行きて戻らぬ者へのバラッド4
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ゼルダ達が研究に明け暮れ、男達が雑用で駆け回る。

 

昼間はやかましく城内をかけまわり、夜はたらふく食べて休む。

 

そんななか、城の影で顔を出すものがいた。

リンク達にほふられずに済んだ、ある小さなボコブリンである。

 

?

 

「やあ、あの旦那達はやっと寝たな」

小さな小鬼は心臓を押さえ、そろそろと城の外へと歩きだした。

 

ガノン復活のさいに参戦せず、こっそり逃げ回っていた彼は今や刈られる側である。

 

悪事を働かなかったから罰を受けぬのではない。

悪と同じ姿をしていれば容赦なく攻撃されるのを小鬼は知っている。

 

赤いボコブリンが地面に腰かけると、地中から骸骨が顔を出した。

「オメェ元気そうだな」

赤い小鬼はわなわな震えて後ずさりする。

 

「取って食ったりしねえや、おらぁ始まりの台地で世話ンなったボコの一郎よ」

聞き覚えのある声だったか、赤いボコブリンははっとして座り直す。

 

「一郎よ、なんでこンなとこに?」

「死んだあとまとめてあっちこっちに持ってかれたみたいでよう。夜の間だけだかこうやって生きとる」

「ガノンも完全に死んじまって、これからおれはどしたらいいだろなあ」

赤いボコブリンは空を見上げる。これまで彼らに命を与えた赤い月は二度と来ない。

 

ガノンなき今、彼らはただの小鬼となりちょっとしたイタズラ程度しかできなくなった。

 

かつては煮炊きをしたり、狩りをしていたのだがきっとそうした智恵が失われていくことを彼らは知らない。

 

人であれば、知識の失われていくのを悲しむことができよう。しかしガノンの庇護を失った彼らはただその日の空腹を満たすのに精一杯だから、そんなことをなげく必要もない。

 

「なぁ、朱一郎よ。おらぁの覚えてる話を覚えてってくれ」

傍らの骸骨、スタルボコブリンはどこからかくすねた骨付き肉を赤ボコの朱一郎に投げてよこす。

 

朱一郎は器用に受け取り、大きく口を開ける。

「うん。話してみいよ」

「だんだん忘れちまってるからよぉ、でも話しておきてんだわ」

骸骨の一郎は語り出した。

 

?

 

それは大昔のことだ。

ガノンドロフという大盗賊がいた。

 

そいつはゲルドを踏みにじったハイラル王国が許せねぇでよう、緑ゆたかなこの国をおっかねぇ国に変えたくてたまらなかったんだそうだ。

 

ガノンドロフは腕っぷしが強くてよう、頭も悪くねぇし蛮勇ってやつだった。

 

ハイラルに伝わる力の正三角、それこそ自分にふさわしいと言って聖地に押し入った。

 

万能の力を手にして、いざハイラルを作り替えてやろうと思ったんだろなぁ。

 

そしたらよお、それをみてたハイリアの女神さんが横やりをいれたんだと。

 

トライフォースってぇのは罪なもんで、それを前にすると神さんだってぇ血迷うもんだそうだ。

 

2人が同時に手にしたから、正三角は三つに割れてよう、力はガノンドロフ、智恵は女神に宿ったつぅわけよ。

 

勇気の正三角形は奪いあううちに小さく砕けちまってさ、地上へ飛び散っちまった。

 

だが、ガノンドロフは力の正三角形に満足したのよ。沸き上がる力は無限大だったからな。

 

ハイラルの創造神はよう、なにがわりいかどうかなんて考えねぇ。正三角形が3つに割れて、一番強い力の正三角形を適任の奴に渡したのさ。

 

それが荒れ狂う自然災害の化身、災厄の顕現として君臨したガノンドロフだ。

 

それに対して智恵持つ姫が、災厄を押さえるために毎回戦う。でもよう、智恵があるからって力をうまく使いこなせる訳じゃねえ。

 

すげえ臆病な姫もいたし、敵前逃亡しようとするのもいたんだそうよ。

 

まあ、姫巫女というても、全員が超人なわけねぇわな。そこで助太刀したのがぁ、勇気の正三角形をもったタダの人間さ。

 

ガノンドロフが暴れる度に、無作為で選ばれた奴が力を借りて戦うんだと。それが勇者よ。

 

で、戦い終わると勇者も姫も寿命を迎えて、魂が次に引き継がれる。

 

でもガノンドロフは災難だ。奴はとんでもない力を受け取っちまったから、転生するたびに体が劣化するのさ。

 

体の中に炎を抱えた、枯れきった大木を思い浮かべてみぃよ。あっという間に炎に焼かれちまう。

 

魔王ガノンドロフは自分の獣のような心を飼い慣らせなかったんだよ。毎回与えられた力を使いこなせなくてよお、膨れ上がった力のせいで毎度でかい豚のカッコになった。

 

毎回打ち倒されて、転生するたびにその体も魂もボロボロになったのさ。ハイラルに復讐を、ゲルドの復権を夢見るのはいいんだけどよう。

 

とにかくやたらめったら力を振りかざすから、ゲルド女にも嫌われてあいつは孤立したのよ。

 

力の正三角形は無限のエネルギーだからよう、欲しがるだけ無制限に供給されるんだそうだ。

 

智恵や勇気はどうしても元手がいるんだそうで。

本人の人格も円満であることが必要だし、恐れる心がなくちゃあ受けとれねぇもんだそうだ。

 

死ぬのが怖ええから学ぶしよ、恐れのねえ勇気はタダのバカだ。わかるだろ?

 

だからガノンドロフは可愛そうな奴だった。

 

力を求め、力を受けとる肉の器を持ってたからよう、あんなとんでもない力をもらっちまった。

 

ガノンさまはよぅ、ずっと火で焼かれながらくるしんどったよ。もっと力を、もっともっとと言いながらなぁ。

 

際限のねえ力はおっかねえもんだ。ハイラル人に手足を切られてよう、へんちくりんな部品を付けられたあたりで何かが壊れちまったんだなぁ。

 

自我がなくなってるから、切り刻んでも平気だろうなんて考えたらしいが。切られてる最中にガノンは正気に戻って、いっそう力を求めちまった。

 

可愛そうになぁ、あの人はほどほどを知らねぇから。ああやって無限に力を背負わされちまったのよ。

 

強い奴ほど気を付けろって、ガノンさまはよう、正気にに戻る数分だけいっとった。

 

姫も勇者も、一歩間違えば魔王になるぞってな。

 

まあ、智恵も勇気も小せえ人間しか受け取れねぇから、あんま関係なかったがな。

 

?

 

…なぁ、朱一郎よ。おらぁ眠くなってきたよ。

 

ガノンさまの力は消えつつあるなぁ。

 

今はあの姫様のとこにあるみてえだけどよ、またガノンさまのとこに戻るのは何年後だろうな。

 

そういって骸骨の一郎はゆっくりと崩れていった。

 

赤ボコの朱一郎はいつの間にか空が白み始めていることに気づいた。

 

「早く行かないと」

 

そう呟いたとたんに、頭に何かが激突した。

朱一郎はたまらず昏倒し、意識を失ったのである。

 

 

「姫、出歩くなら僕を呼んでよね」

朝の散歩に抜け出したゼルダを追いかけてきたリト戦士が文句を垂れる。

リトの戦士であるリーバルは、見た目に似合わぬ豪腕でボコブリンを引きずっていく。

ほんとはさわりたくもないのに、といって眉毛が11時5分の形につり上がる。

 

「ごめんなさい、でもさっきの話が気になるから」

「はいはい、姫は研究熱心だからね」

リーバルはフフフと笑って姫と歩調を合わせた。

説明
マモノへの聞き取り調査開始。

2022年2月6日 22:19にpixiv投稿分を再掲。
https://www.tinami.com/view/1102430←3話■5話→https://www.tinami.com/creator/upload/novel/edit/1103181
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