festa musicale [ act 1 - 4 ]
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 ライヴの日。

 サークルにはあらかじめ連絡を入れてあったし、元々サークルの日だからバイトもない。ハコが開く時間に行って、控え室に顔を出してみると、新見たちSLEEKの面々が他のバンドと談笑していた。

「よう、調子はどう?」

「おぉ、馨―! 来てくれたんだ、嬉しいよ!」

 初めて店に来たときと同じ笑顔で新見が話しかけてくる。その後も何度かバンドの面子を連れて店に来てくれていたから、バンドメンバーとも顔なじみだ。

「あれ、神矢さん? SLEEKさんと仲良いんですか?」

 と、これまたうちの店にCDを置いている、今日のSLEEKの対バンが話しかけてきた。

「そう、こないだ新見がCD置いてくれって言いに来て、その時からね」

「あー、そういえばあったね、アルスも!」

「まぁ、この辺のバンドは大体あそこにCD置かせてもらうことが目標の一つですからね」

 そういって、アルス―――Ars Novaのボーカルは笑った。

 バンドマンは純粋で、音楽をやることが大好きだけど、一応食い扶持は自分たちで稼がなきゃならい。勿論ヒモになって頑張ってる人もいるけど、あんまりそういう人たちは尊敬はしない。

 自分たちだけで頑張るから音楽にも価値がある。

「お、空の神矢君じゃん、今日のステージはすっげぇ面白いことになると思うから、楽しみにしててよ!」

 と、今回のライヴの企画者でトリを務める、azzuroのギターボーカルの東さんが言ってきた。azzuroはこの町の中心的なバンドで、知名度で言えばそれこそ全国クラス、さまざまなインディーズレーベルからオファーがかかるほどの、言ってしまえば今のインディーズのシーンの中心バンドだ。ちなみになぜかメジャーになる気はないらしく、CDはうちの店にしか置いていない(しかも自主制作)。

「どうもお久しぶりです。 すんげぇ楽しみにしてますよ、azzuroさんのライヴ」

「任せとけって! でっかい花火打ち上げてやるよ!」

 東さんがそういうなら、間違いなく楽しい一夜になる。そう思わせる何かを感じるのだ。そう思って、控え室を出ることにした。

 

 

 

 ライヴが始まる。

 やはり俺の目は節穴じゃなかったようで、SLEEKのパフォーマンスは間違いなくトップクラスだった。CDで聴く以上の分厚いサウンド。

 家に戻ったら早速CDのポップを作らないといけないな、そう考えているうちに、SLEEKの出番も終わっていた。

 控え室に挨拶に行ってみると、新見たちSLEEKの面々は床にへばりつくように腰を下ろし、肩で息をしていた。滝のように流れる汗が反射して眩しい。運動部の高校生が十キロ全力で走りぬいた後のような、けだるい中に爽快感を感じる絵面だ。

「おす、お疲れ」

「おぉ、馨〜、マジ気持ちよかったぜ〜…」

 倒れそうになりながらも(というよりもう倒れているが)、笑顔でそう答える。

 音楽に関わっていると、何度かこういう人間に出くわす。自分の信じるもののためにすべてを投げ打ってでも立ち向かい、必ず成功して戻ってくる人間。どこに行っても負けない何をしても結局勝ってしまう。そういう人間だからこそ、勝ち残るのが難しい音楽の世界でも勝ち残る。

 そして天下を我が物にしてしまう。

 そんなことを考えながら、話を早めに切り上げて帰ることにした。

 

 

 

 家に帰ってからSLEEKのCDのポップのキャッチフレーズを考える。

 結局あの後一度店に戻り、CDを即座に棚に並べてから帰ったため、時間はだいぶ遅くなってしまった。コーヒーを飲んでリフレッシュするだけで、もう十一時である。

 キャッチフレーズを考えている間、馨は自分のサークルについて考えていた。

(何か面白いことがしたい)

 今日受けた刺激を忘れないうちに、考え付く限りの事を紙に書き出していく。

 吹奏楽でロック調の曲をやる、吹奏楽にギターベースを取り入れる、いっそアンサンブルでロックバンドを組む。

 どれもパッとしないのが欠点である。ありきたりと言った方が正しいかもしれない。どちらにしても没ネタになることは確実。

 こんなときは企画屋に相談するのが一番だ。

 そう考えたときにはもう既に手が携帯電話のメールブラウザを立ち上げていた。

(灯、灯っと…)

 今大学内で最も仲が良いと思われる友人にメールを打つ。

『吹奏楽とロックを組み合わせた何か面白いことはないか』

 こんな文面。スッキリしたもので、これだけで何が言いたいかは大体伝わる。

 5分ほどSLEEKのポップ作りに集中していると、携帯電話のベルが鳴った。どうやら答えが返ってきたらしい。期待を胸に受信されたメールを見る。

 

『お風呂入ってくるからちょっち待ってて』

 

 

 

 大体三十分位して、満足のいくポップが出来上がった頃、灯からメールが入った。

『要するに、今日ライヴを見に行ったところロックやっちゃうバンドさんがいて、それがものすげぇカッコよかったから 真似したいんだけど吹奏楽で出来ないかにゃ? という意味?』

『そうそう、そういうこと。 ていうかにゃってなんだ』

『なるほどー。そういうことなら今からパソコンにとある音楽ファイルを送るから、それを聞けばヒントっつか正解が分かるよ』

 と、その瞬間パソコンからメールを受信するアラームが聞こえてきた。仕事が速い。

 早速届いたメールをチェックすると、確かに音楽ファイルが添付されている。

 再生してみると、小気味良いギターの音と、タイトなドラムが聞こえてきた。至って普通のロックに聞こえる。

 ところが、その後に聞こえてきた音に、馨は鳥肌が立つのを抑えられなかった。

 

 

 

「スカ、やりましょう」

 はぁ?と頭の上にはてなマークを浮かべるウインドのメンバー一同。

「何を突然言い出すんだ馨」

「ロックでブラスでカッコイイ、スカパンク、やるしかないでしょう。 本番は近く行われる創立祭で!」

 拳を突き上げる。中々にして元気な一年生である。

 上級生一同としては特に反対する理由もない。創立祭では全体合奏としてのステージはないし、ウインドメンバーの中にもロックが好きな人間はたくさんいるからだ。

「よし、決定ですね? じゃぁ俺メンバー集めときます!」

「ちょっと待った、お前ギターベースドラムにアテはあるのか?」

 先輩に突っ込まれる。勿論、策はある。

「えぇ、インディーズの中でも特別すんげぇやつら連れてきますよ」

 グッと、親指を突き出して。

説明
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