小鳥の空 1話 「アンパンとコーヒーと沈黙」 |
・・・・やっちまった。
迫 迫は購買で買ったコーヒーを一口口に含み、顔をしかめた。マズいなこれ。かなり。
「はぁあ〜・・・。」
今は昼休み、そしてここは屋上。ため息を漏らしても誰にも聞こえないため、安心して漏らせる。
今朝の束紗・・・ことりだっけ。親切にも話しかけてくれたのにヒドい反応で返してしまった。こんな調子じゃ友達はおろか、話し相手一人作れそうにない。
「あーあ、しくったなぁ・・・。」(ぐびっ)
気を紛らすために濃くマズいコーヒーをもう一口。口いっぱいに広がる苦さ・・・。そして込み上げてきたのは虚しさだった。
「・・・・。」(もしゃもしゃ)
コーヒーの不快な後味をごまかすためにアンパンを一口かじる。意外とアンパンはうまいので食が進む。が、この状況を打破する糸口にはならない。アンパンがおいしくても問題は一向に良い方向に進まない。
当然のことである。
「せめてもう一度話す機会があればいいのに・・・・・。」
「う〜ん。あの後ずっと話せなかったけど・・・・どうしよう。」
私は迫さんの事を考えていた。何の因果かは知らないけど席が隣になった人だ。出来れば仲良くしたい。
けど、彼の態度を見るにあまり馴れ合いは好かないタイプに見える。そういう人に話しかけるのも少し気が引けるものがある。
が、
「うん。やっぱりもう一度話してみよ。きっとあの人もそう悪い人じゃないと思うし。」
根拠はない。が、なんとなくそう思えた。あの人は難しい性格をしているだけだと自分に言い聞かせたかっただけなのかもしれない。
でもそれでも良かった。話し掛ける勇気がふたたび湧いてきた・・・。それが、ことりにはとても嬉しかった。
「と、その前に購買購買ぃ♪腹が減っては・・・ヴェトナム戦争はできぬだっけ?」← 素
100%分かっていると思いますが『戦はできぬ』です。そこまで限定された戦争(いくさ)ではありません。
「おじちゃーん!アンパン余ってるー?」
「ラッキーだね小鳥ちゃん!まだ一個余ってるよ!」
「じゃあ、それとらくれんのコーヒー牛乳1個ちょうだーい!」
「あいよっ!二つ合わせて210円じゃい!」
「もう出してるよー。」
ことりはこのノリのいいおじちゃんのことが嫌いではない。
が、別に好感度が一定以上を超えると購買のおやじルートに行くわけではないのでこの人の説明はこれだけだ。
「さって・・・今日は気分がいいし気持ちよく屋上で頂きますかぁ♪」
そしてことりは、迫がいるとも知らず屋上に続く階段を上り始めた。
「・・・・。」(チャラ・・・・チャラ・・・・)
迫はロケットペンダントの中の写真に写る今は亡き家族の写真を眺めていた。
阪下に命乞いをしながら殴り殺された優しい母
母をかばおうとして撃ち殺された頑固な父
何も抵抗できずになぶり殺された二人のかわいい弟
眺めれば眺めるほど悲しい光景がよみがえる。が、眺めることをやめることが出来なかった。
「仇をとっても残るのは虚しさだけ・・・・なんかの漫画で見た通りだな・・。」(パコッ)
俺は誰かに言うわけでもなくペンダントを閉じながら呟いた。
目の前で俺の全てをぶっ壊しやがったあの男を捕まえて警察に引き渡したのが昨日のようだ。
捕まえるまでは絶対に殺すという明確な殺意があったのに、捕まえた途端、潮が引くように殺意が薄れていった。まぁ、母さんたちも俺が人殺しになることを望んでいたとは思えないから最終的にこれで良かったのかもしれない。でも、残ったのはこの空虚な思い・・・。満たされることを望んでいたのに、俺の心はさらに乾いてしまった。
「ハァ・・・・。」
もうため息しか出てこない。過去に囚われ、友達一人まともに作れない俺はどうすればいいのだろう?
そう思ったときだった。
ゴゥ・・ン・・・。
「よいしょっ・・・・と。」
背後で、屋上の大きく重たい鉄の扉を開ける音が聞こえ、振り向くと、束紗ことりが購買のレジ袋片手に扉を押していた。
「むー!!・・・なかなか開かないなぁ。」(グッグッ)
この屋上の扉は設計ミスがあったらしく、かなりの力がないと開けることが出来ない。ここにきてやっと思い出した事だ。
私も手だけじゃ無理だと悟り体で押しているがビクともしない。
ゴゥ・・ン・・・。
「よいしょっ・・・・と。」
やっと開いた。と、思ったら全然開いてない。ほんの少し隙間が出来ただけだ。ここを通るにはもう少し頑張らなければいけないとの神のお告げ・・・。
さすがにここまで頑張ったのだ。今更帰るのはどうかと思う。
意を決し、ふたたび鉄の扉に体をくっつけ、力を込めて押してみる。
「ふ、ふぉぉぉおおお!」(必死)
周囲に誰もいないことをいいことに奇声を発しながら押してみる。
しかし、扉の隙間は広がらず無駄に恥ずかしくなり、体力を消耗しただけだった。それでも諦めずに扉を開けつづけようとした。
その時だった。
ガコ。
「わきゃぁ!?」
急に扉が開き身が前に投げ出される。無様に転んでしまい、打ったおデコを押さえる。
「いったた〜。」(涙目)
すると、急に絆創膏を差し出された。誰かが見かねたのか同情したのかくれるらしい。
「あ、ありがとうございます・・・。」
お礼を言いながら受け取りふと見上げた。
迫迫だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・フリーズ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の周りの空気が一瞬で凍った。おそらく、あの無駄に恥ずかしい奇声も聞かれたのだろう。それのせいですごく恥ずかしいということもあるがそれだけじゃない。
どうすればいいのか分からないのだ。何を喋ればいいのか・何をすればいいのかまったく分からない。
体はフリーズ。
頭はショート。
機能は完全に停止した。プシュー。
「・・・・だ、大丈夫か?」
赤い髪の毛をポリポリと掻きながら迫さんは気まずそうに聞いてきた。その声が私を即行で解凍+修理し、何とか返事をすることが出来た。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」← 何故か敬語
「そ、そうか?なら別に構わないんだが・・・・。」
・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・ポリポリ・・・・・・・・・・・。
沈☆黙
き、気まずい・・・。な、何か話題を振らねば・・・!な、何か私たちに共通点はないのか!
私は沈黙を破り、何か話題を振るために自分と迫さんの共通点を探した。そして、迫さんの右手にきらびやかに輝くアンパン様を見つけた。
「ここ、購買のアンパンですか?ソレ。」
「え?あ、あぁ。まぁ購買で買ったが・・・結構うまいよな、これ。」
急に話しかけられ多少戸惑ったようだがすぐに返事をしてくれた。
「ですよね!?おいしいですよね!!」← 本日二度目の必死
「あぁ。でも、このコーヒーはいただけないよな。」
「分かります分かります!らくれんのコーヒー牛乳も売ってますからそれ買ったほうがいいですよ!?うん!」
「へぇ〜。そうなんだ。じゃあ今度からそれ買おうかな。」
「え、えぇ!!おすすめしますよ!?アハ、アハハハハハ!?」
お、お?なんか調子いいんじゃないのか?迫さんも心なしか楽しげに見えるし場の雰囲気が少しは軽くなったんじゃないか?作戦成功ですか軍曹?
「えっ・・・と、束紗・・だっけ?」
「え?は、はい。」
「あの・・・さ、今朝はゴメン・・。そんで、ありがと。」
「・・・別に構いませんよ。気にしてませんから。」
やっぱりそんなに悪い人じゃなかった。ただちょっと人付き合いが苦手なだけのようだ。
私も一昔前は目の前の頭を下げている少年と同じだった。それをふと思い出し、笑いがこぼれた。
キーンコーンカーンコーン・・・。
昼休み終了の予鈴が鳴り響く。意外と時間がたっていたようだ。
「あ。・・は、早く戻りましょう。次の英語の先生は時間に厳しい人ですし・・・。」
「・・・・ん。分かった」
そう意って私は小走りで教室に向かい、迫さんは後ろをついてきた。これが楽しい生活の幕開けだったのかもしれない・・・・。
あ、・・・・・・・・昼食食べてない・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、いっか!
っしゃできた!!
ハイ1話目完結ードンドンパフパフー。
迫 「口で言うな。悲しくなるから。」
ことり「だ、だよねー。寂しくならない?」
悪かったな。こういう事してくれるの登場キャラクターか俺しかいないんだよ!
迫 「・・・現実でも友達が少ない奴の遠吠えだな。」(ボソッ)
ことり「ちょっ!迫君それは言っちゃ駄目だって!」
・・・・・い、今のは効いたぞ、迫ぉ・・・。ざっくり包丁が刺さったかと思ったぜ・・。ぐはっ。
迫 「んじゃ、作者(馬鹿)はほっといて次回予告。ほれことり。カンペ。」
ことり「あ、ありがと迫君。えっと・・次回は部活動編だって。前は何部に入ってたの?」
迫 「んー・・確か帰宅部だったと思う。でも一応部活には入るつもりなんだよなー。」
ことり「あ、だったら剣道部来てよ。私マネージャーなんだ。」
迫 「ほー、じゃあそこから回ってみるかな。」
(この後、迫とことりのトークショーが何分か続く)