festa musicale [ act 1 - 8 ]
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「あっはっはっはっはっは!」

「…何が面白いんですか」

 一応断っておくが、ここは校内にある図書館である。

 こんなに大声を出して笑うような空間では、断じてない。

 そらみろ、周りの人たちがすごく迷惑そうにこっちを見てるじゃないか。 ちょっとは周りを気にしてください。

「ていうか、ちょっと声大きいですよ」

「ははは…あぁ、ごめんごめん、ついつい」

 そういって、やっと笑いをこらえてくれる。

「君はどうしてそんなに不器用なんだろうね」

「は?」

「いやいや、ケンカを売ってるわけじゃなくてね? ただ単純にそう思っただけなんだけどね」

「それをケンカを売るというんですよ純さん」

 つまり、先日の一件から胸につかえているこのモヤモヤをどうにかするため、年長者である純さんに相談をもちかけることにしたのだ。 勿論、『灯の来年』という話題にすり替えてそれとなく、だけど。

 …若干場所の選び方を間違えたような気がしないでもないが。

「でも実際、灯じゃ実力不足なんじゃないですか? 意識も足りてないような気がするし」

「今聞いた話だけじゃ判断できないよ。 だって、私は灯ちゃんが毎朝早くから部室にこもって基礎練習してるところしか見てないし」

 頬杖をつきながら純さんは言った。

「毎日?」

「そ、毎日」

「いつも朝早くから来て、授業が始まる直前まで腹式呼吸、ロングトーン、リズムトレーニングなどなどもろもろを一通り真剣に全力で取り組んでから授業に出てるよ」

 それは知らなかった。 過去に一度だけ見たことはあったが、それっきりだった。

「つまり君のは、ただのヤキモチなんだよ」

「その心は?」

「その心も何も、君が一方的に灯ちゃんにヤキモキして、灯ちゃんはそれにちょっと戸惑ってるかな? って言う印象しか受けないかなー」

 小さな子供に諭すように、穏やかに話す純さん。 しかしながらそんなことを言われて冷静でいられるほど俺は大人ではない。

「そんなわけないです」

「どうして?」

 と、純さんは問いかけてくる。ちなみにこのときに実は純さんによる誘導尋問の始まりだったのだが、残念ながらこれに俺が気付くのはずいぶん後になってからだった。

「灯は親友ですから」

「親友だからって、そうやってちょっと顔見知り程度にしか知らない人から告白されてヤキモキする?」

「それは…するんじゃないですか、俺がそうなんだから。 大体顔見知りじゃなくて友達です」

「へー。 でもさ、顔見知りも友達も些細な違いだと思うよ。 それに、仲が良い人が自分の知り合いから告白された程度では、そんなに動揺したりしないんじゃないかな?」

「動揺? 別に動揺してるわけじゃ…」

 ビシッ! と、効果音が聞こえてくるかのような速度で、純さんが俺の鼻のてっぺんめがけて人差し指を突き出してくる。

「いーや、動揺してるね! 私のセンサーは今君の動揺をビンビン感じ取ってるよ!」

「いやだから別に動揺なんてしてないですよ」

 大体動揺も何も、自分でも自分の中にあるこの気持ちに対して、形容する言葉が見つからないのだ。 それをただ『動揺』という一言で片付けてしまっていいのか、判断できない。

「君は音楽はものすごい感情的にやるくせに、それ以外のこととなると一転して理性的に動こうとするね。 それで自分の本当の気持ちを隠してしまっているんじゃない?」

「それは…」

 否めないが。

「そんな理性的に動こうとする君が、どうして出会って間もない灯ちゃんとあんなに仲が良いんだい? だって知り合ったのは大学に入ってからでしょ?」

「そこは違いますね。 知り合ったのは大学に入る前です。それと、灯と俺は最初からあんなに仲が良いわけじゃないです。 うちの店にたまたま入ってきて、そのときたまたま一人で働いてたのが俺で、コーヒーを淹れてあげて、それを美味しいって言ってくれて、その後も飲みに来てくれて、それでやっと仲良くなってきて、気付いたら同じ大学の同じサークルで一緒にバカやってたってだけで…」

 と、なぜか笑いを堪えている。 すごく面白そうだ。 出来ることなら混ざりたい。

 ちなみに、このとき、俺は完全に餌に食いついた狼状態だったらしい。

「…い、いや、なんか、すごいね君」

「いやもう何がなんだか訳が分からないんですが」

 と言うと、突然純さんが姿勢を正して、

 

 

 

「ようするに君は灯ちゃんのことが大好きなんだね」

 

 

 

 と、言った。

 すごく楽しそうに、そして『答えが見えた!単純明快だったじゃん!』と言わんばかりのすがすがしい笑顔で。

 

 

 

「…ん?」

 呆然とする。 なぜ、そんな結論に至るのか、小一時間ひざとひざを突き合わせて酒でも飲みながら本気で語り合いたいくらいだ。

 俺が呆然としているのを見て、純さんは続けた。

「分からないかな? 口で言っても分からないかもネ。 つまりだ、君は親友としてではなく、女として灯ちゃんを見て、『自分が彼女にしたい人ランキング』を出会ったときからぶっちぎりナンバーワンで独走状態なわけだ」

何を突然この人は言い出したのか。 まったくもって理解が追いつかない。

「それは一体」

「おっと、私が言えるのはここまでだよ!」

「はぁ!?」

 全てを投げっぱなしにして純さんは俺をほったらかしにするつもりらしい。

「私は今君にすんごいでっかいヒントを与えた。 これ以上ヒントをあげちゃうと君が成長する機会が失われちゃうからねー」

 そういってテーブルの上にあったかばんを手に取る。 このまま帰していいのだろうか。 まだ疑問は残ってるんじゃないのか。

 …いや、そもそも疑問だらけだ。

「俺には、どうもその考えが理解できないです」

「今は理解できなくてもいいんだよ。 絶対近いうちに分かるから!」

 と、これ以上ないって言うくらいのウインクを決めてくる。

「そういうもんですか」

「そういうもんなんだよ」

 確か、前にもこういうやり取りがあった気がする。 主に俺のすぐ傍で。 俺がよくいる場所で。

「それじゃ、私は授業あるからー。 ばっははーい」

 そんな二世代くらい古い挨拶を言いながら、純さんは図書館を後にした。

「…」

 自分から誘っておいて、かつ相手の性格も把握しておいて言うのもなんだが、やはり嵐のような人だ。 だが、何か重要なヒントを得たような気もする。

 席に座りなおして、もうちょっと考えることにした。

 自分の抱えている、この切なげな感情について。

 否定したいのは山々だけど、どうにもそういうことらしいし、自分でもうすうすは感づいていたことについて。

 

 

 

 

 ――つまり。

 

 

 

 ――――俺と、灯の関係について。

説明
悩み悩む馨に、先輩である純はアドバイスします。
それを聞いた馨はまた悩みます。
避けて通ることも出来るこの道、どういう選択を取っていくのでしょうか。
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大学生 音楽 吹奏楽 ロック ブラス 

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