行きて戻らぬ者へのバラッド1
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100年神獣ヴァ・メドーの内部に取り残された僕は、先日の戦いで無事故郷に戻ることができた。

伝説の英雄が村に戻ったことで、子供たちは親の陰からひょいひょいと顔をのぞかせる。

 

いつでも討ち死にの覚悟が出来ている。

だからこそ、大げさな埋葬など不要だと言ってもリンクは納得しなかった。

 

リンクと族長の手配により、僕の像がつくられ、絵描きも呼ばれて肖像画も作られた。

 

「君はよほど余裕があるんだね」

なかばあきれた。さっさと姫を助けに行けばいいのに、と。

 

「まさか他の奴らも全員こうやって救い出してるとか?」

「うん」

「魂を解放するだけじゃなくて…?」

「俺が戦友を放っていけるわけないだろ」

目を丸くして、言葉に詰まった僕に連は続けた。

「俺、ずっと不思議だったんだよ。あの怨霊にまつわる伝説がね」

「ああ、怨霊が復活してハイラルの国が危機に陥ると勇者が現れて、ってやつだな」

「インパに聞いたんだ。ホントのとこをね」

 

リンクが語るところによるとこうだ。

ハイラル王家は絶対的な立場に君臨していたように見えて、実はかなり貧弱な基盤しか持ち合わせていなかった。

 

天にます神の言葉を聞くために長い耳を持つという特徴以外に、これといったものがないのである。

 

対して砂漠の一族は高い建造技術を持ち、魔力に秀でたものも多かった。砂漠という恵まれない土地に押し込められながらもたくましく生き延びてきた彼らは、王家にとって脅威でしかなかった。

 

あるときハイラル王家は砂漠の一族の男性を取り立てると伝えた。ハイラル王家は美しく着飾って現れた砂漠の一行に突如として難癖をつけ、処刑したのである。その遺体は闇の神殿に葬られたという。

 

男手がなくなればさしもの砂漠の民も勢い削がれるものという王家の予測は外れた。

 

砂嵐に生きる女性はたくましく、商売の傍ら婿を探しある男児を得たのである。

 

それがのちに伝説で語り継がれる怨霊。当時はガノンと呼ばれていた。

 

砂漠の一族特有の焼けた肌に夕日と同じ色をした髪。砂漠の民が愛する月夜の前に現れる、太陽の息絶える姿でもある夕日の色。

 

ガノンは乳母の元でたくましく育ち、砂漠の王国復興のために奔走した。

 

その思いがもうすこし穏やかなものであれば、あれほどの悲劇につながらなかったであろう。

 

ガノンは盗賊王として、ハイラルの民を恐怖に陥れるに十分であった。

 

日中はまだしも、夜になるとガノンのしもべが政敵を葬り、国民もきっちりと門戸を閉めねばならなくなった。

 

本来であれば王族とハイラル人の安全を約束する堅牢な城壁も、ガノン到来後は泥で築いた土くれ同然となった。

 

ガノンは同胞の仇ともいわんばかりの勢いで、次々と魔の手を延ばした。

 

見かねた王家によって退魔の騎士が選ばれ、ガノンが命を落とすたびに同一の存在として転生し続けたのである。

 

とうとう耐えかねた王家は力の暴走しかけたガノンを完璧に封じるため、シーカー族の叡智に頼ることにした。

 

それが古代技術による機械兵器である。

 

王家は圧倒的な力でガノンを追い詰め、やすやすと封印した。

 

と、ここまでが正史である。

 

話を聞く猛の顔が、だんだん苦虫をかみつぶしたように歪み始めた。

 

実際はとらえたガノンに対し、王家の者たちはむごい扱いをしたという。興味本位の実験でガノンの体はつくりかえられてしまった。

 

黒い和毛(にこげ)に覆われた蜘蛛のような体。

 

機械兵器の部品を加工して作り上げた面をつけられたというが、当然敬意を払っての事ではないのは予想がつくだろう。

 

誇り高き悪の王ガノンは、王家のオモチャとなって地の底へと投獄された。

 

ハイラル国に渦巻く怨念こそが、そのガノンである。

 

「王家の恥部をよく明かしたものだな」

猛の顔は青ざめていた。

「半ば彼女を脅したようなものさ。なにせ俺しか直接頼む相手がいないんだから、条件を呑むしかないだろ?」

 

皺深い語り部の顔が赤らみ青ざめ、息も絶え絶えに語らせたことである。勇者の立場を利用してむごいことをしたと連はつぶやく。

 

「君が何を考えているのか、ますますわからなくなってきたよ」

僕は肩をすくめた。

 

「もし、あの怨霊にも墓があったら歴史が違ったんじゃないかと思ったんだ」

「想像するのは自由だけど、それを許す人がどれくらいいるんだかね」

「手ひどく扱われたら奴だって恨みたくもなるだろうさ」

「…それが僕たちを救った理由か」

連は答えなかった。気まずそうに鼻をすする音だけが聞こえる。

 

「僕たちは怨霊に化けるほどヤワじゃない」

「もちろんわかっている。でもこれは俺からのせめてもの反抗さ」

「は?」

「俺は猛たちの魂を機械兵器に縛り付けたくないだけだ」

「別にそんなことはない。あの怨霊をしとめるには僕たちの力が必要なんだから」

 

連はぼそりと呟く。

「かつて賢者と呼ばれた人達も、魂を縛られてきたんだそうだよ」

「…ッ?」

「俺達の役割は怨霊の封印。そのたびに大切な誰かを犠牲にしているのっておかしいだろ?」

だからこそ、怨念を鎮めよう。

英傑たちの魂も機械兵器の繰り手として永久に結びつけるのでなく、時が満ちれば転生できるようにしたい、と連は続けた。

 

「壮大な計画だな」

猛が笑った。

「国家のために喜んで礎になるのはごめんさ」

「ははは、その方が連らしいよ」

「環にもこの間、怨霊の伝説を教えてくれと頼んだんだ」

環ら砂漠の民にとって聞かれたくない話でもあったようだが、連の真意を知って力を貸してくれるそうだ。

 

「だからこの戦いが済んだら、俺は別の方法でハイラル国を平和にする」

「第二、第三の怨霊だって出てくるかもしれないよ」

「知ってる。でも最後ぐらい、きれいな顔で眠らせてやろうよ」

 

最後の最後がバケモノや魔獣の姿じゃ気の毒だから、と。

 

説明
2021年11月23日 16:25pixiv投稿作品。
怨念ガノンの魂を清め祓い、ハイラルに真の安寧をもたらすべく行動し始めたゼルダ姫のお話し。

ブレワイルートの世界で、トライフォース全部持ちの姫が英傑全員息返してでかくなりすぎたガノンを何とかする。

第一部完。第二部はそのうち。

■2話→https://www.tinami.com/view/1102346
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ゼルダの伝説 行きて戻らぬ者へのバラッド 

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