英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜 |
〜エルベ離宮・紋章の間〜
「第2条についても理解しました。次の質問がリベールにとっての最後の質問になります。――――――第4条の疑問――――――戦争賠償金として5000兆ミラという天文学的な額を決めた根拠もそうですが、支払い方法として現金だけでなく、”物資の引き渡しによる物納”も認められている事について伺いたいのですが。」
「まず、戦争賠償金の金額の根拠だが、簡潔に言えば今回の戦争で負担した我が国の軍事費とエレボニア帝国軍による”焦土作戦”の被害を受けたクロイツェン州全土への支援した際にかかった諸々の金額を合わせた額の約4倍になる。」
「ちなみに内訳としては軍事費が約300兆ミラ、クロイツェン州全土への支援負担額が約1000兆ミラになります。」
「ク、クロイツェン州全土への支援負担額が約1000兆ミラ……!?」
「まさかクロイツェン州全土への支援負担額が今回の戦争でのメンフィル帝国の軍事費を上回る――――――それも3倍以上も上回る額だったとは……」
アリシア女王の質問に答えたシルヴァン皇帝とシルヴァン皇帝の答えを捕捉する説明をしたセシリアの説明を聞いたクロスベルとミルディーヌ公女以外のその場にいる全員が血相を変えている中ルーシー秘書官は信じられない表情で声を上げ、アルバート大公は驚きの表情で呟いた。
「”焦土作戦”はその名の通り、その”土地にあるもの全てを焦土”にする事だからな。それが”一国”にも劣らない広さの国土であるクロイツェン州全土で行われたのだから、正直”一国を一から立て直すも同然”のようなものなのだから、約1000兆ミラという莫大な金額に膨れ上がったという訳だ。――――――”焦土作戦を行う事までは想定していた”が、さすがに四州の内の一州全土でそれを行う事までは想定外だった。お陰で我が国の国庫に加えて我らマーシルン皇家がそれぞれ溜め込んでいた財産からも支援金を出さざるをえない事になった。――――――我が国や皇家の財産にも少なからず影響を与えた上クロイツェン州全土の復興の為にエレボニア侵攻を遅らせたのだから、そういう意味ではオズボーン宰相達による”焦土作戦”は成功したと言っても過言ではないがな。」
「……………………」
説明をした後自分達に視線を向けて嘲笑をしてエレボニア帝国への皮肉を口にしたシルヴァン皇帝の言葉に対してレーグニッツ知事は辛そうな表情で黙り込んでいた。
「ちなみに賠償金を軍事費並びに支援金の約4倍にした理由は戦争による勝利で2倍、そして戦争勃発前に要求した内戦の件での賠償に応えなかった上、賠償内容に含まれているクロイツェン州――――――つまりは”我が国の領土として併合される予定だった領土を焦土と化させた事”に対する”賠償”としての2倍を相乗した為だ。まさかとは思うが、賠償金の金額が天文学的な莫大な金額だからと言って減額すべき等と言った”戯言”を口にするつもりではないだろうな、”焦土”と化したクロイツェン州に物資一つすら支援しなかった”中立国”のレミフェリアが。」
「そ、それは………」
「……………………」
説明をした後嘲笑を浮かべてレミフェリアに対する皮肉を交えたシルヴァン皇帝の問いかけに反論できないルーシー秘書官は辛そうな表情で答えを濁し、アルバート大公は重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「賠償金の支払いについてだが、その書面にも書いてある通り支払いは一括ではなく分割払いで構わない上、メンフィルによるエレボニアの”保護”が終わるまでは賠償金の支払い自体も待ってやる。」
「貴国によるエレボニアの”保護”が終了するまでは賠償金の支払い自体も待つという事は、エレボニアはメンフィルの”保護”を終了した翌年から賠償金の支払い義務が発生するという事でしょうか?」
シルヴァン皇帝の話を聞いてある事が気になったクローディア王太女はシルヴァン皇帝に確認した。
「ああ。ちなみに分割の支払い方法としては1年ごとの分割払いで、分割の最低支払額は20兆ミラだ。―――――先に言っておくが、こちらの調査並びに想定では戦後復興が完全に完了し、更に経済も回復したエレボニア帝国全土の税収は約200兆ミラとの概算が出ているから、戦後のエレボニアにとっても決して無理な支払い方法ではあるまい?」
「それは………」
「1年ごとに20兆ミラとすれば、賠償金の支払いを完遂できるのは250年後ですか………ハハ……予想できたとはいえ、やはり私達の代で完遂することは不可能だな………遥か未来の私達の子孫達には先祖である私達が残した負債で苦労をさせる事になり、申し訳ないな………」
(オリヴァルト殿下………)
シルヴァン皇帝の指摘に反論できないレーグニッツ知事は複雑そうな表情で答えを濁し、重々しい様子を纏って呟いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟き、オリヴァルト皇子の様子をクローディア王太女は心配そうな表情で見つめていた。
「シルヴァン陛下。賠償金の支払い方法として”物納”も認めるとの事ですが、具体的にはどのような物資による物納を認めて頂ける事もそうですが、物納の際の賠償金の相殺等はどのようになっているのでしょうか?」
「物納する物資の種類は基本的には問わない。食料、衣類、医療物資等は当然として武器防具や兵器でも構わん。そして物納の際の賠償金の相殺の件についてだが、その時の西ゼムリア大陸でのその物資の平均相場の金額分を相殺とする。ちなみに鉱石類、武器防具、兵器に関しては相場の1,3倍の金額分を相殺してやる。」
「え……どうして、鉱石類、武器防具、兵器の物納に関しては相場の金額よりも多めの相殺を………」
「鉱石類、武器防具、兵器を高く買い取る………シルヴァン陛下。まさか、メンフィル帝国はエレボニア帝国とは別の勢力―――――現在のゼムリア大陸の状況から考えて恐らく異世界側の何らかの勢力との戦争を予定している、もしくは既に戦争中なのでしょうか?」
「鉱石に武器防具、そして兵器……言われてみれば確かにどれも戦争に必須にして戦争になればどの物資よりも一番早く相場が高騰する物資ですな……」
「あ……ッ!」
レーグニッツ知事の質問に答えたシルヴァン皇帝の答えを聞いたクローディア王太女が戸惑っている中、ある事に気づいたアリシア女王は目を細めてシルヴァン皇帝に問いかけ、アリシア女王の問いかけを聞いたアルバート大公は真剣な表情で考え込みながら呟き、ルーシー秘書官は声を上げた。
「フッ、さすが”賢王”と称えられているアリシア女王。見事な慧眼だ。」
「フフ、とはいってもさすがにあからさま過ぎでしたから、”賢王”と称えられている女王陛下でなくても気づかれる可能性は高かったと思いますが。」
一方シルヴァン皇帝は静かな笑みを浮かべてアリシア女王を賞賛し、セシリアは苦笑しながら指摘した。
「な……それでは本当にメンフィル帝国は異世界の何らかの勢力との戦争を予定、もしくは戦争中なのですか……!?」
アリシア女王の問いかけに否定しない所か肯定している様子のシルヴァン皇帝とセシリアの答えを聞いたクローディア王太女は一瞬絶句した後信じられない表情でシルヴァン皇帝達に問いかけ
(異世界の勢力とメンフィル帝国の戦争か……もしかして、ラピス王女とリン王女の記憶を受け継いでいるエステルなら心当たりはあるんじゃないか?)
(むしろ心当たりがたくさんあり過ぎて、どの勢力を候補に挙げるかに困るくらいなんだけど……)
(そ、そんなにメンフィル帝国と戦争をする可能性がある勢力の候補がたくさんあるんだ……)
(メンフィルは本来ならば決して相容れない”光陣営”と”闇陣営”の”共存”を謳い、実行している国ですわ。その件を考えるとどちらの勢力からも敵対視されてもおかしくありませんわ。)
ヨシュアに小声で訊ねられてジト目で答えたエステルの答えを聞いたミントは冷や汗をかいて表情を引き攣らせながら呟き、フェミリンスは冷静な様子で呟いた。
「戦争自体はまだ勃発していない。―――――だが、近い将来本国側―――――つまり、そちらにとっては異世界である”ディル=リフィーナ”側で”とある勢力が我が国に対して今回の戦争以上の規模になると思われる大規模な戦争を仕掛けてくる事をメンフィル皇家・政府は確信している。”」
「ええっ!?こ、今回の戦争の件を超える大規模な戦争って……!」
「まさか異世界でもオズボーン宰相のように”大陸統一”を謳って世界各国に戦争を仕掛けようとしている国が存在しているのでしょうか?」
シルヴァン皇帝の説明を聞いたルーシー秘書官は信じられない表情で声を上げ、アルバート大公は真剣な表情で訊ねた。
「フッ、むしろそちらの方がまだマシな方だ。何せ我が国に大規模な戦争を仕掛けようとしているとある勢力とは、”宗教組織”なのだからな。」
「しゅ、宗教組織がメンフィル帝国相手に今回の戦争の規模を超える大規模な戦争を……!?」
「宗教組織は空の女神を崇める”七耀教会”のみしか存在しないゼムリア大陸と違い、異世界には複数の神々が存在し、更にそれらの神々を崇める宗教組織が多数存在するという話は耳にしましたが……一体何故、宗教組織がメンフィル帝国に戦争を仕掛けるのでしょうか?」
苦笑しながら答えたシルヴァン皇帝の答えを聞いたレーグニッツ知事は困惑し、静かな表情で呟いたアリシア女王は真剣な表情を浮かべてシルヴァン皇帝に問いかけた。
「それに関しては様々な理由はあるだろうが、最もな理由は恐らく”信仰”の為だろうな。」
「まあ、連中ならメンフィル帝国のような国は信仰の為にも一刻も早く滅ぼしたいと考えているだろうな。」
「?ヴァイスハイト陛下は何かご存知なのでしょうか?」
シルヴァン皇帝が答えた後納得した様子で呟いたヴァイスの答えを不思議に思ったルーシー秘書官はヴァイスに訊ねた。
「俺もそうだが、ギュランドロスやルイーネ達”六銃士”の出身はこのゼムリア大陸ではなく、ディル=リフィーナだ。その為、ディル=リフィーナの”宗教事情”もある程度把握しているからシルヴァン皇帝が口にしたメンフィル帝国に大規模な戦争を仕掛けるつもりでいる宗教組織にも心当たりがある。」
「なんと……ヴァイスハイト陛下達”六銃士”の出身は異世界だったのですか………」
「……それでその”異世界の宗教事情”とは一体どういった事情なのでしょうか?」
ヴァイスの話を聞いたアルバート大公が驚いている中、アリシア女王は話の続きを促した。
「ディル=リフィーナの宗教もそうですがそれぞれの宗教が崇める神々は”光陣営”と”闇陣営”に分かれている事で互いの関係は敵対関係にあります。―――――それこそ、時には”信仰の為に敵対している宗教の聖職者達もそうですが信者達を相手に殺し合う事もあります。”」
「異世界では神を崇める聖職者どころか信者まで、”信仰”の為に敵対している宗教の聖職者や信者と殺し合いをするなんて……」
「異世界の宗教組織と言えば、ゼムリア大陸にも進出している”イーリュン神殿”と”アーライナ神殿”がありますが……その二つの宗教組織も先程話に出た”光陣営”か”闇陣営”、どちらかに所属している宗教組織なのでしょうか?」
ルイーネの説明を聞いたルーシー秘書官は悲痛そうな表情を浮かべ、アルバート大公は真剣な表情で質問をした。
「勿論ですわ。イーリュン神殿は”光陣営”、アーライナ神殿は”闇陣営”にそれぞれ所属していますわ。」
「な………という事はまさか、ゼムリア大陸でもイーリュン神殿とアーライナ神殿、それぞれの信者や聖職者達が出会う事があれば争いが勃発するのでしょうか……!?」
セシリアの答えを聞いたレーグニッツ知事は絶句した後信じられない表情で訊ねた。
「”光陣営”と”闇陣営”に分かれているからといって、必ず争い合う関係になるという訳ではない。イーリュンは『女神イーリュンの愛は無限』を”教義”として説いている事からイーリュンの聖職者や信者は『如何なる理由でも生物を傷つけてはならず、また傷ついた者へは積極的な救済を施す』事を信条としている為イーリュンの聖職者や信者は例え相手が”闇陣営”の信者や関係者であろうと決して争う事はしない。また、アーライナ神殿の教義はアーライナが司る”混沌”というその名の通り”世界に混沌をもたらせる”と、聞いた限りでは危険な教義のように聞こえるが、実際は信者や聖職者自身が”混沌”をどう受け取るかだ。」
「”信者や聖職者自身が混沌をどう受け取るか”とはどういう事でしょうか?」
シルヴァン皇帝の説明を聞いてある部分が気になったルーシー秘書官は質問をした。
「言葉通りだ。争う事も”混沌”なら、争い合っていた関係―――――それこそ”光陣営”の信者や聖職者と和解し、共存する事も”混沌”だ。現にこのゼムリア大陸では”闇の聖女”としての知名度があるペテレーネは”聖女”と称えられる程、このゼムリア大陸では民達に慕われている人格者だろう?そのペテレーネがゼムリア大陸側のアーライナ神殿の総責任者の立場として”ペテレーネ自身の混沌の教義”―――――つまりは、我らメンフィルが理想としている”全ての種族との共存”を説いている。」
「要するに”光陣営”と”闇陣営”に分かれて争っているからといっても、実際はそれぞれの”教義”の関係で争わず、協力し合う事もあり、またメンフィルもゼムリア大陸を”ディル=リフィーナの宗教事情”に巻き込まないように、ディル=リフィーナの宗教組織の中でも比較的”穏健派”に分類される宗教組織をゼムリア大陸に進出させているという訳だ。」
「なるほど。異世界の宗教組織はまさに千差万別なのですな。」
シルヴァン皇帝の説明とシルヴァン皇帝の説明を簡潔にして答えたヴァイスの説明を聞いたアルバート大公は興味ありげな様子で呟いた。
「話を戻す。先程ヴァイスハイト皇帝が”穏健派”に分類されるディル=リフィーナの宗教組織がある事を口にしたが、当然その逆―――――”過激派”に分類される宗教組織も存在する。光陣営の過激派の宗教組織の中でも”筆頭”の宗教組織の現在の教義は簡潔に言えば”闇陣営は絶対悪であると位置付けをし、そんな絶対悪たる闇陣営を殲滅する事が世界に平和をもたらせる事ができる”だ。そして我が国は”光陣営と闇陣営の共存”を謳っているとはいえ、光陣営の過激派からすれば”闇陣営”も同然の”闇夜の眷属”の国――――――それも数ある闇夜の眷属の国の中でも最も国力、戦力を保有する大国だ。ここまで説明すれば、我が国の次の戦争相手もそうだが、”今までこのゼムリア大陸で起こった戦争とは全く異なる戦争”である事も察しがつくだろう?」
「ま、まさか………」
「”光陣営の過激派の筆頭の宗教組織との戦争”―――――それも、貴国のゼムリア大陸への進出が起こるまで宗教組織が七耀教会しか存在しなかったゼムリア大陸にとっては無縁の戦争―――――”宗教戦争”ですか………」
シルヴァン皇帝は説明を終えた後問いかけをし、シルヴァン皇帝の問いかけを聞いて察しがついたクローディア王太女は不安そうな表情を浮かべ、アリシア女王は重々しい様子を纏って呟いた。
「その通りだ。しかも性質の悪い事に我が国に宗教戦争を仕掛けようとしている光陣営の過激派の筆頭の宗教組織は数ある宗教組織の中でも”武闘派”の宗教組織である事からその宗教組織に所属している聖職者や信者達は何らかの戦闘技術を修めている。―――――それこそ七耀教会の武闘派集団である”星杯騎士団”等歯牙にもかけない規模の戦力を保有している。」
「あ、あの”星杯騎士団”ですらも歯牙にもかけない規模の戦力を保有している武闘派揃いの宗教組織が異世界には存在しているなんて……」
「……シルヴァン陛下。シルヴァン陛下は先程貴国は”光陣営と闇陣営の共存”を謳っている国と仰っていました。実際に光陣営のイーリュン神殿と闇陣営のアーライナ神殿を共存させている件も考えると恐らく貴国はイーリュン神殿を含めた光陣営の宗教組織と交流があるのではないのでしょうか?その交流をしている光陣営の宗教組織に仲介してもらって貴国に戦争を仕掛けようとしている宗教組織との和解をしてはいかがでしょうか?」
シルヴァン皇帝の話を聞いて自分達にとっては全く未知の存在であるマーズテリア神殿の一端を知ったルーシー秘書官は信じられない表情を浮かべ、アルバート大公は真剣な表情を浮かべてシルヴァン皇帝に指摘した。
「それは”絶対に不可能だな。”そもそも、話に出た我が国に戦争を仕掛けようとしている宗教組織は我ら”闇夜の眷属”の事を”害虫”や”魔物”扱いしている。そんな我らが他の光陣営の宗教組織に仲介を頼んだ所でよくて仲介を断るだけ、最悪は我らが仲介を依頼した光陣営の宗教組織まで闇陣営に堕ちたと判断されてその光陣営の宗教組織の使者を問答無用で処刑した挙句我らからの仲介を請けた宗教組織自体も討伐対象にされることは火を見るよりも明らかだ。」
「そんな……幾ら教義の為とはいえ、”人”を”害虫”や”魔物”扱いする事もそうですが敵対勢力を庇ったからと言って同じ光陣営の宗教組織まで討伐対象にする程強情な宗教組織なのですか、貴国に戦争を仕掛けようとしている光陣営の過激派の筆頭の宗教組織とやらは……」
シルヴァン皇帝の答えを聞いたルーシー秘書官は信じられない表情でシルヴァン皇帝達に問いかけた。
「強情と言うよりも”狂信者の集団”と言うべきだな。」
「フフ、件の宗教組織が”狂信者の集団”というのは言い得て妙ね。」
「ああ。そしてその狂信的な部分に関してはゼムリア大陸で例えるとすれば”あのD∴G教団と同類”と言えば、メンフィルと件の宗教組織の和解は”絶対に不可能”である事はこの場にいる皆にも理解できると思うが。」
「あの”D∴G教団”と”同類”にされる程我々には理解ができない考えを持つ宗教組織なのですか………」
「…………なるほど。つまり、メンフィル帝国は件の宗教組織との”宗教戦争”が勃発した際、またはその時に備えて、エレボニア帝国から”賠償金という名の大規模な支援を受けとる事を目的”としている為、賠償金の支払い方法として物納を認めているという事ですか………」
シルヴァン皇帝の答えを聞いたルイーネは苦笑し、ルイーネの言葉に頷いたヴァイスの問いかけを聞いたアルバート大公は複雑そうな表情で呟き、目を伏せて考え込んでいたアリシア女王は目を見開いて推測を口にした。
(エステルは今までの話を聞いて、メンフィルに宗教戦争を仕掛けようとする光陣営の過激派の筆頭の宗教組織について、心当たりはあるかい?)
(うん……多分”軍神マーズテリア”を信仰している宗教組織―――――”マーズテリア神殿”の事を指していると思うわ。)
(え……”マーズテリア”ってシルフィアさんやロカさんが信仰している神様だよね……!?二人の事を知っているミントからすれば、とてもそんなことをするような宗教組織とは思えないんだけど……)
(あの二人は”今のマーズテリア神殿にとっては異端な存在”でしょうから、あの二人を例えに出す事自体が間違っていますわ。)
ヨシュアが小声で訊ねてきた質問に対してエステルは複雑そうな表情で答え、エステルの答えを聞いて困惑しているミントにフェミリンスが静かな表情で指摘した。
「!!……だから、賠償金―――――異世界での宗教戦争の際の我が国からの大規模な支援を失わせない為にも、第9条を定められたのですね………」
一方アリシア女王の推測を聞いて目を見開いたレーグニッツ知事は複雑そうな表情で呟き
「―――――まさかとは思うがミルディーヌ君は”気づいていたのかい?”」
「ふふっ、ヴァイスラントと連合の協力体制を受け入れて頂くための交渉の時点では気づけませんでしたが、”灰獅子隊”の一員として活動している際にレボリューションに保管しているメンフィル帝国内についての資料のいくつかを拝見した事もそうですが、リィン将軍閣下達メンフィル帝国の”本国側”を知る灰獅子隊の部隊長の方々からメンフィル帝国内についてのある程度の情報や事情を伺ったりしたお陰で、”大戦”が起こる前の時点で”その可能性がある事”には気づいていましたわ。」
「ミルディーヌさんはそんなにも前から気づいていたのですか………」
真剣な表情を浮かべたオリヴァルト皇子の問いかけに苦笑した後意味ありげな笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えを聞いたセドリックは驚きの表情で呟いた。
「シルヴァン陛下、『戦争自体はまだ勃発していない』と仰いましたが、貴国は件の宗教組織との宗教戦争はいつ勃発すると想定しているのでしょうか?」
「それについては早くても20年後くらいだと想定している。」
「え………話を伺った限りでは件の宗教組織は貴国の存在を一刻でも早く滅ぼしたいと考えているような印象に感じられたのですが、何故戦争の勃発はそんなにも遅い事を想定されているのでしょうか?」
アリシア女王の質問に答えたシルヴァン皇帝の答えを聞いて呆けた声を出したクローディア王太女は新たな疑問を訊ねた。
「件の宗教組織は数ある光陣営の宗教組織の中でも最も大規模かつ強大な宗教組織である事もそうだが、活動の一部として世界各地に騎士達を派遣しての治安維持を行っている。その為、奴等が我が国との戦争を”本気”で考えるならば各地に派遣した騎士達を呼び戻す事になるだろう。そうなれば、その為の引継ぎや後始末もする必要も出てくる上、他の光陣営の宗教組織や国家にメンフィルを滅ぼす為の連合を呼びかけるだろうから、それらを想定した上で出た想定は早くても20年後という訳だ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。メンフィル帝国と戦争をする為に他の宗教組織や国家に連合を呼びかける事を考えれば、メンフィル帝国も同じ事をするのでは……?」
シルヴァン皇帝の話を聞いてある事に気づいたルーシー秘書官は不安そうな表情で推測を口にした。
「当然だ。我が国と親交がある国家もそうだが、イーリュンやアーライナを含めた我が国での布教を行っている光陣営と闇陣営の宗教組織にも連合を持ちかける予定だ。―――――まあ、幾ら我が国と親交があるとはいえ、異世界であるゼムリア大陸にまで我が国の事情に巻き込むつもりは一切考えていない為、リベール王国は安心して構わな―――――いや、その時が来ればメンフィルがリベールが生産する様々な物資を通常の時と比べて大量に購入したり、高値で購入する事でリベールの経済は飛躍的に上昇する事になるだろうから、むしろ”稼ぎ時”と思ってもらっても構わないぞ。」
「……………………………」
「……戦争による経済上昇等、”不戦条約”を提唱した我が国にとっては皮肉にも思える出来事ですが………それはともかく、メンフィル帝国は今回の戦争を遥かに超える異世界での大規模な宗教戦争に備える為に、賠償金の件を含めた賠償内容を定められた事は理解しました。―――――そして”ゼムリア大陸側での戦争は今回の戦争の件を最後にし、今後は2度とゼムリア大陸側での戦争を勃発させない事を望んでいる事”についても。」
ルーシー秘書官の疑問に答えたシルヴァン皇帝は静かな笑みを浮かべてリベール側を見つめ、シルヴァン皇帝の言葉を聞いたクローディア王太女が複雑そうな表情で黙り込んでいる中アリシア女王は静かな表情で呟いた。
「あ………」
「確かに話に聞く限りでは、メンフィル帝国は異世界での大規模な宗教戦争に備える為にも、普通に考えればゼムリア大陸側での戦争を起こす事は望まれないでしょうな……」
アリシア女王の推測を聞いたルーシー秘書官は呆けた声を出し、アルバート大公は真剣な表情で呟いた。
「しかし、よかったのか?メンフィルが本国側で大規模な宗教戦争に備えている事でこれ以上ゼムリア大陸側での戦争を起こす事を望んでいない話等、もし戦後のエレボニアが領土奪還を裏で目論んでいたらそちらにとっては”弱味”にもなった話だと思うが。」
「フッ、皇太子と知事が”誠意”を示した為、こちらも”誠意”を示したまでだ。―――――何せエレボニアは今回の戦争で我が国とクロスベルにそれぞれ併合されることになる領土の奪還をする事は決して望まず、今まで犯したエレボニアの所業に反省して我が国とクロスベルもそうだが、各国に対する信頼回復並びに友好関係を結ぶ事に専念する事を次代のエレボニア皇帝を含めたエレボニアの皇族と新政府の代表者が宣言したのだからな。―――――私の言っている事は何も間違っていないだろう、セドリック皇太子?」
「―――――はい。シルヴァン陛下の仰っている事には何の異論もありません。」
ヴァイスの問いかけに答えたシルヴァン皇帝は静かな笑みを浮かべてセドリックに問いかけ、対するセドリックは真剣な表情で答えた。
「結構。メンフィルとしてもリベールに対する配慮の意味でも、いつか必ず勃発する本国側での大規模な宗教戦争の件をこの場にいる皆に伝える事ができて何よりだ。」
「え…………それはどういう事でしょうか?」
「(シルヴァン陛下が仰ったリベールへの配慮は恐らく、”メンフィルは2度とゼムリア大陸側での戦争を勃発させる事を望んでいない”件でしょうが…………―――――!なるほど……どうやら、シルヴァン陛下は”この国際会議のリベール(わたくしたち)の真の目的”にも気づいているご様子ですね………)―――――メンフィル帝国がエレボニア帝国に要求したこれらの賠償内容についての我が国の疑問は全て解けました。レミフェリアは”中立国”として他に質問や意見等はございますか?」
シルヴァン皇帝が口にしたある言葉が気になったクローディア王太女は戸惑いの表情で疑問を口にし、シルヴァン皇帝の意図を悟ったアリシア女王はシルヴァン皇帝に質問をすることなくレミフェリア側に問いかけた。
「……………………」
「………リベール同様疑問が解けた事もそうですが私達の意見は今までのやり取りで出しつくしましたので、これ以上の意見はありません。」
「―――――アリシア女王。”意見”という訳ではないが、今回の戦争に関連している出来事―――――”アルスター襲撃”の件で、クロスベルがエレボニアに請求しなければならない件がある為、この場を借りてそれをエレボニアに伝えさせてもらっても構わないだろうか?」
「え……”アルスター襲撃”の件で、クロスベルがエレボニアに一体何を請求するのでしょうか?」
意見は全て反論によって封じられた為これ以上の意見が出ないルーシー秘書官が複雑そうな表情で黙り込んでいる中アルバート大公は重々しい様子を纏って答えるとヴァイスが意外な事を口にし、ヴァイスの言葉が気になったクローディア王太女は不思議そうな表情で訊ねた。
「それは勿論現在我が国の領土内で保護している”アルスター”の民達への支援金等の件だ。当初は戦後アルスターも我が国の領土として併合される予定であったが、緩和の件でアルスターはエレボニア帝国の所属から変わらないと決まった以上、”他国民”のアルスターの民達への支援金等をエレボニアに返還してもらう必要がある事もそうだが、謝礼金も支払ってもらう必要があるからな。」
「それでしたら構いません。クロスベルは”アルスター”の件でエレボニアに幾ら請求するのでしょうか?」
「アルスターの民達への支援金を含めた諸々の合計金額が20億ミラ。そして謝礼金としてアルスター関連で消費した経費と同額を請求致しますから、合計40億ミラになりますわ。」
ヴァイスの説明を聞いて納得したアリシア女王はヴァイス達に促し、ルイーネがヴァイスの代わりに答え
「―――――了解しました。そちらに関しては戦後可能な限り早く支払うつもりですので、戦争が終結し、彼らが故郷に帰れるようになるまで引き続き保護の方よろしくお願いいたします。」
ルイーネの説明を聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で答えた。
「メンフィル帝国がエレボニア帝国に要求した賠償の件でエレボニア帝国は相談や考える時間が必要だと思われますので、ここで一端休憩を挟まさせて頂きます。なお、後半の会議は16:00からになります―――――」
そしてアリシア女王は前半の会議の終了を宣言し、アリシア女王の宣言が終わると各国のVIP達はそれぞれ休憩に入る為に会議室を出てそれぞれの客室へと向かった―――――
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