剣帝?夢想 第六話
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目の前で淡々と名乗った曹操の覇気に呑まれたのか、桃香がおずおずと口を開いた。

 

「え、えっと、私は劉備です」

 

「そう、いい名ね。あなたがこの軍を率いていたのかしら?」

 

「いえ、その私たちのご主人様が」

 

「ご主人様ぁ?」

 

桃香の発言を聞いて曹操が眉を顰めた。まぁ、これが普通の反応だろう、と思いながら一歩前に出た。一歩前に進み出たレーヴェを曹操は少し不審げな様子で見上げてきた。

 

「オレが一応そのご主人様というやつだ。その呼び方に納得しているわけではないがな。名はレオンハルトだ。またの名を『剣帝』」

 

「レオンハルト…聞いたことのある名前ね。それに『剣帝』なんて…大きく出たわね」

 

「そりゃそうですよー。ご主人様は最近噂の天の御使いなんですもん。それにとっても強いんですよー」

 

ご主人様、と人前で何度も呼ばれて最近では慣れたか、と思っていたがそうではなかったようだ。流石に初対面でそれなりの人物の前でだとなかなかに恥ずかしい。レーヴェはそう思いながらも曹操の反応を窺っていた。案の定呆れたような顔をしていた。

 

「天の御使い…ああ、あのつまらない噂ね。それが本当だと言いたいの?」

 

「さてな、別にそれを証明する方法がない以上、自分がそうだといくら言っても信じる奴は信じるし、信じない奴は信じないからな。だが、自分から言い張るつもりはないな」

 

「貴様!華琳様になんという口の聞き方を!」

 

隣にいた黒髪の女が激昂してくるがそれを曹操が止めた。

 

「やめなさい。この男の言うことも尤もよ。証明する手段がない以上、信じるか信じないかは人それぞれ。それで本物かどうかは別として、あなたがこの軍を率いていたというわけね…どうしたの?」

 

曹操は顔を強張らせたレーヴェに気づき、怪訝そうな顔をした。レーヴェは一瞬にも満たない間であったと思っていたが実際はそうではなかったらしい。カリン、という名を聞いた瞬間に体が条件反射のように強張ったのだ。だが、すぐに平静を取り戻すと口を開いた。

 

「いや、君の真名がオレの知り合いの名前と同じでな。少し、そう、ほんの少し驚いただけだ。…確かにオレが率いているが、オレだけの力ではないさ」

 

その後、レーヴェが涼しい顔でそう言ったのに曹操はすぐにレーヴェの表情から興味をなくし、感心したように頷いた。そして後ろに控える二人の女に向かって口を開いた。

 

「…春蘭、秋蘭。部隊に戻り、進軍の準備をしておきなさい」

 

「「はっ」」

 

そして二人が駆け去るのを見送ると、再び口を開いた。

 

「レオンハルト、と言ったわね。あなたがこの乱に乗り出したその目的は何?」

 

「オレは桃香…劉備の理想に賛同して軍を率いているからな。そういった理想なら劉備に聞いてくれ。彼女の理想は確かに甘いが、力を貸す価値は十分にあると思っている。…まぁ、このオレも甘くなったものだと思っているが」

 

「そう、あなたが統率者であるのは分かったわ。ならば劉備に問うわ。あなたの目指すものは何?」

 

曹操の試すような視線が桃香に突き刺さった。だが、今度は桃香は顔を上げて真正面から曹操の顔を見て口を開いた。

 

「私はこの大陸を、誰もが笑顔で過ごせる平和な国にしたい。だからそのためには誰にも負けない、負けたくないって思ってる」

 

「そう。ならばレオンハルト、劉備。今は黄巾党を討つために私に力を貸しなさい。あなたたちの力では黄巾党を独力で鎮めることはできない。だけど今は一刻も早く暴徒を鎮圧することが大事。違うかしら?」

 

曹操が傲慢とは少し違う、威厳に満ちた言葉をこちらに投げかけてくる。レーヴェにとっては命令口調というのは少し気に入らなかったが。

 

「それはその通りだと思う…」

 

「それが分かっているのなら、私に協力をしなさい。…そう言ってるの」

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その言葉に桃香が不安そうな顔でこちらを見てくる。それにレーヴェは視線で応えてから口を開いた。

 

「申し出を受けよう。確かに曹操と組めばこの動乱は早く治めることができるだろう。だが、こちらも黙って生きた的にされるわけにはいかない。だからこちらからも条件がある」

 

レーヴェの言葉に曹操は感心したような表情を浮かべていた。弱小勢力を味方につけて得をすることと言えば自身の兵力の損耗を抑えられることぐらいしかメリットはないだろう。曹操は、桃香はともかく、自分もその程度を見抜けないとでも思っていたのだろうか、とレーヴェは内心思っていた。

 

「言ってみなさい」

 

「オレたちは見てわかる通り、装備や糧食、資材が十分ではない。だから協力する見返りとしていくらかそれらを分けてほしい」

 

「…いいでしょう。それぐらいの条件なら呑んであげるわ。その代わりその分の働きはしてもらうわよ」

 

そして曹操はもう用はないとばかりに背中を向けた。

 

「話は以上よ。共同作戦については軍師同士で話し合いなさい」

 

そう言って曹操は去っていった。そして曹操が去っていったのを見て桃香たちは気の抜けたように息をはいていた。

 

「何かすごかったねー」

 

「はい、自信の塊のような方でしたね」

 

「鈴々にはあいつの言っていることが、ほとんどよくわからなかったのだ」

 

その言葉を聞いてレーヴェはやはり落ち着いたら最低限の学は鈴々に持たせようとひそかに決意していた。いくら武があってもあまりにも愚かでは兵に軽んじられる可能性がある。

 

「しかし、今は信用してもいいと思うが、これが治まったら曹操とは確実に対立することになる。桃香と曹操の理想は違いすぎる」

 

「やっぱり戦いになるのかな」

 

「ああ、桃香と曹操の理想は相容れない。曹操を完膚なきまでに叩きのめさなければ、桃香の理想は曹操の理想に喰われることになる」

 

レーヴェのその言葉に桃香は納得こそしていないようだったが、重い顔で頷いた。

 

 

「レオンハルトの軍と共同戦線を張る、ですか?」

 

「そうよ、レオンハルトの率いる部隊とともに黄巾党の本隊を叩くの」

 

「ふむ、そのためには少しでも多くの兵がいるほうがいいということですか」

 

「ええ、こんなところで我が軍の精兵を損耗するわけにはいかないわ。劉備の兵たちには生きた的になってもらいましょう」

 

うまくいけば、だけど。そう華琳は心の中でつけ足した。あのレオンハルトという男、華琳の目には油断のならない男だと映っていた。こちらの心を見透かしているような視線や、春蘭の恫喝を完全に無視していたような雰囲気。劉備はまだ発展途上と言ったところだったが、あの男は間違いなく英雄といえるだろう。『剣帝』と自らを称していたが、あの男の雰囲気からして自分からそう言いだしたのではなく、彼の武を知っているものがそう呼び始め、彼もそう名乗っているのだろう。

 

「本当にそれだけで?」

 

「英雄となれる人物を見つけて育ててみたいと思った。自分の心の中に、そういった成分が含まれているのかもしれないわね」

 

「華琳様の好敵手となり得ますかな。劉備とレオンハルトは」

 

「なればよし。我が覇業に華を添える、素晴らしき脇役となるでしょう。だけど秋蘭、一つ間違っているわ。あのレオンハルトという男は、間違いなく英雄よ。劉備は気づいていなかったけど、あの男は私があの軍を生きた的にしようとしていたのに気づいていたわ。そして春蘭の恫喝を完全に無視していたわ。そう、春蘭など路傍の石と変わりはないというように。いえ、武を認めてはいたが脅威となりえない、そう思っていたのかもしれないわね。この分だと、城門を叩き斬ったという噂も本当かもしれないわね」

 

「くっ、私は嘗められていたのか!」

 

華琳の言葉に春蘭が憎々しげに声を出した。秋蘭も厳しい顔をしていたが、何か思うところもあったようだ。一応はレオンハルトという男の噂も聞いていたのだが、城門を叩き斬った、一撃で二百の敵を両断した、三人にも四人にも分身した、というような噂であったので信じてはいなかったのだった。

 

「しかし、私たちのやることには変わりはないわ。レオンハルトの情報は逐一集めるとして、春蘭、秋蘭には期待しているわよ」

 

「「はっ」」

 

「桂花」

 

「お側に」

 

「レオンハルトとの事務的なやりとりは貴女に一任するわ。良きようにしなさい。それと向こうに糧食などの手配を」

 

「御意」

 

「部隊が整い次第、出陣する。…狩りの時間を始めましょう」

 

華琳は高らかに宣言した。

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その後、近くの邑から義勇兵を募ったり曹操軍から補充兵を宛がって貰ったりしてからレーヴェたちは占拠した陣地を放棄して、曹操軍の荀ケと、朱里、雛里の三人の決めた作戦に従い、黄巾党の本隊が跋扈しているという冀州へと進軍していた。随分長い間、行軍を続けているうちに全軍に停止命令が出され、目的地へと到着したようだった。

 

「いよいよ決戦かぁ〜…緊張するよ〜」

 

「桃香、そう緊張することはない。戦闘になったらここまで進軍させはしない。オレと愛紗、鈴々が敵を、そのことごとくを斬り伏せよう」

 

「そうです桃香様!…しかし流石と言うべきでしょうか。曹操軍の動き、見事というほかありません」

 

愛紗が感心した声で口を開いた。その点に関してはレーヴェも同意していた。練度はかなり高く、リベールのユリア・シュバルツやマクシミリアン・シードの率いる部隊と比べても見劣りしないだろうと感じていた。

 

「隊長の命令一つで動いたり、止まったり。すごいのだ」

 

「はい、良く調練されていて、本当に曹操さんが只者じゃないって分かります」

 

鈴々の言葉に雛里が小さく同意した。だが、今のレーヴェたちではどうやっても手が届かないものなので、いつかは、ということで我慢しておいた。

 

「それはオレたちがしっかりとした基盤を築いてからだな。ともかく朱里、状況の説明を」

 

「はい!荀ケさんから提供された情報によると、これから対峙する相手は黄巾党の中心部隊ですが、数はそう多くないようです」

 

数はそう多くない、そう聞いたときレーヴェは一瞬だけどういうことか、と思ったが、すぐにその答えにたどりついた。

 

「…主力部隊、ならびに張角は出払っているということか。だが、中心部隊がいるということは兵糧辺りはそこに保管されていそうだな」

 

「はい、あの場所には黄巾党の兵糧の約半分が備蓄されているようです」

 

自滅を誘う、ということか。レーヴェは内心でそう呟いた。数が多ければ多いほど兵糧は多く必要になる。それがなくなったとなれば部隊としては機能できなくなるだろう。

 

「まぁ、それなりの頭を持っていれば数で勝る黄巾党をできるだけ被害を抑えて討伐するには補給を断つのが一番だということは分かるか。」

 

「しかしこの場所のことはどうやって…」

 

愛紗は不思議そうな顔をしているが、その手段は別にそう多くはないだろう。

 

「買収でもしたんだろうな。誇り高いものもいれば下衆な人間もいるだろうからな」

 

「お金で情報を漏らすなんてサイテーなのだ」

 

「だが、オレたちにとっては助かるんだがな」

 

レーヴェは涼しげな顔で笑った。そのとき、曹操軍の伝令が走ってきた。

 

「レオンハルト軍は横隊を組み、号令とともに敵陣に向けて突撃せよ。我らは後方より弓による援護の後、すぐに後を追う!」

 

その言葉を聞いてレーヴェは冷めた視線を向けた。自身に向けられた冷たい殺気に伝令は恐怖に身をすくめたが、その場に踏みとどまった。

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「…貴様、どういうつもりだ。オレたちに先陣を切れ、というのか?」

 

「そうだよ!私たちの戦力じゃ時間稼ぎにもならないよ!」

 

実を云えばレーヴェ一人であの程度の雑兵はそう時間をかけずに殲滅できる。『剣帝』の名は伊達でも酔狂でもない。執行者の中でも最強の座に君臨し続けた、戦闘力ではヴァルターにも、蛇の使徒にも譲るつもりはない。第七使徒にだけはいまだ一歩譲るがいつまでもそのままでいるつもりはない。もう彼と戦う機会はないだろうが。だが、それでは意味がない。兵士にも、死線ぎりぎりの体験をさせなければならない。だが、今は死線どころではない、どう考えても死への一本道だった。

 

「は、はっ!そのお考えもごもっともです!しかしこの命令も曹操様にお考えあってのことなのです!レオンハルト軍に敵の目を惹きつけておいてもらい、その隙に我らが精鋭からなる特殊部隊を潜入させ、備蓄された兵糧を焼くのです。そうすれば敵は混乱に陥るでしょう。その混乱に乗じて総攻撃を仕掛けるのです」

 

伝令は冷や汗を流しながら曹操の考えを伝えてくる。レーヴェはその言葉に殺気を止め、頷いた。

 

「いいだろう。曹操を信用して時間を稼ごう」

 

「よろしくお願いします。では!」

 

伝令は助かった、というような顔をして去っていった。その伝令の姿が見えなくなったのを確認すると愛紗が口を開いた。

 

「我らを囮にするとは…一筋縄ではいかない人物のようですね」

 

「組織としての力の差がありますから…。こうなるのは仕方ないのかもしれません」

 

「オレたちもできるだけ早く組織化された軍隊を持てるようにならなくちゃいけないな」

 

レーヴェはそう言いつつ、自分専用の部隊の創設を考えていた。エステルやヨシュアとはいかないまでも、並以上の遊撃士くらいの強さを持った兵の一軍は欲しいところだった。

 

「そうですね…ではご主人様、私と鈴々は左翼と右翼を、ご主人様はいつも通り中央でよろしいですか?」

 

「ああ、大丈夫だとは思うが、気をつけてくれ。一瞬の心の隙が命取りになる。例え、どんな達人であろうとも」

 

オレ自身がそうだったように。レーヴェは心の中でそう付け加えた。レーヴェの言葉に二人は力強く頷き、部隊を率いるために移動していった。

 

「桃香は雛里とともに本陣で待機していてくれ。朱里は悪いんだが後方の指揮を頼む」

 

「御意です!」

 

朱里は笑顔で応えてくれた。そしてレーヴェも移動を開始した。

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「鬼炎斬!」

 

レーヴェは闘気の炎を纏わせた剣を振るい敵の一部隊をまとめて吹き飛ばす。一瞬にしてレーヴェの周りには誰もいなくなり、離れた場所には事切れた体が落下する。レーヴェはその場に留まることなく次の目標へと向けて移動する。中央にいた敵の半数はレーヴェ一人に蹂躙されており、中央は既に混乱していた。

 

「…煙か。伝令、全軍に突撃命令を出せ!好機を逃すな!」

 

「はっ!」

 

レーヴェは敵陣地から煙が上がったのを見て突撃命令を出す。愛紗や鈴々はすでに動いているだろうが、一応伝令はだす必要があるだろう。レーヴェはそんなことを思いつつ突撃を開始した。

 

 

 

「桂花、レオンハルトの軍、あなたはどう見る?」

 

「今はまだ弱小勢力ですが、従える武将はどれも一角の者。また人気も集まっているようですから眠れる龍といったところでしょうか」

 

曹操軍の本陣で春蘭と秋蘭が追撃をかけに行ったあとで華琳は隣に立つ桂花に意見を求めた。部隊全体で言えば華琳も同じ意見だったが、華琳の意識は別のところへと向いていた。

 

「レオンハルト個人では?」

 

「私は武人ではないので確たることは言えませんが…あの男は危険すぎます。あの男一人の戦力で我らの策が意味のないものになるかもしれません」

 

レオンハルトの軍を囮にしたのはレオンハルトの実力を見ることも目的だった。だが、それは予想外の結果を残した。レオンハルトの武力は華琳たちの予想をはるかに超えていた。だが、華琳たちはレーヴェがいまだ本気を出していないことを知らなかった。

 

「そうね、彼の情報はやはり逐一調べさせるべきね。しかし、いつか戦うのが楽しみではあるわね。困難なき覇道に意味はないわ。そうでないと張り合いがないもの」

 

「流石です。その志の高さ、感服しました」

 

「ふふ、感じてくれればそれで良いのよ?」

 

華琳は不敵に笑っていた。

 

 

 

その後もレーヴェたちは各地を転々とし、曹操とともに黄巾党を撃破していた。そして半年ほどが経った頃、張角が討ち取られたという情報が届き、黄巾党は勢力を徐々に弱めていき、そして戦況を見守っていた諸侯の参戦によって壊滅した。だが、この動乱で漢王朝の弱体化が白日のもとに晒され、さらなる動乱になることは避けられそうにもなかった。

 

レーヴェたちは乱鎮圧の恩賞として平原というところの相に任命され、その統治に追われることとなった。その陰でレーヴェの噂は様々な諸侯に広がっていた。

 

説明
へたれ雷電です。

鈴々の名前を打つのがさりげなく面倒な気がしてきました。

だって一発で出ないんだもの…
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コメント
でも第7使徒アリアンロードは女なんだけど?(青山大臥)
彼って第7使徒のこと?それともマクバーン?(青山大臥)
なっとぅ様>新しい軍隊を作るつもりなのか…な誤字ですね(へたれ雷電)
1p新軍の準備→進軍(なっとぅ)
うめぼし様>そう言ってもらえて光栄です(へたれ雷電)
レーヴェがかっこいいです! 次回超期待!(うめぼし)
vogino様>そういえばそうですね…。思いつかない自分って…(へたれ雷電)
鈴々 って 辞書登録すればいいと思います!ですよ!(vogino)
レーヴェ様>迷ってます。心情的には剣帝ですが、今は一応互角ということで(へたれ雷電)
kazu様>一応魏ルートでの場合は蜀が終われば書こうと思っています(へたれ雷電)
森番長様>そこまで思ってもらえるとうれしいと同時にちょっぴり恥ずかしいですね(へたれ雷電)
このSSでは剣帝と漢女どっちが強いんですか?(レーヴェ)
おもしろかったです。できれば他のルートのレーヴェもみたいw(kazuuuu)
うう、この作品好きだ・・・ヨシュア編も楽しみにしてますbb(森番長)
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