英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜 |
同日、PM8:30――――――
リィンが通路を歩いているとある人物がリィンに声をかけた。
〜レボリューション・通路〜
「少しいいかい、弟弟子。」
「シズナ、どうしたんだ――――――って、その人は一体……」
自分に声をかけた人物―――――シズナに声をかけられて立ち止まった後振り向いたリィンはシズナの隣にいるクロガネに気づくと戸惑いの表情を浮かべた。
「お初にお目にかかる、シュバルツァー将軍殿。拙者の名はクロガネ。姫――――――シズナ様専属の従者でござる。」
「シズナの…………という事はクロガネさんも”斑鳩”の猟兵なのか?」
軽く会釈をして自己紹介をしたクロガネの話を聞いてクロガネの事を知ったリィンはシズナに視線を向けて訊ねた。
「ああ、”中忍”ではあるけど実力は私が保証するかな。現に昨日の大戦の際も、”怪盗紳士”を一人で足止めしたのだから、”怪盗紳士”ともやり合った事がある弟弟子ならクロガネの実力は私が保証できるレベルである事を理解できるだろう?」
「あの”怪盗紳士”を単独で……!それに昨日の大戦での”怪盗紳士”の足止めを担当したという事は、彼がシズナの話にあったクロチルダさん達を足止めさせる為に”斑鳩”から派遣した”斑鳩”の中でも腕利きの猟兵でもあったのか……」
「その通り。そして、今後は私と共にリィン――――――灰獅子隊に協力する事になったから、先に灰獅子隊の”長”である君にクロガネの加入についての話を通しておこうと思ってね。」
「そうだったのか………そういえば、クロスベルで君と俺が初めて邂逅した時、シズナと共に俺達に協力するつもりだったけどシズナ自身が同行を断った”従者”がいたような事を言っていたけど……もしかして、その”従者”はクロガネさんの事だったのか?」
シズナの話を聞いたリィンはクロガネを見つめてある事を思い出してシズナに確認した。
「正解。ふふっ、相変わらず察しが良い弟弟子かな。」
「読心術レベルの”観の眼”を収めているシズナと比べればまだまだだけどな………けど、シズナ自身が同行を断ったクロガネさんが何故灰獅子隊の加入を?」
「今までの姫の灰獅子隊への加勢は姫自身の”私事”だった為、拙者も姫の事について普段から小うるさく意見を口にしていたので”息抜き”という意味もあって見逃してきたのでござるが……”斑鳩”がメンフィル帝国と正式に”主契約”を結んだ以上、”斑鳩”の一員として……そして姫の従者として姫自身が助力している”灰獅子隊”に助力すべきと考え、参上した次第でござる。」
「だからその必要はないって何度も言っているだろう?そもそも、”主契約”の内容だって”今回の戦争ではなく戦後の事について”なんだから、灰獅子隊を含めてこの戦争でメンフィル帝国に助力する事は含まれていないじゃないかな。――――――要は”斑鳩とメンフィルの主契約”を”建前”にして、灰獅子隊で羽を伸ばしていた私を見張りに来たようなものじゃないかな。」
「ハハ…………そういえば二人とも『斑鳩がメンフィル帝国と”主契約”を結んだ』と言っていたけど、もしかしなくても、セシリア教官がメンフィル帝国を代表してシズナと交渉して正式に”斑鳩”との契約を結んだのか?」
自身の疑問に対して答えたクロガネをジト目で睨んで指摘したシズナの指摘や”軍隊である灰獅子隊で羽を伸ばしている”という豪快過ぎる答えに冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは苦笑した後気を取り直してある事を訊ねた。
「まあね。リィンも既に知っているだろうけど、どうやらメンフィルはユミルやセントアークと言った既存の領土もそうだが、既に併合した共和国領や今回の戦争で併合することになるエレボニア領、そして保護期間中のエレボニアでの”裏の戦い”を任せたいようでね。依頼内容もそうだが、報酬についての話し合いをして、その結果めでたくお互い希望する条件が合致した事で”主契約”を結ぶ事になったのさ。」
「そうか………という事は今後はシズナ達”斑鳩”とは長い付き合いになりそうだな。」
シズナの説明を聞いて頷いたリィンは静かな表情でシズナを見つめた。
「おや、不満かい?」
「いや、むしろ心強いよ。”剣聖”の一人であるシズナ自身もそうだが、単独で結社の執行者ともやり合える程の達人まで保有する凄腕揃いの猟兵団が俺達の味方になってくれるし……何よりも、俺自身の”八葉”を更なる高みを目指す為にも”八葉”とも関わりがある剣術の皆伝者にして、俺と同じユン老師の直弟子であるシズナの存在は間違いなく必要になるだろうからな。」
「フフ、嬉しい事を言ってくれるね。私も君のような可愛い弟弟子と接する機会を頻繁にできるようになった事は嬉しいかな♪」
リィンの答えを聞いたシズナは笑顔を浮かべて片手でリィンの頭を撫でた。
「ちょっ、”これ”は恥ずかしいからせめて人前でするのは止めてくれ……!」
「残念ながら、その頼みには頷けないかな。これは君の”姉弟子”である私の”特権”でもあるのだからね、弟弟子♪そもそも、人前を気にする事なくエリゼ達にも同じ事をしている君だけは私の事は言えないんじゃないかな?」
「う”っ……なら、クロガネさんに聞きますけど、今のシズナの行為はシズナの”斑鳩”の副長としての威厳を気にしている様子のクロガネさんからすれば見逃せない状況だと俺は思いますけど、クロガネさんはどう考えているのですか?」
自身の頭を撫でるシズナの行為を恥ずかしがったリィンは止めるように言ったがシズナに反論できない理由を言われると唸り声を上げた後クロガネに話を振った。
「ぬっ……確かにシュバルツァー将軍殿の仰る通りでござる。姫。シュバルツァー将軍殿は姫にとっては初めての弟弟子の為、シュバルツァー将軍殿を溺愛したくなる姫の気持ちも理解しているでござるが――――――」
リィンの指摘に唸り声を上げた後同意したクロガネはシズナに注意をしようとしたが
「へえ。”主”である私と”主の弟弟子”。どっちの意見を優先すべきか、クロガネなら”わかっている”と思っているのは私の勘違いだったのかな?」
「……ッ!」
意味あり気な笑みを浮かべたシズナに見つめられて指摘されたクロガネはシズナへの注意を中断すると共に息を呑み
「言い忘れたでござるが、拙者の灰獅子隊への加勢は”主契約”には含まれてござらぬが、灰獅子隊でお世話になっている姫の件に対する”礼”のようなものの為今後は拙者の事も姫のように遠慮なく”灰獅子隊”の戦力として活用して頂いて構わないでござる。――――――それでは御免!」
「に、逃げた……」
「やれやれ、”戦力として活用する”と言っても、後残っているのは”鉄血宰相達との決戦”くらいじゃないかな。」
そしてリィンにある事を伝えた後煙幕を発生させると共にその場から消え、それを見ていたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせながら呟き、シズナは呆れた表情で溜息を吐いて呟いた。
その後シズナの気がすむまでシズナに可愛がられたリィンは徘徊を再開し、デュバリィ達”鉄機隊”が集まって休憩している所を見つけるとデュバリィ達に声をかけた。
〜休憩所〜
「―――――こちらにいたんですね、デュバリィさん。それにエンネアさんとアイネスさんも。」
「おや、その様子だと我らに何か用があるのか、シュバルツァー。」
「フフ、彼は戦後も私達にとっては”上司”に当たる人物なのだから、彼の事を呼ぶ時にせめて”将軍”か”総督”もつけておくべきよ、アイネス。」
「シュバルツァーには無用な気遣いですわよ、エンネア。どうせ”自身の立場”の自覚が未熟なシュバルツァーの事ですから、公的な場は仕方ないとしても、今のような私的(プライベート)な場では『今まで通りの態度で接して欲しい』と言うに決まっていますわ。」
リィンに声をかけられて返事をしたアイネスに指摘したエンネアの言葉を聞いたデュバリィはリィンをジト目で見つめながら推測し、デュバリィの推測を聞いたリィンは冷や汗をかいた。
「ハハ……まさにデュバリィさんの言う通りです。えっと……3人とも少しだけ時間を頂いてもいいですか?3人に戦後の件での事について聞きたい事があるのですが……」
「戦後の件というと……ああ、どうやらその口ぶりだと魔道軍将殿から我らが他の灰獅子隊の部隊長達のように、正式に君の配下になる件を聞いたようだな。」
「……それで何を聞きたいのですか?」
リィンの質問内容を聞いたアイネスは少しの間考え込んだ後心当たりを思い出し、デュバリィは静かな表情を浮かべてリィンに訊ね返した。
「それは勿論サンドロット卿に仕えている貴女達が戦争が終わって平和になった後もサンドロット卿の下へと戻らず、エーデルガルト達と共に俺を支える事を決めた理由についてです。戦後貴女達は武人としての高みを更に高める為にサンドロット卿の下で更なる研鑽を積むのだと思っていたのですが……」
「まあ、私達の事をある程度知ったのなら、普通はそう考えるわよね。」
「我らが新たな道を選んだ理由の一つとしては、魔道軍将殿が我らに提案した”我らの役割”が我らにとって性に合う”役割”だからというのもある。」
リィンの問いかけと推測を聞いたエンネアは苦笑し、アイネスがリィンの問いかけに答え
「へ……教官が貴女達に示した貴女達――――――”鉄機隊の役割”というのは一体……」
アイネスの答えを聞いて呆けた声を出したリィンは戸惑いの表情で質問を続けた。
「一言で表すなら”世直し”ですわ。」
「”世直し”……?」
デュバリィの答えを聞いたリィンは首を傾げた。
「山郷であるユミルが故郷の貴方なら知っているでしょうけど、都会から離れて暮らしている人々の集落は都会と比べると様々な問題があるわ。――――――特に遊撃士協会(ギルド)の支部が配備されていない事は治安的な意味でも重大な問題なのは知っているでしょう?」
「ええ。特に集落で生活する人々に害を為す魔獣の討伐もそうですが、猟兵崩れや野盗等と言った”賊”による襲撃への対策ですね。」
「うむ。そして魔道軍将殿が示した”我らの役割”というのは、我らがゼムリア側のメンフィルの領土内にある辺境を巡り、そこに住む人々が困っている出来事を解決する――――――要するに”Z組”や”特務支援課”と同じ遊撃士の真似事のようなものだ。」
「ただし、私達は原則”国家権力”に干渉できない遊撃士達と違って、”国家権力を悪用する愚か者達を成敗する権限”を与えられる事になっていますわ。」
「その”遊撃士達と違って国家権力を悪用する愚か者達を成敗する権限”とは一体……?」
アイネスの説明の後に答えたデュバリィの説明を聞いて新たな疑問が出て来たリィンは首を傾げて続きを促した。
「”違法行為”――――――例えば領民への虐待もそうですが、過度な税の取り立てによって領民達の暮らしを貧困状態に陥らせる等と言った所謂”悪徳領主”や”悪徳代官”をメンフィル皇家や政府に代わり、成敗する事ですわ。逮捕は当然として、対象者があまりにも悪質かつ外道であるのならば私達の手で”討伐”しても構わないとの事ですわ。」
「……なるほど。つまりはデュバリィさん達は遊撃士にはなかった”司法”の権限も行使する事ができるという事ですか……けど、それならゼムリア大陸じゃなくても”本国”――――――異世界でもできる上、どうしてエーデルガルト達のように俺を支える”家臣”という形で貴女達が……」
デュバリィの説明を聞いて納得したリィンは不思議そうな表情でデュバリィ達を見つめ
「―――――勘違いしやがらないでください。結果的には私達の活動が貴方達の統治を支える形になるだけで、私達が忠誠を誓うのはマスター――――――”至高の武人”たるリアンヌ様唯一人ですわ!そもそも私がセシリア将軍の提案に承諾した一番の理由は、リィン・シュバルツァー。貴方がこの戦争にメンフィル側として参加する時に決めた”覚悟”や”道”を外さないかを見張る為ですから、私達は戦争が終わって目的を果たしたからと言って腑抜けて外道に堕ちれば容赦なく成敗するつもりですわよ!」
「ふふっ、相変わらず素直じゃないわね。”エレボニア総督”になった事で、”Z組とはあらゆる意味で遠くなった灰色の騎士が心配だから、灰獅子隊に引き続き手を貸す事を決めた癖に♪”」
「後はデュバリィの正式な直弟子になったエリスを”師として一人前に育てる義務”も残っているというのもあるからな。」
「な、な、な……っ!エンネア!突拍子もない勘違いをしやがるなですわ!!」
デュバリィは真剣な表情でリィンを見つめて宣言したがからかいの表情を浮かべたエンネアと静かな笑みを浮かべたアイネスの指摘を聞くと頬を赤らめて口をパクパクさせた後エンネアを睨んで反論した。
「あら、私の指摘は反論してアイネスの指摘には反論しないという事は少なくてもアイネスの指摘は当たっているようね♪」
「ぐっ…………!」
「ハハ………――――――ありがとう、デュバリィさん。エリスの事もそうですけど、この戦争で通常ではありえない出世をした俺がこれからも”道”を誤らないように自ら”監視役”を申し出てくれて。改めて身の引き締ます思いをしました。」
更なるエンネアの追及に唸り声をあげて反論できない様子のデュバリィを見て苦笑したリィンは静かな笑みを浮かべてデュバリィに感謝した。
「コホン。理解したのであれば構いませんわ。ちなみに戦後エリスを一人前に育てる件ですが、エリスやアルフヘイムから聞きましたが貴方とエリゼはエリスやアルフヘイム、それにアルフィン皇女を元々通っていた学院からメンフィルを含めたエレボニア以外の学院で改めて勉学を学んでもらう事を考えているそうですわね?私による修業は入り直した学院を卒業してからで構いませんから、学院の件で私の事は気にする必要はありませんわ。”学生という貴重な経験をできる機会”は”今だけ”なのですから。」
「デュバリィさん……」
「フム、デュバリィは”弟子”を持つとその”弟子”には相当甘くなるのか。新たな発見だな。」
「あら、デュバリィは”弟子”に限らず元々”身内”には結構甘いじゃない♪」
「二人とも突拍子もない勘違いをしやがるなですわ!私は”師”云々以前に、人として当然の判断をしたまでですわよ!」
デュバリィの提案を聞いたリィンがデュバリィのエリスへの気遣いに驚いて呆けている中興味ありげな表情を浮かべて呟いたアイネスにエンネアはからかいの表情で指摘し、二人の会話を聞いていたデュバリィは二人を睨んで指摘し、その様子を見守っていたリィンは冷や汗をかいた。
「全く何で私ばかりがこんな目に………――――――シュバルツァー。灰獅子隊の一員として、貴方達と共に活動し、そして戦場を駆け抜けた事によって私達は一回り大きくなった姿をマスターに見てもらえ、そして誉めて頂けました。紆余曲折ありましたが、結果的にはよかったのでしょうね。……貴方達の仲間になれたことは。」
溜息を吐いた後気を取り直したデュバリィは苦笑しながら今までの出来事を思い返して答えた後リィンを見つめ
「……俺達の方こそ、貴女達がいてくれてよかった。武術だけじゃない、貴女達の気高さやひたむきさに沢山の物を学ばせてもらいました。この戦争、必ず共に生き抜き、勝ちましょう――――――それぞれが目指す道の為に全てを賭けて!」
対するリィンも静かな表情でデュバリィを見つめた後握手を求めるかのように利き手をデュバリィに差し出し
「フ、フン、言われるまでもありません。――――――マスターより薫陶を受けた戦乙女として。この戦争を終わらせる最後の戦い、必ず共に生き抜き、そして勝ちますわよ!」
「微力ではあるが、我らも全力で其方達の力になろう。」
「ええ。”槍の聖女”たるマスターが率いる”現代の鉄騎隊”たる”鉄機隊”の名にかけて。」
対するデュバリィも利き手をリィンに差し出してリィンと握手をしてリィンの言葉に力強く答え、アイネスとエンネアもデュバリィに続くようにリィンにとって心強い答えを口にした。
その後徘徊を再開したリィンは甲板で夜景を見ているルシエルを見つけ、ルシエルに近づいて声をかけた。
同日PM9:10――――――
〜甲板〜
「ルシエル、少しいいか?」
「?はい、何でしょうか、リィン将軍。」
リィンに声をかけられたルシエルはリィンへと振り向いてリィンを見つめた。
「改めてになるが、先日の大戦での俺達に代わっての大規模な部隊指揮、ありがとう。ルシエルの指揮のお陰で先輩達もそうだが兵達も誰一人欠けることなく乗り越える事が出来た上、作戦も無事に成功させることもできたよ。」
「いえ、わたくしは”参謀”を任せられた身として当然の事を行ったまでですし、先日の大戦を一人も死者を出すことなく乗り越える事ができたのはわたくしの指揮だけではありませんわ。わたくしと共に指揮を執っていたベアトリースの指揮能力もそうですが敵軍を畏怖させ、戦友達をの士気を高める程の彼女自身の戦闘能力、そしてフォルデ大佐達各部隊長達の一騎当千に値する働きあってこそですわ。」
リィンに感謝されたルシエルは謙遜した態度で答えた。
「それでもルシエルには感謝しているよ。えっと……話は変わるけど、セシリア教官からこの戦争が終結した後の君を含めた灰獅子隊に加わった天使達がメンフィルに正式に所属する話を教えてもらったのだが……」
「……なるほど。リィン将軍はわたくし達が貴方の”家臣”になる事について聞きに来られたのですね?」
気まずそうな表情を浮かべて自分を見つめて呟いたリィンの言葉を聞いてリィンが何の為に自分に話しかけてきたかを察したルシエルは静かな笑みを浮かべてリィンを見つめて確認した。
「ああ。俺はてっきり、戦後君達は君達がこの世界に転位する前の場所――――――”イムニス山脈”だったか。君達の”天使の使命”を果たす為にもそこに帰還するのだと思っていたのだけど……」
「確かに当初はその未来を考えていました。――――――ですが改めて考えてみたのです。”今のわたくし達はメイヴィスレイン様達イムニスでの使命を実行している天使達にとってはもはや同胞ではないのではないか”と。」
「その”メイヴィスレイン”という人物……いや、天使はもしかしてルシエルの上司とかか……?」
「はい。”力天使”メイヴィスレイン様はわたくし達やレジーニアのように”イムニス山脈”での”使命”を命じられている天使の軍団を統率する指揮官の立場に当たる御方です。」
「つまりは司令官クラスの天使か……という事はレジーニアにとっても上司にあたる天使でもあるのか……」
「ええ。まあ、レジーニアはリィン将軍もご存じの通りリィン将軍の”守護天使”としての務めもそうですが、自身の興味と研究――――――いえ、”欲”を満たす事が最優先という考えの為、メイヴィスレイン様達への未練は一片の欠片も残っていませんが。」
「ハハ……それで、ルシエル達がそのメイヴィスレインさんという天使を含めた君達が元々いた場所の天使達にとっては同胞ではない”ってどういう事だ?」
自分の質問に同意した後呆れた表情で答えたルシエルの言葉を聞いてレジーニアを思い浮かべたリィンは冷や汗をかいて苦笑した後質問を続けた。
「リィン将軍もご存じのように、わたくし達”天使”にとって”魔族”とは”決して相容れる事はない存在でした。”ですがこの戦争でベアトリース達魔族もそうですが、”わたくし達天使にとっては、魔族に分類されていた闇夜の眷属”と共に戦った事で、わたくしもそうですが配下の天使達も今まで抱いていた”魔族”に対する”一方的に魔族を含めた闇の勢力を悪と決めつけていた考えは間違っていた事”に気づいたのです。そしてそんなわたくし達は”魔族を絶対悪”と決めつけているメイヴィスレイン様達にとってはレジーニアとは違う意味で”異端”な考えを持つ天使達として、帰還した所で必要とされない――――――いえ、場合によっては”処分すべき存在”になってしまったという結論にわたくし達は至ったのです。」
「それは……………………」
寂しげな笑みを浮かべて語ったルシエルの話を聞いたリィンは複雑そうな表情でルシエルを見つめ
「そんな暗い顔をなさらないでください。わたくし達はリィン将軍への恩返しもそうですが、この世界の事情を知ってから決めたわたくし達の”正義”の為にも灰獅子隊の一員としてリィン将軍達もそうですが、魔族や闇夜の眷属と共に戦い抜いた事に後悔はしていません。ですから、セシリア将軍の提案――――――わたくし達が正式にメンフィル帝国に所属する事もそうですが、リィン将軍。貴方の”家臣”としてこれからも貴方をお支えする事こそが”魔族を含めた闇の勢力は絶対悪ではないという考えを抱く今のわたくし達にとっての正義にして新たなる使命”であると考え、配下の天使達も全員わたくしのその考えに同意した事で貴方の”家臣”になると決めたのです。」
「どうしてそこまで俺の事を………」
優し気な微笑みを浮かべて答えたルシエルの答えを聞いたリィンは戸惑いの表情でルシエルを見つめた。
「皆、この戦争を通じて”リィン・シュバルツァーという人物”を知り、貴方の未来をこれからも共に貴方と共にしたいという思いを抱いているからです。……ベアトリースの配下である魔族達が貴方の配下になる事を決めた理由も恐らくわたくし達とそれ程変わらないのだと思いますわ。」
「そう言われても、俺にそこまで慕われる”器”があるとは思えないんだが……」
微笑みながら答えたルシエルの答えを聞いたリィンは困惑の表情で答えた。
「ふふっ、何を今更な事を。天使もそうですが、霊姫に飛天魔、竜、果ては魔神や女神にまで慕われる”器”が貴方にはあるではないですか。」
「いや、それに関しては一応俺以外にもいるんだが……」
苦笑しながら答えたルシエルの指摘に対してリィンは冷や汗をかいてエステルを思い浮かべながら答えた。
「エステル・ファラ・サウリン・ブライトですね。彼女の事をよく知るレン皇女やプリネ皇女達から伺った話によれば確かに彼女もまた貴方と同じ”時代が求めた英雄の器”の持ち主なのでしょう。――――――ですが、わたくし達は一生貴方について行くと決めたのです。ですから、ご自身に対してもっと自信を持って下さい。現に貴方は常識で考えれば”達成不可能な偉業”――――――戦争で手柄を挙げ続ける事で、戦争に勝利した国――――――メンフィル帝国が滅ぼすと考えられていた国であるエレボニア帝国を”救う”事ができたのですから。わたくし達もそうですが、貴方を”一人の女として”慕うエリゼ達、そして貴方自身の為にも”どうして自分なんかを”なんて考えは止めるようにして下さい。」
「ルシエル……………………――――――ありがとう。そしてこれからもよろしく頼む。」
ルシエルの指摘に呆けたリィンはルシエルに感謝した後握手を求めるかのように利き手を差し出し
「お任せを。……その、早速で申し訳ないのですが二つ程、お願いがあるのですが……」
対するルシエルも利き手を差し出してリィンと握手をした後気まずそうな表情を浮かべてリィンを見つめた。
「俺に頼み?俺でできる事なら、何でも言ってくれ。」
「ありがとうございます。一つはアイドス様にわたくし達がアイドス様をわたくし達の”主神”として信仰する許可を取って頂きたいのです。」
「へ……ルシエル達がアイドスを信仰する許可をアイドス自身に?どうしてだ?」
ルシエルの意外な頼みに目を丸くしたリィンは不思議そうな表情で訊ねた。
「わたくし達”天使”にとって”神に仕える事”とは”天使にとってとても光栄な使命”の一つなのです。……中には独立したり、レジーニアのような”異端”な考えの下で行動をする天使達もいますが、基本的に神自身に仕える事は貴方達”人”で言う”名誉”になる事なのです。ましてや”現神”ではなく、”ディル=リフィーナになる前の世界であるイアス=ステリナ”に存在し、遥か昔の天使達が仕えていた神である”古神”の一柱たるアイドス様に仕える事は天使達にとって”現神”に仕える以上に名誉な事になるのです。………わたくしはともかく、”使命”を失い、挙句自分達がいた世界とは異なる世界に連れてこられても、かつての失策で多くの仲間達を失わせてしまったわたくしについてきてくれた上、これからもわたくしと共にリィン将軍を支えると決めた彼女達の献身に対して何らかの形で報いてあげたいのです。」
「その報いがユリーシャのように古神の一柱であるアイドス直属の天使になる事か………――――――ルシエルはああ言っているが、アイドスはどうなんだ?」
ルシエルの話を聞いたリィンは静かな表情で呟いた後自身の腰に帯剣している神剣アイドスに話しかけた。すると神剣が光を放つとリィンの傍にアイドスが現れ
「私は本人達が希望するのだったら、別に構わないのだけど………――――――ルシエル、一つだけ確認してもいいかしら?」
現れたアイドスは困った表情で答えた後静かな表情を浮かべてルシエルを見つめて話しかけた。
「何でしょうか?」
「貴女達も知っているでしょうけど、私達”古神”は”三神戦争”で敗北した事で、現在では”私達の存在が厄災を呼ぶ絶対悪”である事から”邪神”とされているわ。そんな”今のディル=リフィーナにとっては絶対悪の存在”の一柱である私に仕えても他の天使達には誇る事ができない所か、”邪神に仕える堕ちた天使”扱いされると思うわ。それでもいいの?」
「アイドス……」
ルシエルの問いかけに対して複雑そうな表情で答えたアイドスの話を聞いたリィンは辛そうな表情でアイドスを見つめた。
「問題ありません。そもそも世界(ディル=リフィーナ)がアイドス様達”古神”を”邪神”とする理由は、”現神”が世界(ディル=リフィーナ)を支配する為である事も存じております。それにアイドス様は争いを嫌い、平和を願う心優しき神の一柱である事も、わたくし達は灰獅子隊の一員として御身と接した事で皆理解しています。そのような慈悲深き神の天使として信仰し、仕える事は御身を知るわたくし達天使にとってはとても光栄な事ですわ。」
「ふふっ、幾ら何でも持ち上げすぎだと思うけど………貴女達が私を信仰する事を本当に望むのであれば私は構わないし、それぞれの天使達に”加護”も授けるわ。」
「アイドス様直属の天使になる事を許して頂く所か、”加護”まで授けて下さるなんて……御身の慈悲深く、寛大なお心遣いに心から感謝致します。」
苦笑した後静かな笑みを浮かべて答えたアイドスの話を聞いたルシエルは驚いた後その場で跪いて頭を深く下げた。
「”加護”と言うと……ユリーシャが星の力を借りた魔術や技(クラフト)を使えるようになったみたいに、ルシエル達も星の力を借りた魔術や技を使えるようになるという事か?」
「他にもいろいろあるけどね。それよりもルシエル、”リィンへの願いは私の件も含めて二つある”って言っていたけど、もしかして残りの一つは貴女もユリーシャやレジーニアと同じように――――――いえ、”私達のようにリィンと契約を交わしたいのかしら?”」
リィンの質問に答えたアイドスはルシエルにある事を確認し
「へ。」
「フフ、やはり神の一柱たるアイドス様の目は誤魔化せませんわね。」
アイドスの確認にリィンが呆けた声を出したその時ルシエルは苦笑しながらアイドスを見つめた。
「…………………………」
「この場合、私が女神である事は関係ないと思うのだけど………――――――後は貴女とリィン自身で話し合うべきでしょうから、私は一旦戻るわね。」
ルシエルの答えを聞いたリィンが口をパクパクしている中アイドスは苦笑した後神剣へと戻った。
「えっと……さっきアイドスが言っていた俺への願いは本当なのか?」
「はい。リィン将軍さえよければ、わたくしを貴方の”守護天使”の一人として”契約”して下さい。」
(うふふ、これでまた一人増えたわね、ご主人様♪)
(うぐぐぐぐ……っ!守護天使契約を交わせば位階が上がるでしょうから、”能天使”であるルシエルは”力天使”に昇格するのでしょうね。この身より位階が上の”力天使”にして、この身より後に守護天使契約を交わしたルシエルの事はどう扱えばいいのです……!?)
(あ、あはは……今まで通りの態度で大丈夫だと思いますけど……)
(これでわたしにも”後輩”が……!それも力天使様のルシエル様が死霊であるわたしの”後輩”になるなんて……!)
アイドスが神剣に戻った後気まずそうな表情を浮かべたリィンに訊ねられたルシエルは再びその場で跪いてリィンに頭を下げて自身の希望を口にし、ルシエルの希望を聞いたベルフェゴールはウインクし、頭を抱えて唸り声をあげて悩んでいる様子のユリーシャにメサイアは冷や汗をかいて苦笑しながら指摘し、アンリエットは嬉しそうな表情でルシエルを見つめていた。
「ちょっ、俺にそこまでしなくていいって……!まずは頭を上げて立ってくれ。」
「かしこまりました。」
一方ルシエルに目の前で跪かれて頭を下げられたリィンは慌てた様子で止めるように指摘し、リィンの指摘に頷いたルシエルは立ち上がってリィンを見つめた。
「その……まずは俺の”守護天使”になりたい理由を聞いてもいいか?ユリーシャから聞いた話だと、”守護天使契約”は天使にとって自身の”伴侶”を決めるも同然の非常に重要で特別な契約なんだろう?俺には既にユリーシャとレジーニアがいるにも関わらず、”3人目の守護天使”になる事に思う所とかはないのか?」
「はい。そもそもリィン将軍は”守護天使”よりも”格”が圧倒的に上の女神たるアイドス様とも契約を交わされているのですから、むしろ気にするべきはわたくしの心ではなくアイドス様の御心ですわ。――――――話をわたくしがリィン将軍の守護天使になりたい理由に戻しますが、理由は二つあり、一つは”リィン・シュバルツァーという人柄”を知ったからこそですわ。」
「へ……それってどういうことだ?」
ルシエルの答えの意味がわからなかったリィンは不思議そうな表情で訊ねた。
「……リィン将軍達が傷つき、意識を失っていたわたくしを保護して頂き、目覚めた場所――――――レボリューションで貴方から詳しい事情を聞かせて頂くと共にレジーニア達――――――リィン将軍が契約なさっている異種族達の事も教えてもらったあの時、わたくしは最初貴方の事を警戒していました。」
「俺を警戒?何でだ?」
「睡魔の魔神を性魔術で屈服させて契約した事もそうですが、神――――――それも古神と契約している人間等、わたくしは”人間”とは思えなかったのです。そして”魔神”と”古神”の”圧倒的な力”を手にしている貴方を正しき”道”に導く事が並行世界の”零の至宝”の仕業とはいえ、本来であれば戦死するはずが生き延びて”使命”を失ったわたくしの新たな”使命”であると思い、リィン将軍の提案――――――灰獅子隊の加入に同意したのです。」
「という事はあの時俺の提案に頷いたのは、俺が”間違った道”に進まないように見張る為でもあったのか……」
ルシエルの話を聞いたリィンは目を丸くした後静かな表情でルシエルを見つめた。
「最もその考えは短い期間でわたくしが貴方の事を知りもせず自分勝手に決めた愚かな考えである事に気づき、自分を恥じることになってしまいましたが。わたくし自身もそうですが、生き延びたわたくしの配下の天使達の命まで救って頂いた恩人を疑う等言語道断です。そして恩人を疑った愚かな罪を償う為にもわたくしの”全て”を持って恩人であるリィン将軍が目指す”道”に辿り着けるようにお支えしようと思ったのです。」
「ルシエル………もしかして、トリスタの制圧が終わった後君を”参謀”として活用する事を申し出たのは君の配下の天使達の治療を優先して保護した事に対する恩返しだけでなく、その”償い”も関係していたのか?」
ルシエルの本音を知ったリィンは驚いた後ある事を思い出してルシエルに確認した。
「はい。そして貴方の守護天使にして頂きたい件ですが…………不覚ではありますが、レジーニアのお陰でもあるのです。」
「へ……何でその話にレジーニアが関係してくるんだ?」
「セシリア将軍からわたくし達が正式にメンフィル帝国に所属し、リィン将軍に仕える提案について配下の天使達と相談してセシリア将軍の提案に承諾する事を決めた後わたくしはリィン将軍に仕える事になった天使達を代表して”守護天使契約”を交わすかどうかについて悩んでいたのですが……その時は決断の為になる僅かな参考になる意見が聞く事ができればいいと判断し、既にリィン将軍の”守護天使”として契約していたレジーニアに相談したのです――――――」
リィンの疑問にルシエルは答えた後当時の出来事を思い返した。
PM4:50――――
〜資料室〜
「ふふっ、普段から”異端”扱いして、今まで散々あたしに五月蠅く言ってきた君があたしに相談――――――それも主と”守護天使契約”を交わすかどうかについての相談をしに来るなんて、”青天の霹靂”とはこのことを言うのだろうね。」
ルシエルからルシエルがリィンの守護天使になるかどうかについての相談を持ちかけられたレジーニアは読んでいた本に栞を挟んでその場で閉じた後興味ありげな表情を浮かべてルシエルを見つめた。
「………僅かでも構いませんから、参考になる意見を聞く為です。貴女は仮にもリィン将軍の”守護天使”の一人でもあるのですから。」
「やれやれ、相変わらず手厳しいね。――――――それで、何についてあたしに相談をしにきたのだい?」
ルシエルの答えを聞いて溜息を吐いたレジーニアは気を取り直して続きを促した。
「貴女は自覚していないでしょうが、”守護天使契約”はわたくし達”天使”にとっては”生涯の伴侶”を決める非常に重要な”契約”です。そんな”契約”をただ単に天使達を代表してリィン将軍に”忠誠の証”を示す為に契約する事は、リィン将軍に対して失礼ではないかというのもありますが、天使の考えとしてどうなのかと悩んでいるのです。」
「まあ、主の性格を考えたら”そこまでしなくていい”と言って君の守護天使契約の申し出を断る事は目に見えているね。というかそれ以前に守護天使契約云々については一端置いておくとして、君自身は主の事についてどう思っているんだい?」
「………そうですね。仲間や配下を大切にする性格もそうですが、困った人々を見逃せないお人好しな性格は一人の人として素晴らしい人格の持ち主だと思っています。」
「すまない、質問の仕方が間違っていたようだね。――――――私が君に聞きたいのは君が”天使ではなく、異性としてリィン自身を慕っている”かどうかについてだよ。」
「…………ハ?何故そこで、”天使ではなく異性としての感情”が関係してくるのですか?」
レジーニアの質問に一瞬呆けたルシエルは戸惑いの表情でレジーニアに指摘した。
「さっき君も言ったように”守護天使契約”はその天使にとって”生涯を共にする伴侶を決める契約”でもあるのだから、君が契約を考えている相手であるリィンを君自身が異性として慕っているかどうかは重要だと思うよ?」
「それは………」
レジーニアの指摘に対して反論がないルシエルは答えを濁した。
「それともう一つ。君も知っているように、”リィンが契約している異種族は全員リィンを異性として慕っているからこそ契約し、そしてエリゼ達もそれを知っているからこそ、リィンにとって異性である私達が契約を交わしている事を許容している”のだよ。――――――”同じ愛する男性を支える仲間”としてそれぞれ良好な関係を築く事で、跡目争いや誰がリィンから最も寵愛されているか等と言った非生産的な事が起こらないようにしているのだから、当然”契約”の際君のリィンに対する異性としての感情も重要になってくるよ。特に君もそうだが君の配下の天使達はアイドス直属の天使になる事を考えているのだったら、アイドス自身が同意している事――――――アイドスが異性として慕っているリィンと契約する際の条件は”契約する者自身がリィンを異性として慕っている事”をアイドスを信仰する天使として守る必要はあるのじゃないかい?」
「うっ。………確かに貴女の言う事にも一理ありますが、自らの研究の為だけにリィン将軍と守護天使契約を交わした貴女だけは今言った事は言えないのでは?」
レジーニアの更なる指摘に唸り声をあげたルシエルだったがある事をすぐに思い出すと顔に青筋を立ててレジーニアを睨んで反論した。
「確かに契約を交わした当時はあたしの研究の為というのが一番の理由だったことは否定しないよ。――――――だけど、主達と共に過ごしている事で主達と共にいる心地良さもそうだが、主達に対する情も芽生えてね。今のあたしはエリゼ達のようにリィンを異性として愛しているよ。だからこそ、君にリィンを愛しているかどうかの是非を問う事ができるのさ。」
「……………ハ?あ、”愛している”?あ、貴女がリィン将軍を??」
レジーニアが口にした驚愕の事実を耳にしたルシエルは目が点になった後困惑の表情でレジーニアに確認した。
「そうだよ。接吻も当然だが性行為もリィンとしかしたくない上、エリゼ達のようにいつかはリィンの子供を産んでその子を育てながらリィンとあたしの子供を研究したいというあたしの感情は間違いなく”愛”だろう?」
「最後の”研究”は余計だと思うのですが……というかそれ以前に、人と天使の間から新たな生命が誕生するのですか?貴女も知っているようにわたくし達天使は”主によって創造された存在”で、”造られた存在”と”人”との間から新たな生命が誕生するとは思えないのですが。」
レジーニアの話を聞いたルシエルは溜息を吐いた後戸惑いの表情で疑問を口にした。
「そう、”そこ”もあたしが長年気になっていた部分ではあるのだよね。――――――だけど、現にあたし達は生殖行為――――――要するに性行為も可能だし、その”実例”もあたしは目にしたから、”人と天使の間から新たな生命が誕生させる事は可能なんだよ。”」
「……”実例”ですって?まさか人と天使の間から生まれた存在を実際に目にしたとでも言うつもりですか?」
「勿論そうさ。――――――君ならメンフィルと連合を組んでいるクロスベルという国で活動している”特務支援課”という存在もそうだが、メンフィルとは友好関係の”工匠”という存在が集まった都市――――――”ユイドラ”という都市の事は知っているだろう?」
「?え、ええ。確かに”参謀”に就任した際に灰獅子隊の参謀として知っておくべき知識としてメンフィルの同盟国にとっては重要な存在である”特務支援課”という存在や活動内容もそうですが、その”特務支援課”にわたくし達の世界から”留学”という形で協力している”工匠都市ユイドラ”の領主の娘達の事等についての一通りの説明をリィン将軍達からして頂きましたが……」
「主から聞いた話になるのだけど、その”ユイドラ”という都市の領主は主のように複数の女性達を伴侶として迎えている事もそうだが、その伴侶として迎えた女性たちの大半は異種族で、その中には天使――――――それもかつてのあたしと同じ位階である”権天使”もそうだが”主天使(ドミニオン)”もいて、しかも既にそれぞれの天使達との間から子供も産まれている上、その内の一人は”特務支援課”に留学していた領主の子供達の一人でもあるのだよ?」
「な――――――あのメイヴィスレイン様よりも上の位階である”主天使”程の高位の天使が様々な異種族達を伴侶として迎えている”人”と結ばれている上、既に天使と人との間から新たな生命が存在しているのですか……!?」
レジーニアが語った驚愕の事実を知ったルシエルは驚いた後信じられない表情で訊ねた。
「ああ。だから、あたし達天使が人と生殖行為をして新たな生命を産む事は可能なのさ。――――――話を戻すが、立場や君がリィンから受けた恩もそうだが主がアイドスに寵愛されている事等も抜きにして”ルシエル自身がリィン・シュバルツァー個人に対して今はどういう感情を抱いているか”が、君が本気で主と守護天使契約を結びたいかどうかを決める”鍵”になると思うよ。」
「…………………………」
レジーニアの指摘に対して返す言葉がないルシエルはその場で黙り込んだ。
〜現在〜
「……本当にレジーニアがそんなことを?」
「ええ。ふふっ、まさかあのレジーニアに”異性への愛”を芽生えさせるなんて、さすがはリィン将軍ですね。」
自分の話を聞いて驚いているリィンにルシエルは苦笑しながら指摘し
「え、え〜っと……褒めてはいるんだよな?ハハ………」
ルシエルの指摘に対してリィンは苦笑しながら答えた。
「……そしてレジーニアの意見を聞いた後色々と考えた結果、レジーニアの言う通りである事に気づいたのです。」
「えっと、それってどういうことだ……?」
ルシエルが口にした言葉の意味がわからなかったリィンが不思議そうな表情で質問をしたその時
「ん…………」
「!!!???」
ルシエルはリィンに近づいて口づけをし、ルシエルに口づけをされたリィンは驚いた後混乱した。
「”リィン様”。わたくし能天使ルシエルはリィン・シュバルツァーという個人を異性として愛しています。どうか、わたくしと”守護天使契約”をして下さい。」
「ルシエル……………わかった。俺でよければ喜んで。」
口づけを終えて離れた後優し気な微笑みを浮かべて宣言したルシエルの宣言に対して呆けたリィンは決意の表情を浮かべて返事をした。
「ありがとうございます……!では、契約の為に場所を変えましょう……」
リィンの返事を聞いたルシエルは嬉しそうな表情を浮かべた後頬を赤らめてある提案をし、ルシエルの提案に頷いたリィンはルシエルと共にある部屋へと移動した。
〜ルシエルとベアトリースの部屋〜
「ここは……ルシエルとベアトリースの部屋だけど……”契約”の際にベアトリースがこの部屋に戻ってくる可能性があるんじゃないのか?」
「その心配は無用ですわ。予めベアトリースにはリィン様との守護天使契約の件を話して、リィン様が契約に承諾しなかったか、もしくは承諾したリィン様とわたくしの守護天使契約が終わってその連絡をするまでこの部屋に戻ってこない事に同意して頂きました。――――――勿論エリゼ様達にもわたくしのリィン様への想いや契約の件もお伝えしております。」
部屋を見回してある懸念を口にしたリィンにルシエルはその懸念は既に解決している事を伝えた。
「す、既にベアトリースもそうだがエリゼ達にも手回ししていたのか……ハハ、さすが俺達灰獅子隊の”参謀”だけあって、完璧な準備だな……」
ルシエルの話を聞いたリィンは冷や汗をかいた後苦笑し
「それではリィン様、”契約”を始めましょう――――――」
頬を赤らめたルシエルはリィンとの”契約”を始めた。
そしてリィンと守護天使契約を交わしたルシエルは”能天使”から”力天使”へと昇格し、”守護天使契約”を終えたリィンが自室に戻る為に部屋を後にするとレジーニアが待ち構えており、リィンが部屋を出ると声をかけてきた。
〜通路〜
「―――――やあ、主。まずはルシエルとの守護天使契約、おめでとう。3人もの守護天使がいる主は恐らく、人類では史上初なんじゃないかな。」
「レジーニア。ハハ、褒め言葉として受け取っておくよ。えっと、わざわざここで俺が出てくるのを待っていたという事は、もしかしてメサイア達から念話でルシエルの事を伝えられたのか?」
レジーニアの賞賛に対してリィンは苦笑した後ある疑問を訊ねた。
「いいや、違うよ。主がルシエルと守護天使契約を交わした事で、当然主には新たな天使の魔力――――――つまり、ルシエルの魔力が宿ったから、主と守護天使契約を交わしているあたしも主に新たな天使の魔力が増えた事を感じ取れるから、その時にルシエルと守護天使契約を交わしたことを悟ってここで主が出てくるのを待っていたのさ。」
「そうだったのか………えっと………」
レジーニアの話を聞いて目を丸くしたリィンはルシエルから聞いた話――――――レジーニアが異性として自分を慕っている話をふと思い出すと気まずそうな表情でレジーニアから視線を逸らした。
「?………ああ、なるほど。その様子から察するにルシエルから今のあたしは異性として主を愛している話も聞いたんだね。」
リィンの態度に首を傾げたレジーニアだったがすぐに心当たりを思い出すと納得した様子で答えた。
「えっと……レジーニアは恥じることなく、よく俺を異性として愛している事を躊躇うことなく答えられるよな……?」
いつもの様子で答えるレジーニアに冷や汗をかいたリィンは戸惑いの表情でレジーニアを見つめて疑問を口にした。
「ふふっ、事実を口にするだけなのに、何故恥じる必要があるんだい?…………それはともかく、あたし自身にとっても主―――――いや、”異性に対する愛という感情”が芽生えたことも興味深い出来事だったよ。これからはあたしの主への”異性としての愛”を研究する為にも、改めてよろしくお願いするよ。」
「!」
リィンの疑問に対して答えたレジーニアはリィンの唇に軽い口づけをし、口づけをされたリィンは驚いて固まり、リィンが固まっている間にレジーニアは光の球となってリィンの身体へと戻った。
「……ハハ……本当に俺は幸せ者だな……そろそろ戻るか……」
我に返ったリィンは苦笑した後自室へと戻り始めた。
同日、PM10:40――――――
〜リィン将軍の私室〜
(さてと……明日に備えてそろそろ休むか……)
自室に戻ったリィンは自室に備えつけてあるシャワーを浴びて身体を洗った後明日に備えて休もうとした。
「リィン将軍、夜分遅くに申し訳ございませんが少々よろしいでしょうか?」
するとその時部屋内に呼び出しのブザーが鳴った後ミュゼの声が聞こえて来た。
「その声はミュゼか。鍵は開いているからそのまま入って来て大丈夫だ。」
「―――――失礼します。」
「それでミュゼ、こんな夜遅くに何の用だ?」
ミュゼが部屋に入ってくるとリィンはミュゼに用を訊ねた。
「フフ、それは勿論今日のお昼の会議の宣言通りメンフィル・クロスベル連合によって滅ぼされて当然だったエレボニアを救って頂いたリィン将軍に”お礼”として私がエレボニアの全国民を代表して”私自身の身体を使って返させて頂く為”に決まっているではありませんか♪」
「え”。」
(うふふ、これでミュゼも”確定”ね♪)
(ベ、ベルフェゴール様……まだリィン様も返事をなされていないのに、幾ら何でも気が早過ぎると思いますわよ……?)
妖艶な笑みを浮かべて答えたミュゼの言葉にリィンが表情を引き攣らせて声を上げるとベルフェゴールは結界を展開し、ベルフェゴールの行動にメサイアは冷や汗をかいて指摘した。
「ちょっ、幾ら何でも気が早過ぎるぞ、ベルフェゴール!?すぐに結界を解いてくれ!」
結界に気づいたリィンが慌てた様子でベルフェゴールに指示をしたその時
「――――――”リィン・シュバルツァー様。”メンフィル帝国の逆鱗に触れた事で本来ならば”エレボニアという国が消滅”、もしくは”メンフィル帝国の属国化”する”盤面”しか見えていなかったエレボニアが敗戦国の立場でありながら国として存続できる事やエレボニアにとっては相当穏便な内容の要求を実行する事で、メンフィル帝国に我が国が犯した様々な愚行を許して頂けるのもリィン様。エレボニアを救う為にメンフィル帝国軍で戦果を挙げ続けた貴方様のお陰です。エレボニアの全国民と、そして恐れ多くはありますがアルノール皇家に代わり、お礼の言葉を申し上げます。――――――本当にありがとうございます。」
ミュゼはその場で正座をしてリィンを見上げて答えた後頭を深く下げた。
「!ミュゼ…………――――――頭を上げて立ってくれ。メンフィル帝国がエレボニアを許したのはエレボニアを救う為にこの戦争で成り上がった俺の件以外にも色々と思惑があるから、次期カイエン公爵家の当主である君自らが俺にそこまでしてまでお礼を言う必要はないさ。」
「ふふっ、御謙遜を。メンフィル帝国もそうですが、クロスベル帝国も戦争でエレボニアに勝利したにも関わらず、肝心のエレボニアの領土併合をあそこまで妥協したのも間違いなくエレボニアを救う為に連合側で戦果を挙げ続けたリィン将軍への配慮も含まれていますわ。」
ミュゼの行動に驚いたリィンは静かな表情で立ち上がるように促した後指摘し、リィンの指摘に対してミュゼは苦笑しながら答えた。
「ハハ、気を遣ってくれてありがとう。――――――そういえば、今日の陛下達との会議の時にも君に言われたが、そろそろ君の俺への想いに応えるかどうかに対する答えるいい機会だな。」
「え。」
苦笑した後表情を引き締めて口にしたリィンの言葉を聞いたミュゼは呆けた声を出してリィンを見つめた。
「ミュゼ――――――いや、ミルディーヌ公女殿。既に多くの女性達と共に将来を歩む事を決めている俺で本当にいいのであれば、貴女の俺への想い、喜んで応えさせてください。」
対するリィンは決意の表情を浮かべてミュゼの自分への想いに応える事を口にし
「……………………な、な、な……何を考えていらっしゃるんですか!?す、既にリィン様と共に将来を歩む事を決めている方はそれこそ片手の指では足りない筈……しかも、姫様も含めて皆さんそれぞれ女性として素晴らしい魅力の持ち主……そ、それなのにどうして――――――どうしてこんな質の悪い小娘の戯言を本気にされているんですかっ!?」
(ミュゼさん……)
(常に自身の想定通りの行動や態度でいる彼女らしくない取り乱しようですね……)
(うふふ、計算高い女の子程、予想外の事態になると普通の女の子以上に取り乱すものよ〜♪)
(フフ、ミュゼは私達にそれぞれの魅力があると言うけれど、ミュゼ自身にも私達にはない魅力があるから、もっと自分に自信を持つべきよ。)
(フム、彼女の魅力で真っ先に思い浮かべるとしたら彼女にしかない異能じみた能力――――――”盤面を見る能力”だろうね。)
(あ、あの……それはミュゼさんの女性としての魅力ではないと思うのですが……)
一方ミュゼは呆けて固まった後我に返ると若干混乱した様子で反論し、ミュゼの様子を見たメサイアは優し気な微笑みを浮かべて見守り、戸惑いながら呟いたユリーシャの疑問にベルフェゴールはからかいの表情で答え、ミュゼを微笑ましそうに見つめながら呟いたアイドスの念話を聞いてある推測をしたレジーニアの推測を聞いたアンリエットは冷や汗をかいて指摘した。
「正直、迷いはしたけど、それでも一人の男として君の想いに応えるべきだと思った。いや――――――そんな建前以前に”俺自身”が君ともエリゼ達と共に将来を歩みたいと思ってしまったんだ。」
「リィン、さま………」
リィンの本音を知ったミュゼは頬を赤らめて信じられない表情でリィンを見つめた。
「わ、私は……もうリィン様に見抜かれてしまっているから……どんなに甘えて、冗談めかしても貴方には響かないと思って……」
「―――――言っておくが俺も男だ。幾らエリゼ達のお陰で耐性がついたとはいえ焦らしや、不意打ちが完全に平気というわけじゃないからな?それに、その裏にある覚悟と決意を知ってしまったら……上官……いや、妹の兄が妹にとって大切な後輩に抱く以上の感情を持ってもおかしくないだろう?」
自分から視線を逸らして気まずそうな表情で語るミュゼにリィンは静かな表情で答えた後ミュゼに利き手を差し出した。
「あ…………」
リィンが自分に差し出した手を呆けた表情で見つめていたミュゼが自身の利き手を差し出すとリィンはミュゼを自分の胸の中へと引き寄せてミュゼを抱きしめた。
「し、信じられません、こんな………胸が爆発しそうで……感情が制御しきれないなんて……」
「……それが普通なんだよ。全てが盤面で推し量れるものじゃない。それを教えられただけでも、君ともエリゼ達と共に将来を歩む事を決めた甲斐があったのかもな。」
「……っ……ズルイです……リィン様だってまだ子供なのに私みたいな小娘を誑かすように――――――」
「ミュゼ。」
リィンは自分の胸の中で頬を赤らめて呟くミュゼの顎先に指を添えて持ち上げてそのまま自分の方へと引き寄せ
「ぁ………ん………」
リィンに引き寄せられたミュゼは呆けた声を出した後抵抗することなく、リィンと口づけを交わした。
「……ベルフェゴールのお膳立て通りになってしまったけど………”いいか?”」
ミュゼとの口づけを終えたリィンは気まずそうな表情を浮かべてベッドに視線を向けた後ミュゼに訊ね
「リィン様………はい………どうか私の”全て”をもらってくださいませ………」
リィンが自分を抱こうとしている事を悟ったミュゼは頬を赤らめて嬉しそうな表情で微笑んで答えた。
その後リィンは少将から将軍に昇進し、エレボニア総督に任命されたその日の夜はミュゼと共に過ごした。
そして3日後、西ゼムリアの各国の代表者達がリベールの”エルベ離宮”に集結し、西ゼムリアの今後の国家間の事についてやメンフィル・クロスベル連合とエレボニアの戦争という国際問題について話し合う国際会議――――――”西ゼムリア通商会議”の日が来た――――――!
という訳で予想できていたと思いますがルシエルもリィンの守護天使化、並びにミュゼもルシエルと共にリィンのハーレムメンバー入りです(遠い目)なお、久しぶりにシルフェニアの18禁版も一気に2話連続更新しておきました。組み合わせは当然リィン×ルシエルとリィン×ミュゼ(灰の騎士の成り上がりver)です。
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第145話 | ||
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他エウシュリーキャラも登場 他作品技あり 幻燐の姫将軍 空を仰ぎて雲高くキャラ特別出演 閃の軌跡 | ||
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