自陣を殺して相手を殺す。
たったコレだけの違いだけど、こんなにも大きい違いがある。
だけど、殺す覚悟をするという一点においては同じ。
一人だと思った……
独りだと思った……
大きな決意を――
大きな責任を―――
大きな覚悟を――――
ひとりでしなければと……
でも、一人じゃなかった。独りじゃなかった。
ここに、自分と同じ覚悟をしようとしている奴がいる。
一人で覚悟を決められない奴がもう一人いる。
甘えだとは分かってる。
だけど、俺も文若も半端者なりに前を向こうとしている。
ならば、まだ殺す覚悟が出来ない半端者の2人で一人前になればいい――――
独り言を終えた文若は、月はもう十分見たと言って部屋に戻ろうとした。
そんな文若を俺は呼び止める。
一刀「待ってくれ。賊が来たら俺も文若も同じところで戦うことは出来ないんだよな?だったら、今ここで誓いを交わそう」
桂花「……は?誓い?」
一刀「うん、誓いというか約束というかさ……」
頬を掻く。台詞回しが自分らしくないと思ってしまうから少し照れてしまう。
呼吸を整え、文若と向き合う。
一刀「お互い生き抜くことを。たとえ相手を殺すことになっても、一緒に戦う人が死んでしまうことになっても、俺の武を文若の知が活かし、文若の知を俺の武が支えて戦うことを」
桂花「当たり前じゃないそんなこと。……まぁ、いいわ。何に誓うのよ?」
一刀「う〜んと、月と文若とこの刀に」
桂花「似合ってないわよ、その科白……それにあんたに誓うのは御免だわ」
文若は似合わないと笑っていた。それは初めて見る文若の笑顔だった。
それが嬉しかったし、相変わらずのキツイ言葉が戻ってきて安堵する。
そんな趣味はないのにな、と俺は苦笑してから文若と誓いを交わした。
<side一刀 終>
そんなことがあってから、4時間ほどで朝日が昇る。
北郷一刀はまだ床で寝ており、荀ケ・文若――真名を桂花――は既に起きており身支度を済ませていた。
桂花「まったく、日が出る頃には起きなさいと言ったのに……」
と横目で一刀を見ながら、桂花は夜のことを思い返していた。
澄んだ空に浮かぶ銀月。風が凪いで草の音が優しく耳朶に触れた。
寝付けなくて部屋を出ると、静謐な藍色の世界に自分が独りであると強く思わせられて寂しくなった。
そんなときに一刀は声を掛けてきた。
一人で外に出たことを気に掛けて付いてきてくれた。
口を挟まずに独り言を聞いてくれた。
独り言に関してはなにも言ってこなかった。
自然な形で自分の覚悟を促してくれた。
その気配りが嬉しかった。
これまで桂花は男に対して良い印象を持っていなかった。むしろ印象は最悪だったといえる。
今まで会った男共は財産を、家名を、鼻にかけて本人に大した実力もないのに他者を蹴落とすことで地位を得るような輩ばかりだったし、金と権力の執着心が強くてそれが全ての奴らだった。浅ましい、卑しい、など語り尽くせないほどの侮蔑の言葉が浮かぶ毛嫌いする対象でしかないから。
でも一刀は違った。何を言われても苦笑いするだけで気にするそぶりは見せないし、それどころか気にせず話かけてくる。桂花の話を理解しようとするし、今までなかった考え方をしていて話をすることが面白いと思っていた。
桂花にしてみればこれは初めての経験だった。
だからこれまでのように、男だからと毛嫌いすることなく、なるべく普通の対応をしようとした。それでも苦手意識が消えず言葉はどうしても悪くなってしまうが……
桂花自身、一刀との付き合いは1日しかないが、人となりは裏がないというか、見たまんまという見解があり、信頼するかはまだ決めかねているが、信用するには足りると考えている。信頼するにしても賊との戦が終わって、2人とも生きていれば信頼してもいいかなとは思っている。……あくまでも一刀が生きていればだが。
だから、桂花は少し一刀に対しての対応を変えてみようとした。……具体的には起こしてあげようとした。
もうそろそろ起きて、賊に対応する準備をしなければならない時間になりつつあった。
それなのに一刀は起きるそぶりがない。今までの桂花なら見捨てて自分だけ準備をし始める(そもそも同じ部屋で過ごすなど、どんな状況であれ有り得ないものだった)が、今回の桂花は違う。蹴り起こすこともせず、摩って起こしてあげようと一刀の寝床に近づき
桂花「ねぇ、いつまで寝てんの――――――なっ!!」
そのまま一刀に抱きつかれた。
桂花は正面から抱きつかれ、顔は一刀の胸ほど位置にあった。
桂花は顔を真っ赤にしてジタバタと一刀の腕から逃れようとしたが、思いの外、腕の力が強く抜け出せない。
桂花「なんなのよっ!ちょっと、あんた起きてんじゃないでしょうねっ!!」
桂花は必死で叫ぶが、一刀の腕の力が緩まることはなく、それどころか規則正しい寝息が聞こえて来る始末だ。
桂花「はぁ?この状況で寝てるってなんなのよ!?いい加減起きなさいよっ!!」
桂花の奮闘空しく、一刀が起きたのは、一刀が桂花に抱きついてから15分ほどした頃だった。
一刀の瞼が開き虚ろなまま桂花と視線を合わせてから、
一刀「夢か……」
とつぶやき、一刀の抱きつきが一度強まり、そのあと緩んだ隙を突いて桂花は腕を動かせるようにした。
桂花「夢か……じゃないっ!!寝ぼけるのもいい加減にしなさいよ!この変っ態っ!!」
そうして繰り出された桂花の右手は一刀の左頬に会心の一撃を与える。バシンと乾いた音とは言えない音が響き、その左頬にはどれほどの威力であったかを窺い知れる赤い手形が……
一刀の意識が一気に覚醒した。
一刀「っった〜〜〜!!!、なんなんだ――――え……」
目覚めた一刀は腕の中に温かく柔らかい確かな重さを感じる。
一刀は不思議に思い視線を下に向けると、顔を真っ赤にした上目遣いの桂花と目があった。
桂花「ねぇ、いつまでこうしているのかしら?」
そんな可愛い姿とは対照的に、桂花の声は低くありありと怒気を孕んでいた。
自分の寝相でこの状況になったのだが、起きたばかりの一刀にはまったく身に覚えがない。
思わず夢と片付け寝てしまいたいという欲求に駆られたが、左頬の痛みが夢ではないと証明している。
だから、一刀にできることといえば、
一刀「ご、ごめんっ!!」
飛び起きて、ひたすら平身低頭して土下座する事だけだった。
…
……
…………
そんな朝の出来事のあと、2人は賊の襲来に備える仕上げに取り掛かった。
桂花は邑の長と邑全体の動き方や備蓄について確認することになっているため、一刀は前線で一緒に戦う者達と同じ時間を過ごすことにした。
一刀が前線で戦う者の集まっているところに行くと、そこには既に何十人もの人がいてそれぞれが話をしている。ただその中に、これから死地に逝く緊迫感を感じながら。
邑の者達は自分達を率いる者が武に秀でている旅人と長から聞かされていた。
一刀が現れるまで、率いる旅人の人物像は、想像に尾ヒレや背ビレがついて、自分の武を鼻にかけるような人物であろう。どうせ、旅人は後にいて自分達を前に行かせる人物だろうと。
実際に見た旅人は違っていた。頬が赤く腫れていて、自分達の前で話そうとしているのだが、おっかなびっくりしていてどちらかと言えば戦えないように見えた。ようやく話す決心がついたのか、口を開いた第一声は
一刀「俺の名前は北郷一刀。俺にはこの剣しかない。この剣で邑を、邑にいる人を賊から護りたい。だから戦列に加えさせてほしい!生きるために!みんなで生きるために!!だからどうか」
と言い頭を下げた。邑の者達はなんと言うか拍子抜けした。話していた人物像だと、皆の者戦え、というような人物だと思っていたから。
堂々としているとは思えない、足が震えて頼りなく感じるがそれでも目に宿る力、言葉の力は本物だった。本当にそう思ってそうしようとしているのだと感じられた。
そんな一刀の思いの丈が詰まった言葉は邑人の心を奮わせた。とても戦うように見えない一刀が必死で戦おうとしているその姿勢が。異物である旅人が邑人を皆と、一緒に生きようと言って戦おうとしているその姿勢が。
頼りないけど、護られるとは思えないけど、こいつは信用できそうだと邑の人達に思わせた。
一刀の言葉が終わり邑人達の間に静寂が訪れた。
それを破ったのは一人の女の子の一言だった。
??「兄ちゃんは頼りないからボクが護ってあげるよ!」
響き渡ったその声に空気は弛緩した。邑人はあまりにも的を得ている一言に笑い、一刀は昨日会った女の子の一言であったことに驚いて、昨日と変わらない歯に衣着せぬ物言いに苦笑する。邑人もその一言に腹を立てない一刀に遠慮ない一言を投げ出し始める。
邑人「はっはっは、ちげぇねぇちげぇねぇ」
邑人「旅人さんよ、もう少し身体鍛えなってよ」
邑人「にいちゃん、その頬どうしたんだよ?」
邑人「ああ、生きような」
邑人「あんな奴らに盗られるのはたまったもんじゃねぇな」
堰を切ったように出てくる言葉に一刀は笑っていた。
異物の自分と邑人の距離が縮まった気がして―――、
一時とはいえ目標を共有することが出来たことが―――、
なんとなくだけど認められたような気がして―――、
――――嬉しかったから。
だから、一刀は自然と口にしていた。ありがとう、と。
それを聞いて邑人は笑う。同じところに住む者のような親しみ易さを感じて。
それからは、一刀は桂花の策の確認とそれに伴う編成を行うのだった。
あとがき
はじめましての方も、4度目の方も、
おはようございます。こんにちは。こんばんは。柳眉です。
どうでしたか、4話目の妄想は……
柳眉自身、話の進め方に一応の考えを持って進めておりますが
今回でようやく1話目から1日が過ぎました。
おそいよな〜と、正直思います。・・・はい。
次の5話で、2話〜の桂花と会ってからの流れを終えて、
話を進めていきます。
ここまで、話を遅くしていくつもりはありませんが、
進展に関しては、未定というしかありません。
0の日投稿は守っていきたいなと思います。
もし、お読みいただいた方の中で評価していただけるのなら・・・
アドバイスをいただけるのなら、嬉しいです
最後になりましたが、ここまで目を通して頂きありがとうございました。
次にまみえるご縁があることを……
説明 | ||
この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。 そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=3:1:6の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。 ご都合主義や非現実的な部分、原作との違いなど、我慢できない部分は「やんわりと」ご指摘ください。 作品の感想・誤字脱字・一言言いたいなどありましたら、忌憚無く、バシッと言っていただけたら嬉しいです。「心は硝子」の柳眉が壊れないサジ加減で頼みます。 長くなりました、さあ、外史への扉を開きましょう。 |
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コメント | ||
零壱式軽対選手誘導弾様 ワクワク……頂きましたっ!!戦闘を上手く表現できるように精進します コメントありがとうございました(柳眉) いよいよ戦闘が開始されるのですね!!!ワクワクすっぞww(零壱式軽対選手誘導弾) jackry様 自信がない戦闘シーンですがご覧くだサーイ コメントありがとうございます(柳眉) rikuto様 あはあはぁ〜…すみません壊れてました。華琳様とのからみは柳眉も上手くいくよう練り練り中です。自然に見えるようにしたいなとは思っています。既に自然ではないかもしれませんが… コメントありがとうございます。(柳眉) 面白いですw桂花との関係がこの流れになると華琳様との関係が難しくなる気もしますが、楽しみにしていますw(rikuto) カアル様 アドバイスありがとうございます。台本形式の台詞・・・そうですね、これまでの1234は12月いっぱいそのままにして、これから投稿予定の567は直したものにします。台本のように名前が無くてもキャラが分かるように精進していきます。(柳眉) ヒロインについては数名かハーレムかで決めかねています。どちらにしろ表現できないと台無しになるので、要努力の現状ですが・・・ 自分ルールの0の日投稿を守っていくので、10,20,30を楽しみにして頂けたら嬉しいです。 コメントありがとうございました。(柳眉) 下の続きですが、読んだ感想は一刀と桂花の絡みが面白いです。桂花がメインなのかな?これからもがんばって欲しいですね。(カアル) アドバイスとしましては、やはり台詞の前の名前を書く台本形式は止めたほうがいいです。作品の質は下がりますし、嫌われやすく、読者にいい印象を与えない場合が多いです。後は安易なハーレム展開にもっていかないことです。ちょうど、ここの一刀の設定を見るに原作キャラが惚れるとかは少なそうなので、ヒロイン一本に絞ったほうがいいです。(カアル) ブックマン様 ビンタした手形を紅葉っていいますよね 笑 ・・・これって昭和だったりします? コメントありがとうございました(柳眉) 頬に紅葉がwww(ブックマン) キラ・リョウ様 ありがとうございます。柳眉は夏休みの宿題は最終日にやるタイプなので期日がないと怠けてしまう奴でして・・・無理せずやってきます コメントありがとうございます。(柳眉) ・・・て違いますね。話の進展具合のことですよね?や、やっちまったーー(柳眉) ヒトヤ様 アドバイスありがとうございます。分割は試行錯誤していくので、読み辛くなったと感じたときは一言お願いします。 コメントありがとうございました。(柳眉) とらいえっじ様 アドバイスありがとうございます。分割は柳眉も迷っています。投稿する際、どれくらい分割するか、いつも悩んでいますし。よろしければ参考までにどのくらいがいいか、教えていただけないでしょうか?・・・試行錯誤していきます。 コメントありがとうございました。(柳眉) 閲覧して頂いた方々へ。投稿して1日、多くの方に目を通して頂きありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。(柳眉) ご自分のペースで頑張ってください!!(キラ・リョウ) いや、これくらいでもいいですよ(ヒトヤ) もう少し話を分割して投稿してもいいかもね(とらいえっじ) |
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