真・恋姫無双〜魏・外史伝57
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  時は遡り、一刀が左慈にさらわれた後の事。

 一刀と左慈が対峙し、そして春蘭と秋蘭が中心となって、その行方を追っていた時と同じ頃・・・。

  「具合の程はどうなのかしら、撫子?」

  「う〜ん・・・そうですね〜。例えるのならば、楽しみにしていたはずの本の続きが本屋に並んでいるの

  を見つけて、迷い無く買った後で中身を読んでみると、拍子抜けする程にくだらない内容だったものだから、

  その腹いせに、夜遅くまでやけ酒に浸って・・・、その次の日の朝の具合とでもいうのかしら・・・」

  「長い上に微妙な例えね・・・」

  本陣内のある天幕の中、椅子に座っている華琳と、その横に置かれていた寝台の端に腰を降ろしている撫子。

 祝融の呪縛から解放され、ようやく目が覚めた撫子の元に、ようやく来る事が出来た華琳はとりあえずは彼女

 のいつも通りの姿に呆れながらも安著した。だが、それでもまだ大きな不安は消えるはずもなく、華琳は顔に

 こそ出しはしなかったものの・・・、一刀の安否を懸念していた。

  「・・・じゃあ、性的欲求不満が一週間続いたその次の日の朝の具合と言えばいいかしら♪

  これなら、あなたにも分かり易い例えでしょう?」

  「あなたは本当に自由な人間ね」

  そんな従姉に呆れながらも、華琳の表情には憂いが混じり込んでいた・・・。その目はどこか遠くを

 見ているかのようで・・・。

  「・・・私もあなたの様にもっと自分に素直になれたのなら、二年前・・・、あんな過ちを犯す事は

  無かったかもしれないわ・・。」

  「一刀様の事・・・?」

  二年前という単語に、華琳は一刀の事を言っているのだと瞬間的に理解する撫子。

  「・・・・・・」

  華琳は撫子から目を背け、何も答えない。だが、その沈黙は撫子に正解だと言っていた。

  「だけど華琳・・・、その過ちがあったからこそ、『今』があるのではないかしら?」

  自分から目を背けたままの華琳に話か掛ける撫子。そこでやっと華琳の目は撫子に向く。

  「・・・そうね。前向きに考えれば、その通りよ」

  華琳の前向きという言葉に反応する撫子。

  「前向き?私から言わせるのなら、あなたが後ろ向きに物事を考え過ぎなだけだと思うのだけれど?」

  撫子の後ろ向きという言葉に反応する華琳。

  「物は言い様ね。私から言わせれば、あなたが前向きに物事を考えすぎなのよ」

  華琳のその発言に、笑顔ながらに鬼気迫る雰囲気を醸し出す撫子

  「ほう・・・、それはつまり私は能天気で、頭が足りない女だと・・・、遠回しに言っているのかしら?」

  そんな雰囲気を当ててくる撫子に、動じるわけでもなく軽く溜息を吐く華琳。

  「前言撤回・・・。あなたは前向きなのではなく、物事を『極端』に考え過ぎなのよね」

  「・・・まぁ、そんな事はどうでも良いわね♪」

  先程までの鬼気迫る雰囲気は何処にいったのやら・・・、一変して穏やかな雰囲気に戻る撫子。

  「あなたがそう言うのは、今の自分と心の中の自分との考えが噛み合わず、右往左往していると

  いった所かしら?」

  撫子は母親が子供に語りかけるように、華琳に微笑みかける。

  「・・・その通りよ」

  自分に微笑みかけてくる撫子に渋々答える華琳。

  「あら、随分と素直なこと・・・。普段からそれくらい素直なら良いのに・・・」

  「一言余計よ。それにこんな事・・・、あなたでなければ言えないわよ」

  「あと、一刀様の前でも、・・・ね?」

  「本当に一言余計な事を言うわね。」

  先程から余計な事を言ってくる撫子に、華琳は大人げなくカチンときていた。

  「でも事実でしょう?」

  「・・・・・・知らないわよ。」

  撫子から顔を背け、ぼそっと喋る華琳。

  「あぁん♪もぅ、華琳ったら・・・、可愛過ぎるぞ、このこの〜♪」

  「・・・・・・」

  華琳の頬を指でつんつんと触る撫子。

  「もしかしてあなたは、『覇王』という肩書があなたが素直にさせないと・・・、邪魔していると考えて

  いるのかしら?」

  「えぇ、その通りよ。・・・皮肉なものよね。他ならぬ自分がそう望み、その道を選んで進んで来たと

  いうのに・・・それが今、私自身を苦しめているのだから・・・。私が今そうしたいと望んでいる事を

  そうさせまいと、私に絡みついてきて離れない・・・って、いつまでやっているの!」

  先程からずっと自分の頬をつんつん突いてくる撫子に、我慢の限界だと言わんばかりに声を荒げる華琳。

  「あらあら・・・ごめんなさい。あなたが全然反応してくれないものだから・・・。とりあえず、突っ込み

  を入れるまで頑張ってみようかな、と・・・」

  「突っ込み待ちのボケ担当はすでに間に合っているのよ」

  それは風の事かと、心の中で呟くと、撫子は咳払いをする。

  「・・・そうね。なら、私はあなたのボケに突っ込みを入れる突っ込み担当に回ろうかしら?」

  「何ですって?私がいつボケたというのよ!?」

  「先程からボケ倒しまくりでは無いかしら?『覇王』の肩書が自分を素直にしないだ、邪魔するだ、

  絡みついてくるだと、何を寝ボケた事を・・・。華琳、『覇王』の肩書があなたにそんなひどい事をした

  事なんて一度たりとも無いのよ」

  「どういう意味よ、それは・・・」

  撫子の言葉が理解できず、華琳は撫子に聞き返す。

  「『覇王』なんて所詮は肩書・・・、それ以上のものでも、それ以下の物でも無い。ただの言葉でしか

  ないの。だけど、あなたはその言葉に勝手に意味を持たせ、『覇王』という偶像を作り上げた・・・」

  「・・・・・・」

  華琳は黙って撫子の真面目な話を聞く。

  「だけどその偶像はあなたが知っている昔の偉人の姿や言葉を借りているだけ・・・。その偶像こそ、覇王

  なのだとあなたは勝手に決め付けて、自分もそうであろうとするから、結果として自分の本心と偶像とで

  ずれが生じてしまうのよ・・・」

  撫子の言葉は華琳の身にひしひしと染み渡っていく・・・。

  「・・・まぁ要するに私が言いたいのは、『いつまでも猿真似芝居なんかしてんなよ!』って事なのよね」

  「さ、猿真似って・・・」

  「『他人』を演じる事なんて誰にも出来ない。『自分』を演じる事が出来るのは、他ならない『自分』だけ。

  それは華琳、あなたも例外ではないはずでしょう?・・・誰かの『覇王』でない、あなただけの『覇王』が

  あっても良いのではないかしら?」

  「私だけの『覇王』・・・ねぇ」

  しかしそれでは自分が今まで築き上げてきた覇王像と大きくかけ離れてしまわないだろうか?

 そんな事になれば、皆がどう思うだろう・・・?複雑な心境が華琳を迷わせる・・・。

  「私も、春蘭も、秋蘭も、他の皆様方も・・・、そして一刀様も。誰一人としてあなたの築いた『覇王』では

  なく、他ならぬ『あなた』を慕って、そしてあなたの側にいる・・・。例え、自分だけの覇王が今まで築き

  上げてきた覇王と大きくかけ離れてしまおうが、それであなたを見る目が変わる事は決して無いわ・・・」

  「撫子・・・、ぁ」

  華琳は不意に撫子に手を引っ張られ、そのまま彼女の胸元に倒れこむ。撫子は何も言わずただ華琳の肩を

 抱きしめ、頭を優しく撫で始める。

  「・・・ありがとう、撫子」

  華琳はただそれだけを言って、撫子にされるがままにになる。・・・それから数刻後、左慈との一騎打ちで

 満身創痍となった一刀が本陣に運び込まれる。誰よりも早く彼の元へと駆け寄った華琳。ボロボロになった彼

 の姿を見て、華琳は一つの、大きな決断をする。その決断を、もはや誰一人として、邪魔をする者はいなかった。

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第二十四章〜一刀、それは希望という名の剣なり・中編〜

 

 

 

  洛陽で新たな決意を抱いた一刀がその姿を消す数刻前。

 場所は変わり、洛陽より東方に位置する泰山。

 

  泰山

 現在、世界遺産に登録されている標高1,545mの山脈であり、中国五大名山の一つとされている。

 また、道教の聖地でもあり封禅の儀を行う場として、始皇帝を初めとした歴代の皇帝が泰山に登る

 ようになったとされている。

  主として泰山府君と泰山娘娘が祀られており、泰山府君は病気や寿命、死後の世界の事など、

 生死に関わる事全般、碧霞元君は出産などの女性に関する願い事全般に利益があると信じられている。

 (他に眼光??も祀られており、目に利益があるとされている。)

                       ※wikipedia、中国の世界遺産・・中国まるごと百科事典を参照

 

  その泰山の麓には、洛陽から出立していた魏全軍が到着し、進軍の準備を開始していた。

 泰山への道を塞ぐように、麓には城塞が建造されており、今の所、その城塞を抜けていく他に頂上へと

 辿りつく事は出来なかった。

  「華琳様!全軍、進軍の準備が完了しました!!」

  春蘭が報告をし終えると、華琳は軽く頷く。そして王座から立ち上がり、全兵士の前に出ていく。

  「聞け!曹魏の勇敢なる兵士諸君っ!!!」

  魏王としての風貌を背負った華琳は整列する兵士達に、檄の言葉を掛ける。

  「私達が命を賭して、ようやく手にする事が出来た平穏を破り、再びこの大陸に動乱を巻き起こした

  輩の根城が、この先の泰山の頂上にある!奪われた平穏・・・、今こそ連中から取り返すっ!!

  今まで嫌と言うほど煮え湯を飲まされてきた分、向こうにたっぷりとお礼をしてやりなさい!!」

  「「「「「「応ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」」

  華琳の言葉に兵士達は武器を掲げ、大声を上げる。その声は空気を震わせ、皮膚にひしひしと刺激する。

  「勇ましく、猛々しく戦え!我等曹魏にあだなした愚か者共を一人残らず地獄に導け!!」

  その雄叫びに呼応するかのように、華琳の声も大きく、より遠くへと響き渡る。

  「これより魏武の大号令を発す!!その命を燃やし、敵を焼き尽くせ!!全軍構え!!!」

  そして兵士達は武器を一斉に構える。その矛先は目の前に立ち塞がる城塞。

  「突撃ぃぃいいいいいいっ!!」

  その勢いに乗る様に、春蘭が威風堂々の立ち振る舞いで兵士達を先導していく。行く先は泰山の頂上

 に存在する道教の神殿。城塞に突撃をかけた魏軍の兵士達、それに合わせるかのように城門が開き、

 濁流の様な勢いで大量の黒い影が飛び出していく。そして影達は勢いよく飛び出し、突撃して来る

 兵士達へと次々と突撃していった・・・。

 

  そんな華琳達、魏軍の姿を遠くから見下ろす様に見ている。その瞳に生の輝きは無く、

 生の無い、虚の輝き・・・。その瞳は一体何を映し出しているのだろうか?

  「・・・これで、いいんですよね?」

  その後ろに立っている人物に確認の意味で尋ねる。その人物は声に出さず、代わりに笑みで返す。

 その人物の笑みを見ると、再び華琳達を見る。彼女達の為そうとしている事が、その少女には・・・

 理解が出来なかった。

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  「突撃!突撃ぃぃいいいっ!!!」

  「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」

  剣を振り上げ、叫ぶ春蘭。そして雄叫びをあげながら、敵へと突撃していく曹魏の兵士達。

  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュゥウウッ!!!

  「ッ!?!?」

  春蘭が放った横薙ぎが黒尽くめの兵士の胴を切り裂く。

  「ふんっ!芸の無い連中だ!」

  春蘭の部隊を筆頭に、外史喰らいの黒尽くめの傀儡兵をなぎ倒していく。今まであれ程に苦戦を

 強いられていたはずの相手にも関わらず、臆する事無く立ち向かっていく。戦力はほぼ均一し、魏軍の

 方が押している状況であった。

  「・・・・・・」

  最前線から少し離れた後曲から、華琳はこの現状を把握していた。

  「華琳様、夏侯惇隊が軍の先頭に立つ形で向こうの軍を城塞側へと押し込んでいる様子です」

  華琳の横から稟が前線の状況を逐一報告していた。

  「今の所は、都合の良い程にこちらが優勢の様ね・・・」

  「やはり華琳様もまだ向こうに何か手を隠していると?」

  「籠城戦を展開せず、こちらに合わせて突出してきたわ。連中の事よ、何かを隠しているはず。

  稟、張遼隊と李典隊を左翼右翼まで前進、夏侯惇隊と歩幅を調整しながら陣を展開させなさい!」

  「御意っ!」

  そして稟は一人の兵士に指示を送ると、その兵士は稟に一礼し、その場を離れると複数の兵士を連れ、

 本陣から飛び出していく。

  「向こうの戦力がこの程度では無いはず、必ず何処かで増援があるはず。・・・私達の方は、まだ

  来そうにないわね」

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  「弓兵構え・・・、撃てぇっ!!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭の掛け声に合わせて弓兵たちが一斉に突撃を仕掛けて来る傀儡兵達に向かって矢を放つ。

  「・・・姉者の隊がいささか突出しているようだな」

  今、魏軍の陣形は春蘭の隊が他の隊を引っ張っていく形で(>←こんな感じ)展開されている。

 今の流れを考えれば、それも悪い形ではないだろう。だが向こうがこのまま終わるわけがない。

  

  「押せ押せぇぇええっ!!我が曹魏の恐ろしさ、奴らに思い知らせろ!!」

  「ちょい春蘭様ぁ!待ってくださいなぁ!」

  「ほんまやで春蘭!でしゃばり過ぎるんもほどほどにしぃや!!」

  本来の陣から突出する形で隊を進めていた春蘭に稟の指示に従って後ろから追いつく霞と真桜。

  「霞!真桜!お前達も来たのか!?」

  「来たのかって・・・!春蘭様達が飛び出し過ぎなんですって!」

  「そうやで!もうちぃっと周りに合わせろやって!」

  「ふん!ならば、お前達が我々に合わせればいいだけの事だろう!気合が足りんぞ!!」

  「「・・・・・・」」

  やや開き直り気味に言う春蘭に二人は言葉を失う。

  「とにかくこのまま押し切りさえすれば・・・」

  その時、城塞の城門が再び開かれる。

  「ん?」

  いきなり開いた城門に目をやる春蘭。

 そしてその城門から濁流の様な勢いで飛び出してくる大量の傀儡兵・・・、さらに城門からでは足りん

 と言わんばかりに、城壁の上から壁を伝いながら下へと降りて行く傀儡兵。黒尽くめの傀儡兵によって

 城塞の壁は黒く塗りつぶされてしまったようになっている。城壁から出て来るや否や、傀儡兵は魏軍の

 方へと突撃を仕掛けていった。

  「な、何ぃぃいいい!!!まだこれだけの兵を隠していたのか!?!?」

  「いや、それは最初から分かりきったことやないか・・・!」

  「せやけど、姐さん!この数は半端やない!さっきの倍以上はおるでぇ!!」

  「それがどうした!先程の倍以上にいるならば先程の倍以上に叩き切ればいいだけの事だ!!」

  「なんやねん!!その春蘭理論は!?!?」

  「言うとることは分かるんですけどそれは無茶ってもんやでぇ!?」

  「だぁああ!!四の五の言っておる暇があるならば、手を動かせぇ!!来るぞ!!」

  「しゃーない!誰か後曲の秋蘭達を連れて来てくれへんかぁ!!!」

  

  「敵さんは増援を出してきたようですね〜」

  後曲から秋蘭と同伴していた風がいち早く戦況の変化を察知する。

  「そのようだな。もっとも、数で言えば先程の倍以上か・・・」

  「こちらも先の戦闘で戦力を消費していますから・・・、その倍以上が増援で来るのは、

  こちらとしては少しよろしくないですね〜」

  「どうするのだ?」

  「華琳様に状況を報告して本隊を動かしてもらった方がよろしいかと。風達も前線の春蘭ちゃん

  達と合流しましょう」

  「それが妥当だな。誰かあるか!」

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  「はぁあああああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  「でぇやぁあああっ!!!」

  ブォウンッ!!!

  「でぇえいいいいっ!!!」

  キュイイイィィィィィィンッ!!!

  片端から傀儡兵を薙ぎ倒していく三人。それでも一向にして向こうの戦力が削がれる様子が無かった。

  「なぁ、さっきから思っとたんやが・・・」

  ふと、霞が気になっていた事を口にする。

  「何だこんな時に!!」

  「うちらが敵さん方を倒す度に城塞の方から敵さんが新しく出てきとる気がするんやけど・・・」

  「何だとっ!?はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「違うで姐さん、新しく出てきとるんやない・・・。増援が出て来た時からずっと出てきとるん

  よ、あれ」

  と霞に真実を伝える真桜。

  「真桜、それはどういう意味だ!?」

  真桜の言う事がよく分からない春蘭。

  「増援がずっと出っぱなし・・・。そういう事でっせ、春蘭様」

  真桜なりに分かりやすく解釈で説明する真桜。

  「・・・底なしなんか。連中の兵数は・・・」

  そうもしている間にも傀儡兵の数は増加していく・・・。すでに兵数は前線の魏軍兵のそれを超え、

 もうじき全兵数に達しようとしていた。

  

  「華琳様、後曲の風から報告です。敵軍の増援により前線が押され始めているのとの事。

  本隊を前線まで動かして欲しいとの事です」

  風から新たに入った報告を華琳に説明する稟。それを聞いた華琳は案の定という顔をする。

  「そう、向こうは数の暴力で私達を潰す気の様ね・・・」

  「現在、敵の兵数はこちらの全兵数を超えようとしています。一兵当たりの戦力がこちらを

  上回っている事を考えれば、これ以上増加されては・・・」

  少し考え込む華琳。そしてすぐに考えを固めると、王座から立ち上がる。

  「・・・本隊を動かしましょう。本隊は私自らが率いていくわ!稟、あなたは風と合流し各将達

  に全戦力を前線に注ぐよう伝えなさい!」

  「御意っ!」

  華琳に一礼すると、稟は近くに待機させていた自分の馬にまたがり後曲へと向かっていった。

 

  外史喰らいにとって、この戦いに大した意味など無い。華琳達が何をしようが、結局は無意味なのだ。

 そしてあと二,三日もすれば一刀は勝手に死んでくれる。そうなれば、後はこの外史を消せば、こちら

 の勝ち・・・全ては無に還元される、という事になる。外史喰らいからすれば、この戦いは戯れにしか

 過ぎなかった・・・。

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  後曲、本隊が前線に出るという状況にも関わらず、覆った戦況を再び覆す事が出来なかった。

 傀儡兵の数に押され、魏軍は前進するどころか後退する一方であった。

  「ちょりゃああああああっ!!!」

  ブォオオオオオオッ!!!

  ドガァアアアアアアッ!!!

  「おぉりゃああああああっ!!!」

  ブォオオオオオオッ!!!

  ドガァアアアアアアッ!!!

  季衣と流琉の一撃が周囲の傀儡兵を横に払い飛ばす。その攻撃網を潜り抜けた一人の傀儡兵が二人の

 横をすり抜けていく。

  「はぁあっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュゥウウッ!!!

  「ッ!?!?」

  だが、その一人も華琳の一撃に斬り捨てられる。

  「前線を突破され始めたようね・・・」

  すでに前線を突破し、華琳のいる所まで突破してきた傀儡兵が増えつつあった。しかし、不思議な

 事に華琳は春蘭達が苦戦する傀儡兵をいとも容易く倒していく。

  「さっすが華琳さま♪」

  傀儡兵を一撃で薙ぎ倒した華琳に感心する季衣。

  「華琳さま、このままだと陣形が持ちません!」

  「華琳様。流琉の言う通り、確かにこのままでは陣形が崩壊しかねません。」

  「そうね。前線を固める必要があるわね・・・。私達も前線まで出るわよ!!皆、私に付いて

  来なさい!!!」

  「「「応ぉぉぉおおおおおおっっっ!!!」」」

  

  その時、城塞の上を一つの影が過る。

 

  その影は優雅で、そして兇器な二枚の翼を大きく開き、時に羽ばたかせる。

 

  その華奢で小さな姿、だが時に鷹の様な猛々しさを見せる。

 

  そして影は戦場へと舞い降りていく・・・。

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  「はぁっ!でやぁ!」

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオッ!!!

  「ッ!!」

  春蘭は傀儡兵の二本の爪を振り下ろした太刀で叩き折る。

  「もらった!!」

  春蘭は止めの一撃を傀儡兵に太刀を振り下ろそうとした瞬間、傀儡兵の背後から何かが近づいて来る。

 春蘭が気付いた時にはすでに太刀を振り下ろしていた。

  ザシュゥゥウウウッ!!!

  近づいてきた何かが傀儡兵の首を跳ね飛ばし、春蘭が振り下ろした太刀を叩く。

  ガギィイイイッ!!!

  「ぐわぁっ!?」

  太刀は横に弾かれ、太刀を握っていた春蘭は体勢を崩しその場に倒れる。首なしとなった傀儡兵は

 足元から崩れ、その場に倒れる。

  「・・・何だ、今のは?」

  春蘭は状況を把握するため周囲を見渡す。そして自分の上を影が通り過ぎるのを見ると、それを

 追いかける。

  「・・・!」

  何だ、あれは・・・とその影をその二つ目で捉える春蘭。自分達の頭上のはるか上を旋回している影、

 鳥にしては大きく、その姿からしてもあり得ない。その姿はどちらかと言うと人間そのものだった。

  「何だ、あれは・・・鳥・・・いや人間か?」

  その正体が分からない存在に呆気にとられる春蘭。

 そして鳳凰は旋回を止め、現状維持の体勢を取るとくるり横に一回転する。

  ガチャ・・・ッ!

  何かが外れるような音がする。一回転した鳳凰は背中の二枚の翼を大きく広げた。

  二枚の翼に付いていた鋭利な刃となった数十枚の羽達が一斉に翼から離れ、四方八方へとまるで

 意思がある様に飛んでいく。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  「ぎゃあああっ!!!」「・・・ッ!!!」「がぁあああっ!!!」「・・・ッ!!!」

  そして地に足を付けて戦っていた傀儡兵と魏軍兵達を見境無しに、その体を刺し貫いていく。

  「な・・・、あいつ!敵味方関係なく・・・!」

  向こう側の者かと思っていた春蘭は、仲間である傀儡兵を殺す鳳凰に驚愕する。

 羽一枚当たり一人を殺害すると、刺し貫いた者から離れ、再び鳳凰の翼へと自分から戻っていく。

 その中に肉塊となった魏軍兵を刺し貫いたまま戻ってきた羽が一枚あった。

  ブゥオンッ!!!

  ザシュウウウッ!!!

  鳳凰はその肉塊となった魏軍兵を左側の翼で胴体を切り裂くと、最後の一枚も翼に帰って行く。

 二つに分かたれた肉塊は異なる場所にドサッと落ちる。

  「くそ・・・!」

  同胞の死体を無残に切断する様を見せつけられた春蘭は顎に力を込める。だが、肝心の鳳凰は

 自分の頭上はるか上、太刀の届かない所にいた・・・。

  「弓兵っ!あの敵に一斉発射!!」

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭の掛け声に合わせ、鳳凰に向かって一斉に矢を放つ弓兵部隊。

 大量の矢が鳳凰に向かっていく。だが鳳凰は二枚の翼で自分の身を隠すと、矢はその翼に空しい

 金属音を立てながら次々とぶつかる。

  「くぅ・・・っ!」

  矢では通用しない事に少しばかりか焦りが生じる秋蘭。唯一の攻撃手段が通じないとなると、他に

 どんな手があるかそれを思索しようとするが、そうさせまいと鳳凰が動き出す。二枚の翼を広げながら、

 鳳凰は秋蘭達がいる場所へと急降下していく。

  「っ!?お前達この場から急いで離れろっ!!」

  こちらに飛び込んでくる鳳凰から逃げ出す弓兵達。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  逃げ遅れた弓兵は鳳凰の二枚の翼に体を切り刻まれ、肉塊が地面に転がる。

 再び空へと急上昇していく鳳凰の翼は兵士達の血で濡れ、先端から血の雫が滴り落ちる。

  「秋蘭、大丈夫かっ!?」

  秋蘭の元に春蘭が駆け付ける。

  「あぁ、何とかな・・・・。しかし、困ったものだ」

  そう言って、秋蘭は上空を優雅に旋回している鳳凰を見る。

  「・・・どうしたらいいんだ!いくら何でも空を飛んでいる奴など、私は相手にした事はないぞ!」

  「それは姉者だけに限った事では無いさ」

  「春蘭様!」

  「秋蘭様!」

  と、そこに事の事態に気付いた凪と沙和が駆け付ける。

  「凪、沙和。無事だったか・・・」

  「お二人共もご無事の様で」

  「でもぉ、すごく苦しいかもなのぉ・・・敵さん達は増える一方で、兵士の皆も疲れ始めているのぉ」

  「それとあれもな・・・」

  そう言って、秋蘭は顎で鳳凰を指し示す。

  「あの姿・・・、以前隊長を襲ったのとよく似た外装だ・・・」

  鳳凰の姿を見て、麒麟を思い出す凪。それを聞いて秋蘭はやはりと確信する。

  「やはり・・・、ではあれも向こう側の存在と言う事か」

  「だけど、あの鳥さん・・・さっき味方の敵さん達も・・・!」

  「・・・代わりはいくらでもいる、恐らくそう言う事なのだろう」

  「しかし、まずいぞ秋蘭。早くあれを何とかしなければ、前線が崩れかねないぞ!」

  春蘭の言う通り、ただでさえ疲弊している中での鳳凰の登場は兵士達の士気を大きく削る事となった。

 この状況を打破しなくては前線が崩れるのも時間の問題となっていた。

  「あ・・・!奴が移動を始めたぞ!」

  何かを見つけたかの様に、鳳凰は旋回を止めると、翼を大きく羽ばたかせ、春蘭達の上を過ぎていく。

  「・・・いかん!あの方向には華琳様が・・・」

  「・・・っ!」

  「大変なのっ!!」

  「・・・行くぞお前達!華琳様をお守りするぞ!!」

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  「はぁあああっ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ッ!?!?」

  「華琳さまに近づくなぁあああっ!!!」

  「おぉりゃああああああっ!!!」

  ブゥオオオンッ!!!

  バコォオオオッ!!!

  「ッ!!!」「ッ!!!」「ッ!!!」

  「大丈夫ですか、華琳様!?」

  周囲を傀儡兵達薙ぎ払うと、流琉と季衣は華琳の元へと駆け寄って行く。

  「えぇ、あなた達のおかげよ」

  そう言って、季衣と流琉に微笑む華琳。

  (・・・とはいえ、このままでは数に押されてしまう。後もう少し、何とか前線を

  持ち堪えさせないと)

  一方で、この現状が芳しくない事を言葉にせず頭で理解する。

  ブォオオオッ!!!

  「・・・っ!?」

  華琳は何も言わず、目の前に立っていた二人を横に突き飛ばす。

  「わわぁっ!?」

  「きゃぁっ!?」

  季衣が流琉の上に乗りかかる形で横に倒れる二人。そして華琳の前方から鳳凰が低空下から翼を

 広げ突進して来る。

  ザシュッ!!!

  鳳凰の翼の先端が華琳の右横をかすめる。寸前で避けた華琳のツインテイルの右側と髑髏を模した

 髪留めが宙に舞い、地面に落ちる。華琳の髪束は地面に落ちるとその衝撃で散らばってしまう。

  鳳凰は再び上空へと舞い上がると、華琳を上空から見下ろす。

  ガチャ・・・ッ!

  二枚の翼を横に広げる鳳凰、翼から数十枚の羽達が離れ、その先端を華琳に向け一斉に華琳に

 飛んでいく。

  「・・・・・・っ!!」

  正面、左右横から飛んでくる羽達によって華琳は逃げ場を失う。華琳は無駄だと分かっていても

 絶で防御を張ろうとする。そこにようやく春蘭達が駆け付ける。

  「「華琳さまぁ!」」

  叫ぶ季衣と流琉。

  「「華琳様っ!!」」

  叫ぶ凪と沙和。

  「「華琳様ぁあああっ!!!」」

  叫ぶ春蘭と秋蘭。そして・・・

  「華琳ーーーーーーーーっ!!!」

  その瞬間、華琳の横を風が吹き抜けた・・・。

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  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  数十枚の羽が刺し貫く音・・・。

  「う、うわぁああああああああああああ・・・・・・っ!!!」

  ドサァッ!

  悲痛な叫びをあげ、春蘭がその場に崩れる音・・・。

  ザザザァァァアアアア・・・ッ!!

  砂煙をあげながら地面を滑る音・・・。

  「姉者・・・」

  秋蘭は片膝を折って、項垂れる春蘭の肩を持つ。

  「うぅ・・・、かりんさまぁ〜・・・」

  「姉者、顔を上げてみろ・・・」 

  「・・・?」

  秋蘭に言われ、恐る恐る顔を上げる春蘭。涙目で歪んでいたが、春蘭には分かった・・・。

 どうしてそこにいるのかは分からなかった。だが、そこあるのは間違い無く彼の背中であった。

  「・・・大丈夫か、華琳?」

  一刀は自分の胸に抱えていた華琳に尋ねる。

  「一刀・・・。あなた、どうしてここに・・・?」

  華琳は一刀に抱きかかえられながら彼に尋ね返す。

  「質問を質問で返すなって。まぁ、その様子なら大丈夫の様だな」

  一刀はゆっくりと立ち上がると、抱えていた華琳を地面に立たせる。

  「か、華琳さまぁ〜〜〜っ!!!」

  がばぁっ!

  「きゃ!?ちょっと、春蘭っ!」

  大粒の涙をぼろぼろと零しながら華琳の腰に抱きつく春蘭に華琳は思わず驚いてしまう。

  「華琳さまぁ〜〜〜っ!!!」

  がばぁっ!

  そして季衣も満面の笑みで華琳の腰に抱きつく。

  「な・・・ちょ!季衣あなたまでっ!?」

  「華琳さま〜♪華琳さま〜♪」

  「良かった・・・、本当に良かったです〜!華琳さま〜〜〜!・・・北郷!恩に着る!本当に

  ありがとう!」

  「春蘭、・・・お前も泣いたり、礼を言ったり、・・・忙しいな」

  「「隊長っ!!」」

  「兄様!」

  そんな一刀の元に駆け寄る凪、沙和、流琉。

  「凪、沙和、流琉。すまん、来るのが遅くなった」

  「しかし北郷、何故お主がここに・・・?」

  秋蘭は洛陽にいたはずの一刀が何故ここにいるのか理由を求めてくる。

  「それは後で話す。・・・まずは、あいつを何とかするのが先だ」

  そう言って、一刀は羽を回収し終えた鳳凰を見ると、それに釣られる様に秋蘭も鳳凰を見る。

  「そうだな。色々と聞きたい所だが、今はそちらに専念しよう」

  「華琳・・・?」

  一刀は華琳の方をもう一度見ると、ようやく季衣と春蘭から解放されていた。

  「・・・そうね。一刀、今は敢えて何も聞かないわ。でも後でちゃんと話してもらうわよ」

  「そうだぞ、北郷!お前は華琳様の言う事に背いたのだ。後でちゃんと聞かせてもらうぞ!」

  「・・・・・・」

  先程まで子供の様に泣きじゃくっていた春蘭の切り替えの早さに逆に感心し、言葉を失う一刀。

  「な、何だ・・・その目は?」

  「・・・いや別に。後で、ならいくらでも喋るさ」

  「そ、そうか・・・」

  春蘭との会話を終えると一刀は刃を鞘から抜き取る。

  「では一刀、この場はあなたに任せるわ。秋蘭、あなたは一刀の援護に回りなさい!」

  「はっ」

  「なら私も・・・!」

  「他の子達は私と一緒に前線を立て直すわよ!」

  「「「はっ!」」」

  「なら私はここに・・・!」

  「姉者は華琳様と行け」

  「何だとぉっ!?」

  「春蘭、前線の持ち直しにはお前の力が不可欠になる。ここは秋蘭の言う通りにするべきだと思うぞ」

  「し、しかし・・・!」

  「春蘭」

  「姉者」

  「・・・・・・分かった」

  「話は終わったかしら?」

  「はい!急ぎましょう、華琳様!!」

  華琳は春蘭達を引き連れ、前線へと戻って行く。一方でその場に残った一刀と秋蘭。

  「こうして組むのは初めてだな」

  「あぁ、足を引っ張ったらごめん」

  「問題無い。そのために私がいるのだ」

  「・・・そうだな。なら、行くか」

  「うむ」

 

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。
皆さんおひさしぶりです。先週、大学の試験だ、やっと書いても、その内容に納得いかずその半分を大きく修正したりした結果、投稿予定が大きく狂ってしまいました。しかも、今はとても時間に追われている状態で、せっぱ詰まりそうな思いです・・・。
 さて、そんなこんなでやっと第24章中編、後編も出来る限り早く投稿するのでよろしくお願いします。
 では真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十四章〜一刀、それは希望という名の剣なり・中編〜をどうぞ!!
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コメント
スターダストさん、報告感謝します!あと、その件については僕も考えておきます。(アンドレカンドレ)
一刀ついに参上!!やっぱヒーローはヒロインがピンチの時に登場するのがお約束だねw<今までと比べると絵が凄く上手く為ってる!?<前作で耳がピカチュウみたいって言って思ったんだけど、桂花にピカチュウパジャマ着せたの書いてみてくれません?(スターダスト)
3p「突出していきたわ」「からまで前進」 5p「この戦いも」 7p「太刀を二本の爪を叩き」「その姿は土どちらかと」・・・土? 8p「周囲を傀儡兵達薙ぎ払うと」(スターダスト)
いいとこに現れるなこの種馬www(キラ・リョウ)
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真・恋姫無双 恋姫無双 二次創作 魏ルート 華琳 一刀 エンドアフター SS 

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